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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第三十三話 眠りし帝国最強皇女 ④
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「ジンさんはとても素晴らしい人ですよ。優しいですし、魔力が無くても強いですし、なにより自分の意志をしっかりと持っている方です」
シャルロットは嬉しそうに頬を少し赤らめて話し出す。
いや、シャルロット私が知りたいのは内面の話ではなく、オニガワラ・ジンと言う男がどのような過去の持ち主なのか知りたいのだが。
「ジャンヌ、ジンの事が気になるのなら、あとで彼に関して纏めた資料がある。それを読むと良い」
「分かりました」
私の考えを察したお父様が頬杖をついて言ってくれる。流石は現皇帝と言うべきだろう。
だが資料とはどういう事だ?
ベルヘンス帝国の国民ならばある程度の個人情報はこの皇宮に保管されているし、犯罪者や有名な冒険者ならば資料が作られたって不思議ではない。現にお父様たちは依頼する前にどんな冒険者なのか調べる。
だからオニガワラ・ジンを調べる事になんの不思議もない。
だが彼からはまったく強さを感じなかった魔力のない冒険者だ。確かにジンの気配はあの島で出会ってアイツと似ている。だがそれだけだ。
そんな魔力を持たないオニガワラ・ジンの資料がある事がどうしても私は信じられなかったが、どんな相手であろうと依頼をする上で必要な事だと結論付けた私は、分かりました。と返事をするのだった。
一旦話を終えた私は大浴場に来ていた。
寝室にもお風呂は完備されているから清潔に保ってはいたが、やはり大浴場で入るお風呂は最高だ。
「お姉様、お背中を流しますね」
「ああ、頼む」
久々に一緒に入りたいと言ってきたシャルロットが洗い終わった背中の泡をシャワーで綺麗に洗い流してくれる。本当に素晴らしい妹だと改めて実感する。
互いに体を洗い終えた私たちはドラゴンの口から吐かれる湯船に肩まで浸かる。あ~最高だ。お風呂を考えた人物は天才だったんだろう。
私は舞踏会や貴族たちのパーティーに参加するよりも戦場で戦う方が好きな軍人だ。他国よりも実力主義なこの国も階級制度がある。それが当たり前と思っている貴族連中からしてみれば女が戦場で駆け回る事はやはり奇異の目で見られがちだ。ましてや私はベルヘンス帝国の第一皇女。どうしたって変わり者だと思われてしまう。それでも家族はそんな私を自慢の娘、姉、妹と言ってくれる。それは私にとって最高の言葉だ。
だからこそ私は現皇帝であるお父様、そして次期皇帝になるお兄様のためにも軍人として少しでも問題を解決したいと言う想いもある。
だがそれでも私は一応女だ。
パーティーよりも戦場が好きだとしてもやはり身嗜みは綺麗にしておきたいのだ。
「それにしてもお姉様が元気になって良かったです」
少し嗚咽交じりの声音で呟くシャルロットに視線を向けると目尻に涙を溜めていた。
湯気のせいでは無いことぐらい誰にだって分かる。
私はそんなシャルロットを抱きしめて、
「心配させて済まなかった」
と謝罪の言葉を口にした。
すると、私の背中に手を回して抱きしめ返してきた。
少しして離れた私はふと気になった事を口にする。
「シャルロットはあの男、オニガワラ・ジンとどこで出会ったんだ?」
きっと資料を読めばその事も事細かに記載されているだろう。だがやはり本人の口から聞いた方が為になる事もある。
そんな私の質問にシャルロットは疑問に感じる事もなく、ただ水面に映る表情は懐かしそうな面持ちでゆっくりと口を開いた。
「ジンさんと初めて出会ったのはテメル自由都市国家です。お姉様も知っていますよね。私の婚約が無くなった事は?」
「ああ、お母様から聞いていたからな」
なんでもシャルロットの婚約者相手であったスヴェルニ王国第三王子が自国の貴族令状を暗殺未遂や誘拐などを企て実行していた事が発覚し、今回の婚約は破談になったのだ。
私としてはシャルロットには結婚は早いと思っていたし、何よりそんなクズ以下の奴とシャルロットを結婚させずに済んだことが嬉しかった。
「スヴェルニ王国との婚約が破談になったのを耳にしたのはスヴェルニ王国に向かっている途中であり、それがテメル自由都市国家だったんです。で、そこで偶然政治家と犯罪者の取引現場を見かけて逃げている最中にジンさんと出会ったんです」
そんな事があったのか。
私はこの1年間外で起きた出来事をまったく知らない。知っているのは家族で起きた一部分の事だけだ。
大切な妹が命の危機にあった事すら知らないほどなのだから。
きっとお母様たちがこの事を私に秘密にしていたのはきっと私の心身を心配しての事なのだろう。
「そんなジンさんを私は巻き込んでしまいました。しかしジンさんは嫌な表情する事無くただ私を助けてくれました」
嬉しそうに弾んだ声音で語るシャルロットの頬は長湯で逆上せたかのように僅かに赤く染まっていた。
しかしこれが逆上せたものではないと私には分かる。
シャルロットはオニガワラ・ジンと言う男の事が――
いや、今はそれよりも。オニガワラ・ジンだ。
きっとシャルロットを助けるためではなく、殺されそうになったからただ相手を倒しただけだろ。ま、結果としてシャルロットを救った事にはなるのだろうが。…………ん?
「待て、シャルロット。今、オニガワラ・ジンがお前を助けたと言う事は追っ手をオニガワラ・ジンが倒したって事で間違いないのだな?」
「はい、そうですけど?」
私の質問が理解できなかったのか怪訝の表情で首を傾げるシャルロット。
だがこれで私の謎は更に深まっている。
「その時グレンダはどうしていたんだ?」
「グレンダは囮となって敵の大半を引き付けるために別行動を取りました。ですけどそのうちの3人は私に方に来てしまい、一心不乱に路地を逃げている最中にジンさんと出会ったんです」
「なるほどな」
グレンダが取った行動は間違いっている。
護衛役がグレンダを含めて複数人居るのであれば囮となって行動するのも分かる。しかし護衛はグレンダ一人なら取る行動は人気が多い場所に出るか、シャルロットを護りながら敵を倒す場所へと敵を誘導することだ。
今回は運良くオニガワラ・ジンに出くわさなければシャルロットは死んでいたかもしれないのだからな。
近々グレンダを鍛えてやらねばならないか。
って私は何を考えている!今はオニガワラ・ジンの事だろ。
シャルロットの話が本当なら間違いなくその3人はオニガワラ・ジンによって倒された事になる。
だが奴は自分の口から魔力を持たないと言っていた。
そんな奴がシャルロットを庇いながら敵を倒せるのか?いや、現在冒険者として活動している事を考えるのであれば可能なのかもしれない。
だがグレンダが倒すではなく自ら囮となると選択するほど相手の強さはそれなりのものだったはず。ましてやシャルロットと出くわした場所は路地。つまりは街中だ。
敵としては人目に付かないように殺したいはず。なら人数も少数精鋭だろう。そんな相手3人を倒すなど魔力を持たないあの男に可能なのか?
奴の気配はあの島で出くわした人の姿をした化け物と似ていた。だが奴からは微塵と言っていいほど強さが感じられなかった。
気配も何か悪巧みを企んでいる感じではなかった。まさに無害。そんな奴が3人を倒せるとは到底思えない。何か秘密があるのか?
「お、お姉様!?」
バシャン!と水飛沫を上げるほど勢いよく立ち上がった私は湯船を出る。その姿に驚いたシャルロットが私を呼ぶ。
そんなシャルロットに私は、
「何でもない、少し気になった事があるだけだ」
と返事をするだけだった。
洗面所に向かうとメイドが数人バスタオルや下着を持って待機していた。
私はそのうちの一人からバスタオルを奪い取り自ら体を拭く。
お母様は違うがエリーシャ義母様やシャルロットたちはメイドたちに体を拭いて貰っている。私は軍人として戦場に赴く事が大半だったため自分でする事になれているのだ。
新しく用意されていた下着と服に身を包んだ私はメイドの1人に視線を向ける。
「お父様は現在何処に居る?」
「皇帝陛下でしたら書斎で政務をこなしていると思われます」
「分かった」
そう言うと私はお父様が居る書斎へと赴いた。
メイドが言ったようにお父様は書斎で政務をこなしていた。
皇帝陛下の仕事の邪魔をするわけにはいかない。しかし私は少しでも早くオニガワラ・ジンについての資料が読みたくて仕方がなく、礼儀よりも好奇心を優先させた。
私が書斎に入るなり、お父様は一瞬だけ私に視線を向けると、「オニガワラ・ジンの資料はそのテーブルに置いている」と口にしながら政務をこなし続けた。
流石はお父様。
そんなお父様の邪魔をしないようにソファーに座ってテーブルに置かれたオニガワラ・ジンについての厚さ5ミリ程の資料を手に取って読む事が出来た。
15分ほどしてオニガワラ・ジンに関する資料に目を通し終えた私が思った感想は1つだ。
――なんだ、これは。
10億人に1人と言われている魔力が無い存在でありながら、スヴェルニ学園で行われた武闘大会個人戦学園代表選抜で神童と言われているイザベラ・レイジュ・ルーベンハイトや送り人のオスカー・ベル・ハワードを倒し全勝で優勝し、その後重症の体で2000人を相手に1人で闘い、決闘にも勝利。
第三王子の悪行を見つけ英雄視されるも王族を殴った罪と脱獄で期限付きの国外追放処分を言い渡されスヴェルニ王国を出ると、テメル自由都市でシャルロットと出会い、悪徳政治家を倒す。
ベルヘンス帝国に来てからは冒険者試験に一発合格するもののギルド試験は魔力が無い事や王族を殴った事が問題視され何回も不合格になる。
そこで自分のギルドを立ち上げるべく依頼をこなしつつ仲間を探す。
で、レグウェス帝国が生み出したサイボーグと世界最強の剣豪を仲間にしギルド『フリーダム』を結成。
その後は幾つもの依頼を達成し仲間を増やし、国からの依頼も達成しAランク冒険者にまでなっているか。
一部を除けば優秀な新人冒険者と言えるし、一部を含めても波瀾万丈な人生を送っていると吐き捨てる事も出来る。
だが、問題はそこではない。
彼――オニガワラ・ジンは魔力が無いのだ。
にも拘わらず、これだけの事を成し遂げるのは不可能に近い。
私の学生時代でも同年代の生徒2000人を相手にたった一人で闘ったとして勝てるかと言われれば、直ぐには答えることは出来ない。
魔力量+魔法属性の数=実力と言うのは間違いだ。
だが、半分は正解と言える。
魔法属性が少なかろうと魔力があれば肉体強化など色々と戦術の幅が広がるからだ。
だが、オニガワラ・ジンには一般人ですら持っている魔力がない。
にも拘わらず、重症の体で2000人を相手にして勝利を手にした。
スヴェルニ学園の生徒の実力が私が考える以上に劣るのか、それともオニガワラ・ジンと言う男が持つ力が私が思っている以上に凄まじいものなのか、そのどちらか、もしくはその両方だろう。
どちらにしても、オニガワラ・ジンと言う男が何かを隠していることは間違いない。
なんせ、スヴェルニ学園以前の資料がまったく無いのだから。
「お父様、ここに書かれている事は全て真実なのですね?」
政務の仕事をこなすお父様の手が止まっている事に気が付いた私は視線を向けて問いかける。
それに対してお父様は真剣な面持ちで「そうだ」と肯定の短い言葉を呟くだけだった。
オニガワラ・ジン……貴様はいったい何者だ。
私はお父様の後ろ、ガラス張りになっている窓の遥か先を見つめながら心の中でそう問いかけるのだった。
************************
思いのほか早く依頼を完遂した俺は歩いてホームに帰ってきていた。
俺が早く帰ってきた事に驚くギルドメンバーたち。アインよ、二度と帰ってこなくて良かったのに。みたいな顔をするな。
ソファーに全体重を預けるようにして凭れ掛かる。あ~疲れた。だけどこれでお金が貰えるなら楽なもんだな。
「それで、帝国の最強皇女の様子はどうだったのだ?」
俺の前に温かいお茶の入った湯呑を一つ置くなり影光がそう問いかけて来た。
気配で影光だけでなく、グリードたちも気になるのかソファーへと移動してきた。そんなに気になるなら一緒に来れば良かっただろうに。
内心そんな事を思いながら俺は景光が持ってきてくれたお茶を一口飲んで答える事にした。
「なんと言うか、思いのほか元気だったぞ。本当に塞ぎ込んでいたのか疑いたくなるレベルだ」
「お前がそこまで言うとは、どうやら皇帝陛下も1人の父親だったと言う事か」
「そうだろうな」
まったく親バカにも程があるだろ。と言いたいところだが、ジャンヌが塞ぎ込んでいたのは間違いないだろう。
お久しぶりです、月見酒です。
とうとう平成が終わり、令和になりましたね。
まさか次の更新が約半年ぶりになってしまうとは思いませんでした。
今後は早く更新出来るように頑張ります。
それでは次の機会にお会いしましょう。
シャルロットは嬉しそうに頬を少し赤らめて話し出す。
いや、シャルロット私が知りたいのは内面の話ではなく、オニガワラ・ジンと言う男がどのような過去の持ち主なのか知りたいのだが。
「ジャンヌ、ジンの事が気になるのなら、あとで彼に関して纏めた資料がある。それを読むと良い」
「分かりました」
私の考えを察したお父様が頬杖をついて言ってくれる。流石は現皇帝と言うべきだろう。
だが資料とはどういう事だ?
ベルヘンス帝国の国民ならばある程度の個人情報はこの皇宮に保管されているし、犯罪者や有名な冒険者ならば資料が作られたって不思議ではない。現にお父様たちは依頼する前にどんな冒険者なのか調べる。
だからオニガワラ・ジンを調べる事になんの不思議もない。
だが彼からはまったく強さを感じなかった魔力のない冒険者だ。確かにジンの気配はあの島で出会ってアイツと似ている。だがそれだけだ。
そんな魔力を持たないオニガワラ・ジンの資料がある事がどうしても私は信じられなかったが、どんな相手であろうと依頼をする上で必要な事だと結論付けた私は、分かりました。と返事をするのだった。
一旦話を終えた私は大浴場に来ていた。
寝室にもお風呂は完備されているから清潔に保ってはいたが、やはり大浴場で入るお風呂は最高だ。
「お姉様、お背中を流しますね」
「ああ、頼む」
久々に一緒に入りたいと言ってきたシャルロットが洗い終わった背中の泡をシャワーで綺麗に洗い流してくれる。本当に素晴らしい妹だと改めて実感する。
互いに体を洗い終えた私たちはドラゴンの口から吐かれる湯船に肩まで浸かる。あ~最高だ。お風呂を考えた人物は天才だったんだろう。
私は舞踏会や貴族たちのパーティーに参加するよりも戦場で戦う方が好きな軍人だ。他国よりも実力主義なこの国も階級制度がある。それが当たり前と思っている貴族連中からしてみれば女が戦場で駆け回る事はやはり奇異の目で見られがちだ。ましてや私はベルヘンス帝国の第一皇女。どうしたって変わり者だと思われてしまう。それでも家族はそんな私を自慢の娘、姉、妹と言ってくれる。それは私にとって最高の言葉だ。
だからこそ私は現皇帝であるお父様、そして次期皇帝になるお兄様のためにも軍人として少しでも問題を解決したいと言う想いもある。
だがそれでも私は一応女だ。
パーティーよりも戦場が好きだとしてもやはり身嗜みは綺麗にしておきたいのだ。
「それにしてもお姉様が元気になって良かったです」
少し嗚咽交じりの声音で呟くシャルロットに視線を向けると目尻に涙を溜めていた。
湯気のせいでは無いことぐらい誰にだって分かる。
私はそんなシャルロットを抱きしめて、
「心配させて済まなかった」
と謝罪の言葉を口にした。
すると、私の背中に手を回して抱きしめ返してきた。
少しして離れた私はふと気になった事を口にする。
「シャルロットはあの男、オニガワラ・ジンとどこで出会ったんだ?」
きっと資料を読めばその事も事細かに記載されているだろう。だがやはり本人の口から聞いた方が為になる事もある。
そんな私の質問にシャルロットは疑問に感じる事もなく、ただ水面に映る表情は懐かしそうな面持ちでゆっくりと口を開いた。
「ジンさんと初めて出会ったのはテメル自由都市国家です。お姉様も知っていますよね。私の婚約が無くなった事は?」
「ああ、お母様から聞いていたからな」
なんでもシャルロットの婚約者相手であったスヴェルニ王国第三王子が自国の貴族令状を暗殺未遂や誘拐などを企て実行していた事が発覚し、今回の婚約は破談になったのだ。
私としてはシャルロットには結婚は早いと思っていたし、何よりそんなクズ以下の奴とシャルロットを結婚させずに済んだことが嬉しかった。
「スヴェルニ王国との婚約が破談になったのを耳にしたのはスヴェルニ王国に向かっている途中であり、それがテメル自由都市国家だったんです。で、そこで偶然政治家と犯罪者の取引現場を見かけて逃げている最中にジンさんと出会ったんです」
そんな事があったのか。
私はこの1年間外で起きた出来事をまったく知らない。知っているのは家族で起きた一部分の事だけだ。
大切な妹が命の危機にあった事すら知らないほどなのだから。
きっとお母様たちがこの事を私に秘密にしていたのはきっと私の心身を心配しての事なのだろう。
「そんなジンさんを私は巻き込んでしまいました。しかしジンさんは嫌な表情する事無くただ私を助けてくれました」
嬉しそうに弾んだ声音で語るシャルロットの頬は長湯で逆上せたかのように僅かに赤く染まっていた。
しかしこれが逆上せたものではないと私には分かる。
シャルロットはオニガワラ・ジンと言う男の事が――
いや、今はそれよりも。オニガワラ・ジンだ。
きっとシャルロットを助けるためではなく、殺されそうになったからただ相手を倒しただけだろ。ま、結果としてシャルロットを救った事にはなるのだろうが。…………ん?
「待て、シャルロット。今、オニガワラ・ジンがお前を助けたと言う事は追っ手をオニガワラ・ジンが倒したって事で間違いないのだな?」
「はい、そうですけど?」
私の質問が理解できなかったのか怪訝の表情で首を傾げるシャルロット。
だがこれで私の謎は更に深まっている。
「その時グレンダはどうしていたんだ?」
「グレンダは囮となって敵の大半を引き付けるために別行動を取りました。ですけどそのうちの3人は私に方に来てしまい、一心不乱に路地を逃げている最中にジンさんと出会ったんです」
「なるほどな」
グレンダが取った行動は間違いっている。
護衛役がグレンダを含めて複数人居るのであれば囮となって行動するのも分かる。しかし護衛はグレンダ一人なら取る行動は人気が多い場所に出るか、シャルロットを護りながら敵を倒す場所へと敵を誘導することだ。
今回は運良くオニガワラ・ジンに出くわさなければシャルロットは死んでいたかもしれないのだからな。
近々グレンダを鍛えてやらねばならないか。
って私は何を考えている!今はオニガワラ・ジンの事だろ。
シャルロットの話が本当なら間違いなくその3人はオニガワラ・ジンによって倒された事になる。
だが奴は自分の口から魔力を持たないと言っていた。
そんな奴がシャルロットを庇いながら敵を倒せるのか?いや、現在冒険者として活動している事を考えるのであれば可能なのかもしれない。
だがグレンダが倒すではなく自ら囮となると選択するほど相手の強さはそれなりのものだったはず。ましてやシャルロットと出くわした場所は路地。つまりは街中だ。
敵としては人目に付かないように殺したいはず。なら人数も少数精鋭だろう。そんな相手3人を倒すなど魔力を持たないあの男に可能なのか?
奴の気配はあの島で出くわした人の姿をした化け物と似ていた。だが奴からは微塵と言っていいほど強さが感じられなかった。
気配も何か悪巧みを企んでいる感じではなかった。まさに無害。そんな奴が3人を倒せるとは到底思えない。何か秘密があるのか?
「お、お姉様!?」
バシャン!と水飛沫を上げるほど勢いよく立ち上がった私は湯船を出る。その姿に驚いたシャルロットが私を呼ぶ。
そんなシャルロットに私は、
「何でもない、少し気になった事があるだけだ」
と返事をするだけだった。
洗面所に向かうとメイドが数人バスタオルや下着を持って待機していた。
私はそのうちの一人からバスタオルを奪い取り自ら体を拭く。
お母様は違うがエリーシャ義母様やシャルロットたちはメイドたちに体を拭いて貰っている。私は軍人として戦場に赴く事が大半だったため自分でする事になれているのだ。
新しく用意されていた下着と服に身を包んだ私はメイドの1人に視線を向ける。
「お父様は現在何処に居る?」
「皇帝陛下でしたら書斎で政務をこなしていると思われます」
「分かった」
そう言うと私はお父様が居る書斎へと赴いた。
メイドが言ったようにお父様は書斎で政務をこなしていた。
皇帝陛下の仕事の邪魔をするわけにはいかない。しかし私は少しでも早くオニガワラ・ジンについての資料が読みたくて仕方がなく、礼儀よりも好奇心を優先させた。
私が書斎に入るなり、お父様は一瞬だけ私に視線を向けると、「オニガワラ・ジンの資料はそのテーブルに置いている」と口にしながら政務をこなし続けた。
流石はお父様。
そんなお父様の邪魔をしないようにソファーに座ってテーブルに置かれたオニガワラ・ジンについての厚さ5ミリ程の資料を手に取って読む事が出来た。
15分ほどしてオニガワラ・ジンに関する資料に目を通し終えた私が思った感想は1つだ。
――なんだ、これは。
10億人に1人と言われている魔力が無い存在でありながら、スヴェルニ学園で行われた武闘大会個人戦学園代表選抜で神童と言われているイザベラ・レイジュ・ルーベンハイトや送り人のオスカー・ベル・ハワードを倒し全勝で優勝し、その後重症の体で2000人を相手に1人で闘い、決闘にも勝利。
第三王子の悪行を見つけ英雄視されるも王族を殴った罪と脱獄で期限付きの国外追放処分を言い渡されスヴェルニ王国を出ると、テメル自由都市でシャルロットと出会い、悪徳政治家を倒す。
ベルヘンス帝国に来てからは冒険者試験に一発合格するもののギルド試験は魔力が無い事や王族を殴った事が問題視され何回も不合格になる。
そこで自分のギルドを立ち上げるべく依頼をこなしつつ仲間を探す。
で、レグウェス帝国が生み出したサイボーグと世界最強の剣豪を仲間にしギルド『フリーダム』を結成。
その後は幾つもの依頼を達成し仲間を増やし、国からの依頼も達成しAランク冒険者にまでなっているか。
一部を除けば優秀な新人冒険者と言えるし、一部を含めても波瀾万丈な人生を送っていると吐き捨てる事も出来る。
だが、問題はそこではない。
彼――オニガワラ・ジンは魔力が無いのだ。
にも拘わらず、これだけの事を成し遂げるのは不可能に近い。
私の学生時代でも同年代の生徒2000人を相手にたった一人で闘ったとして勝てるかと言われれば、直ぐには答えることは出来ない。
魔力量+魔法属性の数=実力と言うのは間違いだ。
だが、半分は正解と言える。
魔法属性が少なかろうと魔力があれば肉体強化など色々と戦術の幅が広がるからだ。
だが、オニガワラ・ジンには一般人ですら持っている魔力がない。
にも拘わらず、重症の体で2000人を相手にして勝利を手にした。
スヴェルニ学園の生徒の実力が私が考える以上に劣るのか、それともオニガワラ・ジンと言う男が持つ力が私が思っている以上に凄まじいものなのか、そのどちらか、もしくはその両方だろう。
どちらにしても、オニガワラ・ジンと言う男が何かを隠していることは間違いない。
なんせ、スヴェルニ学園以前の資料がまったく無いのだから。
「お父様、ここに書かれている事は全て真実なのですね?」
政務の仕事をこなすお父様の手が止まっている事に気が付いた私は視線を向けて問いかける。
それに対してお父様は真剣な面持ちで「そうだ」と肯定の短い言葉を呟くだけだった。
オニガワラ・ジン……貴様はいったい何者だ。
私はお父様の後ろ、ガラス張りになっている窓の遥か先を見つめながら心の中でそう問いかけるのだった。
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思いのほか早く依頼を完遂した俺は歩いてホームに帰ってきていた。
俺が早く帰ってきた事に驚くギルドメンバーたち。アインよ、二度と帰ってこなくて良かったのに。みたいな顔をするな。
ソファーに全体重を預けるようにして凭れ掛かる。あ~疲れた。だけどこれでお金が貰えるなら楽なもんだな。
「それで、帝国の最強皇女の様子はどうだったのだ?」
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気配で影光だけでなく、グリードたちも気になるのかソファーへと移動してきた。そんなに気になるなら一緒に来れば良かっただろうに。
内心そんな事を思いながら俺は景光が持ってきてくれたお茶を一口飲んで答える事にした。
「なんと言うか、思いのほか元気だったぞ。本当に塞ぎ込んでいたのか疑いたくなるレベルだ」
「お前がそこまで言うとは、どうやら皇帝陛下も1人の父親だったと言う事か」
「そうだろうな」
まったく親バカにも程があるだろ。と言いたいところだが、ジャンヌが塞ぎ込んでいたのは間違いないだろう。
お久しぶりです、月見酒です。
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