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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第九話 スヴェルニ王国からやって来た友人 ⑨

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 そんな俺の言葉に目を見開ける。そして嘆息したり、不敵な笑みを浮かべたりしていた。

「ほう、貴方にしては素晴らしい判断をしましたね」
 アインは見直したと言わんばかりの表情を浮かべながら銀を撫でる。
 相変わらず上からの物言いだな。もう慣れたけど。
 それに対して影光は呆れた表情で頭を掻いていた。

「仁、それはさっきも話したがあまりにも問題が多すぎる。大体どうやって本拠地を探すのだ?都市ゲラントと言ってもどの建物なのか分からなければ意味がないぞ」
「それはアインになら楽勝だろ?」
「無論です」
 挑発気味に問いかけるとアインは銀を撫でながら俺たちに視線だけを向けて自信満々に呟いた。
 よし、これで問題の1つは解決したな。

「では彼女はどうするのだ?まさか護衛対象者も連れて行くとか言わぬよな?」
「安心しろ、フェリシティーは置いていく。勿論護衛は付ける。そうだな……作戦を考えるならグリードとクレイヴ、悪いが残ってフェリシティーの護衛を頼む」
「わ、分かりました!」
「分かった」
 クレイヴとグリードがそう返事する。
 何故かは分からないが、2人からの返事が少しだけ嬉しそうだったのは気のせいだろうか?
 でもこれで2つ目の問題も解決だ。

「本拠地に乗り込むとして、何故仁お主も行くんだ?お主はスヴェルニ王国から国外追放の身だろう。バレれば今度は唯では済まぬのだぞ」
「安心しろ。ちゃんと変装するつもりだ。と言うよりも全員にしてもらう予定だ」
 それと期限付きのだ。そこを間違えて貰っては困る。あると無いとでは大きく変わってくるからな。
 これで3つ目の問題も解決だな。

「では、どうやってスヴェルニ王国まで行くつもりだ。飛行機でも半日以上掛かる距離だ。つまり彼女の身を考えるなら制限時間は48時間が限度だ。それも行き帰りの時間も含めての話だ。それが可能な移動手段があるのか?」
「それに関しては、連絡待ちだ」
「連絡待ち?それはどういう事なのだ?」
「そのままの意味だ。知り合いに何とかして貰えないか頼んでおいた」
 その瞬間、俺のスマホにメールの通知音がなる。お、ベストタイミング。
 スマホを開くとそこには「大丈夫です」と言う短い単語が表示されていた。
 俺はそれを見て思わず笑みが零れる。

「仁よ、まさかと思うが」
「ああ、そのまさかだ。了承してもらえたぜ」
 俺はスマホの画面を影光に見せる。

「それで影光。これでもまだ出来ないって言うんじゃないだろうな?」
「過信するわけではないが拙者たちの戦力で返り討ちに合うような事はなかろう。そして一番の問題であった移動手段が確保されたのなれば、拙者が反対する理由はない」
 嘆息して返答した言葉に俺たちは笑みを浮かべた。

「それで出発はいつ頃になりそうなのだ?」
「明日の午前5時だ」
「これまた急だのぉ」
「早い方が良いだろ?」
「ま、拙者に異論はない」
「私もありません」
「私もないのだ!」
「僕もありません」
「私は無いぜ」
「俺も」
 よし、これで後は変装の準備だけだな。
 急遽決まった極秘作戦。
 俺たちフリーダムの護衛依頼はただ護衛するだけじゃ無いぜ。
 解散した俺はさっそく変装の道具を買うためにお店に向かった。
 時刻にすれば午後7時過ぎだが、まだ開いているお店はある。
 俺はそのお店で人数分の変装道具を一式購入した。
 これで準備万端。あとは敵の本拠地に乗り込んで片っ端から殺していくだけだ。


 12月19日水曜日。
 朝の5時にホームの前に集まっていた。

「それじゃグリード、クレイヴ、フェリシティーの事は任せた。もしも襲われて撤退すべきだと判断したら朧さんの所に避難してくれ」
「分かった」
「皆さんも気をつけて下さい」
「ああ、分かってるよ。それじゃ行って来る」
 未だフェリシティーは寝ている。
 俺たちはその隙にブラック・ハウンドの本拠地に向かうべく出発した。

「それで仁、どこに向かうのだ?」
「空港だ」
 タクシーを拾った俺たちは空港に向かった。
 40分程して到着した俺たちを待っていたのは、エテとイヴェールの双子だった。

「まさか知り合いに頼んだって言うのは」
「ああ、ハルナだ。今度もしも依頼したい事があったら安くしておくって言ったら引き受けたくれたぞ」
 やっぱりこういう時は友人に頼むのがベストだよな。

「行く」
「早く乗ってください」
 2人に急かせれながら俺たちは一度乗ったジェット機に乗り込む。
 まさかこれにまた乗ることになるとは思わなかったけどな。
 乗り込んだ俺たちは適当に座る。

「ジンの旦那は色んな人脈を持ってるんだな」
「そう言えばアリサは初めてだったな」
「ああ。でもまさかヴァンパイアハンターに知り合いが居るなんて思わなかったぜ」
「一度依頼を受けた事があったからな」
「なるほどね」
 納得したのかアリサはタバコに火を点す。

「それでアイン、敵の本拠地は分かったか?」
「はい。都市ゲラントにある大きな工場です。表向きは製鉄会社となっていますが、実際は武器や麻薬などの製造販売ですね」
 おいおいブラック・ハウンドの連中武器が購入できなくなったからって作るようになったのか?ほんと手広くやってるな。

「そこにブラック・ハウンドのリーダーと幹部たちは集まっているようです」
「分かった。それで到着予定時刻は?」
「現在5時50分。到着予定時刻は19時30分。ただ、都市ゲラントから少し離れた場所に、着陸はせずパラシュート降下で降ります。そこから移動して進入しますので襲撃予定時刻は20時ジャストと言ったところでしょうか」
「ま、そのぐらいだろうな」
「リーダーと幹部を殺すのなら夜が遅い方が良いと思うのだが?」
 ヘレンがそんな質問をしてくる。

「俺たちの目的はブラック・ハウンドの討伐だ。なら少しでもブラック・ハウンドの連中を殺す必要がある」
「なるほどなのだ」
「で、冒険者共の動きはどうだ?」
「詳しい事まではわかりませんね。ただ大型のトラックが数台こちらに向かって移動中。大きさと数から考えて冒険者だと思われます。このままだと明日の午前3時には襲撃可能です」
「どうやら冒険者の連中も行動を開始したみたいだな」
「それなら拙者たちが来る必要はなかったのではないか?」
「勝つかも分からない連中に任せるより俺たちで仕留めた方が良いだろ?」
 それにせっかくここまで連れて来て貰ったんだ。今更帰りますなんて言えないしな。

「それで進入ルートは?」
「多く殺すのであれば進入ルートは2つ。北東にある正面入り口と北西の入り口ですね」
「分かった。なら正面入り口はアリサ、影光の2人。北西の入り口からは俺とヘレンが進入する。アインは逃げ出そうとする奴は殺してくれ」
『了解』
 全員の声が重なる。これで作戦は決まった。あとは着替えるだけだ。
 あれから時間は流れ目的の都市ゲラントの近くまで来た。
 俺たちは席から立ち上がりパラシュートを背負う。既に使い方はエテとイヴェールに教わったから大丈夫だ。

「それにしても黒一色だの」
「夜なんだから当然だろ。迷彩だよ迷彩」
 影光の言葉に俺は答える。

「これで貴方のセンスの無さが分かりますね」
 うるせぇな。時間も無かったし、迷彩と顔を隠せればそれて良いんだよ。

「私は嫌いじゃねぇけどな」
 さすがはアリサ。お前にはこれの素晴らしさが分かるか。
 俺たちの服装はまさに黒一色に少し模様が描かれただけの仮面だ。

「準備する」
「気をつけて行って来て下さい。連絡していただければ迎えに行きますから」
「分かった」
 どうやら降下ポイントが近いようだ。
 インカムが正常に動いている事を確認した俺たちはドアを開ける。

「それじゃ行くぜ!」
 俺を戦闘に全員が飛び降りる。
 なんせこの機体はオスプレイのように上空で止まることが可能な機体だ。それも高性能。さすがは異世界だな。
 飛び降りた俺たちは次々とピンを抜いてパラシュートを開いた。
 で俺たちはそのままゆっくりと森の中へと着地した。

「全員、無事着地できたか?」
『拙者は平気だ』
『私も大丈夫です』
『私も大丈夫なのだ』
『私も大丈夫だぜ』
 全員から返事が返って来た。

「ならスマホに表示された場所で合流する」
『了解』
 一旦そこで通信を終えた俺はスマホを開いて合流ポイントへと向かった。
 数分で合流ポイントに到着すると影光とアインが既に居た。
 それから数分してヘレンとアリサも合流する。

「これから作戦通りに行動を開始する。出来るだけ人目に付かないように目的地の工場に到着後作戦開始の合図があるまで隠れて待機」
 指示を出し終え、全員が返事をしたの確認した俺たちは行動を開始した。
 未だに都市門の前で車が数台並んでいる。
 どうやら入るための検査を受けているようだ。
 検査しているのは全部で4人。この人数なら上手くすれば気付かれずに進めるだろう。
 俺たちは気配と魔力を出来るだけ殺し、門兵の意識を別の場所に誘導する。
 その隙に都市の中へ進入する。
 そこからは目的地に向かって走る。
 そして問題が起きることも無く俺たちは目的地の工場に辿り着いた。

「こちらは予定ポイントに到着。そっちはどうだ?」
『こちらもあと少しで到着する』
『私とマスターは既に到着しています』
 あとは影光とアリサを待つだけだ。

『こちらK&A、正面入り口前に到着』
「了解だ」
 これで準備は整った。
 後は仕掛けるだけだ。え?それよりもK&Aって何って?そんなのK影光Aアリサに決まってるだろ。それよりも今は作戦だ。
 スマホに表示される時間を確かめる。
 時刻は20時3分。
 3分遅れているが、この程度なら巻き返しは充分可能だ。

「全員、作戦開始だ」
 俺によって飛ばされた言葉は短く小さな呟きだ。しかし全員がその声音から感じる闘志に気がついたのであろう。返って来た返事もまた小さく、そして闘志に満ち溢れていた。

『了解!』
 作戦が開始されると同時に北東方面から止む事の無い銃声が夜の世界に轟く。それがいったい誰の仕業なのか俺たちは直ぐに悟った。

「作戦とは言え、随分と暴れてるな」
「なら、私たちも暴れるのだ!」
「賛成だ!」
 俺たちに気がついたブラック・ハウンドの構成員たちが俺たちに向かって魔導小銃アサルトライフルで攻撃してくる。
 通常のアサルトライフルよりも速度、貫通力、強度において数倍以上となっている弾丸。それはまるで対戦車ライフルの弾丸が連射されているような感覚だろう。しかし実戦を何度も経験し命を賭けて戦ってきた俺たちからしてみれば当然と言わざるを得ない。と言うよりもそれが当たり前と化している俺たちにとってこの程度の弾丸の雨を躱す事ぐらい容易い。
 稲妻、もしくは蛇の如く俺とヘレンは弾丸の雨の中を縫うように走り抜ける。
 まるで2人で障害物競争でもしているかのような気分だ。
 そして俺たちは同時に敵の許ゴールして喜ぶのガッツポーズをとった。

「グハッ!」
 ガッツポーズによって殴られ、斬られたブラック・ハウンドの構成員の連中はそのまま地面に倒れる。
 一瞬にして100メートルあった距離を零距離にして仲間を殺された事にブラック・ハウンドの連中の中に恐怖が植え付けられる。
 それは俺たちにとって大きなチャンスであり隙でしかない。
 そしてその隙を見逃す俺たちではない。
 仮面で顔は隠れているがきっと俺とヘレンは互いに不敵な笑みを浮かべたまま敵に目掛けて双剣を拳を振るう。
 元は冒険者と言うこともあって統制が取れている。味方同士による同士討ちを避けるための陣形もしっかりしている。
 しかし個々の能力が違いすぎる。
 コイツ等をランクに当てはめるなら精々良くてCランク。大半がDランクと言ったところだろう。
 そんな連中が俺とヘレン相手に勝てるわけもない。ましてや恐怖を植え付けられて動きも鈍くなっている。
 きっと今まで感じたことも無い恐怖に体が竦んでいるんだろうが関係ない。
 俺はインカムでヘレンに簡単な指示を出す。

「H、暴れろ」
「分かったのだ!」
 嬉々まじりの声音に俺もまた仮面の下で笑みを零す。
 ほんと俺は素晴らしい仲間に巡り合えた。なんせこの状況で物怖じせず、それどころか嬉しそうに戦うんだからよ。
 戦闘音を聞きつけ援軍としてやって来た構成員も含めおよそ500人の敵を俺とヘレンはわずか20分で屍に変えた。もしもこの世界がRPGのようなレベルアップ音があるのであれば間違いなく俺とヘレンの脳内で効果音が数回は鳴っているだろうな。どうせ耳障りなだけだし鳴らなくて嬉しいけど。

「さてあっちの方はどうなっているんだろうな」
 まだ聞こえる銃声に俺は視線を向けるのだった。
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