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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

SS 第二十三次ラストメインディッシュ争奪戦!!

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 月曜日、午後8時24分。
 俺たちフリーダムメンバーはいつものようにホームのリビングで夕食を食べていた。
 夕食のメニューは白米、サーモンサラダ、ワカメスープ、そしてテーブルのど真ん中に山盛りに置かれたから揚げ・・・・
 それがテーブルに置かれてあったのを目にした瞬間、体に雷が落ちた衝撃の如く誰もが察していた。
 またしても楽しい楽しい食卓の場が怨念と怨嗟の声が響き渡る戦場と化すと。
 しかし、誰もそれを口にしようとはしない。
 平静を装って食事を楽しむだけだ。
 そして俺も俺だけ握られたおにぎりを食べながら、から揚げを1つ口にする。
 うん、美味い。と言うよりも美味しすぎる!
 2度揚げされたであろうから揚げは外はサクッと中はジューシーな仕上がり。
 そして噛む瞬間に1時間は寝かされていたであろう鶏のモモ肉は醤油、生姜、そして分からないが隠し味が鶏の旨味と一緒に口一杯に広がり、幸福感が口から胃へと満たしていく。
 そして飲み込めば、幸福感の余韻が残る間に二つ目を手に取り、口の中へと運ぶ。
 それはまさに麻薬にも似た効果であり、また味わいたい、欲しいと言う欲求に駆られてしまう。
 そして俺は口の残った幸福感と言う旨味に支配された口の中にキンキンに冷えたビールで流し込む。
 シュワシュワな泡とその後に来るビール独特の僅かな苦味が、から揚げに合う。
 まるで一日の疲れと言う汚れをから揚げで浮かせ、ビールで流しているかのようだ。
 そんな最高の一時が一度で止められるわけも無く、俺はまたしてもから揚げに手を伸ばす。

『っ!』
 ピタッ!
 しかし全員が手や箸、フォークを伸ばした所で体が硬直したかのように止まる。
 別に他の物が食べたくなったわけじゃない。
 先ほどまでは山盛りにあったはずの唐揚げが、今は盛り付け皿の上にたった1つになっていた。
 その瞬間全員の目が飢えた猛獣の目に変わる。
 先ほどまでどこにでもある喉かに囲んでいた筈の食卓が殺伐とした戦場と化したのだ。
 この場に居る誰もが敵。容赦する必要のない略奪者。
 その事を理解している誰もが相手の出方を窺う。
 先に手を伸ばした方が有利と思うかもだろう。 先手必勝と言う言葉があるぐらいだ。誰もが我先にと飛びつく。だがこの場に居るのは全員が猛者だ。そんな場所で先手必勝など愚策の愚策。
 最初に飛び出した奴こそ、他の者に狙われ命を落とす最初の犠牲者と同義。
 忍耐力の無い奴からこの世を去って行く。さぁ、誰だ。誰が最初の脱落者だ。
 全員が固まってから5分が経過しただろう。そろそろ伸ばした腕がキツくなってくる頃だ。ここからが本当の勝負だ。
 誰もがそう思っただろう。サイボーグであるアインに疲労と言う2文字はない。そんな彼女でさえ、何度も繰り返して来たこの戦いを知る者としてそろそろ誰かが動くと言う事ぐらい俺たちより正確に分かっているだろう。
 なんたってサイボーグだ。これまでの戦いの統計データがあの頭に入っているんだからな。

「今だ!」
 この瞬間、第二十三次ラストメインディッシュ争奪戦が開始された。
 そして最初に動いたのは予想通りアリサだった。
 これまでの戦いで断トツで忍耐力が低いアリサが最初に動き出す事が多い。だからこそ今回もそうだろうと誰もが予想し、そして予想通りの展開となった。
 フォークで突き刺そうとした瞬間、フォークが唐揚げに刺さるより速くアリサの顔面に肘が襲う。
 しかしその肘をギリギリのタイミングで首を傾げて躱すアリサ。

「その攻撃は分かっていたぜ、クレイヴ」
「チッ」
 自信満々に答えるアリサに対して舌打ちをするクレイヴ。
 しかしクレイヴの妨害を躱した所で最初の攻撃を躱したに過ぎない。
 即座にアリサに対して新たな妨害攻撃が襲う。
 伸ばしていた右腕を狙って手刀が落とされたのだ。
 流石のアリサもこれには腕を引いて引っ込めた。

「カゲミツの旦那。流石に今の攻撃は洒落にならねぇぞ」
「戦場とは非情なもの。それぐらいお主だって知っていると思っていたが?」
「ケッ」
 アリサの左隣に座っていた影光が見事アリサの妨害に成功する。これで振り出しに戻ったと思われた。
 しかしそんな隙を突いて今度はアインが仕掛けた。
 アインが突き出したフォークを俺が彼女の腕を左手で掴んで止める。

「また貴方ですか、このゴキブリ野郎。その汚らしい手を離しなさい」
「食事の場でゴキブリなんて単語出すんじゃねぇよ」
 互いに殺気の籠った言葉を言い合いながらテーブルの上ではアインの右腕と俺の左腕が震えていた。
 このラストメインディッシュ争奪戦にも幾つかのルールが存在する。

 ─────────────────────
  ラストメインディッシュ争奪戦ルール

 その1――武器の使用を禁ずる。
 その2――食事をする食器類を使っての攻撃、また妨害を禁ずる。
 詳細 箸やフォークで攻撃、防御する事は禁止。特別事項として鬼瓦仁のみは右手を禁止とする。
 その3――最後の品を手にした者が勝者となる。
 詳細 口に入れずとも、箸やフォーク(鬼瓦仁の場合は右手)で最後の品を手にした者が勝者。
 その4――物を壊さない限り、魔法の使用を認める。ただし己自身に対してだけ可。
 詳細 肉体強化魔法は可、他者に対しての攻撃魔法は禁止。
 その5――目、金的と言った後遺症の残る箇所への攻撃、死ぬ可能性のある攻撃を禁ずる。
 その6――上記のルールを守る限り如何なる攻撃、妨害も認める。

 ラストメインディッシュ争奪戦ルール発案者兼料理長グリード・グレムリン
 ─────────────────────
 そんなルールを考えたグリードはこの争奪戦には参戦していない。別に参戦しても良いんだが、参戦できる勇気がないそうだ。俺としてはフリーダムのメンバーとして心配になってくるが、仕方がない。
 そんなわけでルール発案者であるグリードは審判役になって貰っている。
 おっとそんな事を考えている間に1人目の脱落者が出た。
 ヘレンである。どうやら争奪戦が始まる前に食べた唐揚げが美味し過ぎて酒を飲み過ぎたらしい。すっかり酔いが回って潰れている。
 ヘレンはよく酒の飲み過ぎで潰れる事がある。だからこそこうなる事を予想して俺がいつも以上のペースで飲ませていたのだ。戦いとは始まる前から始まっている!by鬼瓦仁。
 争奪戦が開始されヘレンが脱落してから10分が経過した。
 既に脱落者も出ており、影光の手刀でリバースしてしまったアリサ。
 リバースの被害を受けたクレイヴ。
 リバースで僅かに汚れた床を掃除するグリード。
 残り俺を含め3人となった。

「結局はいつもの3人のようだ」
 不敵な笑みを浮かべて呟く影光。ああ、まったくだ。
 俺も心の中で同意する。
 この3人はこれまでの争奪戦で勝ち残る事が多いメンツだ。このメンツで無い場合は大抵さほど好みの料理じゃなかった時やお腹が膨れた時と言った理由で争奪戦に参加しない事が多い。そうつまりこの3人が参加した時点でこの光景は約束されたも同じなのだ。
 しかし先ほどと違い三つ巴の戦い。手を組むと言う可能性はどうしたって難しい。手を組んだと思わせてその隙を狙うのは馬鹿にだって分かる事だからだ。
 よってここから起こるのはまさしく膠着状態。最初よりも確実に忍耐力が試させられる状況。先に動いたものが即座に殺られるチキンレース。
 そんな睨み合いが続くかと思いきやあるものの介入で争奪戦は幕を閉じた。

「勝者、ギン!」
 テーブルの下で食事をしていた筈の銀がいつの間にか残りの1個の唐揚げを口にしたのだ。
 その姿を見たグリードが勝者の名前を高々と宣言する。

「「ギイイイイイイィィン!」」
 俺と影光の怨嗟の叫びがフリーダムホームのリビング内に響き渡る。

「流石はマスターです。私が手を出す事も無く自ら手にするとは!」
 そうサイボーグであるアインがこの争奪戦に参戦したのは銀のためだ。つまりアインが参戦する=銀が興味のある料理と言うわけだ。
 だがこれまで1度も自ら参戦した事の無かった銀が参戦すると言う予想外の展開に俺と影光は想像すらしていなかったのだ。
 こうして第二十三次ラストメインディッシュ争奪戦は銀の勝利で幕を閉じた。次は勝ってみせる!
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