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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第五十六話 眠りし帝国最強皇女 ㉗

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「それでこれが第304遊撃連隊と地獄島ヘル・アイランドの調査報告書が入ったタブレットだ」
 俺の対面に座るなりそう言うとイオが俺にタブレットを渡して来る。
 受け取ったタブレットを開いて中の機密を読んでいく。軽く読んだだけだがこれは間違いなく機密事項だな。なんたって第304遊撃連隊所属の隊員の名前に住所、身長から体重、性別、魔力量に魔法属性など、最後に更新されたであろうステータスまでもが記載されているのだから。
 1人1人の経歴を見ていくが、最後の行には戦死か肉体負傷、心的外傷後ストレス障害による名誉除隊などが掛かれていた。きっとこの中には既に働いているものもいるかもしれないが、戦闘に関係する職には就いていないだろう。それを考えるとやはりリュドの精神力は凄いな。既に軍人として働いているんだから。
 お、あった。あった。

 ─────────────────────
 名前 リュド・バン・ジュデール
 生年月日 1299年8月16日
 年齢 27歳
 種族 クウォーターロード
 職業 軍人
  レベル 288
  魔力 12260
  力 21100
 体力 21900
 器用 23200
 敏捷性 21800

 スキル
 剣術Ⅴ
 体術Ⅳ
 射撃Ⅴ
 耐熱Ⅱ
 耐寒Ⅱ
 雷電耐性Ⅴ
 危機察知Ⅱ
 物理攻撃耐性Ⅵ
 魔法攻撃耐性Ⅳ
 状態異常耐性Ⅱ
 指揮Ⅳ
 魔力操作Ⅴ

 属性
 水  無

 シュデール辺境伯の次男。

 【経歴】
 公暦1306年4月10日 レイノーツ学園初等部 入学
 公暦1312年4月10日 レイノーツ学園中等部 進級
 公暦1315年4月10日 レイノーツ学園高等部軍事科 進級
 公暦1319年3月1日 レイノーツ学園 卒業
 公暦1319年4月10日 ベルヘンス帝国陸軍 入隊
 公暦1319年4月10日 ベルヘンス帝国陸軍前期訓練 開始
 公暦1319年7月30日 ベルヘンス帝国陸軍前期訓練 修了
 公暦1319年8月10日 ベルヘンス帝国陸軍普通科 配属
 公暦1319年8月10日 ベルヘンス帝国陸軍後期訓練 開始
 公暦1319年11月30日 ベルヘンス帝国陸軍後期訓練 終了
 公暦1321年2月27日 ベルヘンス帝国陸軍少尉 昇進
 公暦1321年3月15日 第304独立遊撃連隊 転属
 公暦1321年9月13日 第304独立遊撃連隊 第5分隊分隊長
 公暦1322年6月7日 第304独立遊撃連隊 第8小隊隊長
 公暦1323年4月8日 ベルヘンス帝国陸軍中尉 昇進
 公暦1323年4月8日 第304独立遊撃連隊 第2大隊長
 公暦1323年8月1日 ベルヘンス帝国陸軍大尉 昇進 
 公暦1323年8月1日 第304独立遊撃連隊 第304連隊副連隊長
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 流石は第304独立遊撃連隊の現連隊長だな。経歴が他の奴らより圧倒的に凄い。昇進スピードも早い。ジャンヌには及ばないが。

「ん?」
 経歴の下に書かれた【任務】と言う項目に記載された数行に俺は興味を惹かれた。

  ─────────────────────
 公暦1325年10月11日 第304独立遊撃連隊に地獄島ヘル・アイランドの探索任務が言い渡され、2週間後に帝都を出発する事になったが、前日の公暦1325年10月24日に体調不良を訴え、連隊長の判断により地獄島ヘル・アイランド探索任務から離れる事が決定した。
 数日で1週間ほどで復帰するもの既に地獄島ヘル・アイランドに部隊は向かったため、駐屯地内で事務仕事を行う。
 公暦1325年11月30日 第304独立遊撃連隊が帝都に帰還するも多大なる損害を出す。
 公暦1326年1月20日 第304独立遊撃連隊連隊長である帝国陸軍ジャンヌ・ダルク・ベルヘンス少佐の復帰が見込めないため副連隊長である帝国陸軍リュド・バン・ジュデール大尉を第304独立遊撃連隊連隊長となる。
 公暦1326年1月25日 第304独立遊撃連隊再編成の指令が出来る。
  ─────────────────────

 へぇ、アイツ体調不良で地獄島ヘル・アイランドの探索任務に参加してないのか。通りで元気に仕事しているわけだ。
 それにしてもあんな真面目そうな奴が任務の前日に体調不良ってそんなに行きたくなかったのか?それとも緊張しすぎて熱でもだしたのか?
 軍人たちの資料を見終えた俺は次に地獄島ヘル・アイランドの報告書を見る事にした。
 報告書を見る限りおかしい場所は一切ない。武器の整備不良や船のエンジントラブルなどのアクシデントも無く、以前にボルキュス陛下が教えてくれた内容を事細かにその悲惨さが書かれているだけに過ぎなかった。いっちゃ悪いが、あのステータスで地獄島ヘル・アイランドで挑む方が悪い。
 あ、謎の人型魔物についても記載されている。この部分だけ消去出来ないだろうか。いや、そんな事をすれば逆に怪しまれるか。1年ぐらい経過してからアインにでも頼むか?いや、改竄した事がバレれば面倒か。アインがそんなミスをするとは思えないが、万が一の事もあるしな。これはこのまま永遠に眠ってもらった方が良いだろう。
 そんな事を思いながら地獄島ヘル・アイランドの報告書を読み終えた俺はタブレットの画面をスライドする。
 そこに表示されたのは地獄島ヘル・アイランドの報告書では無く、指令書だった。何も考えずにスライドした俺だったが、どうやらまだ続きがあったようだな。
 そこには堅苦しい文章が書かれているだけで報告書どうようにおかしな処はなにもなかった。そう簡単に手がかりが見つかるわけがないか………

「ん?」
 落胆しタブレット画面をスライドしようと思った時、一番下に書かれている名前に目が留まる。
 指令書にはボルキュス陛下の名前や数人の将校と思われる人物の名前が書かれていた。誰がこの任務を許可し命じたのかが分かるようにするためだろう。
 だが、俺が気になったのはそこじゃない。
 俺が一番気になったのは地獄島ヘル・アイランドの探索任務の発案者の名前である。

 ――発案者 帝国陸軍リュド・バン・ジュデール大尉。

 まさか地獄島ヘル・アイランド探索任務の発案者がリュドだったとは。
 だけどなんで奴はまた地獄島ヘル・アイランド探索任務を実行しようと思ったんだ?それにボルキュス陛下もだ。

「なぁボルキュス陛下?」
「なんだ?」
 俺が資料を読み終わるのを待ってくれていたボルキュス陛下は突然話しかけたにも拘わらず驚くそぶりもなく普通に聞き返して来た。

「どうしてボルキュス陛下は地獄島ヘル・アイランド探索任務を許可したんだ?」
 そう最初に言われた時から疑問に感じていた事だ。確かにジャンヌは強い。
 ステータスを見る限り常人の何倍もの才能を持っているし、この数か月、決闘やゲーム形式の模擬戦を繰り返して実力がある事も知っていし、経験や知識を豊富である事も昨日の帝都外実戦訓練で知っている。
 だからこそ疑問なんだ。
 勇者や魔王、迷い人や送り人ですら生きて帰ってこれる分からない場所だと分かっていながらどうして許可を出したのか。
 分からなかった?
 いや、ありえない。世界でも軍事力を誇るベルヘンス帝国の現皇帝が分からないわけが無い。 
 そんな俺の質問に対してボルキュス陛下はこれまで見せたことが無いほど表情に影が落ちる。

「その事か……負けてしまったのだよ。私は」
「負けた?」
 俺はその単語に聞き返しながら首を傾げた。正直意味が分からない。いったい何に負けたって言うんだ。

「あの当時、幾つもの功績を挙げる第304独立遊撃連隊の活躍は軍だけでなく国全体が沸いていた。魔物の大群が現れれば即座に殲滅し、危険な龍の目撃が情報があれば即座に赴き見事討伐して見せた。その熱気と言ったら恐ろしいほどだった」
 つまりはジャンヌ達の功績に軍、国全体がハイ状態になっていたわけか。最悪だな。

「もちろん我や大臣、軍務総監、一部の将校たちは気づいていた」
 やはりな気付かないわけがない。そんな状態は長くは続かない。いつかは必ずしっぺ返しに合う。

「だがそんな時だった地獄島ヘル・アイランド探索任務の実行計画書と申請書が我の許に届けられたのは」
 ボルキュス陛下から伝えられる内容に俺は驚きを隠せなかった。何を考えてるんだ。今の状況で地獄島ヘル・アイランド探索任務に行くことがどれだけ危険か分からないような奴じゃないだろう。

「実行計画書を読んだ時一瞬可能なのではとも思ったが、これまであらゆる国が地獄島ヘル・アイランドの探索に失敗している事を考え却下するつもりでいた」
「なら何故、却下しなかったんだ?」
「皇帝だからと言って独断で決めて良いわけではないからな」
 ま、そうか。そんな事をすれば独裁政治と言われかねないか。ましてや国中が浮足立った状態だと皇帝としての威厳や支持率を下げる結果になる。

「会議には我、宰相、軍務大臣、財務大臣、軍務総監、実行計画書の発案者であるリュド、それからジャンヌなど各役職に就く者たちがあつまり行われた」
 会議の内容が内容だけに、凄いメンツだな。

「我や宰相、軍務総監たちは当然反対した。だが、一部の将校と官僚がこの流れを止めるべきではない。流れに乗るべきだと賛成したのだよ」
 なるほどそう言う流れになったのね。それにしてもボルキュス陛下には悪いがソイツ等は馬鹿なのか?どう考えても失敗する分かるだろうに。

「理由はそれだけじゃない。実行可能と思えるほど完璧な実行計画書にそれを考えたリュド・バン・ジュデール。実行部隊である第304独立遊撃連隊連隊長であるジャンヌが強く望んだ事が大きかった」
 ああ、最悪だ。その時の状況を思い出して大きくため息を漏らすボルキュス陛下と呆れて天井を見上げる俺。
 その時リュドがどう言う思いだったかは分からないが、実行計画書を考えた本人が賛成派に居る事は分かる。
 だがよりにもよって実行部隊の第304独立遊撃連隊連隊長のジャンヌまでもが賛成派側に居るのはキツい。反対派がどれだけ上位の役所を持っていたとしても実行する本人がやる気となっては賛成派の連中を抑えるのは難しいからな。ああ、何となく見えるぜ。未知の冒険に目を輝かせ自信満々にボルキュス陛下たちを説得するジャンヌの姿が。

「で、結局押し切られてしまったわけか」
「……ああ」
 申し訳なさそうに肯定の返事をするボルキュス陛下。これほど威厳の無い姿は初めてみた気がする。
 この場には俺とボルキュス陛下、イオしかいないから本人に向かって言いたいが、心の中で言っておこう。
 どうせ皇帝としてじゃなく、父親としての感情を優先したんじゃないのか!もしそうならお前は皇帝失格だ!……ふぅ、スッキリした。
 だけどどうして地獄島ヘル・アイランド探索任務の任務が許可されたのかが分かった。
 なるほど。もしも奴も同じような感情を抱いていたとするなら計画を考えついて実行したかもしれないな。で待ち遠し過ぎて熱を出してしまったのかもしれないな。
 結局、地獄島ヘル・アイランド探索任務の資料を読んでみたが、一部の謎が解決しただけで、犯人へとつながる手がかりは見つからなかった。ならいったい犯人は誰なんだ?
 応接室を出ると同時にスマホで時間を確認する。
 現在の時間は10時40分。1時間以上もいたのか。
 そんな事を思いながら俺はジャンヌの様子を見るべく彼女の部屋に向かった。皇女の部屋に連絡も無しに向かうのはどう考えてもマナー違反だろうが、1ヶ月以上も一緒に暮らしてるんだ。少しぐらいは平気だろう。
 そんなわけでジャンヌの部屋の前までやって来た俺はドアをノックする。

「だ、誰だ?」
「ジンだ。入っても良いか?」
 突然の事に驚いたのか?慌てた様子で返事が返って来た。

「あ、ああ。構わない」
 了承する返事が聞こえた俺はドアを開けて中に入るとソファーに座って寛ぐジャンヌの対面に座る。
 寝室と言う事もありラフで動きやすい格好をしているが、だからと言って露出が多いわけでもない。それにテーブルにはメイドかレティシアさんが用意してくれたと思われるティーカップと俺が来るまで使っていたのかスマホが置かれていた。

「それで急にどうしたんだ?」
 脚を組みなおしたジャンヌが話を切り出す。ま、突然来たら何しに来たのか気になるよな。
 そう思いながら俺はジャンヌの質問に答えるべく口を開いた。

「いや、今日の訓練は無しだと伝えに来た」
「そうか。分かった」
 本当は訓練を少しするつもりでいたが、ソファーに座る時ジャンヌの表情を見てどこか元気が無いので中止にすると言ったがジャンヌがやると言えばするつもりでいた。
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