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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第五十三話 眠りし帝国最強皇女 ㉔

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 魔法が発動した数舜後 超特大ミミズ野郎目掛けて走り出していた俺は一定の距離まで近づくと地面に小さなクレーターを出来てしまう程の勢いで地面を蹴って跳んだ。高さおよそ10メートル。
 俺は空中から超特大ミミズ野郎に止めを刺すべく心臓を探す。
 ワーム種と分類項目があるように色んな種類がいる。だが大半のワーム種の心臓は脳の後ろに存在し、脳は身体の色と反対の色をしている。
 ………そこか!
 さっきみたいに暴れ回られては難しい。動く針の孔に糸を通すようなものだからな。だがここまで完璧に動きを封じればもう楽勝だ。針の孔どころか高さ1メートルからプールにボールを落とすようなものだからな!
 俺は超特大ミミズ野郎の心臓目掛けて先ほどと同じ技――十八番其の肆五指突きごしづきで、

「っ!」
 貫く!
 五指突きごしづき。俺が良く使う十八番其の参の指突と言う技から派生して生まれた新技。
 全ての指を使い手の形を槍のように尖らせて行う攻撃だ。
 対人戦ではなく今回のような大型魔物用の技だ。
 ましてや今回は落下による威力も増しているため先ほどよりも簡単にそして深々と突き刺さった。

「ッギャァアアアアァァ……」
 突然の激痛に再び絶叫を発するが心臓を突かれたため弱まり最後には息絶えた。
 完全に動かなくなった事を確認した俺は腕を引き抜いて超特大ミミズ野郎から飛び降りる。まさか悪臭の中心に手を突き刺す羽目になるとは思わなかったぜ。今日はいつも以上に左腕を洗う羽目になりそうだ。
 そんな悲しい事を考えているとジャンヌが近づいてくる。

「終わったようだな」
「ああ」
 短く一言発したャンヌの表情は確かに笑みを浮かべているが、どことなく懐かしんでいるような気がした。
 さて、俺は超特大ミミズ野郎を倒した事をライアンに知らせないとな。
 それにしてもさっきのはいったいなんだったんだ?そう思いながら顔を左に向けて誰も居ない魔物の気配すらない森の奥を見つめる。
 超特大ミミズ野郎に止めを刺す瞬間確かに視線を感じた。一瞬だったし魔物なのか人間なのか分からない。ま、そのせいで突き刺す場所が見据えていた場所よりも少しズレてしまった。ま、倒すのに支障はなかったが。
 おっとそれよりも速くライアンに連絡しないとな。榴弾を撃たれたは困るからな。
 俺は汚れていない右手で無線機を口元に近づけて、口を開いた。この向こうでライアンが連絡を待っているだろうから。

「ライアン殿下、聞こえるか?」
『っ!ジン君か。戦闘音が聞こえなくなったから部下からの連絡を待っていたところだったんだ」
 当然その部下と言うのは俺たちの事じゃなく、城壁の上から戦闘を観戦していた軍人たちの事だろう。

『それで、君から連絡が来たって事は大樹喰らいフォレスト・イーターは無事に討伐したって事で良いんだね?』
「ああ、討伐完了だ。死者、負傷者共に無しだ」
『そうか……ありがとう』
 簡素な報告。しかしそれだけの報告に無線機の向こうで心の底から安堵し感謝している事が伝わって来る。
 これでライアンの約束と兄としての威厳は護られただろう。それぞれ互いの近くにはジャンヌと部下がいる。にも拘わらず私情の報告なんか出来るわけがない。そこで俺は簡素だが当たり前の報告方法でジャンヌが無事である事を伝えたのだ。

『この事は直ぐにでも陛下に伝える。迎えは丁度こっちに向かっている援軍のヘリに乗って帰還してきてくれ』
 帰りの移動方法がヘリなんてこれまた豪勢だな。ましてやただのヘリじゃない。戦闘ヘリだ。そう考えれば金持ちの子供でも滅多に乗れる代物じゃないだろう。

「了解だ。あ、それと1つ気になる事がある」
『気になる事?』
「ああ、実は――」
 俺は今回の戦闘で感じた違和感をライアンに伝えた。俺だけでは信憑性に欠けると思い途中からジャンヌにも会話に参加して貰って。

『分かった。ジャンヌの事もある。今回の事件の調査は極秘に行うとしよう』
「ああ、助かる」
 通信を切った俺は無線機をしまい、代わりに煙草を咥え火を着ける。
 迎えが来るまでの間は暇だ。勿論帝都がであるため魔物に対する警戒は怠れないが。
 木陰で休もうと思ったが、超特大ミミズ野郎をあのまま放置するわけにもいかない。この瞬間にも肉体は腐敗を始めている訳だからな。
 咥え煙草と言うマナー違反をしながら俺は超特大ミミズ野郎に近づく。ま、ここは帝都外だから咥え煙草をしていても問題ないだろう。
 近づいた俺はアイテムボックスを最大限まで広げて展開しようと考えたが、超特大ミミズ野郎を頭の先から尻尾までを一気に入れるだけの入れる事は不可能だ。そこまで広げる事が出来ない身体。
 それに超特大ミミズ野郎の身体の半分は未だに地中の中だ。これじゃ頭から入れたとしても途中で入れられなくなる。
 そこでまずは超特大ミミズ野郎の身体を引き摺り出す事にした。と言ってもこの巨体を俺が持てるわけがない。
 正確に言うのであれば俺の身体能力を使えば余裕で引き摺り出す事は可能だが、呪いのせいで手を使って引きずりだす事が出来ない。
 だから俺は奴が地上に姿を現した場所。超特大ミミズ野郎の身体が地中と地上の境目の場所に移動した俺は戦闘の時よりも更に力を開放した。およそ3%。

「っ!」
 ジャンヌに俺の実力の一部を知られる事になるが、今回は仕方がない。
 爪先で超特大ミミズ野郎の胴体を貫かないように意識して全力で蹴り上げた。
 見事上手く蹴り上げられ、地中の中にあった半分の身体も地上に引き摺り出す事に成功した。これでアイテムボックスに入れる事が出来るし、意識して蹴ったから靴や裾は汚れていない。見事成功だな。
 完全に地上に出て来た超特大ミミズ野郎をアイテムボックスに収納した俺は木陰で休憩しながら先ほどまで呆けていたジャンヌと迎えのヘリを待つのであった。なんでジャンヌは呆けていたんだ?
 この日、城壁の上で大樹喰らいフォレスト・イーターの警戒を行っていた軍人たちは摩訶不思議な光景を目撃したのだ。
 突然全長30メートルにもなる大樹喰らいフォレスト・イーターが空中に打ち上げられると言う光景を。


 迎えのヘリがやって来たのはあれから10分も経たないうちだった。
 迷彩模様の戦闘ヘリにちょっとドキドキしながら俺は乗り込み、訓練や任務で何度も乗っていたであろうジャンヌは当たり前のように乗り込んでいたが、操縦主と護衛として乗っていた3名の軍人はジャンヌが乗って来た事に驚きを隠せずにいた。ま、突然姿を消した超特大ミミズ野郎の事もあるんだろうな。
 そう思いながら俺とジャンヌは予定を切り上げて皇宮に無事帰還した。
 皇宮のヘリポートに着陸するとイレティシアさんたち皇妃と一部の皇族、それからイオが出迎えてくれた。シャルロットとグレンダはまだ学園だろうし、今回の騒動の後始末のためライアンは現場で指揮を執り、ボルキュス陛下は執務室か会議室で仕事をしているのだろう。
 ヘリを降りた無事な姿を見てレティシアさんたちはジャンヌを抱きしめる。そのよそに俺はヘリを降りながらスマホで現在の時間を確認する。
 午後2時12分。
 戦闘は超特大ミミズ野郎が思いのほか弱かった事もあり、戦闘に時間を費やす事は無かったが、アイテムボックスに収納したり、迎えのヘリを待っていたりとしているうちに気が付けば2時を過ぎていたようだ。集中していると案外時間が経過するのは早いものだ。
 そんなどうでも良いような事を考えていると、レティシアさんたちが俺の手を握って来た。

「ジンさん、娘を護ってくれてありがとう」
 目尻に涙を浮かばせながら感謝の言葉を言ってくる。正直俺は依頼をこなしただけなので感謝されるとちょっとこそばゆいが、素直に受け取っておくとしよう。
 そんな俺らの姿を眺めるジャンヌの顔は恥ずかしいのか少し茜色になっていた。へぇ、可愛いところもあるんだな。
 そんな事を思っているとジャンヌと目があうなり睨まれてしまった。きっとさっき見たのは疲労による幻だったのだろう。
 そのあと俺たちは戦闘での汗を流すため浴場に案内された。勿論男女別である。
 と言っても俺は直ぐに浴場に向かう事無くイオに案内で地下倉庫にやってきていた。縦50メートル、横30メートル、高さ10メートルはあるのではないかと思えるほどの超特大地下倉庫。流石にこれだけ広いと屋根が崩れる恐れがあるため等間隔で極太の柱が立っているが、それでも広い。なんどもこの城に訪れてはいるが未だにこの城の構造と全容がまったく見えない。
 だがこれだけ広ければ心配ないな。そう思いながら俺は超特大ミミズ野郎をアイテムボックスからだした。ま、流石に一気に出す事は抱き無いので、頭からゆっくりと出していった。
 その光景にいつも平静なイオの表情が一瞬だけ目が見開いていたような気がする。きっと気のせいだろう。
 地下倉庫を出た俺はエレベーターに乗って用意されていた浴場で英気を養う。因みに左腕はいつも以上に念入りに洗った。
 お風呂から出た俺はアイテムボックスから取り出した冒険者ようの服を着てリビングでお茶を飲んでいた。因みに先ほどまで来ていた服は風呂から出た時にはいつの間にか無くなっていた。多分イオかメイドたちが洗濯するために持って行ったんだろう。
 冒険者として活動する服は数着持っているから問題ないが、急に無くなれば誰だって驚く。
 ま、そんな脳内で愚痴を零したところで意味がない。それよりも今はボルキュス陛下からの呼び出しを待つばかりだ。
 どうやらさっきまで会議を行っていたようだが、それも終わり今は執務室で仕事を行っているようだ。冒険者である俺には見せられない機密もあるだろう。
 だから仕事が終わるまでこうしてここで寛いでいてくれと、イオに言われレティシアさんたち皇妃にお茶を用意してもらうと言うなんとも贅沢な一時を過ごしているのだ。
 因みにジャンヌは寝室で寛いでいるようだ。レティシアさんたちも居る事だしリビングで過ごせば良いと思うが、一介の冒険者では理解が出来ないような事なんだろう。
 リビングで寛ぎ始めてから2時間が経過し、まだかな。と思っていた時ちょうどイオが呼びに来た。ようやくボルキュス陛下の仕事が一段落着いたのだろう。
 それにしても随分と待たされたな。
 現在の時間は午後4時52分。シャルロットも学園から車で下校しているころだろう。
 ま、そんなわけで案内されたのは当然執務室ではなく、応接室である。
 公式で使われる応接室は謁見の間だが、ここは以前、シャルロットを助けた際にもしようした応接室である。ま、簡単に言えば俺のような冒険者や貴族たちと内密な会話をする際に使われる場所と言えば良いだろう。
 応接室に入るなりそこには、ボルキュス陛下、ジャンヌ、レティシアさん、エリーシャさん、ライアンが席に座って待っていた。ライアンも現場での仕事が終わり戻って来たんだろう。それにしても皇族を待たせて最後に部屋に入る冒険者ってきっと俺ぐらいだろうな。普通は逆だろうし。
 イオに導かれるように空いている席に座る俺。と同時に俺の前にグラスに入った麦茶が置かれる。相変わらずイオの仕事っぷりには驚かされるな。

「ジン、待たせて済まないな」
「いや、大丈夫だ」
 そんな他愛もない会話からスタートしたが、直ぐに本題に入る。
 それもそうだろう。なんせ今回はプライベートだが、この部屋に漂う空気は重く張り詰めたものになっているんだからな。

「さてジンよ。ライアンから報告を受け、おぬしが持ち帰ってくれた大樹喰らいフォレスト・イーターの調査を始めた」
 そう言うとイオが俺にタブレットを渡して来る。なんだ?と思ったが、中身を見てみるとそこには大樹喰らいフォレスト・イーターの全長や体重、解剖した際の調査結果が数ページにわたりまとめられたものだった。おいおいまさかこの短時間でここまで作るなんて帝国は軍事力だけでなく、調査能力もずば抜けているようだ。
 この国の調査を行う付属機関がどのようなものなのか知らないが、前世で言えば科捜研のようなものだろう。いや、今回は死体の解剖だから監察医の仕事か?もしかしたら監察医の資格を持った者が属しているのかもしれない。
 
「完全に検査が終わったわけではないが、監察医や研究者たちの結論を伝えると異常・・だそうだ」
 やはりあの時感じた違和感は間違っていなかったか。
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