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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第十一話 スヴェルニ王国からやって来た友人 ⑪

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「ええ、その通りです。ですから私は本選の時イザベラ様に直接会って聞いたのです。貴女を真正面から倒したオニガワラ・ジンと言う男は何者なのか、と」
「なんて答えたの?」
「最終目標だと答えました」
「最終目標?それはどういう意味かしら?」
「私にも最初分かりませんでした。ですから聞いたのです。そしたらイザベラ様は、私が強くなる上で倒すべき目標の最後、と答えました」
「イザベラ様が目指している強さの倒すべき最後の目標。それが彼って事?」
「そういう事です」
「でもそれだとまるで彼がこの世で最も強い存在だと言ってるみたいね」
 シェリーは馬鹿にするようにクスクスと笑いながら答えた。
 そんなシェリーの表情を見てヴィオラもまた笑みを零しながら口を開いた。

「私もそう思いました。ですから失礼とは思いましたがこんな質問をしてみました。もしもオニガワラ・ジンと私が戦ったらどっちが勝つと思いますか?と」
「それは勿論ヴィオラさん貴女でしょ」
 確信するように答えた。それはこの場に居る誰もがそう思っていた事だ。
 しかしヴィオラの口から吐かれた言葉は反対の言葉だった。

「いえ、違います。イザベラ様は、間違いなくジンが勝つでしょうね。そう答えました」
 その言葉に誰もが目を見開いて驚いていた。

「嘘でしょ。きっとイザベラ様はヴィオラさんの実力を目の辺りにしてないからそう言っているだけよ」
「私もそう思う。イザベラ様に勝った相手とは言え魔力の無い彼が君に勝てるとは到底思えない」
「そう言って貰えて嬉しいです」
(だが、実際イザベラ様はそう言った。一切の迷いも無く即答した。確かにこの世は魔力量と魔法属性が多いほうが有利に働く。私の魔力量は常人の8倍。魔法属性も三属性持ちトリプルだ。だが世界最強の剣豪と言われているトウドウ・カゲミツ殿は一属性持ちシングルだ。それにこの世には魔法だけでなく気と言うモノがある。それを考えるなら魔力量+魔法属性の数=実力と言う考えは間違っていると言う事になる。実際にイザベラ様は魔力の無いオニガワラ・ジンに負けている。となると本当に彼の実力は私以上と言う事に?いや、それこそ――)

「ヴィオラさん、どうかしたの?」
「いえ、何でもありません」
 思考の海に浸かっていたヴィオラはシェリーに引き上げられ現実に戻ってくる。
(正直考えたくはないな)
 ダンッ!
 その時、運転席と繋がっている扉が突然開かれた。

「た、大変です!今、監視をしていた冒険者から連絡がありましてブラック・ハウンドの本拠地に何者かが襲撃を仕掛けているそうです!」
「なにっ!?」
 突然の知らせに誰もが驚きの表情を浮かべていた。
 ヴィオラも驚きその場から立ち上がる。

「いったいどこの馬鹿者達だ!」
「それが分かりません。黒装束に仮面を被っており素性が分からないとの事」
「もしかしたら闇ギルドの連中が?」
 誰かがそう呟く。
 その呟きにヴィオラが答える。

「その可能性は低いだろう。なんせブラック・ハウンドの連中は闇ギルドにも通じているらしいからな」
「だが、誰かが闇ギルドに依頼した可能性だってありますよ?」
「それはそうだが、ブラック・ハウンドを襲撃できる人数となると集めるのも時間が掛かるし、私たち以上に連携なんて出来ないだろう。なんせ奴等は自分たちの利益しか考えていないからな」
「いえ、それがブラック・ハウンドの本拠地を襲撃しているのはたったの4人だそうです!それもたったの10分でブラック・ハウンドの構成員400人ほどが倒されたと言う報告です!」
 その言葉に誰もが言葉を失った。
 それほどだけ異常な内容だからだ。冒険者の複数合同ギルドですら一度返り討ちにあっている。それほどブラック・ハウンドの戦闘能力は高い。そんな場所にたったの4人で乗り込むなど尋常では無いのだ。

「やっぱり闇ギルドでは?」
「いや、それこそありえない。それだけの実力者集団なら私たち冒険者にも情報が来ていてもおかしくない。だが私たちですら知らない集団だ。そんな連中が今まで姿を出さなかった事の方がおかしい」
「そ、それはそうですが……」
「このまま行けば、どれぐらいで到着する?」
「今から飛ばして向かえば明日の1時前には到着できるかと」
「それでは遅い!」
 ドンッ!

「ヒィッ!」
 ヴィオラの拳がトラックの壁を凹ませる。
(どうする、このままでは私たちの作戦が水の泡になる。仕方が無いがこの方法しかないか……)
 もしもの時にと考えていた作戦がヴィオラの中にはあった。だがその作戦とは冒険者の作戦を台無しにする恐れがある危険な作戦だ。しかしこの状況ではこの方法を使わなければ全て意味は無くす可能性がある。
 だからこそ渋々決断した。

「今から私を含めた少数精鋭でブラック・ハウンドの本拠地、製鉄工場に向かう」
「そんなの危険だわ!もしも失敗すればこの作戦自体が意味を無くすわ!」
「分かっている!」
 相手が年上である相手にはランク関係無しに丁寧語を使うヴィオラだが、それすらも忘れていた。それほどまでにヴィオラの精神状態は良くなかっった。

「だが、このまま何もしなければ私たちが考えた作戦自体、決行不可能となる可能性だってある。ましてや相手は犯罪者組織。戦力を失ったとなれば何をしでかすか分からない。ならば少しでも早く向かうべきなのだ!」
「それは……」
「大丈夫、私たちが到着しても直ぐに突入するつもりはない。勿論状況を確認してからになるが、まだ戦闘が続いているようなら、工場の周囲だけを警戒し、皆が来るのを待つとしよう」
「分かったわ。到着したら連絡宜しくね」
「ああ」
 返事をしたヴィオラは他のトラックに乗っている冒険者の中から4名を選び、自分が乗っているトラックからは同じ眠りの揺り籠のメンバーを選ぶとトラックから飛び降りて走り出す。
 肉体強化魔法によって身体能力がいつも以上に強化されたヴィオラたちは80キロで走る大型トラックをすぐさま追い抜くと一瞬で見えなくなった。

            ************************

 俺とヘレンは工場の中へと入る。
 鍵が閉められていた扉とかは強く叩いたら、快く開いてくれたので先へと進む。
 それにしても予想以上の製造工場だな。
 銃の製造をしているとアインから聞いてはいたが、まさかアサルトライフルやサブマシンがだけでなくグレネードランチャーまで作ってるとは思ってなかった。
 どうやら弾薬は別の場所で作っているみたいだから火薬等の臭いはしない。ま、その分ブラック・ハウンドの構成員が待ち構えていたが、表の人数に比べたら10分の1以下だったので楽勝だ。
 ま、そんな感じで先に進むと見たことも無い薄ピンクの花が植物育成用LEDに照らされていた。

「っ!」
 俺はその臭いを嗅いだだけでこれが何なのか気がついた。

「麻薬の原料か」
「ご名答」
 そんな俺の呟きの男が答える。
 俺たちは声の主に視線を向けると口元を布で口元を覆った男女が立っていた。
 見たところ1人は身長180センチ弱の人間の男。もう1人は身長175前後のエルフ美女と言ったところだろう。
 俺とヘレンは状態異常のスキルを持ってはいるが、そう長い間この場所に長居するのは得策じゃねぇな。
 ヘレンはそこまで状態異常の熟練度は高くないし、俺はマックスだけど力を制限しているから熟練度で言えばヘレンと変わらない。ま、ヘレンよりかは耐性はあるだろうけど。

「この花の花粉はとある麻薬の原料として使われています。一度ぐらいは耳にしたことがあるんじゃないですか?天使の花エンジェルフラワーって言う麻薬の名前ぐらいは?」
 そうか、これがあのクソったれな麻薬の原料か。
 天使の花エンジェルフラワー、数ヶ月前にクソったれなイディオの野郎がイザベラに使おうとしていた薬。今思い出しても腹が立つ。

「そうか、あのクソったれな薬は此処で作られているのか」
「ま、生産されている天使の花エンジェルフラワーの30%は此処で作られいますね」
 つまりは残りの70%は別の場所で作られているって事か。胸糞の悪い話だ。

「だが、それにしても随分とお喋りだな。そんな極秘事項を俺たちに教えて良かったのか?」
「どうせ、僕たちに殺されるのです。あの世のへと手土産として教えたまでの事です」
「そうかよ。なら手土産ついでに教えて欲しいことがある」
「なんですか?答えられる事なら答えてあげますよ?」
「お前等は何者だ?」
「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。僕の名前はバセット。バセット・ハウンドと言います。ブラック・ハウンドの幹部の1人です。でこっちが――」
「アイリッシュよ。アイリッシュ・セッター、私もブラック・ハウンドの幹部よ。よろしくね」
 髪を染めているのか知らないが、薄い紫色の長髪を靡かせながら可愛らしく手を振る美女エルフ。スタイルも抜群だなチクショーめ。あんな女が犯罪者組織の幹部とか勿体無過ぎるだろ。って俺は何を考えてるんだ。やっぱり欲求不満なのかもしれない。この依頼が終わったら風俗にでも行くか。
 それにしても幹部か。確かに外で戦った連中より遥かに強い。
 冒険者ランクで言えばSランクってところか。ったくそれだけの実力があるのにどうして犯罪者組織なんかに入るかね。

「それで質問は以上ですか?」
「なら最後にお前等のボスの名前と居場所を教えて欲しいんだが」
「すいませんが、それは無理です」
「そうか、それは残念だ」
「では今度はこちらから質問です」
 黒色のベリーショートの男は俺に視線を向ける。
 ま、こっちばかり質問するのもあれだからな。1つぐらいなら答えてやっても良いか。

「なんだ?」
「貴方方のお名前をお聞きしても良いですか?」
「そうだったな。俺はJでこっちがHだ」
「これまた随分と変わったお名前ですね」
「そうだろ」
 そこで話が途切れる。と言うよりも一瞬にして静寂と化したと言うべきだろ。
 互いに殺気とぶつけ合いながら相手の出方を窺う。
 そして最初に動いたのは俺たちの方だった。
 天使の花エンジェルフラワーの原料である花が植えられている花畑の中を走り抜け、俺はバセット、ヘレンはアイリッシュ目掛けて接近する。
 現在の俺の力は6%。
 その力で俺はバセットの顔面目掛けて拳を叩き込む。

「くっ!」
 バセットは俺の拳に反応するのが遅れたのがどうにか両腕を交差してガードするが吹き飛ばされる。
 うん、予想以上に弱いな。これで本当に幹部なのか?
 いや、違うか。これまで俺が戦ってきた相手、ヘレンの両親である貴族吸血鬼や超大型の蜥蜴なんかと戦闘を繰り広げているせいで相手が弱いと錯覚しているんだ。
 スヴェルニ王国に転移ばされた時のような感じだ。ま、俺はどっかのラノベ主人公と違って常識人だから直ぐにこの世界の住人と自分の実力差の違いに気がついたけどな。
 勿論、だからと言って自分が負ける可能性を消すつもりはない。戦闘は何が起こるか分からないし、なにより俺より強い奴なんて出会っていないだけでゴロゴロと居るだろうからな。
 俺はそう思いながら一瞬ヘレンに視線を向けた。
 そこでは二丁魔導拳銃を使うアイリッシュと双剣を使うヘレンの戦闘が繰り広げられていた。デュアル対決か。
 この2人の戦いを観戦していたいところだが今は、

「こっちが先だな」
 そう呟いた俺はバセットの攻撃を胸を反らせて躱す。
 目の前を植物育成LEDの光を浴びたなんとも奇妙な形をした魔導剣が通り過ぎる。

「相対した時から只者では無いと思いましたが、さすがですね」
「それはどうも。それにしてもお前の武器、変な形しているな」
「おや、見たことありませんでしたか?これは魔法術式が組み込まれた魔導剣で、正式な武器名はフランベルジェと言います」
「そうか、それがフランベルジェか」
「おや、名前は聞いた事があるようですね」
「まぁな」
 前世で大学生だった時に武器オタクから教えて貰ったことがある。
 フランベルジェ、刀身のゆらめきが炎の様に見える波打った剣。その特殊な刀身は敵の肉を抉り止血をし難くするため、別名「死よりも苦痛を与える剣」と言われているらしい。ま、本当かどうかは知らない。友達から聞かされた話だからな。
 だけどあの剣は俺には天敵だな。
 常人より自己治癒能力が高いとは言え、まともに一撃でも食らったら危ない。ましてや俺は魔力が無いから治癒魔法で治して貰う事が出来ない。
 なら、どうするか。
 簡単な話だ。相手の攻撃を食らわなければ言いだけの話だ。
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