199 / 274
第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第十九話 漆黒のサンタクロース ①
しおりを挟む
その日の夜寝室のベッドに座って寛いでいると、フェリシティーからメールが届いた。
メールアドレス、電話番号、レインのIDは新しいモノになっている。
変える理由は無かったんだが、シャルロットを助ける際にスマホを壊してしまい、新しいのに買い替えた時以前の電話番号を使う事が出来なくなっていて、メールアドレスと電話番号を新しくする必要があったのだ。レインに関してはIDとパスワードを忘れてしまっていて、新しく作る羽目になった。
引継ぎも考えたが見事にデータが吹っ飛んでいた。
ま、そのためイザベラたちから連絡が来るわけも無いし、連絡する事も出来ない。ま、犯罪者が知り合いだと色々とあるだろ。ましてやイザベラは貴族だし、神童って呼ばれるほど有名人だからな。
だから最初はフェリシティーとも交換するつもりは無かったんだが、強く求められ、その勢いに負けてしまった俺は空港で交換したのだ。
そんなわけでメールがあったわけだが、無事に帰国し今家に到着したそうだ。
来週からは普通にスヴェルニ学園にも通うそうだ。良かった。
それと依頼達成の報告を冒険者組合に伝えておいたので、報酬がちゃんと振り込まれているか確認しておいて欲しいとの事だった。
その文面を見た俺はベッドから立ち上がって、パソコンの電源を入れた。
少ししてパスワードを入力した俺は冒険者専用のサイトに繋がるアイコンをクリック。
IDとパスワードを打ち込んだ俺は依頼履歴を見る。
この項目ではこれまでフリーダムのメンバーが受けた依頼の履歴を見る事が出来る。
つまり何年の何月何日、何時何分に誰が依頼を受けて、何月何日に依頼を達成したのかとか。またその依頼内容がどういったモノなのか。とかを確認する事が出来る。
その中から俺は一番上に表示されている、「【指名】護衛依頼」と表示されている項目をダブルクリックすると、依頼内容が詳細に書かれていた。
で、報酬額と言う欄を見ると、1500万RKと表示されていた。
「1500万!」
俺はその額を見て思わず叫ぶ。
これまで受けたどんな依頼よりも高額だったからだ。
え?マジで。娘の護衛依頼にどんだけだしてるんだ。いや、愛する娘だからか。俺も銀が誘拐されたらこれ以上の金を要求されたら払う覚悟はある。ま、勿論見つけ出して後悔させてから殺すけど。
それにしても凄い額だな。依頼に失敗して罰金を支払わないといけない筈なんだが。
そう言えば、依頼のランクがミスがあったから罰金を支払う必要はなかった。ってフェリシティーが言ってたな。
依頼のランクを決めるのは冒険者組合だ。勿論、調査等を行うのは冒険者だが、その報告を聞いてランクを決めるため間違えた場合今回のような悲劇が起こる。そのため罰金の支払いはなかったようだ。
だからと言って1500万は凄いな。
指名依頼は通常の依頼よりも報酬が多いもんだが、これはあまりにも多すぎる。
俺はペットボトルのお茶を飲んで乾いた喉を潤してから振り込まれているかを確認する。
フリーダムでの報酬の支払い方法はまず、ギルドに2割。つまりは300万RKなわけだが、
「ん?」
俺は表示されている金額を見てパソコンの画面に顔を近づけて凝視する。別に近眼になったわけじゃないぞ。
何故かは分からないが、表示されている金額が310万と10万RK多い事に疑問を持ったからだ。なんでこんなに微妙なんだ?
そう思いながらマウスのホイールを回して画面をスライドさせて行くと、フリーダムメンバー全員の名前とその横に170万RKと言う文字が表記されていた。
全員に均等に170万RKずつ振り込まれている事を確認した俺は暗算をして納得した。
ギルドに300万RKだけ振り込むと、どうしても残りの1200万RKを7人で均等に分ける事が出来ない。そこでキリのいい額として10万RKをギルドの口座に入れたと言う事なのだろう。
本当なら当人である俺たちに相談しなければならないはずだが、別に俺たちはこの程度の事で怒るつもりはない。そんな俺たちの性格をよく知っている人物となるとミキがしたのかもしれないな。今度お礼を言っておくか。ま、本音を言えば一言言ってほしかったけど。
そんなわけで無事に振り込まれている事を確認した俺はサイトを閉じてパソコンの電源を切った。
オフィスチェアから立ち上がった俺は左手に持ったペットボトルのお茶を飲みながらスマホの画面に視線を落としてメールの続きを読む。
ブラック・ハウンドの9割が逮捕、もしくは討伐され、フェリシティーを狙ってベルヘンス帝国に向かっていた連中も無事に全員討伐し終えたそうだ。やはり第2派があったか。
で、最後に感謝の言葉が書かれていたのを見て俺は笑みを零しながらベッドに座った。
「ん?PS?」
――追伸、お母様に大人の階段を上った事を感づかれてしまい事情説明したところ、(いえ、この場合は情事説明でしょうかww)偶然お父様にも聞かれてしまい、ぜひ会ってお話がしたいとの事です。
「ブー!」
俺は口に含んだお茶を豪快に吐き出していた。
な、なんでバレたんだ。女性は大人の階段を上ると立ち振る舞いや雰囲気が変わると言うけどそれなのか?
それにしてもその話を父親に聞かれたのは最悪だ。この文面からでもフェリシティーの父親の怒り狂った表情が目に浮かぶんだが。会ったことはないけど。
と言うよりも何が情事説明だ。大和撫子のような振舞いをしてるくせになになんて事を書く。別に上手くもないし、お茶目でもなんでもないわ!一気に俺の背筋が凍ったわ!
一日に二度もフェリシティーに背筋を凍らせられる事になるとは。って言うよりもフェリシティーって案外根に持つタイプなのか?
そんな疑問が頭に浮かぶが、俺はフェリシティーの両親に会った時の事を考えた瞬間憂鬱な気分になり思わず嘆きの嘆息を洩らしながら、ティッシュでテーブルに飛び散ったお茶を拭くのだった。
12月24日月曜日午後1時28分。
曇天模様の空はいつ雪が降ってもおかしくは無い。
そんな空の下を俺は銀を連れて久々に2人(?)きりで街へと出かけていた。
すれ違う人々はロングコートやマフラーに身を包んで歩いている。
前世ではクリスマスイブだが、この世界にクリスマスと言う行事は存在しない。
ま、それは当然で、クリスマスはイエス・キリストの誕生日を祝う日。つまりは聖誕祭だ。だがこの世界にイエス・キリストは居ない。ならクリスマスと言う行事が無いのは自然な事だ。
と言うよりもそう行った宗教的なお祝い事はそれぞれの教会などで行っている。
この世界にも神は複数存在する。
ま、前世の地球ほどは居ないが、この世界に存在している神たちは世界共通認識だ。
火の神、水の神、土の神、風の神、雷の神、氷の神、光の神、闇の神と各属性に一柱存在し、戦いを司る闘神や魔力を司る魔神も存在する。で、そんな神々の頂点に立つのが創造の女神と言う事らしい。なんでアイツがトップなのか不思議でならない。
そして一番、信徒が多いと言われているのも創造の女神だ。あのクズ傲慢女神を信仰するなんて頭に異常があるとしか思えない。この世界の奴等は大丈夫なのか?
ま、そんな訳で魔法があるこの世界では前世の地球に比べて信仰率がとても高い。と言うよりも熱狂的な信仰者が沢山いる。そんな世界で街全体で別の神の聖誕祭なんて行った日には戦争だってありえるわけだ。
そのためこの世界に聖誕祭を祝う行事は無い。もっと地球人みたいに寛容な心は持てないのかね。日本なんて内外問わず色んな宗教があったぞ。
ただ俺が言えることは、独り身の人間には嬉しい世界かもしれないと言う事だ。
そんないつもと変わらない街の中を俺は銀を抱えて歩く。
別になに用事があるわけじゃない。友人と会う約束をしているわけでも、何か必要な物を買いに来たわけでも、依頼をこなすためでもない。ただ本当に暇だったから出歩いているだけだ。強いて何か用事があると言う事にするのであれば、適当にお酒でも買って帰ろうかなって思っているぐらいだ。
だがそれは帰る時で良いだろう。
歩道を歩いているとちょうど赤信号に変わったため俺は歩みを止めた。別に急いでいるわけじゃないから苛立ちを覚えることも無い。
その時、ふとテンポの良い歌が流れ始める。聞いた事がない初めて聴く曲。と言うよりもこの世界に来て音楽を聴く余裕なんて殆ど無かったからな。
だがこの曲は俺好みのテンポの良い歌で思わず歌の出所を視線を探していた。
見つけた先には電光掲示板に映る一人の女性だった。
黒髪ショートボブヘアの20代半ばの彼女はギターを弾きながらマイクに向かって訴えかけるように歌詞を叫ぶ。
他にも数人の女性たちがベースやキーボード、ドラムなどの楽器で演奏している姿が映っていた。俺はそれを見た瞬間、女性だけのロックバンドのプロモーションビデオなのだと理解した。
「あ、HERETICの新曲だ!」
「本当だ!私この曲聴いた瞬間にハマったんだけど!」
「私も!」
俺と同じように信号待ちをしている女性が電光掲示板に映ったプロモーションビデオを見て嬉しそうに話す会話が聞こえてくる。
「私、HERETICの独立不羈な歌詞が好きなんだ!」
「私も私も!嫌な事があった時に聞くと悩んでいることが馬鹿馬鹿しく思えてきて、次も頑張ろうって思えるんだよね」
「そうそう!」
そんな彼女たちの感想が聞こえてくる。てか、よく独立不羈なんて四字熟語を知ってるな。ま、見た目私服で若いし大学生なのか?日本と同じで普通の学校もあるようだしな。
でも確かにこの曲の歌詞は自分の思いをぶつけているようなそんな歌だな。合理的主義者のサラリーマンが聞いたら、こんな曲を聴くのが好きな奴はただの現実逃避がしたいだけの弱い奴だ。って言いそうだけど。
だが好きな人は好きだろうな。俺も好きか嫌いかで言えば好きだ。
HERETIC……異端者か。バンド名にあった歌だな。
そう思った時、ちょうど信号が青に変わった。
別に夢中になって電光掲示板のプロモーションビデオを見るつもりもないので横断歩道を渡る。
それから適当に一時間ほど街中を歩きながら途中で興味を引かれたお店の中に入ったりしながら過ごした。ウィンドウショッピングみたいになってしまったな。
ちょうど小腹が空いて来た俺は銀も入れるお店を探しながら歩いていた。
「ん?」
歩いていると路地から走って来る気配を感じた。このまま歩くとぶつかるな。
そう思った俺は歩くスピードを遅くする。
すると、路地からロングコートに身を包み、帽子にサングラスにマスクと顔を隠したとても怪しい格好の女性が慌てて出てきた。
俺は擦れ違う瞬間に彼女に視線を向けると、偶然にも彼女もサングラスの隙間から俺に視線を向けており目が合ってしまった。
俺は咄嗟に反対方向へと目を逸らす。別に彼女が美人で緊張したとかじゃない。
本能的にこのまま目を合わせていると何か面倒ごとに巻き込まれると思ったからだ。
これで、大丈――
「ちょっと来い!」
「うおっ!」
右手首を掴まれた俺はそのまま彼女に引っ張られるようにして巻き込まれる羽目になった。
人通りの多い歩道を縫うようにして走る。
無理やり手を払いのけて事情を聞くことも出来たが、彼女が出てきた路地から殺意を感じれば、そうもいかないだろう。
走りながら俺は彼女の背中に視線を向けると、フェリシティーの護衛依頼を終えて今日は休日にしたのになんでこんな目に合うんだ。こんな事ならホームで寝ていれば良かった。そう思ってしまい、思わず嘆きの吐息が漏れる。
で、走ること20分。
個室のあるお店にやって来た俺は未だに怪しい格好のままの女性と対面していた。
因みに銀は俺の膝の上で寝ている。
「で、俺の手首を掴んでいきなり走り出した理由を聞かして貰いたいんだが?」
テーブルに頬杖を着いて半眼を向けながら、苛立ち交じりの声で対面に座る彼女に問いかける。
ちゃんと理由を説明して貰わないと納得出来ないからな。てか今更だが、赤の他人を巻き込むって凄い神経の持ち主だな。
「ちょっと待ってくれ、今知り合いを呼んでるから」
「は?」
俺の言葉などどうでもいいように彼女はスマホで誰かにメールしていた。
ったくなんなんだ、この女は。てか、いい加減に帽子とマスク、それからサングラスを外せよ。
そう思いながら俺はテーブルに置かれた水が入ったコップを手にして胃へと流し込む。
それから30分ほどすると、個室の扉が開かれた。
そこには同じ格好をした女性が4人立っており、俺たちに視線を向けると一言も喋る事無く、俺の手首を掴んで走り出した自分勝手な女の両側に座った。
なに、コイツ等は不気味な格好をするのが好きな仲間なのか?
思わずそう思ってしまうほど彼女たちの異様な格好に少し気圧されていた。
─────────────────────
【依頼内容】
フェリシティー・バルボア護衛依頼 完了
依頼報酬+1500万RK
【ギルド残高】
指名依頼依頼報酬2割
+310万RK
ギルド口座残高 786万1500RK
【ギルドランク】
Dランク
【個人残高】
指名依頼報酬 +57万RK
煙草1カートン -5200RK
残高 1950万540RK
【冒険者ランク】
現在Aランク
Sランク昇格まで残り989ポイント
メールアドレス、電話番号、レインのIDは新しいモノになっている。
変える理由は無かったんだが、シャルロットを助ける際にスマホを壊してしまい、新しいのに買い替えた時以前の電話番号を使う事が出来なくなっていて、メールアドレスと電話番号を新しくする必要があったのだ。レインに関してはIDとパスワードを忘れてしまっていて、新しく作る羽目になった。
引継ぎも考えたが見事にデータが吹っ飛んでいた。
ま、そのためイザベラたちから連絡が来るわけも無いし、連絡する事も出来ない。ま、犯罪者が知り合いだと色々とあるだろ。ましてやイザベラは貴族だし、神童って呼ばれるほど有名人だからな。
だから最初はフェリシティーとも交換するつもりは無かったんだが、強く求められ、その勢いに負けてしまった俺は空港で交換したのだ。
そんなわけでメールがあったわけだが、無事に帰国し今家に到着したそうだ。
来週からは普通にスヴェルニ学園にも通うそうだ。良かった。
それと依頼達成の報告を冒険者組合に伝えておいたので、報酬がちゃんと振り込まれているか確認しておいて欲しいとの事だった。
その文面を見た俺はベッドから立ち上がって、パソコンの電源を入れた。
少ししてパスワードを入力した俺は冒険者専用のサイトに繋がるアイコンをクリック。
IDとパスワードを打ち込んだ俺は依頼履歴を見る。
この項目ではこれまでフリーダムのメンバーが受けた依頼の履歴を見る事が出来る。
つまり何年の何月何日、何時何分に誰が依頼を受けて、何月何日に依頼を達成したのかとか。またその依頼内容がどういったモノなのか。とかを確認する事が出来る。
その中から俺は一番上に表示されている、「【指名】護衛依頼」と表示されている項目をダブルクリックすると、依頼内容が詳細に書かれていた。
で、報酬額と言う欄を見ると、1500万RKと表示されていた。
「1500万!」
俺はその額を見て思わず叫ぶ。
これまで受けたどんな依頼よりも高額だったからだ。
え?マジで。娘の護衛依頼にどんだけだしてるんだ。いや、愛する娘だからか。俺も銀が誘拐されたらこれ以上の金を要求されたら払う覚悟はある。ま、勿論見つけ出して後悔させてから殺すけど。
それにしても凄い額だな。依頼に失敗して罰金を支払わないといけない筈なんだが。
そう言えば、依頼のランクがミスがあったから罰金を支払う必要はなかった。ってフェリシティーが言ってたな。
依頼のランクを決めるのは冒険者組合だ。勿論、調査等を行うのは冒険者だが、その報告を聞いてランクを決めるため間違えた場合今回のような悲劇が起こる。そのため罰金の支払いはなかったようだ。
だからと言って1500万は凄いな。
指名依頼は通常の依頼よりも報酬が多いもんだが、これはあまりにも多すぎる。
俺はペットボトルのお茶を飲んで乾いた喉を潤してから振り込まれているかを確認する。
フリーダムでの報酬の支払い方法はまず、ギルドに2割。つまりは300万RKなわけだが、
「ん?」
俺は表示されている金額を見てパソコンの画面に顔を近づけて凝視する。別に近眼になったわけじゃないぞ。
何故かは分からないが、表示されている金額が310万と10万RK多い事に疑問を持ったからだ。なんでこんなに微妙なんだ?
そう思いながらマウスのホイールを回して画面をスライドさせて行くと、フリーダムメンバー全員の名前とその横に170万RKと言う文字が表記されていた。
全員に均等に170万RKずつ振り込まれている事を確認した俺は暗算をして納得した。
ギルドに300万RKだけ振り込むと、どうしても残りの1200万RKを7人で均等に分ける事が出来ない。そこでキリのいい額として10万RKをギルドの口座に入れたと言う事なのだろう。
本当なら当人である俺たちに相談しなければならないはずだが、別に俺たちはこの程度の事で怒るつもりはない。そんな俺たちの性格をよく知っている人物となるとミキがしたのかもしれないな。今度お礼を言っておくか。ま、本音を言えば一言言ってほしかったけど。
そんなわけで無事に振り込まれている事を確認した俺はサイトを閉じてパソコンの電源を切った。
オフィスチェアから立ち上がった俺は左手に持ったペットボトルのお茶を飲みながらスマホの画面に視線を落としてメールの続きを読む。
ブラック・ハウンドの9割が逮捕、もしくは討伐され、フェリシティーを狙ってベルヘンス帝国に向かっていた連中も無事に全員討伐し終えたそうだ。やはり第2派があったか。
で、最後に感謝の言葉が書かれていたのを見て俺は笑みを零しながらベッドに座った。
「ん?PS?」
――追伸、お母様に大人の階段を上った事を感づかれてしまい事情説明したところ、(いえ、この場合は情事説明でしょうかww)偶然お父様にも聞かれてしまい、ぜひ会ってお話がしたいとの事です。
「ブー!」
俺は口に含んだお茶を豪快に吐き出していた。
な、なんでバレたんだ。女性は大人の階段を上ると立ち振る舞いや雰囲気が変わると言うけどそれなのか?
それにしてもその話を父親に聞かれたのは最悪だ。この文面からでもフェリシティーの父親の怒り狂った表情が目に浮かぶんだが。会ったことはないけど。
と言うよりも何が情事説明だ。大和撫子のような振舞いをしてるくせになになんて事を書く。別に上手くもないし、お茶目でもなんでもないわ!一気に俺の背筋が凍ったわ!
一日に二度もフェリシティーに背筋を凍らせられる事になるとは。って言うよりもフェリシティーって案外根に持つタイプなのか?
そんな疑問が頭に浮かぶが、俺はフェリシティーの両親に会った時の事を考えた瞬間憂鬱な気分になり思わず嘆きの嘆息を洩らしながら、ティッシュでテーブルに飛び散ったお茶を拭くのだった。
12月24日月曜日午後1時28分。
曇天模様の空はいつ雪が降ってもおかしくは無い。
そんな空の下を俺は銀を連れて久々に2人(?)きりで街へと出かけていた。
すれ違う人々はロングコートやマフラーに身を包んで歩いている。
前世ではクリスマスイブだが、この世界にクリスマスと言う行事は存在しない。
ま、それは当然で、クリスマスはイエス・キリストの誕生日を祝う日。つまりは聖誕祭だ。だがこの世界にイエス・キリストは居ない。ならクリスマスと言う行事が無いのは自然な事だ。
と言うよりもそう行った宗教的なお祝い事はそれぞれの教会などで行っている。
この世界にも神は複数存在する。
ま、前世の地球ほどは居ないが、この世界に存在している神たちは世界共通認識だ。
火の神、水の神、土の神、風の神、雷の神、氷の神、光の神、闇の神と各属性に一柱存在し、戦いを司る闘神や魔力を司る魔神も存在する。で、そんな神々の頂点に立つのが創造の女神と言う事らしい。なんでアイツがトップなのか不思議でならない。
そして一番、信徒が多いと言われているのも創造の女神だ。あのクズ傲慢女神を信仰するなんて頭に異常があるとしか思えない。この世界の奴等は大丈夫なのか?
ま、そんな訳で魔法があるこの世界では前世の地球に比べて信仰率がとても高い。と言うよりも熱狂的な信仰者が沢山いる。そんな世界で街全体で別の神の聖誕祭なんて行った日には戦争だってありえるわけだ。
そのためこの世界に聖誕祭を祝う行事は無い。もっと地球人みたいに寛容な心は持てないのかね。日本なんて内外問わず色んな宗教があったぞ。
ただ俺が言えることは、独り身の人間には嬉しい世界かもしれないと言う事だ。
そんないつもと変わらない街の中を俺は銀を抱えて歩く。
別になに用事があるわけじゃない。友人と会う約束をしているわけでも、何か必要な物を買いに来たわけでも、依頼をこなすためでもない。ただ本当に暇だったから出歩いているだけだ。強いて何か用事があると言う事にするのであれば、適当にお酒でも買って帰ろうかなって思っているぐらいだ。
だがそれは帰る時で良いだろう。
歩道を歩いているとちょうど赤信号に変わったため俺は歩みを止めた。別に急いでいるわけじゃないから苛立ちを覚えることも無い。
その時、ふとテンポの良い歌が流れ始める。聞いた事がない初めて聴く曲。と言うよりもこの世界に来て音楽を聴く余裕なんて殆ど無かったからな。
だがこの曲は俺好みのテンポの良い歌で思わず歌の出所を視線を探していた。
見つけた先には電光掲示板に映る一人の女性だった。
黒髪ショートボブヘアの20代半ばの彼女はギターを弾きながらマイクに向かって訴えかけるように歌詞を叫ぶ。
他にも数人の女性たちがベースやキーボード、ドラムなどの楽器で演奏している姿が映っていた。俺はそれを見た瞬間、女性だけのロックバンドのプロモーションビデオなのだと理解した。
「あ、HERETICの新曲だ!」
「本当だ!私この曲聴いた瞬間にハマったんだけど!」
「私も!」
俺と同じように信号待ちをしている女性が電光掲示板に映ったプロモーションビデオを見て嬉しそうに話す会話が聞こえてくる。
「私、HERETICの独立不羈な歌詞が好きなんだ!」
「私も私も!嫌な事があった時に聞くと悩んでいることが馬鹿馬鹿しく思えてきて、次も頑張ろうって思えるんだよね」
「そうそう!」
そんな彼女たちの感想が聞こえてくる。てか、よく独立不羈なんて四字熟語を知ってるな。ま、見た目私服で若いし大学生なのか?日本と同じで普通の学校もあるようだしな。
でも確かにこの曲の歌詞は自分の思いをぶつけているようなそんな歌だな。合理的主義者のサラリーマンが聞いたら、こんな曲を聴くのが好きな奴はただの現実逃避がしたいだけの弱い奴だ。って言いそうだけど。
だが好きな人は好きだろうな。俺も好きか嫌いかで言えば好きだ。
HERETIC……異端者か。バンド名にあった歌だな。
そう思った時、ちょうど信号が青に変わった。
別に夢中になって電光掲示板のプロモーションビデオを見るつもりもないので横断歩道を渡る。
それから適当に一時間ほど街中を歩きながら途中で興味を引かれたお店の中に入ったりしながら過ごした。ウィンドウショッピングみたいになってしまったな。
ちょうど小腹が空いて来た俺は銀も入れるお店を探しながら歩いていた。
「ん?」
歩いていると路地から走って来る気配を感じた。このまま歩くとぶつかるな。
そう思った俺は歩くスピードを遅くする。
すると、路地からロングコートに身を包み、帽子にサングラスにマスクと顔を隠したとても怪しい格好の女性が慌てて出てきた。
俺は擦れ違う瞬間に彼女に視線を向けると、偶然にも彼女もサングラスの隙間から俺に視線を向けており目が合ってしまった。
俺は咄嗟に反対方向へと目を逸らす。別に彼女が美人で緊張したとかじゃない。
本能的にこのまま目を合わせていると何か面倒ごとに巻き込まれると思ったからだ。
これで、大丈――
「ちょっと来い!」
「うおっ!」
右手首を掴まれた俺はそのまま彼女に引っ張られるようにして巻き込まれる羽目になった。
人通りの多い歩道を縫うようにして走る。
無理やり手を払いのけて事情を聞くことも出来たが、彼女が出てきた路地から殺意を感じれば、そうもいかないだろう。
走りながら俺は彼女の背中に視線を向けると、フェリシティーの護衛依頼を終えて今日は休日にしたのになんでこんな目に合うんだ。こんな事ならホームで寝ていれば良かった。そう思ってしまい、思わず嘆きの吐息が漏れる。
で、走ること20分。
個室のあるお店にやって来た俺は未だに怪しい格好のままの女性と対面していた。
因みに銀は俺の膝の上で寝ている。
「で、俺の手首を掴んでいきなり走り出した理由を聞かして貰いたいんだが?」
テーブルに頬杖を着いて半眼を向けながら、苛立ち交じりの声で対面に座る彼女に問いかける。
ちゃんと理由を説明して貰わないと納得出来ないからな。てか今更だが、赤の他人を巻き込むって凄い神経の持ち主だな。
「ちょっと待ってくれ、今知り合いを呼んでるから」
「は?」
俺の言葉などどうでもいいように彼女はスマホで誰かにメールしていた。
ったくなんなんだ、この女は。てか、いい加減に帽子とマスク、それからサングラスを外せよ。
そう思いながら俺はテーブルに置かれた水が入ったコップを手にして胃へと流し込む。
それから30分ほどすると、個室の扉が開かれた。
そこには同じ格好をした女性が4人立っており、俺たちに視線を向けると一言も喋る事無く、俺の手首を掴んで走り出した自分勝手な女の両側に座った。
なに、コイツ等は不気味な格好をするのが好きな仲間なのか?
思わずそう思ってしまうほど彼女たちの異様な格好に少し気圧されていた。
─────────────────────
【依頼内容】
フェリシティー・バルボア護衛依頼 完了
依頼報酬+1500万RK
【ギルド残高】
指名依頼依頼報酬2割
+310万RK
ギルド口座残高 786万1500RK
【ギルドランク】
Dランク
【個人残高】
指名依頼報酬 +57万RK
煙草1カートン -5200RK
残高 1950万540RK
【冒険者ランク】
現在Aランク
Sランク昇格まで残り989ポイント
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,114
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる