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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第四十五話 眠りし帝国最強皇女 ⑯
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1時間ほど経過してようやく買い物を終了したシャルロットたちと一緒にお店を後にした俺たちは再び車に乗って移動していた。
買った服はお店の人が皇宮に届けてくれるようなので持って帰る必要はないようだ。やっぱり俺たちと住む世界が違うな。
そんな事を思いながら俺は再び車内からゆっくりと流れていく景色を眺めていた。
歩道を歩いている人は殆どおらず最も人通りが多く、『中央区』とも呼ばれている13区に比べたら殺風景に感じるが、人が居ないわけじゃない。
お店に来る殆どの人が徒歩ではなく来るまで移動するため歩道を歩く人が少ないのだ。きっと歩いているのはブランド物が大好きな人や誰かにプレゼントするために買いに来た一般の人たちだろう。
やはりそう考えるとこの場所は庶民の俺には場違いな気がしてならない。
それなのに俺はこの国のトップである皇族と一緒に来るまで移動している思うと変な気分だな。
思わず笑みが零れそうになるが、俺の前にはシャルロットが座っているのでどうにか我慢する。
因みに座り順は俺の隣にジャンヌ、前にシャルロット、そのシャルロットの隣がグレンダと言う形だ。
オセロの最初の盤面のような座りかただが、これにはちゃんとした意味がある。
どちらの窓から狙撃されても直ぐに護衛が対応できるようにするためだ。
なら片側にすわる彼女たちが危険に晒されるがそれは護衛対象者の前に座るグレンダ、もしくは俺が即座に対応するようになっている。そのため窓の外を眺めながら周囲を警戒しているのだ。断じて退屈凌ぎに外を眺めていたわけではない。
で、そんなこんなで次の店に到着した。
お店の前で車を停車させ、運転手が後部座席の扉を開ける。
だが直ぐにシャルロットが車から降りず、まず俺が降りて周囲が安全を確かめてからだ。
如何に高級店が並び13区よりも警備が厳しく治安が良い8区と言えど安全確保を怠る理由にはならないからな。
一通り周囲を確認した俺は思わず、眉を顰める。別に危険な人物を見つけたわけでも、怪しい人物を見つけたわけじゃない。だから俺は安全確認を終えると軽くしゃがみ、「大丈夫だ」とシャルロットたちに告げて出られるように軽く後ろに下がる。
なら何故一瞬眉を潜めたのか。
鼻が痒くなったわけでも、くしゃみが出そうになった訳でもない。
次に入店するお店が問題なのだ。
「ラブコメの漫画やラノベでこう言うシーンはよく見たが、まさか現実でそれも仕事中に体験する羽目になるとはなぁ~」
「ん、何か言ったか?」
小声で呟きに最後に降りて来たグレンダが反応して視線だけこちらに向けて来たので、「いや、何でもない」と言い返す。
だが直ぐにお店を見たジャンヌとグレンダが俺よりも深くそして分かりやすく、眉を顰めた。
「シャルロット……本当にこのお店に入るのか?」
「はい、最近新しいのが欲しいと思っていましたし、何よりお姉様も久々の外出で入用な物も多いでしょうからこの機に一気に買おうと思いまして」
僅かながら声音を震わせて質問するジャンヌに対して嬉々として答えるシャルロット。
シャルロットの内に眠る小悪魔が強くなっている気がする。いや気のせいだろう。俺はそう信じたい。
そんな満面の笑みを浮かべるシャルロットに対して軽く顔を引きつらせるグレンダとジャンヌ。……南無。
主人であり、妹の望みを断る事が出来ないグレンダとジャンヌは軽く嘆息しながら了承した。と言うよりもグレンダは元から主人の頼みを断れる立場にない。流石に危険な場所へ行きたいなどの命令なら穏便に済ませるだろうが、今回はただ買い物に来ただけで危険は皆無と言って等しい。
ジャンヌは厳しい性格をしているが、家族には弱い特に妹や弟たちのお願いは断る事が出来ないでいる。ま、普段からあまりお願いされる事もないようだし。何よりこの1年間お願いどころか一緒に食事もしていなかった。引きこもりを脱してからもほぼ毎日訓練で家族と一緒に遊ぶ事も無かった。
流石にジャンヌもその事に気付いているのか反論する事が出来ないようだ。
だが流石に堅物の2人にここはキツいだろう。
ガラス越しに置かれたマネキンが身に着けているのは刺繍が施されたピンク色の下着だけだ。勿論別の色の下着を身に着けたマネキンもある。
そう、ここはランジェリーショップなのだ。
ま、俺には関係ないけど。
「それじゃ3人は心置きなく選んでくれ。俺は店の前で周囲を警戒しているから」
そう言って俺は店の壁に凭れ――
「何言ってるんですか、ジンさんは今日護衛なんですから一緒に来てもらわないと」
笑みを崩さずそう言うシャルロット。何故だか分からないが異様な迫力を感じる。
「いや、流石に男が入るのは拙いだろう」
「では仕事を放棄するんですか?」
「いや、そういう訳じゃないが……」
恥ずかしいとかそう言う理由じゃない。ただシャルロットの後ろで凄い形相で睨んでいるジャンヌとグレンダが怖いだけだ。それに女性店員や女性客から変な目で見られるのが嫌なだけだ。
だがここで口論していても時間の無駄だ。ここは男として諦めるほかないだろう。
「分かったよ。ただし壁際で立っているだけだぞ」
「はい、それで構いません」
満面の笑みで答えるシャルロット。年頃の女の子が考える事は分からん。
嘆息する俺とそんな俺を睨みつけるグレンダとジャンヌ、ただ一人だけ笑みを浮かべたシャルロットの4人はランジェリーショップの店内へと歩みを進めた。
ランジェリーショップなんて初めて入ったけど、なんだここは!
入った瞬間、視界いっぱいに広がるカラフルな光景。厭らしさを感じる事無く清潔感と甘い香りが漂いまるでお花畑にでもいるような錯覚に陥りそうになる。
だがやはり周囲から感じる視線は厳しいものに他ならない。
驚きそうになる表情をどうにか堪えて俺は真剣な表情のまま仕事を続ける。
シャルロットたちはさっそく下着を選び始めたようだが、俺は彼女たちと離れてレジに向かった。勿論その際グレンダにアイコンタクトで互いの役目を伝える事も忘れない。
本来なら事前に行く場所を教えて貰っておくものだが、ジャンヌとグレンダが嫌がる事を知っていたシャルロットが敢えて教えなかったのだろう。
そのためお店とその周囲を調べ対策する事が出来なかった。その部分に関して言うのであれば少しぐらい皇族として自覚をして欲しいと思ってしまう。
普段から真面目で皇族として振舞っているシャルロットだ。ジャンヌが引きこもって1年間の間は彼女の代わりに色んな舞台に代理として出席もしただろう。それを踏まえるのであればたまにには良いのかもしれない。
ま、一介の冒険者である俺には分からない事だが。
突然近づいてきた男性に疑惑の視線を向けて来る女性店員に俺は小声で「裏口はありますか?」と問う。
一般人がそんな事を聞けば変な疑惑を持たれたりもするだろうが、現在スーツ姿の俺と来店しているお客が誰なのかを即座に判断すれば誰にだって俺が質問した真意を理解できる。
それは女性店員も同じだったらしく接客スマイルに変わると「こちらです」と言って案内された。
裏口の扉の前に到着した俺はまず鍵が掛かっているかをチェックしたあと、外に出て周囲を確認する。
監視カメラが……8台と。
扉の傍に2つ。他の両サイドのお店の扉の傍にも2つずつ設置されている。表の通りに出るための十字路に2つ設置されている。
流石は高級ブランド店が立ち並ぶ区画。こういった場所への対策もバッチリだな。
確認を終えた俺は裏口の扉を閉めて店内へと戻ると、シャルロットは楽しそうに下着を選んではジャンヌとグレンダに似合うか思案していた。
それに対してジャンヌとジャンヌは若干頬を赤らめて恥ずかしそうに「私には派手だ」や「似合わない」などと呟きながらも興味津々な視線を下着に向けていた。
特にジャンヌが先ほどから何度もチラチラと同じ下着に視線を向けているので、その先の下着に視線を向けると、そこには黒の下着を身に着けたマネキンが置かれていた。
ジャンヌの性格から考えて派手な色の物はあまり好きじゃないんだろう。訓練をする際に着て来るフーディーパーカーも黒かグレーのどちらかだ。
訓練に派手な服装で来られても困るので俺にはありがたいが、シャルロットたち女性陣はもう少し女性らしくオシャレに興味を持って欲しいと思っているだろうが、それに関しては大丈夫だろう。
なんせ、ジャンヌが先ほどからチラチラ見ている下着はセクシーランジェリーと呼ばれている類のものだからだ。
きっとジャンヌの性格上周囲に対して清廉潔白、真面目であり続けなければならないと思っているのだろう。だからこそ人には見えない部分でストレスを発散しているんだろうが、あれはどう考えてもセクシーと言うよりエロいの分類じゃないか?
俺の場所からではハッキリとした模様までは分からないが、うっすらとマネキンの白い肌が透けおり、ガーターベルトまで身に着けているやつだからな。
いや、待てよ。ジャンヌの性格は確かに堅物の真面目だ。だが見た目はハッキリ言って美女以外の何者でもない。似合うか似合わないかで言えば、似合うのは間違いなし。と言うよりもジャンヌのために作られたと言っても過言ではないだろう。
男である俺に女性のセンスや感覚が分かるはずがないが、あの下着はどう考えても勝負下着と言っても可笑しくないものだ。それを男性に見せる事無く、普段から身に着けたいのであればそれは間違いなくジャンヌの趣味、好みなのだろう。なら仕方がないな。
妄想を広げていると鋭い視線を感じた俺はその視線の先を見る。そこには頬を更に赤く染め恥ずかしそうにこちらを睨むジャンヌの姿があった。
どうやら俺は妄想を広げながらもあのマネキンに凝視し続けていたらしく、あっさりと俺にバレた事がバレてしまったらしい。……あとで面倒な事にならなければいいが。
そんなこんなで何事も無く下着選びは続いた。強いて問題を挙げるのであれば、服を選んでいた時の2割増しの時間を費やした事ぐらいだが、護衛役の俺がプリンシパルのシャルロットたちに早く帰ろうなんて言える筈もない俺は暇つぶしに先ほど裏口を案内してくれた女性店員と雑談をして時間を潰すのだった。勿論周囲の警戒を怠るような事はしなく、店の外から感じる気配や視線にも警戒していたしな。
俺に対して殺意や敵意を向けて来る者は居なかったし、殺気を纏っている者も居なかった。ま、怪異な視線を俺に向けて来る奴は何人かいたけどそれは仕方が無いよな。なんせランジェリーショップの店内で男性が女性店員と雑談しているんだからな。普通に考えて変だ。もしかしたら女性下着メーカーの社員で売り込みに来た男性と思われているもしれないけど、視線を感じる限り残念な事にそれは無いだろう。ま、救いは蔑むような視線を感じない事ぐらいだな。
買い物を終え、女性店員に見送られながらお店を出た俺たちは待機していた車に乗り込み、先ほどと同じ位置に座ると車は静かに動き出した。
勿論ジャンヌたちよりも先にお店を出て周囲を確認するのを忘れてはいない。
全ての買い物を終え皇宮に帰るかと思いきやシャルロットが手すりに取り付けられた受話器で運転手に伝えている様子から考えてどうやらそうではないらしい。
それに気が付いたのは俺だけでなくジャンヌも同じらしくシャルロットに質問し始めた。
「それでシャルロット、次はどこに向かう気だ?」
「はい、もうお昼ですので昨日予約しておいたお店に向かっている最中です」
笑顔で答えるシャルロットの姿にジャンヌは嘆息しながら口を開いた。
「まったくシャルロット、どうやらお前には策略家の才能があるようだ」
「お姉様にそう言って貰えるなんて嬉しいです」
満面の笑みを浮かべているシャルロット。だがシャルロット俺には皮肉に聞こえるんだが。
まさかシャルロットの買い物が丸一日を予定していたとは思っていなかった。多分ジャンヌも同様なのだろう。
それにしてもシャルロットに最初に会った時は心優しい女の子のイメージしかなかったが、ここ数日で意外な一面を度々見ている気がする。
そして分かった事は流石は皇族だと言う事だ。
社交場や舞踏会と言った場所に出席しているシャルロットは見事に仮面を被って振舞っているのだろう。そして着々と社交場と言う戦場で見事に力を付けているのだろう。ハッキリ言って何を企んでいるシャルロットに恐怖を感じ頬を引きつらせる俺とジャンヌを乗せた車は静かにシャルロットが予約したお店に向かうのだった。
買った服はお店の人が皇宮に届けてくれるようなので持って帰る必要はないようだ。やっぱり俺たちと住む世界が違うな。
そんな事を思いながら俺は再び車内からゆっくりと流れていく景色を眺めていた。
歩道を歩いている人は殆どおらず最も人通りが多く、『中央区』とも呼ばれている13区に比べたら殺風景に感じるが、人が居ないわけじゃない。
お店に来る殆どの人が徒歩ではなく来るまで移動するため歩道を歩く人が少ないのだ。きっと歩いているのはブランド物が大好きな人や誰かにプレゼントするために買いに来た一般の人たちだろう。
やはりそう考えるとこの場所は庶民の俺には場違いな気がしてならない。
それなのに俺はこの国のトップである皇族と一緒に来るまで移動している思うと変な気分だな。
思わず笑みが零れそうになるが、俺の前にはシャルロットが座っているのでどうにか我慢する。
因みに座り順は俺の隣にジャンヌ、前にシャルロット、そのシャルロットの隣がグレンダと言う形だ。
オセロの最初の盤面のような座りかただが、これにはちゃんとした意味がある。
どちらの窓から狙撃されても直ぐに護衛が対応できるようにするためだ。
なら片側にすわる彼女たちが危険に晒されるがそれは護衛対象者の前に座るグレンダ、もしくは俺が即座に対応するようになっている。そのため窓の外を眺めながら周囲を警戒しているのだ。断じて退屈凌ぎに外を眺めていたわけではない。
で、そんなこんなで次の店に到着した。
お店の前で車を停車させ、運転手が後部座席の扉を開ける。
だが直ぐにシャルロットが車から降りず、まず俺が降りて周囲が安全を確かめてからだ。
如何に高級店が並び13区よりも警備が厳しく治安が良い8区と言えど安全確保を怠る理由にはならないからな。
一通り周囲を確認した俺は思わず、眉を顰める。別に危険な人物を見つけたわけでも、怪しい人物を見つけたわけじゃない。だから俺は安全確認を終えると軽くしゃがみ、「大丈夫だ」とシャルロットたちに告げて出られるように軽く後ろに下がる。
なら何故一瞬眉を潜めたのか。
鼻が痒くなったわけでも、くしゃみが出そうになった訳でもない。
次に入店するお店が問題なのだ。
「ラブコメの漫画やラノベでこう言うシーンはよく見たが、まさか現実でそれも仕事中に体験する羽目になるとはなぁ~」
「ん、何か言ったか?」
小声で呟きに最後に降りて来たグレンダが反応して視線だけこちらに向けて来たので、「いや、何でもない」と言い返す。
だが直ぐにお店を見たジャンヌとグレンダが俺よりも深くそして分かりやすく、眉を顰めた。
「シャルロット……本当にこのお店に入るのか?」
「はい、最近新しいのが欲しいと思っていましたし、何よりお姉様も久々の外出で入用な物も多いでしょうからこの機に一気に買おうと思いまして」
僅かながら声音を震わせて質問するジャンヌに対して嬉々として答えるシャルロット。
シャルロットの内に眠る小悪魔が強くなっている気がする。いや気のせいだろう。俺はそう信じたい。
そんな満面の笑みを浮かべるシャルロットに対して軽く顔を引きつらせるグレンダとジャンヌ。……南無。
主人であり、妹の望みを断る事が出来ないグレンダとジャンヌは軽く嘆息しながら了承した。と言うよりもグレンダは元から主人の頼みを断れる立場にない。流石に危険な場所へ行きたいなどの命令なら穏便に済ませるだろうが、今回はただ買い物に来ただけで危険は皆無と言って等しい。
ジャンヌは厳しい性格をしているが、家族には弱い特に妹や弟たちのお願いは断る事が出来ないでいる。ま、普段からあまりお願いされる事もないようだし。何よりこの1年間お願いどころか一緒に食事もしていなかった。引きこもりを脱してからもほぼ毎日訓練で家族と一緒に遊ぶ事も無かった。
流石にジャンヌもその事に気付いているのか反論する事が出来ないようだ。
だが流石に堅物の2人にここはキツいだろう。
ガラス越しに置かれたマネキンが身に着けているのは刺繍が施されたピンク色の下着だけだ。勿論別の色の下着を身に着けたマネキンもある。
そう、ここはランジェリーショップなのだ。
ま、俺には関係ないけど。
「それじゃ3人は心置きなく選んでくれ。俺は店の前で周囲を警戒しているから」
そう言って俺は店の壁に凭れ――
「何言ってるんですか、ジンさんは今日護衛なんですから一緒に来てもらわないと」
笑みを崩さずそう言うシャルロット。何故だか分からないが異様な迫力を感じる。
「いや、流石に男が入るのは拙いだろう」
「では仕事を放棄するんですか?」
「いや、そういう訳じゃないが……」
恥ずかしいとかそう言う理由じゃない。ただシャルロットの後ろで凄い形相で睨んでいるジャンヌとグレンダが怖いだけだ。それに女性店員や女性客から変な目で見られるのが嫌なだけだ。
だがここで口論していても時間の無駄だ。ここは男として諦めるほかないだろう。
「分かったよ。ただし壁際で立っているだけだぞ」
「はい、それで構いません」
満面の笑みで答えるシャルロット。年頃の女の子が考える事は分からん。
嘆息する俺とそんな俺を睨みつけるグレンダとジャンヌ、ただ一人だけ笑みを浮かべたシャルロットの4人はランジェリーショップの店内へと歩みを進めた。
ランジェリーショップなんて初めて入ったけど、なんだここは!
入った瞬間、視界いっぱいに広がるカラフルな光景。厭らしさを感じる事無く清潔感と甘い香りが漂いまるでお花畑にでもいるような錯覚に陥りそうになる。
だがやはり周囲から感じる視線は厳しいものに他ならない。
驚きそうになる表情をどうにか堪えて俺は真剣な表情のまま仕事を続ける。
シャルロットたちはさっそく下着を選び始めたようだが、俺は彼女たちと離れてレジに向かった。勿論その際グレンダにアイコンタクトで互いの役目を伝える事も忘れない。
本来なら事前に行く場所を教えて貰っておくものだが、ジャンヌとグレンダが嫌がる事を知っていたシャルロットが敢えて教えなかったのだろう。
そのためお店とその周囲を調べ対策する事が出来なかった。その部分に関して言うのであれば少しぐらい皇族として自覚をして欲しいと思ってしまう。
普段から真面目で皇族として振舞っているシャルロットだ。ジャンヌが引きこもって1年間の間は彼女の代わりに色んな舞台に代理として出席もしただろう。それを踏まえるのであればたまにには良いのかもしれない。
ま、一介の冒険者である俺には分からない事だが。
突然近づいてきた男性に疑惑の視線を向けて来る女性店員に俺は小声で「裏口はありますか?」と問う。
一般人がそんな事を聞けば変な疑惑を持たれたりもするだろうが、現在スーツ姿の俺と来店しているお客が誰なのかを即座に判断すれば誰にだって俺が質問した真意を理解できる。
それは女性店員も同じだったらしく接客スマイルに変わると「こちらです」と言って案内された。
裏口の扉の前に到着した俺はまず鍵が掛かっているかをチェックしたあと、外に出て周囲を確認する。
監視カメラが……8台と。
扉の傍に2つ。他の両サイドのお店の扉の傍にも2つずつ設置されている。表の通りに出るための十字路に2つ設置されている。
流石は高級ブランド店が立ち並ぶ区画。こういった場所への対策もバッチリだな。
確認を終えた俺は裏口の扉を閉めて店内へと戻ると、シャルロットは楽しそうに下着を選んではジャンヌとグレンダに似合うか思案していた。
それに対してジャンヌとジャンヌは若干頬を赤らめて恥ずかしそうに「私には派手だ」や「似合わない」などと呟きながらも興味津々な視線を下着に向けていた。
特にジャンヌが先ほどから何度もチラチラと同じ下着に視線を向けているので、その先の下着に視線を向けると、そこには黒の下着を身に着けたマネキンが置かれていた。
ジャンヌの性格から考えて派手な色の物はあまり好きじゃないんだろう。訓練をする際に着て来るフーディーパーカーも黒かグレーのどちらかだ。
訓練に派手な服装で来られても困るので俺にはありがたいが、シャルロットたち女性陣はもう少し女性らしくオシャレに興味を持って欲しいと思っているだろうが、それに関しては大丈夫だろう。
なんせ、ジャンヌが先ほどからチラチラ見ている下着はセクシーランジェリーと呼ばれている類のものだからだ。
きっとジャンヌの性格上周囲に対して清廉潔白、真面目であり続けなければならないと思っているのだろう。だからこそ人には見えない部分でストレスを発散しているんだろうが、あれはどう考えてもセクシーと言うよりエロいの分類じゃないか?
俺の場所からではハッキリとした模様までは分からないが、うっすらとマネキンの白い肌が透けおり、ガーターベルトまで身に着けているやつだからな。
いや、待てよ。ジャンヌの性格は確かに堅物の真面目だ。だが見た目はハッキリ言って美女以外の何者でもない。似合うか似合わないかで言えば、似合うのは間違いなし。と言うよりもジャンヌのために作られたと言っても過言ではないだろう。
男である俺に女性のセンスや感覚が分かるはずがないが、あの下着はどう考えても勝負下着と言っても可笑しくないものだ。それを男性に見せる事無く、普段から身に着けたいのであればそれは間違いなくジャンヌの趣味、好みなのだろう。なら仕方がないな。
妄想を広げていると鋭い視線を感じた俺はその視線の先を見る。そこには頬を更に赤く染め恥ずかしそうにこちらを睨むジャンヌの姿があった。
どうやら俺は妄想を広げながらもあのマネキンに凝視し続けていたらしく、あっさりと俺にバレた事がバレてしまったらしい。……あとで面倒な事にならなければいいが。
そんなこんなで何事も無く下着選びは続いた。強いて問題を挙げるのであれば、服を選んでいた時の2割増しの時間を費やした事ぐらいだが、護衛役の俺がプリンシパルのシャルロットたちに早く帰ろうなんて言える筈もない俺は暇つぶしに先ほど裏口を案内してくれた女性店員と雑談をして時間を潰すのだった。勿論周囲の警戒を怠るような事はしなく、店の外から感じる気配や視線にも警戒していたしな。
俺に対して殺意や敵意を向けて来る者は居なかったし、殺気を纏っている者も居なかった。ま、怪異な視線を俺に向けて来る奴は何人かいたけどそれは仕方が無いよな。なんせランジェリーショップの店内で男性が女性店員と雑談しているんだからな。普通に考えて変だ。もしかしたら女性下着メーカーの社員で売り込みに来た男性と思われているもしれないけど、視線を感じる限り残念な事にそれは無いだろう。ま、救いは蔑むような視線を感じない事ぐらいだな。
買い物を終え、女性店員に見送られながらお店を出た俺たちは待機していた車に乗り込み、先ほどと同じ位置に座ると車は静かに動き出した。
勿論ジャンヌたちよりも先にお店を出て周囲を確認するのを忘れてはいない。
全ての買い物を終え皇宮に帰るかと思いきやシャルロットが手すりに取り付けられた受話器で運転手に伝えている様子から考えてどうやらそうではないらしい。
それに気が付いたのは俺だけでなくジャンヌも同じらしくシャルロットに質問し始めた。
「それでシャルロット、次はどこに向かう気だ?」
「はい、もうお昼ですので昨日予約しておいたお店に向かっている最中です」
笑顔で答えるシャルロットの姿にジャンヌは嘆息しながら口を開いた。
「まったくシャルロット、どうやらお前には策略家の才能があるようだ」
「お姉様にそう言って貰えるなんて嬉しいです」
満面の笑みを浮かべているシャルロット。だがシャルロット俺には皮肉に聞こえるんだが。
まさかシャルロットの買い物が丸一日を予定していたとは思っていなかった。多分ジャンヌも同様なのだろう。
それにしてもシャルロットに最初に会った時は心優しい女の子のイメージしかなかったが、ここ数日で意外な一面を度々見ている気がする。
そして分かった事は流石は皇族だと言う事だ。
社交場や舞踏会と言った場所に出席しているシャルロットは見事に仮面を被って振舞っているのだろう。そして着々と社交場と言う戦場で見事に力を付けているのだろう。ハッキリ言って何を企んでいるシャルロットに恐怖を感じ頬を引きつらせる俺とジャンヌを乗せた車は静かにシャルロットが予約したお店に向かうのだった。
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