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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第五話 スヴェルニ王国からやって来た友人 ⑤

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 お父様がギルドマスターを勤めるバルボア・カンパニーが最近引き受けた複数のギルドによる合同依頼でお父様たちは依頼を失敗してしまいました。
 ギルド複数の合同依頼はそうそうあるものではありません。
 数年に一度あるか無いかぐらいです。
 そんなお父様たちが引き受けた依頼はブラック・ハウンドと呼ばれる犯罪者組織。
 元は冒険者ギルドであったため犯罪者たちの大半が元冒険者と難易度の高い依頼でした。なんせ、敵は冒険者としての知識や先方などを熟知しているのですから。
 それすらも警戒して挑んだ依頼でしたが、お父様たちは失敗してしまいました。
 運よくバルボア・カンパニーのギルドメンバーに死者は居ませんでしたが、他のギルドは死傷者を多く出たそうです。
 しかし、この戦いはそれだけでは終わりませんでした。
 ブラック・ハウンドが報復のために依頼を受けたギルドのホームを襲撃し始めたのです。
 それを知ったお父様は私に学園を休ませて知り合いの冒険者に護衛するよう依頼を出しましたが、断られてしまいました。
 ですが、信頼できる冒険者に依頼することは出来ると言われ、お父様は渋々受けることにしました。
 でもまさか、それが3ヶ月以上前に事件を起こして退学して行った、クラスメイト、オニガワラ・ジンさんだとは思いませんでした。
 冒険者になったことはイザベラ様に聞いて知っていましたが、まさかギルドまで設立していたとは思いませんでした。
 それだけでなく、その仲間の方たちも他国で冒険者の卵として生活している私でも知っているような人物ばかりでした。
 Sランク冒険者で静寂な狙撃手サイレント・スナイパーの異名を持つクレイヴ・セルゲイさん。
 Aランク冒険者でアヴァ先生同様に上級医療魔法師の資格も持っており、破壊する修道女デストロイ・シスターの異名を持つアリサ・ベルぜーレさん。
 同じAランク冒険者で隻眼の吸血姫の異名を持つヘレン・ボルティネさん。
 そして何より世界中の冒険者、軍人、その両方の卵、いえ一般人でも知らない者は居ないと言っても過言ではないほど有名な世界最強の剣豪であり、刀神の異名を持つSランク冒険者トウドウ・カゲミツさん。
 誰もが憧れるような有名な冒険者ばかりがジンさんが設立したギルドに所属しているなんて驚きでした。
 いえ、それだけではありません。
 あのSSランク冒険者、シノノメ・オボロさんに信頼できる冒険者と言わせるほどの実力と信頼を勝ち得ている事に私は驚きを隠しきれません。
 ジンさんが学生として通っていた時から、不思議な方だと思ってはいました。
 なんせ魔力が無いと言う事はレッテルでしかありません。なのに平然と自己紹介の時に自ら言う始末。なのに気にする様子もなく、馬鹿にされても平然と立ち振る舞っていました。
 ま、勉強と月曜日の朝はとても憂鬱そうな表情をする方でしたけど。と言うよりもあそこまで表情に出る方も珍しいとは思いますけど。
 ですが、ジンさんの強さを目の辺りにした時は驚きました。魔力が無いのにどうしてあそこまで強いのか不思議でなりません。
 そしてそれに反する事無く誰に対しても堂々とし、相手が王子だからと言って物怖じする事無く友人を助けるために拳を振るう。
 正直、愚かと思う自分も居ましたが、羨ましい、凄いと思う自分が居たのも確かです。
 そして気が付けば彼の周りには色んな人が集まっていました。それは私も同様です。
 でもまさか世界最強の剣豪を仲間にするほど凄い人だったとは思いませんでしたけど。
 それに武闘大会個人戦学園代表選抜でイザベラ様と戦った時よりも遥かに強くなっています。
 今日の訓練で動いていた時の速さは間違いなくあの時よりも速い。もしかして手加減していた?
 いえ、そんな事はないでしょう。きっとこの3ヶ月間で強くなったに違いありません。
 それにしても本当に不思議な方です。あれだけ有名な実力者と肩を並べても違和感が無い。だからと言ってまったくの威圧感が無い。普通ならカゲミツさんもそうでしたが、近寄りがたい雰囲気を纏っているものなのですが。
 学生として一緒に生活していたからでしょうか?
 だからこそこうして再会出来たことが嬉しくもあり、悲しくもあります。
 何よりも学生として一緒に居たときには気付きませんでしたが、イザベラ様が彼に好意を向けたくなる理由も分かってしまいました。
 だけどこの気持ちが憧れなのか、それとも恋なのかは分かりません。
 ただもしもこの気持ちが恋なのであれば、彼に告げても良いものなのか分かりません。

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 12月17日月曜日。
 あれから一週間が過ぎた。
 しかし俺たち、正確にはフェリシティーの命を狙う刺客が未だに来ない。
 もしかしたらフェリシティーがベルヘンス帝国に来ていると言う情報を掴んでいないのか?とも思ったが裏社会に通じ複数の合同ギルドを返り討ちにするほどの力がある犯罪者組織が気付かないわけが無い。
 だとしたら何故、気配すら無いんだ?
 俺たちのホームがある48区はスラム街と言うほど荒れてもいないし、ゴーストタウンと言うほど人が居ないわけじゃない。と言うか俺たちが住んでるしな。
 ただ生活に困った浮浪者の溜まり場的な場所である事は間違いない。
 そんな48区を縄張りにしている連中が居る。
 ソイツ等の名前は影狼シャドウ・ウルフ
 ま、簡単に言うと不良集団と言うかギャングだ。
 ならなんでソイツ等が俺たちフリーダムを襲ってこないかと言うと、ここ最近になって48区縄張りにし始めたからだ。
 で、ギャングシャドウ・ウルフのリーダーがたった1万RKの前金を貰っただけで俺を襲ってきたレシオンだ。
 正直なんでアイツ等がここを縄張りにしようと思ったのかは分からないが、アイツ等の情報は正直役に立つ。
 アインは監視カメラやネットに通じている情報なら知ることが出来るが、ネット上にない事は知ることが出来ない。それに監視カメラに接続している間は戦闘能力が半減するため、長時間の使用は避けたい。
 だから俺はレシオンに電話する。

『もしもし、ジンの兄貴どうかしましたか?』
「だからジンの兄貴って呼ぶのは止めろって言ってるだろ」
『ですが、それ以外の呼び方は無いですし』
「普通に仁で良いだろ」
『そんな!俺たちにとっては憧れであり尊敬すべきフリーダムのギルドマスターであらせられるジンの兄貴を呼び捨てなんて、とんでもない!』
「はぁ……分かったよ。もう好きに呼んでくれ」
『はい!』
 以前俺を襲った奴等のリーダーなのか疑いたくなるほどの変貌っぷりだな。ま、俺たちの事を尊敬してくれているからな。悪い奴等じゃないんだけどな。
 ギャングの癖に人付き合いが上手いんだよな。近くの商店街じゃ、自警団みたいなことしてるみたいだし。ま、悪さするよりかはマシだけど。

『それで急に電話してきたって事は何か用件があるって事ですよね?』
 相手の力量を見抜けないアホだけど、馬鹿じゃない。
 だからこそコイツのチームに人が集まるんだろうけどな。

「そうだ。ちょっと知りたい事があってな」
『知りたい事ですか?』
「ああ。最近48区に新参者とか入り込んでないか?特に鍛えられた体をしている奴の癖に48区で寝泊りをし始めた奴とか。48区の周辺でなにやらウロチョロしている不審な奴等とか」
『ちょっと待ってくださいね………すいません、仲間にも聞いてみましたが見かけてないって言ってます』
「そうか」
 となるとまだ敵はこの区域に入っていないと考えるべきか。

『何か問題でも起きたんですか?』
 真剣な声音がスマホ越しから聞こえてくる。
 正直本当の事を話すわけにはいかない。なんせレシオンたちは一般人だ。普通の喧嘩ならソコソコ強いらしいが、相手は平然と殺しをしてくる犯罪者組織だ。
 ましてや殴り合いでも実力が違いすぎて負けるのは目に見えている。
 だが教えないで置くのが得策なんだろうが、こいつ等の事だからなきっと怪しい奴等を見かけたら絶対に喧嘩を売るに決まっている。
 なら、ある程度事情は話しておくべきか。

「詳しい事は言えないが、護衛依頼を受けている真っ最中なんだ」
『バイオレット色の髪を持つ美少女の護衛ですか?』
「何で知ってるんだ?」
『そんなの48区に入ってくれば直ぐに俺の元に情報が届きますよ。それにしてもジンの兄貴はあんな美少女の護衛なんて流石ですね!』
「前歯をへし折られたいのか?」
『じょ、冗談ですよ!』
 慌てて弁明するレシオン。だけどどうやら俺はレシオンたちの情報収集力を侮っていたようだな。

『それでその護衛依頼と何か関係があるんですか?』
「ああ。彼女を狙っている連中が居る。だがいつ襲ってくるか分からない。だからもしも48区では見かけないようなガタイの良い男や運動神経が良い女を見かけたら俺に連絡しろ。勿論男女関係なく怪しげな行動をしている奴もだ」
『分かりました!手下ども全員に伝えておきます!』
「あ、それから絶対に見かけても絶対に喧嘩を売るなよ。奴等は平然と殺しをして来る連中だからな」
『分かりました。見かけたら直ぐにジンの兄貴に連絡するよう伝えておきます!』
「ああ、それで良い」
 電話を終えた俺はソファーの背もたれに体重を預ける。
 レシオンたちは良い奴等だが正直扱いに困る。

「疲れているようですけど、大丈夫ですか?」
 そんな俺の顔を覗き込むようにしてフェリシティーが心配そうに話しかけてくる。
 命を狙われているのはお前なのにどうして他人の心配なんか出来るのかね。

「大丈夫だ。ただちょっと扱いに困っている連中と話してただけだからな」
「そうですか」
「それよりも、影光たちと訓練をしていたんじゃないのか?」
 現在リビングには俺とフェリシティーしかいない。と言うよりも数分前までは俺1人しかいなかった。
 フェリシティーは朝食を食べて少ししてから地下の訓練所でアインたちと戦闘訓練や魔力操作の訓練をしていた。
 現在ホームに居ないのはクレイヴとヘレンだけだ。
 ま、理由としてはずっと護衛依頼だけを受けていると怪しまれるからな。だから2人だけ別に依頼を受けさせたのだ。勿論毎日同じではなく、昨日は影光とアリサが依頼を受た。
 ま、そんな感じで隠蔽工作と言えるほどじゃないが、これで周囲に怪しまれる心配は減るだろう。

「少し疲れましたので休憩ついでにジンさんの様子を見に来たのです」
「そうか。心配させて悪かったな」
「いえ、謝るような事じゃありませんので!」
 護衛対象者に心配されるようでは冒険者としては失格なんだろうし、俺もそう思う。だけど友人に心配されるのは嬉しいものだ。

「こんな事を聞くのは冒険者の両親を持ち、冒険者の卵としても失格なのでしょうが、教えてください。今後私はどうすれば良いのでしょうか?」
「急にどうしたんだ?」
 思いがけない質問に俺は思わず聞き返してしまう。
 別に言葉の意味が理解できなかったわけじゃない。ただどうしてそんな事を聞くのが俺には分からなかったからだ。

「ジンさんたちが護衛をし始めて1週間が過ぎました。ですが襲われるどころか怪しい人影すらみあたりません。ですがお父様からの連絡も一切ありません。私はどうして良いのかまったく分からないのです」
 ま、どれだけ訓練をして自信を付けようとも終わりがあると分かっている戦いが長引けばそれだけ不安に感じるのは無理ないか。

「そうだな。フェリシティーの両親がどうして連絡してこないのか、その理由は分かるか?」
「はい。連絡すれば探知される恐れがあるからです」
「その通りだ。つまりは連絡したくても出来ない状況だという事だ。またそれはブラック・ハウンドとの戦いが終わっていない事も示している」
「では、どうしてブラック・ハウンドは私を殺そうとしないのですか?」
「それに関しては幾つか推測がある」
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