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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第六話 スヴェルニ王国からやって来た友人 ⑥
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「なんですか?」
不安げに問い返してくる。
俺はそんなフェリシティーにソファーに座るように促し、彼女が座るのを確認してから説明する。
「1つはまだフェリシティーの居場所を特定出来ていない場合だ。お前の父親は他のギルドが襲撃を受けたと分かった途端、フェリシティーを国外に避難させたんだよな?」
「はい」
「その情報を敵であるブラック・ハウンドが手に入れていない可能性だってある。今になって手に入れたとしてもどこに逃がしたのか捜索中って可能性も無くは無い」
「他の理由はなんですか?」
「フェリシティーが国外に避難したことは知っているが興味を示していない場合だ。次々と冒険者たちのギルドを襲撃しているんだ。別にその家族が1人2人生きていたとしても気にするような連中とは思えないからな」
「た、確かにその可能性はありますね。情報収集力も凄いですが、なによりブラック・ハウンドの凄さはその武力の強さにありますから」
だろうな。出なければ複数合同のギルドを返り討ちになんて出来るはずもないからな。
「そして他の理由としてはフェリシティーの居場所は掴んで居るが、捕まえる事が難しくなったと判断した場合だ」
「と、言いますと?」
「もしもブラック・ハウンドがAランク以上のギルドによる討伐作戦の事を知っていたとしたら、間違いなく戦闘を中止させる程は無いにしろ、一時的に中止にさせるだけの手札を求めているとするならフェリシティーの他にいない。なんせ、最初の複数合同ギルドによる討伐作戦にも参加していたバルボア・カンパニーの娘なんだからな。しかしフェリシティーを捕まえて交渉の手札にしようにも世界的に有名な影光や高ランクの冒険者たちが所属するフリーダムが護衛しているため、手を出したくても出せなくなったと考えるのが妥当だろう」
「では今後どうなるのでしょうか?」
「考えられる方法は2つ。1つは本部から増援を寄越して貰い、多勢による誘拐。つまり今は増援待ちって事だな」
「ですが、飛行機なら1日も掛かりませんが?」
「ま、相手は犯罪組織だからな。おいそれと空港での審査に通れるか怪しいんだろ。だからそれを切り抜けるために陸路での移動中なら、そろそろ帝都に到着するぐらいだろう」
「確かに。それでもう1つの方法とは?」
「これは増援が無いと仮定した場合の方法だ。増援がないとなれば少人数での誘拐になるだろう。だが実力的に俺たちフリーダムに適うわけが無い。そこで相手の忍耐力。この場合警戒心を衰えさせるために誘拐の頃合を探っているって言うところだろ」
だが、この方法の場合なら48区に入っていなければ難しい。
入っていなくても48区周辺なら間違いなくシャドウ・ウルフたちに情報が行くはずなんだ。なのに一切の情報が無いとなると、本当に居ないのか、それともシャドウ・ウルフの縄張り圏外なのか。
それとも他の方法を見つけたとか?
まさかアインのように監視カメラの映像を見ることが出来るのか?
いや、だとしたらもっと早く襲撃してきてもおかしくはないだろ。例えば俺たちがフェリシティーを護衛する前とか、ベルヘンス帝国へ移動する飛行機の中とか色々とチャンスはあった筈だ。なのにそこでは捕まえていないとなると、間違いなくフェリシティーが飛行機で飛び立つまで、もしくは朧さんたちに保護して貰うまではブラック・ハウンドに情報が行っていなかったと考えるのが妥当だろう。
だが、こうも敵が居るのか居ないのか分からないのでは行動するのも難しい。
やはり此処は危険だが、囮捜査をする必要があるかもしれないな。
「なぁ、フェリシティー」
「なんでしょうか?」
「明日、一緒に出かけないか?」
「え?」
「敵がこの帝都に来ているのか、来ていないのか曖昧だと作戦を考えるのも精神的にも良くない。だから明日一緒に出かけて敵が本当にいるのかどうか確かめないか?」
「つまりは囮捜査って事ですか?」
「そうだ」
囮捜査って言うのか微妙な気もするが、犯罪者たちを見つけ出そうとしているんだから間違いではないか。
だが、この方法だと護衛対象者であるフェリシティーにも危険が及ぶのは確かだ。
俺や影光たちがちゃんと護衛するがそれでも万が一の可能性だってある。それを考えるとこの作戦は護衛依頼においては最悪の方法と言える。
しかしこのままホームでいつ来るかも分からない敵に怯えるよりかはマシだろう。
問題なのはこの作戦にはフェリシティーの協力が必要不可欠であることだ。
「どうだ?フェリシティーを危険な目に合わせてしまう可能性があるわけだが」
俺がそう訊くとフェリシティーは顔を俯けて考え込んでしまう。やっぱり怖いよな。
正直、友人として依頼を受けた冒険者としてこの作戦は非道、愚作と言われてもおかしくはない。だがそれでも俺は少しでも早くフェリシティーの心を脅かしている恐怖を取り除いてあげたい。
それがフェリシティー自身を危険に晒す事になってもだ。
いや、違う。
今の俺にこれ以上の作戦が思いつかないのだ。まったく情けないな。
「良いですよ」
不安を隠すように笑みを浮かべながらフェリシティーは承諾する。
その事に俺は思わず目を見開けて問い返すのだった。
「本当か?」
「はい。私も早くこの生活を終わらせてお父様たちに会いたいですので」
そんな彼女の言葉に安堵する俺が居た。
こんな護衛対象者を危険に晒すような作戦しか思いつかない俺をフェリシティーは怒鳴っても良かった筈だ。
しかしフェリシティーはただ笑みを崩す事無く了承してくれた事に許されたと勘違いしている自分が居た。それが駄目な事だと分かっていても、この安堵を直ぐに消すことは俺には出来なかった。
「そうか。ならこの事を影光たちにも教えないとな」
「はい」
作戦が決まり、俺はその事を夕食の後に伝えた。
すると意外にも全員がやる気だった。ま、こんな来ているのかも分からない敵に怯えるのは飽きたんだろう。
俺たちフリーダムの全員が、先手必勝、攻撃こそ最大の防御って考えるほど、超攻撃タイプだからな。
守りに入るより俺たちらしくやる方が良いよな。
12月18日火曜日。
身支度を整えた俺はフリーダムの入り口で待機する。
なんで此処で待機しているかと言うとフェリシティーにそう頼まれたからだ。いったい何を考えているんだ?
「すいません、準備に手間取ってしまいました」
「別に謝らるような事じゃないから、気にしなくて良いぞ」
「ありがとうございます。それで今日はどこに行かれるのですか?」
そう行って俺の顔を覗き込む。
「そうだな。なら44区にあるモールにでも行ってみるか」
「それは楽しみですね」
俺たちはこうして出発した。
今のところは怪しい人影も気配も感じないな。それじゃ確認しておくか。
俺は軽く耳に付けたインカムに触れて喋る。
「(今、出発した。全員聞こえているか?)」
『拙者は聞こえておるぞ』
『聞きたくないほど、聞こえています』
『私も聞こえているのだ』
『ぼ、僕も聞こえています』
『聞こえているぜ、ジンの旦那』
『聞こえている』
インカムから聞こえる全員の声。どうやら正常に動いているな。
これなら大丈夫だろ。
「(現在出発した、全員昨日話した通り見張りを頼む)」
『了解』
全員の声が重なった声がインカムから届く。
「ジンさんどうかしたのですか?」
いつもとは違うと感じたのかフェリシティーが俺の顔を覗き込みながら訊いて来る。
「いや、なんでもない。それよりも大丈夫か?」
「正直に言いますと少し怖いです。ですがもう直ぐ私も冒険者になるのですからここで挫けるわけには行きませんから」
俺の質問にフェリシティーの顔に不安の影が落ちたかと思ったが、それを薙ぎ払うように少し無理をした笑みを浮かべた。本当に悪いな。こんな作戦しか思いつかなくて。
だからこそ俺が絶対に護るからな。
「そうだな」
そしてフェリシティー、少し見ない間に肉体だけでなく精神も強くなったんだな。
いや、それよりも今は、
「どうしてわざわざホームの入り口で待ち合わせなんかしたんだ?一緒に出れば良かったと思うんだが」
「分からないですか?」
「ああ」
「気分の問題です」
「気分の問題?」
気分の問題ってどういう事だ?調子でも悪かったのか?まったくもって意味が分からないな。
「そうです。囮捜査なのですから恋人っぽく見せるのは大事だと思うませんか?」
「ああ、そう言うことか」
確かに囮捜査ならちゃんと役に入らないとな。
「なら、これでどうだ?」
「え?」
俺はそう言って彼女の腕を自分の腕とを絡める。これなら襲われても直ぐにフェリシティーを護れるし、逸れる事もないだろ。
それに恋人っぽく見せるにはこれぐらいしないとな
「あ、あのこれはいったいどういう意味で?」
「恋人っぽく見せるんだろ?なら腕を絡めるのは普通だと思うんだが?違うのか?」
「い、いえ!そんな事はありません!」
「なら、このまま行くとするか」
「は、はい……」
気のせいかフェリシティーの体温が少し上昇しているような気がするんだが。それに耳も赤い。
だけど俯いていて表情は見えないな。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですので気にしないで下さい!」
「そうか」
よく分からないが大丈夫なら問題ないだろう。
俺たちは44区にあるモールへと向かった。
44区は帝都の中央ではない。そのため中央に比べれば人の数は少ないが、48区や隣の47区に比べれば断然に多い。ま、その理由としてはこのモールがあるわけで、ここは言わば観光客向けの場所ではなく、帝都に住んでいる人々のお店と言った方が正しいだろう。
そのため大半が帝都に住んでいる人たちだ。僅かに観光客や親戚に会いに来たような人たちもいたりしている。
狭いと言う感じはしない。少し余裕がある程度だ。
俺たちはそんなモールの中を歩きながら適当に店を回る。
「フェリシティー、何か見たいものとかないか?」
俺の問いかけにフェリシティーは軽く眉を寄せて悩みながらも答える。
「そうですね、眼鏡を少し見てみたいですね」
「眼鏡?フェリシティーって目が悪いのか?」
「いえ、悪いわけではありません。ただブルーライトカットの眼鏡が欲しいなと思いまして」
「パソコンとかよく使うのか?」
「いえ、ジンさんも知っての通りスヴェルニ学園がタブレットを使った授業ですのでどうしても欲しいのです」
「なるほどな。なら最初は眼鏡を見てみるか」
「はい」
俺たちは眼鏡を販売しているコーナーに向かう。
そこには色んな形、色んな色の眼鏡が置かれていた。
前世では眼鏡なんて使わなかったからな。よく分からない。それにこの体に転生してから視力は遥かに良い。きっと2.0以上にだろう。ま、制限しているから今は視力も動体視力も常人より少し良い程度だが。
それにしても本当に色んな種類があるな。
「ジンさん、どうですか?」
周囲を見ているとフェリシティーが訊いてくる。
彼女の顔を見るとラベンダー色の眼鏡を掛けていた。か、可愛い!
「あ、ああ。よく似合ってるぞ」
「本当ですか。では、ジンさんにはこちらを」
「お、おい。俺は目は悪くないぞ」
「安心してください。これもブルーカットだけで度は入っていませんから」
ま、度が入っていないのなら大丈夫か。そう思った俺はフェリシティーに黒縁眼鏡を掛けてもらう。
「どうだ?」
「はい、似合っていますよ」
眼鏡なんて掛けたこと無かったが、正直に言って鼻の上に違和感がある。
やっぱり普段から使っていない物は違和感を感じるんだろうな。
「ジンさんもパソコンを使いますよね。この機に一緒に買いませんか?」
「そうだな。視力が落ちるのは嫌だし、一緒に買うか」
「はい」
どうしてかは分からないが、嬉しそうに返事をするフェリシティー。彼女ってこんなに表情豊かな子だったか?ま、でも落ち込んでいるよりかはマシか。
一緒に眼鏡を買った俺とフェリシティーはお店を出てモール内を歩く。
「他に行きたい場所とかないか?」
「そうですね……ジンさんはどこか行きたい場所とかないんですか?」
「そう言われてもな。このモールに来るのは初めてだし、何があるのかと分からないからな」
「買い物とかしないのですか?」
「そう言えばプライベートでお金って使ってない気がする。買い物って言ったらギルドで必要な物を買うぐらいだし」
何故かは分からないが、この世界に来てから物欲が減ったような気がする。
好きな物が変わったからか?地球に居たときは漫画やフィギアとか買ってたがこっちの世界に来てからは欲しいって思わないからな。それだけ今の生活が充実しているって事なのか、それとも冒険者としての生活に満足しているからなのかもしれない。
ま、好きな事といえば戦いと三大欲求を満たすぐらいになってるからな。
ん?これってあの気まぐれ島に居た化物連中と同じなような気がする。つまりは俺って見た目は人だが中身は獣と一緒って事か?いやいや!それは流石に無いだろ!
だが全然欲しいものが思いつかない。ギルドで必要な物ならば思いつくのに。
よし、この世界で何か趣味を見つけるぞ!
と言っても没頭できる物と言えばお酒を飲むぐらいだしな。
駄目だ、全然思いつかない。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。それよりも適当に見て回らないか?」
「はい、そうですね」
俺たちはこうしてモール内を適当に見回ることにした。
不安げに問い返してくる。
俺はそんなフェリシティーにソファーに座るように促し、彼女が座るのを確認してから説明する。
「1つはまだフェリシティーの居場所を特定出来ていない場合だ。お前の父親は他のギルドが襲撃を受けたと分かった途端、フェリシティーを国外に避難させたんだよな?」
「はい」
「その情報を敵であるブラック・ハウンドが手に入れていない可能性だってある。今になって手に入れたとしてもどこに逃がしたのか捜索中って可能性も無くは無い」
「他の理由はなんですか?」
「フェリシティーが国外に避難したことは知っているが興味を示していない場合だ。次々と冒険者たちのギルドを襲撃しているんだ。別にその家族が1人2人生きていたとしても気にするような連中とは思えないからな」
「た、確かにその可能性はありますね。情報収集力も凄いですが、なによりブラック・ハウンドの凄さはその武力の強さにありますから」
だろうな。出なければ複数合同のギルドを返り討ちになんて出来るはずもないからな。
「そして他の理由としてはフェリシティーの居場所は掴んで居るが、捕まえる事が難しくなったと判断した場合だ」
「と、言いますと?」
「もしもブラック・ハウンドがAランク以上のギルドによる討伐作戦の事を知っていたとしたら、間違いなく戦闘を中止させる程は無いにしろ、一時的に中止にさせるだけの手札を求めているとするならフェリシティーの他にいない。なんせ、最初の複数合同ギルドによる討伐作戦にも参加していたバルボア・カンパニーの娘なんだからな。しかしフェリシティーを捕まえて交渉の手札にしようにも世界的に有名な影光や高ランクの冒険者たちが所属するフリーダムが護衛しているため、手を出したくても出せなくなったと考えるのが妥当だろう」
「では今後どうなるのでしょうか?」
「考えられる方法は2つ。1つは本部から増援を寄越して貰い、多勢による誘拐。つまり今は増援待ちって事だな」
「ですが、飛行機なら1日も掛かりませんが?」
「ま、相手は犯罪組織だからな。おいそれと空港での審査に通れるか怪しいんだろ。だからそれを切り抜けるために陸路での移動中なら、そろそろ帝都に到着するぐらいだろう」
「確かに。それでもう1つの方法とは?」
「これは増援が無いと仮定した場合の方法だ。増援がないとなれば少人数での誘拐になるだろう。だが実力的に俺たちフリーダムに適うわけが無い。そこで相手の忍耐力。この場合警戒心を衰えさせるために誘拐の頃合を探っているって言うところだろ」
だが、この方法の場合なら48区に入っていなければ難しい。
入っていなくても48区周辺なら間違いなくシャドウ・ウルフたちに情報が行くはずなんだ。なのに一切の情報が無いとなると、本当に居ないのか、それともシャドウ・ウルフの縄張り圏外なのか。
それとも他の方法を見つけたとか?
まさかアインのように監視カメラの映像を見ることが出来るのか?
いや、だとしたらもっと早く襲撃してきてもおかしくはないだろ。例えば俺たちがフェリシティーを護衛する前とか、ベルヘンス帝国へ移動する飛行機の中とか色々とチャンスはあった筈だ。なのにそこでは捕まえていないとなると、間違いなくフェリシティーが飛行機で飛び立つまで、もしくは朧さんたちに保護して貰うまではブラック・ハウンドに情報が行っていなかったと考えるのが妥当だろう。
だが、こうも敵が居るのか居ないのか分からないのでは行動するのも難しい。
やはり此処は危険だが、囮捜査をする必要があるかもしれないな。
「なぁ、フェリシティー」
「なんでしょうか?」
「明日、一緒に出かけないか?」
「え?」
「敵がこの帝都に来ているのか、来ていないのか曖昧だと作戦を考えるのも精神的にも良くない。だから明日一緒に出かけて敵が本当にいるのかどうか確かめないか?」
「つまりは囮捜査って事ですか?」
「そうだ」
囮捜査って言うのか微妙な気もするが、犯罪者たちを見つけ出そうとしているんだから間違いではないか。
だが、この方法だと護衛対象者であるフェリシティーにも危険が及ぶのは確かだ。
俺や影光たちがちゃんと護衛するがそれでも万が一の可能性だってある。それを考えるとこの作戦は護衛依頼においては最悪の方法と言える。
しかしこのままホームでいつ来るかも分からない敵に怯えるよりかはマシだろう。
問題なのはこの作戦にはフェリシティーの協力が必要不可欠であることだ。
「どうだ?フェリシティーを危険な目に合わせてしまう可能性があるわけだが」
俺がそう訊くとフェリシティーは顔を俯けて考え込んでしまう。やっぱり怖いよな。
正直、友人として依頼を受けた冒険者としてこの作戦は非道、愚作と言われてもおかしくはない。だがそれでも俺は少しでも早くフェリシティーの心を脅かしている恐怖を取り除いてあげたい。
それがフェリシティー自身を危険に晒す事になってもだ。
いや、違う。
今の俺にこれ以上の作戦が思いつかないのだ。まったく情けないな。
「良いですよ」
不安を隠すように笑みを浮かべながらフェリシティーは承諾する。
その事に俺は思わず目を見開けて問い返すのだった。
「本当か?」
「はい。私も早くこの生活を終わらせてお父様たちに会いたいですので」
そんな彼女の言葉に安堵する俺が居た。
こんな護衛対象者を危険に晒すような作戦しか思いつかない俺をフェリシティーは怒鳴っても良かった筈だ。
しかしフェリシティーはただ笑みを崩す事無く了承してくれた事に許されたと勘違いしている自分が居た。それが駄目な事だと分かっていても、この安堵を直ぐに消すことは俺には出来なかった。
「そうか。ならこの事を影光たちにも教えないとな」
「はい」
作戦が決まり、俺はその事を夕食の後に伝えた。
すると意外にも全員がやる気だった。ま、こんな来ているのかも分からない敵に怯えるのは飽きたんだろう。
俺たちフリーダムの全員が、先手必勝、攻撃こそ最大の防御って考えるほど、超攻撃タイプだからな。
守りに入るより俺たちらしくやる方が良いよな。
12月18日火曜日。
身支度を整えた俺はフリーダムの入り口で待機する。
なんで此処で待機しているかと言うとフェリシティーにそう頼まれたからだ。いったい何を考えているんだ?
「すいません、準備に手間取ってしまいました」
「別に謝らるような事じゃないから、気にしなくて良いぞ」
「ありがとうございます。それで今日はどこに行かれるのですか?」
そう行って俺の顔を覗き込む。
「そうだな。なら44区にあるモールにでも行ってみるか」
「それは楽しみですね」
俺たちはこうして出発した。
今のところは怪しい人影も気配も感じないな。それじゃ確認しておくか。
俺は軽く耳に付けたインカムに触れて喋る。
「(今、出発した。全員聞こえているか?)」
『拙者は聞こえておるぞ』
『聞きたくないほど、聞こえています』
『私も聞こえているのだ』
『ぼ、僕も聞こえています』
『聞こえているぜ、ジンの旦那』
『聞こえている』
インカムから聞こえる全員の声。どうやら正常に動いているな。
これなら大丈夫だろ。
「(現在出発した、全員昨日話した通り見張りを頼む)」
『了解』
全員の声が重なった声がインカムから届く。
「ジンさんどうかしたのですか?」
いつもとは違うと感じたのかフェリシティーが俺の顔を覗き込みながら訊いて来る。
「いや、なんでもない。それよりも大丈夫か?」
「正直に言いますと少し怖いです。ですがもう直ぐ私も冒険者になるのですからここで挫けるわけには行きませんから」
俺の質問にフェリシティーの顔に不安の影が落ちたかと思ったが、それを薙ぎ払うように少し無理をした笑みを浮かべた。本当に悪いな。こんな作戦しか思いつかなくて。
だからこそ俺が絶対に護るからな。
「そうだな」
そしてフェリシティー、少し見ない間に肉体だけでなく精神も強くなったんだな。
いや、それよりも今は、
「どうしてわざわざホームの入り口で待ち合わせなんかしたんだ?一緒に出れば良かったと思うんだが」
「分からないですか?」
「ああ」
「気分の問題です」
「気分の問題?」
気分の問題ってどういう事だ?調子でも悪かったのか?まったくもって意味が分からないな。
「そうです。囮捜査なのですから恋人っぽく見せるのは大事だと思うませんか?」
「ああ、そう言うことか」
確かに囮捜査ならちゃんと役に入らないとな。
「なら、これでどうだ?」
「え?」
俺はそう言って彼女の腕を自分の腕とを絡める。これなら襲われても直ぐにフェリシティーを護れるし、逸れる事もないだろ。
それに恋人っぽく見せるにはこれぐらいしないとな
「あ、あのこれはいったいどういう意味で?」
「恋人っぽく見せるんだろ?なら腕を絡めるのは普通だと思うんだが?違うのか?」
「い、いえ!そんな事はありません!」
「なら、このまま行くとするか」
「は、はい……」
気のせいかフェリシティーの体温が少し上昇しているような気がするんだが。それに耳も赤い。
だけど俯いていて表情は見えないな。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですので気にしないで下さい!」
「そうか」
よく分からないが大丈夫なら問題ないだろう。
俺たちは44区にあるモールへと向かった。
44区は帝都の中央ではない。そのため中央に比べれば人の数は少ないが、48区や隣の47区に比べれば断然に多い。ま、その理由としてはこのモールがあるわけで、ここは言わば観光客向けの場所ではなく、帝都に住んでいる人々のお店と言った方が正しいだろう。
そのため大半が帝都に住んでいる人たちだ。僅かに観光客や親戚に会いに来たような人たちもいたりしている。
狭いと言う感じはしない。少し余裕がある程度だ。
俺たちはそんなモールの中を歩きながら適当に店を回る。
「フェリシティー、何か見たいものとかないか?」
俺の問いかけにフェリシティーは軽く眉を寄せて悩みながらも答える。
「そうですね、眼鏡を少し見てみたいですね」
「眼鏡?フェリシティーって目が悪いのか?」
「いえ、悪いわけではありません。ただブルーライトカットの眼鏡が欲しいなと思いまして」
「パソコンとかよく使うのか?」
「いえ、ジンさんも知っての通りスヴェルニ学園がタブレットを使った授業ですのでどうしても欲しいのです」
「なるほどな。なら最初は眼鏡を見てみるか」
「はい」
俺たちは眼鏡を販売しているコーナーに向かう。
そこには色んな形、色んな色の眼鏡が置かれていた。
前世では眼鏡なんて使わなかったからな。よく分からない。それにこの体に転生してから視力は遥かに良い。きっと2.0以上にだろう。ま、制限しているから今は視力も動体視力も常人より少し良い程度だが。
それにしても本当に色んな種類があるな。
「ジンさん、どうですか?」
周囲を見ているとフェリシティーが訊いてくる。
彼女の顔を見るとラベンダー色の眼鏡を掛けていた。か、可愛い!
「あ、ああ。よく似合ってるぞ」
「本当ですか。では、ジンさんにはこちらを」
「お、おい。俺は目は悪くないぞ」
「安心してください。これもブルーカットだけで度は入っていませんから」
ま、度が入っていないのなら大丈夫か。そう思った俺はフェリシティーに黒縁眼鏡を掛けてもらう。
「どうだ?」
「はい、似合っていますよ」
眼鏡なんて掛けたこと無かったが、正直に言って鼻の上に違和感がある。
やっぱり普段から使っていない物は違和感を感じるんだろうな。
「ジンさんもパソコンを使いますよね。この機に一緒に買いませんか?」
「そうだな。視力が落ちるのは嫌だし、一緒に買うか」
「はい」
どうしてかは分からないが、嬉しそうに返事をするフェリシティー。彼女ってこんなに表情豊かな子だったか?ま、でも落ち込んでいるよりかはマシか。
一緒に眼鏡を買った俺とフェリシティーはお店を出てモール内を歩く。
「他に行きたい場所とかないか?」
「そうですね……ジンさんはどこか行きたい場所とかないんですか?」
「そう言われてもな。このモールに来るのは初めてだし、何があるのかと分からないからな」
「買い物とかしないのですか?」
「そう言えばプライベートでお金って使ってない気がする。買い物って言ったらギルドで必要な物を買うぐらいだし」
何故かは分からないが、この世界に来てから物欲が減ったような気がする。
好きな物が変わったからか?地球に居たときは漫画やフィギアとか買ってたがこっちの世界に来てからは欲しいって思わないからな。それだけ今の生活が充実しているって事なのか、それとも冒険者としての生活に満足しているからなのかもしれない。
ま、好きな事といえば戦いと三大欲求を満たすぐらいになってるからな。
ん?これってあの気まぐれ島に居た化物連中と同じなような気がする。つまりは俺って見た目は人だが中身は獣と一緒って事か?いやいや!それは流石に無いだろ!
だが全然欲しいものが思いつかない。ギルドで必要な物ならば思いつくのに。
よし、この世界で何か趣味を見つけるぞ!
と言っても没頭できる物と言えばお酒を飲むぐらいだしな。
駄目だ、全然思いつかない。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。それよりも適当に見て回らないか?」
「はい、そうですね」
俺たちはこうしてモール内を適当に見回ることにした。
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これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
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