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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第六十話 眠りし帝国最強皇女 ㉛
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それに加え増幅した魔力と身体能力。これほど脅威と感じたのはいつ以来だろうか。もしかしたら初めてかもしれない。
勿論それはあの場所を含めれば初めてではないが、あの場所をたった一言で片づける事は出来ない。と言うよりも脅威なんて言葉で済ませられるほどの場所ではないのだ。
私が求めていた強い相手。まさに奴はそれに相応しいだけの相手だと言える。
だからこそ悲しい。
だからこそ憤りを抑えられない。
嬉しさも喜びも感じない。
本来なら感じられるであろう相手なのに一切感じない。
どうして、そんなやり方しか出来なかったのか。
どうして、死地へと送り込む前に私に相談してくれなかったのか。
どうして、こんな過ちを犯す前に私に挑んでくれなかったのか。
いや、こんな事考えてもしかたがない。これはたらればの話なのだから。
今、私がしなければならないのはこの男を倒し、部下たちの死に報いる事だけだ!
肉体強化魔法に更に魔力を使いスピードを上げる。
突然の事に驚いたのだろう。僅かに顔を顰めるが、即座に対策してきた。
結局1メートルほどしか距離を縮められなかったが、それでもこれは大きい。
だが銃器を使う相手に縮めれば縮めるほど自分に届く時間は短くなる。それはつまり回避行動をするのをもっと早くしなければない。
相手が撃つ箇所、タイミングを推測し接近する。
今!この瞬間、右に――
「っ!」
どうにか左頬を掠めるギリギリの所で躱す事に成功したが、奴は私が右に躱すと推測したのだろう。
既に第2発目が私の目の前までやって来ていた。
拙い、このままだと殺られる!
そう思った瞬間、水速針に何かが当たり、水速針としての形状を失う。
それでも発射された移動速度が無くなるわけじゃない。それでも一瞬の間のお陰でどうにか躱すことが出来た。
そして未だに動揺している事を見逃す私ではない。
地面を更に強く蹴って一瞬で距離を詰める。念の為に奥の手を使うのも忘れない。
だが、その動揺は誘いだった。
懐に忍ばせていたもう一丁の魔法拳銃を私に向け発砲しようとトリガーに掛けた指を絞る。
しかし――
「その攻撃は既に知っている!」
奴がトリガーを引く前に私の魔法剣による一閃が捉える。
左手に持っていた魔法拳銃は両断され、奴の胸が横一線の切り傷が出来る。
「クッ!」
流石の奴も苦痛に顔を歪ませながら後方に跳んだ。今ので仕留め切らなかったのは痛いな。
一刀両断された魔法拳銃を捨て空いた左手で斬られた胸を抑える。
「未来視ですか。一度使うと魔力をかなり消耗するためおいそれと使えないはずですが」
「ああ、その通りだ」
苦痛に顔を歪めながらも警戒を怠る事なく、口を開いた。
未来視――私が持つ固有スキルの1つだ。
今現在見ている光景の1秒~5秒後の未来を見る事が出来る魔眼の一種だ。
1秒~5秒後の間であれば自分で時間指定が出来ると言う利点もあるが、1秒につき魔力を2万も魔力を消費するため、今の私では5秒後の未来なら1~2回が限度だろう。
そして私が未来視を持っている事は奴も当然知っている。
それでも使用中と使用していない時の違いを見抜くのは難しい。
「それで……さっきはいったい何をしたのですか?」
奴が言っているのは未来視の事では無く水速針の事を言っているのだろう。
「さぁな、貴様に教える筋合いはない」
私にも何が起きたのか分からないが、せっかくだ私がしたことにしておこう。その方が私にとって有利に働くだろうからな。
「それに私から言わせれば貴様が隠し玉を使えるとは知らなかったぞ」
隠し玉――同軌道上を行くことで高速弾に刺客を作り出す。
そんな高等技術が出来るのは全世界に10人もいない筈だ。まさか使えるとは知らなった。これも薬による影響なのかもしれない。
それに奴も教えるつもりはないようだしな。
「それよりも降伏したらどうだ。その傷で真面に戦えるとは思えないが」
既に奴の足元には大量の血が流れ落ちている。このまま放置すれば出血しだってありえる。
私としては今すぐ拘束し薬の開発者に関する情報を吐いて貰いたい。
「降伏ですか……やはり貴女は私の事を見下しているようだ」
「別に私はそんなつもりで――っ!」
癪に障ったのなら謝ろうと思った瞬間、奴は隠し持っていた注射器を取り出し、それを自分の首に突き刺す。
「まさかその薬は!」
「ええ、そうでよ。たった一本で貴女と同等の力を得る事が出来る薬です」
目を見開き歓喜に満ちた表情で注射器の中身を投与していく。なんて禍々しい液体なんだ。
どす黒く濁り切ったその液体はまるで人の怨念を具現化したような液体。
「ま、1本なら軽い興奮状態で済むと言われましたが、2本目以降はどうなるか分からないらしいですが」
やはり命の保証がされてない薬か!
「やめろ!そんな事をしてまで貴様は勝ちたいのか!」
「やはり分かっちゃいない!どんな手を使ってでも私は貴女を越えてみせる!」
止める間もなく奴は注射器の中身を投与し終わる。
「っ!」
その瞬間奴から発せられる魔力と気配がずば抜けて高まり、強烈な風圧かと錯覚するほどの圧迫感に襲われる。
Sランクどころの話ではない。SS……いや、SS+にも匹敵する力だ。
今の私の実力ではこの男を倒すのは厳しい。直ぐにでも応援を呼びたいところだが、そんな事させてくれる相手ではない。
魔法剣を握る手が震える。
――死への恐怖。
怖い。死にたくない。誰もが持つ生存本能が反応している。
だがそれでも戦わなければ家族が、民たちが無残に殺されてしまう。
それにあの場所――地獄島に住んでいる化物共に比べれば、お前など――
「赤子以下だ!」
肉体強化魔法に更に魔力を流し込み身体能力向上させ、地面を蹴ると同時に未来視を使う。
1秒後の未来!
まるで実際に実際に見ているかのような1秒後の未来が脳内で再生される。
この未来視と言う魔眼が見せるのは1秒後の未来を写真として見せるのではなく、現在の時間から1秒後までの時間――つまり1秒間の未来を見せるものだ。
未来視を使った瞬間魔力が一瞬にして消えるのを感じる。まるで突然疲労感が襲って来たかのようなこの感覚は未だに慣れない。
それでも使わなければ沢山の罪なき民が虐殺される。
だから次こそは護ってみせる!
接近して懐に入り込むのを止め5メートルほど手前で止まってから魔法剣を振り下ろした。
この距離では当然私の間合いの外だが誰も斬撃を飛ばせないとは言っていない。
エアカッター。東方の国、ヤマト皇国では鎌鼬と呼ばれている魔法。
剣を振り下ろした際に風の斬撃を飛ばす魔法でその殺傷力は非常に高いが、水速針同様に横からの衝撃に弱いと言う弱点がある。
また水速針よりも移動速度が遅いと言うデメリットがあるが、水速針とは違い。透明の斬撃と言う視覚では捉える事が不可能であり、攻撃範囲が広いため魔力感知と地面の移動痕跡を見て即座に判断しなければならない。
「チッ、また未来視ですか」
顔を歪ませ悪態を吐く。
奴は私が懐に入り込むと推測して準備していた。それを私は未来視で知り、懐に入り込むのを止め中距離からによる攻撃に切り替えたのだ。
厄介だ。と言わんばかりの表情だったが即座に鎌鼬を横に跳んで躱す。
鎌鼬の対処法を知らない相手には有効だが知っている相手には簡単に躱されてしまう。
しかし斬撃の速度、強度を極限にまで高めた熟練者であれば対処法を知っている相手にすら攻撃を当てる事が出来る。私はまだその域には至っていないが。
攻撃を躱した奴に反撃の隙を与えないために追撃を仕掛ける。
1秒後の未来!
奴が着地してから何をするのか見た私は雷を下半身に纏い、更にスピードを上げて接近する。
私が見た未来。
着地した瞬間に残り一丁となった魔法拳銃を私に向け攻撃しようとする姿。なんの魔法を使うかまでは見られなかったが。
なら奴が反撃してくるよりも速く懐に入り込めば良いだけの話だ!
今思えばきっとこの時の私は無意識のうちに焦っていたのだろう。
大切な家族や友人、楽しそうに暮らす民たちが虐殺されると言う恐怖と消費量の多い未来視の連発で長時間の戦闘が見込めないため短時間で決めなければと言う不安と焦りが思考を鈍らせていた。
懐に入り込もうとした瞬間、身の毛がよだつほど不気味な笑みを浮かべていた顔。
「きっと貴女ならそうしてくると思いましたよ」
心の底から喜んでいるのが伝わってくるほどの歓喜に満ちた声音。
その両方からこれが罠であると悟った時には私は地面に叩き付けられていた。
「ガハッ!」
頭と胸に強烈な鈍痛が襲う。
肉体強化魔法のお陰で死にはしなかったが、頭蓋にはヒビが入り、肋骨は数本折れているだろう。だが、そんな事を気にしている場合ではない。直ぐに立ち上がって反撃しなければ!
両腕に力を入れて立ち上がろうとした瞬間、背中を踏みつけられ再び地面の上で寝そべる羽目になる。
「貴女が負けた敗因は私に未来視の事を話過ぎたことです。魔力消費の多い未来視は何度も使える代物ではありません。もし使うとしても1秒~2秒後の未来までと推測できます。ですのでもしも貴女が接近しようとしなければ反撃に転じ、接近すれば懐に入った瞬間を狙おうと決めていたのです。ま、貴女の性格から考えれば85%以上の確率で接近してくると思っていましたが」
完璧に読まれていたのか。
そう思いながら反撃しようと腕に力を入れるがまったく体が上がらない。クソッ、これも薬の効果か。
「それにしても最高の気分ですよ。いつの日か貴女を殺したい。戦って見下ろしたいと願っていましたからね!」
愉悦に浸り惚けた表情を浮かべる。その姿に生理的拒否反応が出る。なんて気持ち悪いんだ。
そう思いながらもこの状況から脱する隙を探すが見当たらない。
「さて、存分に楽しめましたので後は貴女を殺すだけです。あの世で精々後悔しながら見ていると良いでしょう。貴女の大切な家族が私によって無残に殺される瞬間を」
まるで三日月のような弧を描いた笑みを浮かべながら奴は言い放った。
「貴様アアアアアアアアアアアァァ!」
奴を見上げながら絶叫する私。
そんな私を見下ろしながら嬉しそうに嗤い銃口を向けて来る。
またなのか……また私は護れなないのか。
大切な部下たちだけでなく、家族や友人まで奪われるのか!
嫌だ!そんなのは嫌だ!二度とあんな絶望は味わいたくない!
「おやおや、ここに来て最後の足掻きですか。みっとも無いですね」
呆れた声音が聞こえて来るが関係ない。
死にたくない。私はまだ死ねない。まだ何も護っていない。まだ部下たちに報いていない。まだ家族に恩返しもしていない。
死ねない。私はまだ死ねない。
醜いと言われようが、哀れと蔑んだ目で見られようが私はまだ死ねない。
地べたを這いつくばろうが、何しようが死ねない。このクズ野郎を殺すまでは死ねない。
神でも悪魔でも構わない。誰か私に力を……力……。
――全てを思い通りにしたいのであれば、力を手に入れるしかない。
分かっている。今の私には力がない。
今の私の力では護りたい者全てを護れるだけの力はない。
――だけど俺たちは今この場所で、この世界で生きている。辛い事も楽しい事も糧にして、自分が求める『全て』を手に入れてやろうぜ、ジャンヌ!
ああ、私はまだ生きている。
まだ力を手に入れる事が出来る。
あらゆる事を糧にして全てを手に入れてやる!
だから……今だけは私に力を貸してくれ――
「ジイイイイイイイイィィン!」
初めてだった。
誰かに助けを乞うのは。
分からない事を聞いたり、手伝って貰った事はあった。
だが戦場で誰かの名前を叫びながら助けを求めたのは初めてだった。
だが何故だ。屈辱と感じない。
情けないとも感じない。
ただ心にあったしこりが消えて行くのだけ感じた。
「急に叫ぶなんて、頭まで壊れましたか?哀れですね。今楽にし――グヘッ!」
重く圧し掛かり立ち上がれなかったはずの身体が急に軽くなった事に疑問を感じ見上げる。
さっきまでそこには奴が居たはずの場所に黒髪に白銀のメッシュの入った頭を持つ生意気な男が立っていた。
来るとは思っていなかった。
懇願はしたが、気まぐれに近い気持ちで叫んだつもりだった。
しかしそこには仕事でしか人を心配しない冷徹漢が立っていた。
「呼んだか?」
まるで友人と話す感覚で質問してくる男。
その姿に私は思ってしまう。
「相変わらず生意気な奴だな」
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勿論それはあの場所を含めれば初めてではないが、あの場所をたった一言で片づける事は出来ない。と言うよりも脅威なんて言葉で済ませられるほどの場所ではないのだ。
私が求めていた強い相手。まさに奴はそれに相応しいだけの相手だと言える。
だからこそ悲しい。
だからこそ憤りを抑えられない。
嬉しさも喜びも感じない。
本来なら感じられるであろう相手なのに一切感じない。
どうして、そんなやり方しか出来なかったのか。
どうして、死地へと送り込む前に私に相談してくれなかったのか。
どうして、こんな過ちを犯す前に私に挑んでくれなかったのか。
いや、こんな事考えてもしかたがない。これはたらればの話なのだから。
今、私がしなければならないのはこの男を倒し、部下たちの死に報いる事だけだ!
肉体強化魔法に更に魔力を使いスピードを上げる。
突然の事に驚いたのだろう。僅かに顔を顰めるが、即座に対策してきた。
結局1メートルほどしか距離を縮められなかったが、それでもこれは大きい。
だが銃器を使う相手に縮めれば縮めるほど自分に届く時間は短くなる。それはつまり回避行動をするのをもっと早くしなければない。
相手が撃つ箇所、タイミングを推測し接近する。
今!この瞬間、右に――
「っ!」
どうにか左頬を掠めるギリギリの所で躱す事に成功したが、奴は私が右に躱すと推測したのだろう。
既に第2発目が私の目の前までやって来ていた。
拙い、このままだと殺られる!
そう思った瞬間、水速針に何かが当たり、水速針としての形状を失う。
それでも発射された移動速度が無くなるわけじゃない。それでも一瞬の間のお陰でどうにか躱すことが出来た。
そして未だに動揺している事を見逃す私ではない。
地面を更に強く蹴って一瞬で距離を詰める。念の為に奥の手を使うのも忘れない。
だが、その動揺は誘いだった。
懐に忍ばせていたもう一丁の魔法拳銃を私に向け発砲しようとトリガーに掛けた指を絞る。
しかし――
「その攻撃は既に知っている!」
奴がトリガーを引く前に私の魔法剣による一閃が捉える。
左手に持っていた魔法拳銃は両断され、奴の胸が横一線の切り傷が出来る。
「クッ!」
流石の奴も苦痛に顔を歪ませながら後方に跳んだ。今ので仕留め切らなかったのは痛いな。
一刀両断された魔法拳銃を捨て空いた左手で斬られた胸を抑える。
「未来視ですか。一度使うと魔力をかなり消耗するためおいそれと使えないはずですが」
「ああ、その通りだ」
苦痛に顔を歪めながらも警戒を怠る事なく、口を開いた。
未来視――私が持つ固有スキルの1つだ。
今現在見ている光景の1秒~5秒後の未来を見る事が出来る魔眼の一種だ。
1秒~5秒後の間であれば自分で時間指定が出来ると言う利点もあるが、1秒につき魔力を2万も魔力を消費するため、今の私では5秒後の未来なら1~2回が限度だろう。
そして私が未来視を持っている事は奴も当然知っている。
それでも使用中と使用していない時の違いを見抜くのは難しい。
「それで……さっきはいったい何をしたのですか?」
奴が言っているのは未来視の事では無く水速針の事を言っているのだろう。
「さぁな、貴様に教える筋合いはない」
私にも何が起きたのか分からないが、せっかくだ私がしたことにしておこう。その方が私にとって有利に働くだろうからな。
「それに私から言わせれば貴様が隠し玉を使えるとは知らなかったぞ」
隠し玉――同軌道上を行くことで高速弾に刺客を作り出す。
そんな高等技術が出来るのは全世界に10人もいない筈だ。まさか使えるとは知らなった。これも薬による影響なのかもしれない。
それに奴も教えるつもりはないようだしな。
「それよりも降伏したらどうだ。その傷で真面に戦えるとは思えないが」
既に奴の足元には大量の血が流れ落ちている。このまま放置すれば出血しだってありえる。
私としては今すぐ拘束し薬の開発者に関する情報を吐いて貰いたい。
「降伏ですか……やはり貴女は私の事を見下しているようだ」
「別に私はそんなつもりで――っ!」
癪に障ったのなら謝ろうと思った瞬間、奴は隠し持っていた注射器を取り出し、それを自分の首に突き刺す。
「まさかその薬は!」
「ええ、そうでよ。たった一本で貴女と同等の力を得る事が出来る薬です」
目を見開き歓喜に満ちた表情で注射器の中身を投与していく。なんて禍々しい液体なんだ。
どす黒く濁り切ったその液体はまるで人の怨念を具現化したような液体。
「ま、1本なら軽い興奮状態で済むと言われましたが、2本目以降はどうなるか分からないらしいですが」
やはり命の保証がされてない薬か!
「やめろ!そんな事をしてまで貴様は勝ちたいのか!」
「やはり分かっちゃいない!どんな手を使ってでも私は貴女を越えてみせる!」
止める間もなく奴は注射器の中身を投与し終わる。
「っ!」
その瞬間奴から発せられる魔力と気配がずば抜けて高まり、強烈な風圧かと錯覚するほどの圧迫感に襲われる。
Sランクどころの話ではない。SS……いや、SS+にも匹敵する力だ。
今の私の実力ではこの男を倒すのは厳しい。直ぐにでも応援を呼びたいところだが、そんな事させてくれる相手ではない。
魔法剣を握る手が震える。
――死への恐怖。
怖い。死にたくない。誰もが持つ生存本能が反応している。
だがそれでも戦わなければ家族が、民たちが無残に殺されてしまう。
それにあの場所――地獄島に住んでいる化物共に比べれば、お前など――
「赤子以下だ!」
肉体強化魔法に更に魔力を流し込み身体能力向上させ、地面を蹴ると同時に未来視を使う。
1秒後の未来!
まるで実際に実際に見ているかのような1秒後の未来が脳内で再生される。
この未来視と言う魔眼が見せるのは1秒後の未来を写真として見せるのではなく、現在の時間から1秒後までの時間――つまり1秒間の未来を見せるものだ。
未来視を使った瞬間魔力が一瞬にして消えるのを感じる。まるで突然疲労感が襲って来たかのようなこの感覚は未だに慣れない。
それでも使わなければ沢山の罪なき民が虐殺される。
だから次こそは護ってみせる!
接近して懐に入り込むのを止め5メートルほど手前で止まってから魔法剣を振り下ろした。
この距離では当然私の間合いの外だが誰も斬撃を飛ばせないとは言っていない。
エアカッター。東方の国、ヤマト皇国では鎌鼬と呼ばれている魔法。
剣を振り下ろした際に風の斬撃を飛ばす魔法でその殺傷力は非常に高いが、水速針同様に横からの衝撃に弱いと言う弱点がある。
また水速針よりも移動速度が遅いと言うデメリットがあるが、水速針とは違い。透明の斬撃と言う視覚では捉える事が不可能であり、攻撃範囲が広いため魔力感知と地面の移動痕跡を見て即座に判断しなければならない。
「チッ、また未来視ですか」
顔を歪ませ悪態を吐く。
奴は私が懐に入り込むと推測して準備していた。それを私は未来視で知り、懐に入り込むのを止め中距離からによる攻撃に切り替えたのだ。
厄介だ。と言わんばかりの表情だったが即座に鎌鼬を横に跳んで躱す。
鎌鼬の対処法を知らない相手には有効だが知っている相手には簡単に躱されてしまう。
しかし斬撃の速度、強度を極限にまで高めた熟練者であれば対処法を知っている相手にすら攻撃を当てる事が出来る。私はまだその域には至っていないが。
攻撃を躱した奴に反撃の隙を与えないために追撃を仕掛ける。
1秒後の未来!
奴が着地してから何をするのか見た私は雷を下半身に纏い、更にスピードを上げて接近する。
私が見た未来。
着地した瞬間に残り一丁となった魔法拳銃を私に向け攻撃しようとする姿。なんの魔法を使うかまでは見られなかったが。
なら奴が反撃してくるよりも速く懐に入り込めば良いだけの話だ!
今思えばきっとこの時の私は無意識のうちに焦っていたのだろう。
大切な家族や友人、楽しそうに暮らす民たちが虐殺されると言う恐怖と消費量の多い未来視の連発で長時間の戦闘が見込めないため短時間で決めなければと言う不安と焦りが思考を鈍らせていた。
懐に入り込もうとした瞬間、身の毛がよだつほど不気味な笑みを浮かべていた顔。
「きっと貴女ならそうしてくると思いましたよ」
心の底から喜んでいるのが伝わってくるほどの歓喜に満ちた声音。
その両方からこれが罠であると悟った時には私は地面に叩き付けられていた。
「ガハッ!」
頭と胸に強烈な鈍痛が襲う。
肉体強化魔法のお陰で死にはしなかったが、頭蓋にはヒビが入り、肋骨は数本折れているだろう。だが、そんな事を気にしている場合ではない。直ぐに立ち上がって反撃しなければ!
両腕に力を入れて立ち上がろうとした瞬間、背中を踏みつけられ再び地面の上で寝そべる羽目になる。
「貴女が負けた敗因は私に未来視の事を話過ぎたことです。魔力消費の多い未来視は何度も使える代物ではありません。もし使うとしても1秒~2秒後の未来までと推測できます。ですのでもしも貴女が接近しようとしなければ反撃に転じ、接近すれば懐に入った瞬間を狙おうと決めていたのです。ま、貴女の性格から考えれば85%以上の確率で接近してくると思っていましたが」
完璧に読まれていたのか。
そう思いながら反撃しようと腕に力を入れるがまったく体が上がらない。クソッ、これも薬の効果か。
「それにしても最高の気分ですよ。いつの日か貴女を殺したい。戦って見下ろしたいと願っていましたからね!」
愉悦に浸り惚けた表情を浮かべる。その姿に生理的拒否反応が出る。なんて気持ち悪いんだ。
そう思いながらもこの状況から脱する隙を探すが見当たらない。
「さて、存分に楽しめましたので後は貴女を殺すだけです。あの世で精々後悔しながら見ていると良いでしょう。貴女の大切な家族が私によって無残に殺される瞬間を」
まるで三日月のような弧を描いた笑みを浮かべながら奴は言い放った。
「貴様アアアアアアアアアアアァァ!」
奴を見上げながら絶叫する私。
そんな私を見下ろしながら嬉しそうに嗤い銃口を向けて来る。
またなのか……また私は護れなないのか。
大切な部下たちだけでなく、家族や友人まで奪われるのか!
嫌だ!そんなのは嫌だ!二度とあんな絶望は味わいたくない!
「おやおや、ここに来て最後の足掻きですか。みっとも無いですね」
呆れた声音が聞こえて来るが関係ない。
死にたくない。私はまだ死ねない。まだ何も護っていない。まだ部下たちに報いていない。まだ家族に恩返しもしていない。
死ねない。私はまだ死ねない。
醜いと言われようが、哀れと蔑んだ目で見られようが私はまだ死ねない。
地べたを這いつくばろうが、何しようが死ねない。このクズ野郎を殺すまでは死ねない。
神でも悪魔でも構わない。誰か私に力を……力……。
――全てを思い通りにしたいのであれば、力を手に入れるしかない。
分かっている。今の私には力がない。
今の私の力では護りたい者全てを護れるだけの力はない。
――だけど俺たちは今この場所で、この世界で生きている。辛い事も楽しい事も糧にして、自分が求める『全て』を手に入れてやろうぜ、ジャンヌ!
ああ、私はまだ生きている。
まだ力を手に入れる事が出来る。
あらゆる事を糧にして全てを手に入れてやる!
だから……今だけは私に力を貸してくれ――
「ジイイイイイイイイィィン!」
初めてだった。
誰かに助けを乞うのは。
分からない事を聞いたり、手伝って貰った事はあった。
だが戦場で誰かの名前を叫びながら助けを求めたのは初めてだった。
だが何故だ。屈辱と感じない。
情けないとも感じない。
ただ心にあったしこりが消えて行くのだけ感じた。
「急に叫ぶなんて、頭まで壊れましたか?哀れですね。今楽にし――グヘッ!」
重く圧し掛かり立ち上がれなかったはずの身体が急に軽くなった事に疑問を感じ見上げる。
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来るとは思っていなかった。
懇願はしたが、気まぐれに近い気持ちで叫んだつもりだった。
しかしそこには仕事でしか人を心配しない冷徹漢が立っていた。
「呼んだか?」
まるで友人と話す感覚で質問してくる男。
その姿に私は思ってしまう。
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こうして彼の転生生活が幕を開けた。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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