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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第三十一話 眠りし帝国最強皇女 ②

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 ステータスだけじゃない。スキルもそうだ。
 なんだこの数は。俺が未だに習得出来ていない瞬脚まで持ってやがるし、称号も魔神と闘神の寵愛を持ってやがる。
 称号があればそれだけで固有スキルとは別に得られる恩恵が桁外れに上がる。
 だがそれにしたってこれは凄すぎる。この世界じゃトップレベルと言っても良いほどだ。だけど、ま、転生者ではないようだな。
 称号の欄に転生者の文字が無いことに安堵する。もしもあったら教会を恨んでいそうだからな。でも確かに神童と言われてもおかしくはない。

「ジャンヌは24歳と言う若さでそのレベルまで達しているのだ」
 影光やアインに比べれば確かに劣る。だがジャンヌの24歳と言う若さから考えれば確かにこのステータスは驚愕の領域だ。
 だがなんでこれほどの力を持っている奴が塞ぎこんでいるんだ?

「いったい何があったんだ?」
 スマホをボルキュス陛下に返しながら俺は訊ねる。しかしボルキュス陛下たちの顔に掛かった影が濃くなる一方だった。
 奥歯を噛み締め覚悟を決めたボルキュス陛下は重く感じる口をゆっくりと開けた。

「……地獄島ヘル・アイランドだ」
 その言葉に俺の身体がビクッ!と一瞬震える。
 まさかこの状況でその言葉を耳にするとは思わなかったからだ。
 だがどうやらジャンヌの事で頭がいっぱいなのか気づかれる事はなかった。ふぅ、危なかった。

「ジャンヌは才能に秀でていた。いや、秀でて過ぎていた。常人よりも多い魔力量と魔法属性。だが才能に胡坐を掻く事は無く、鍛錬に励んだ。しかし常人よりも速いスピードで上達し、我が雇った家庭教師や教官を次々と追い抜いていった」
 テーブルに置かれたコーヒーカップの中身をジッと見つめながら語り部のように話し出す。
 ま、そうだろうな。あれだけの力があれば直ぐにだって追い抜くだろうよ。

「だがジャンヌの成長はここからだった」
 まるで今までがウォーミングアップのような言い方だな。

「レイノーツ学園軍人教育科を主席で卒業し、准尉としてベルヘンス帝国陸軍に入隊。前期後期の教育課程を修了したジャンヌはその実力を買われて、304独立遊撃連隊の所属となった」
 いつも以上に低音でジャンヌの過去を話し出すボルキュス陛下の今の姿に皇帝としての威厳と風格はなく、どこにでもいる娘を心配する一人の父親の姿しかなかった。
 聞いた事もない部隊だな。ま、俺は冒険者であって軍人じゃないからな。知らないのは当然だけど。

「304独立遊撃連隊……聞いた事があるぞ。なんでもどこの部隊にも所属しない、500人~5000人の精鋭で編成された帝国軍最強の部隊だとか」
「その通りだ。さすがはカゲミツ殿だな」
 え?今のって一般常識なの?
 俺はクレイヴたちに視線を向けるがどうやら知っているようだ。知らないのは俺、ヘレンだけらしい。まさかグリードまで知っているとは。で、アインはどうせ今調べて知っているだけだろうけど。

「ジャンヌは20歳と言う若さで304独立遊撃連隊に入るなり、各地の戦場を転々として回った。ある時は魔物の大群と戦い、ある時はテログループを鎮圧するなど、数々の功績を挙げていった。それに同調するように一つまた一つと戦場を乗り越えて行く度にジャンヌは凄まじい成長スピードで強くなって行った」
 だろうな。経験値5倍速なんて固有スキルを持っている奴が幾つもの戦場を切り抜ければ物凄い勢いで強くもなるさ。

「そしてジャンヌはたった1年半と言う短い月日で304独立遊撃連隊の隊長に任命されるほどまでになっていた」
 たった1年半で。それは凄いな。どれだけ才能に溢れていても上に立つ器があるかは別の問題だからな。ま、皇帝の娘なら持っていてもおかしくはないか。

「そこからの304独立遊撃連隊はもう嵐の如き勢いで戦場を転々とした。これまでが全てジャンヌを鍛えるためにゆっくりと慣らしていたかのようにな。隊長であるジャンヌの凄さを身近で知っている304独立遊撃連隊の者達はジャンヌの一言で戦場に血の雨を降らしていった。ジャンヌが先頭で戦えば、その背中を見て闘志を燃やし、魔物を屠るまさに一騎当千の部隊と化していた」
 自慢の娘であるジャンヌの人生を語っているにも拘らずボルキュス陛下の声音から辛さを感じさせて行った。

「そしてジャンヌが隊長を務める304独立遊撃連隊はたった1年で仲の悪い国から悪魔の軍勢デーモン・レジメントと呼ばれるほど恐れられるようになった」
 ボルキュス陛下は国の名前は出さないが、仲の悪い他国がある事を伝えた。つまりは国同士での争いが少ないのは、今の平穏が続いているのはジャンヌのお陰であると、言いたいのだろう。

「だがジャンヌにとってそれは嬉しいこと反面辛い出来事でもあった」
「それはどういう事ですか?」
 なるほどな。
 昔の俺ならともかく今の俺なら理解できる。そしてそれは俺だけでなく影光やアインも理解していた。
 しかしグリードだけはボルキュス陛下の言葉が理解出来なかったのか、怪訝の表情を浮かべて質問した。
 ボルキュス陛下はグリードの質問に答えるためではなく、ただ話しの続きを語りだすだけだった。

「強さに対する貪欲なまでの追求の持ち主であったジャンヌとってそれは停滞を意味していた。なんせ敵はジャンヌたちの姿を見れば直ぐに逃げ出すのだからな」
 ま、それは敵国の軍や犯罪組織の話しだろう。魔物たちも殺されると思えば逃げるだろうが、戦闘にはなりやすい。だが304独立遊撃部隊が出撃するほどの魔物の軍勢が出現するはずもない。1年に1回あるかどうかだろう。

「それから3ヶ月が過ぎたある日、ジャンヌに吉報とも呼べる任務が与えられた」
 ボルキュス陛下のその言葉にとうとう我慢出来なくなったのかレティシアさんはエリーシャさんの胸の中で泣き始めてしまった。

「それはこれまで不可能とされていた地獄島ヘル・アイランドの探索だ」
 なるほど、ようやく話が見えてきた。
 幾つもの功績を挙げている304独立遊撃連隊ならば地獄島ヘル・アイランドの探索も出来ると思われたんだろうな。

「そしてジャンヌは嬉々として部下たちと共に地獄島ヘル・アイランドの探索に向かった。しかし1ヶ月後、帰還した304独立遊撃部隊の者達は最悪の1割未満だった。無傷で帰還したものは居らず、大半が四肢の一部を失うなどの重症患者ばかりだった。娘のジャンヌも重傷とまでは至らなかったが、心身ともに大きなダメージを負い、未だに部屋に引き篭もり、たまに魘されている始末なのだ」
 イカロスの翼。
 ボルキュス陛下の最後の言葉を聞いた瞬間に俺の脳内にその言葉が浮かび上がってきた。
 を手にしたイカロスジャンヌ自由戦場を求めた結果、太陽ヘル・アイランドによって、焼かれた絶望したのだ。
 自業自得と言うほか無いだろう。
 確かにジャンヌのステータスは凄い。イザベラ以上だし、帝国最強の軍人と謳われるだけの事はある。
 だがあの程度のステータスで倒せるほど地獄島ヘル・アイランドの魔獣共は優しくは無い。と言うよりも俺から言わせて見れば四肢も失わずに帰還した事の方が凄いと言える。
 正直俺も最初の頃は奇跡としか言いようが無い戦いの連続だったからな。いや、マジで。ほんと俺不思議なぐらいなんでか生きてるよな。
 ん?待てよ。
 確かボルキュス陛下たちの依頼内容はジャンヌの元に戻して欲しいって事だったよな。
 いやいや、無理だろ。俺はカウンセラーじゃないんだぞ!ただの冒険者に精神的に塞ぎこんでいる奴を元気にして元に戻せってもう無茶振りにも程があるだろ!

「ま、事情は分かった。だが――」
「ジンさんお願いです!どうかジャンヌお姉様を助けて下さい!」
 断ろうとした俺の言葉を遮りシャルロットが涙声で頼み込んでくる。
 シャルロットは良い奴だ。悲しませたくは無い。だが俺では……。
 困ってしまった俺は影光たちに助け舟を求めて視線を向ける。って誰も俺と視線を合わせようとしねぇし!
 唯一視線を合わせてくれたアインはアイコンタクトで、

「依頼はフリーダムでは無く、アナタ個人です。ですので私は関係ありません」
 と伝えてきやがった。あの野郎、面倒だからってこんな時に正論を言うんじゃねぇよ。
 だがこのまま断るのも罪悪感があるしな~。

「ジンさん……」
 頼むからそんな潤んだ瞳で俺を見つめないでくれ!
 完全に断れない空気が漂っていた。
 で、この空気を壊せる勇気は俺には無かった。

「はぁ……分かったよ。一応やれる事はやってみるが、それで駄目だったら諦めてくれ」
「ぉおおお、そうか!ありがとうジン!」
「ありがとうございます!」
 嬉しそうに返事をするベルヘンス皇族たち。
 ったく家族が大事なのは分かるが、どう考えてもハードルが高すぎるだろ。
 俺は苦戦することを想像して嘆きの嘆息を吐くのだった。


 で、次の日かと思いきや、俺はそのままの流れで皇宮に行く羽目になり、ボルキュス陛下たちと一緒に黒のリムジンに乗っていた。
 てか何でリムジン?
 どう考えてもお忍びで来る車じゃないだろ。
 郊外だし人は少ないがいないわけじゃない。ましてやパパラッチなんかにこの状況を写真にでも撮られたら明日の朝刊は間違いなく面倒なことになる。
 俺はそうならない事を祈りながらボルキュス陛下たちと一緒に皇宮に向かった。
 40分ほどして皇宮に辿り着いた俺たちは皇宮の入り口から入るのではなく地下駐車場から続いている特別のエレベーターに乗り込んで上がる。
 しかしどうやらこのエレベーターはプライベートフロアまでは続いていないらしく、一旦乗り換えて俺たちはプライベートフロアまで向かった。
 現在、皇宮には俺を除けば皇族たちとイオ、グレンダしかいない。
 影光たちは今回の依頼は受けていないので、ホームに残って貰っている。
 ま、今回の指名依頼は正式なものじゃないし、何より今回の依頼はフリーダムにではなく、俺個人に対して出されたものだからな。
 プライベートフロアを少し歩くとそこは俺が来た事の無い、初めて見る通路だった。
 ガラス張りの窓ガラスが一切無く、分厚いコンクリートで出来た壁は清潔感溢れる内装が広がっていた。
 その一角に一つだけ茶色のドアが設置されていた。
 見た目はどう見てもただの木製の扉だ。しかしそれは見た目だけだろう。魔導弾ですら貫通するのが難しい程の素材で出来ているに違いない。
 内心そんな事を思っていると、ちょうどそのドアの前で先頭を歩くボルキュス陛下が止まった。どうやらこの扉の向こうが今回の依頼である第一皇女ジャンヌ・ダルク・ベルヘンスが居る部屋なんだろう。
 これから初対面の女性に会うのがこれほどまでに緊張したのは初めてだ。
 ボルキュス陛下とレティシアさんの娘だ。となると相当の美人なのは間違いない。ただロードとエルフの血をどちらを強く受け継いでいるのか、またどんな性格なのか気になってしまう。ま、これからカウンセリングを行うんだから気になっても仕方が無いないのは当然なんだろうが。
 好奇心に心を踊らせていると、ボルキュス陛下が一度こっちに視線を向けてきた。なので俺は言葉を発する事無くただ軽く頷いて合図を送るだけだった。
 ボルキュス陛下から深呼吸するような吐息声が聞えて来る。会うのが久々なのか、それともこれからの出来事に対して緊張しているのかは分からないが、そのどちらかだろう。
 だが直ぐにボルキュス陛下はドアをトントン、とノックするとドア越しに向かって言葉を発する。

「我だ。入っても良いか?」
「お父様………それに……この気配はっ!」
 ドア越しから聞えて来る声は突然慌しさを増し、それは物音からも聞こえ始める。
 いったいどうしたんだ?
 俺は首を傾げているとボルキュス陛下たちはこれまでにない行動に動揺したのかドアを開けようとした。

「ジャンヌ、ドアを開け――」
「皆、ソイツから離れろ!」
 ボルキュス陛下がドアノブを握ろうとした瞬間、部屋から一人の女性が血相を変えて出てきた。うん、やっぱり美女だったな。
 金髪を靡かせ、鋭い形相で俺を睨む1人の女性。
 俺はそんな彼女の瞳に魅了されていた。別に睨まれて興奮する変態じゃない。
 ボルキュス陛下と同じバイオレットサファイア色に縦長の瞳を持つ右目と、まるで日光に照らされ煌びやかな輝きを放つ透き通た海を連想させるブルーアパタイト色の瞳を持つ左目。
 それにしても面白瞳をしているな。三角?いや、前世の漫画に出て来た三方手裏剣のような形の瞳だ。
 しかし、今はそれどころではない。
 いきなり開かれたドアによってボルキュス陛下が顔面を強打すると言う悲惨な出来事が起きてしまっているからだ。
 俺は直ぐにボルキュス陛下の許へ駆け寄ろうとしたが、目の前に立ちはだかるようにしてジャンヌが立つ。

「お父様は殺させない、この化物!」
 荒らしく言い放った声。しかし怯えているのか身体は震えていた。


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読者の皆さん、あけましておめでとうございます!
月見酒です。
平成もあと少しで終わりですね。
自分としましては、次の年号が何なのか気になって仕方がありません。
そんな状態ですが、次回も楽しみにして貰えると嬉しいです。
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