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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第九十八話 遺跡探索 ⑥

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 12月1日土曜日。
 俺たちは依頼を終えて帝都まで帰ってきていた。
 昨日戻ってきた俺たちだったが、帝都に到着したのが夕方だったのでボルキュス陛下には今日報告することにしたのだ。
 そのため俺たちフリーダムメンバーは現在皇宮の応接室に来ていた。
 出されたコーヒーは相変わらず美味しいぜ。後でイオにどこのコーヒー豆か、聞いておこうか。

「まさか、こんなにも早く帰って来るとは思って無かったぞ」
「俺の仲間は優秀だからな」
「そのようだな」
 竜の巣のような砂嵐が消えたことは既に帝都でもニュースになっている。しかしその原因までは報道されていない。だって研究者にも分かっていないんだから当然だよな。
 ま、砂嵐を止めたのは間違いなく俺たちなんだが、いつ止めたのかがまったく分からないんだから仕方が無い。

「それであの右腕の正体は分かったのか?」
「種族までは分からないが、あれは巨大な蜥蜴を使役していたライダーの腕だと言う事は分かった」
「蜥蜴?してその大きさは?」
「全長で40メートルと言ったところだな」
「40メートルだと!?」
 俺の言葉に驚愕の表情が露になる。当然の反応だけど。

「それほど大きいとなるといったい何人の兵士たちを向かわせる事になるか、想像しただけで頭が痛くなりそうだ」
「その必要は無いぜ」
「どうし……まさか、倒したって言うのか?」
「ああ。骨野郎の支援魔法が強力で最初は苦戦したが倒したぜ」
「それほどの相手はたったの7人で倒すとは……実力だけならAランク、いや、Sランクギルドにも匹敵するレベルだ」
「俺たちは少数精鋭だからな」
(少数精鋭などと言うレベルを遥かに超えている。フリーダムの戦力はもはや我が国の一個旅団と同等。もしかしたら一個師団にも匹敵するレベルになっているのかもしれない)
 ボルキュス陛下の表情がどこか強張っており、真剣な面持ちをしていた。
 そんなにあの蜥蜴と骨野郎が脅威だと感じているのかもしれない。たしかに中は広いが空爆で倒す事は無理だし、戦車で攻撃するにも遺跡に入れることは不可能だ。となると高火力の武器で言えばロケットランチャーか対戦車ライフルぐらいだろう。
 だが俺たちの攻撃を防げるほどの魔法に鱗だ。そう簡単に倒せる相手ではない。それなりの数を揃えなければ倒せない相手だ。だがそれは大量の死傷者を出す恐れがあると言う事でもある。
 ま、俺たちが倒したから結局は意味無いんだけどな。

「して、その蜥蜴と骨のライダーはどうした?」
「俺のアイテムボックスの中に入っている」
「なら後で研究所の方に持っていっておいてくれ。勿論正当な価格で買い取らせて貰う」
「分かった」
 俺は返事をしてコーヒーを一口飲む。うん、美味い。

「それで他には何があった?」
「遺跡の階層は全部で3階層だ。地上、地下1階と2階となっている。蜥蜴と骨野郎は地下1階におり、入った者を直ぐに襲うことはなかった。どうやら遺跡から出ようとする者を襲うように指示されていたのだと俺たちは推測している」
 俺の言葉にボルキュス陛下の表情が険しいものになっていく。

「地下2階には昔人々が住んでいたと思われる建物が幾つもあったが、その大半が壊れていた。戦闘で壊れたのか、時の流れとともに朽ちて崩れ落ちたのかは分からない。ただ砂や土の無い場所にも拘らず骨すら残っていなかった事には疑問を感じた。もしかしたら俺たちを襲ってきた大量の蠍が食べたのかもしれないしな」
「まて、蠍だと」
「ああ。数にすれば万に近い数の蠍が俺たちを襲ってきた。どうにか全滅させたけどな。それ以外にも魔蟲と呼ばれている魔物が操る甲冑も一体だけだが居た。それはアインが一撃で倒したけどな」
「砂漠地帯の遺跡だから蠍が居る事には頷けるが甲冑が1つだけあった理由がまったく分からないな」
「もしかしたら俺たち同様に昔、誰かがあの遺跡を探索したのかもな」
「その可能性はあるか」
 色々と可能性を推測するボルキュス陛下。そう言えば言うの忘れていたな。

「それと以前見せてくれた右腕の事なんだが」
「あの籠手の事か?」
「ああ。あれは籠手じゃなくてスケルトンライダーの右腕そのものだったぜ」
「待て。つまりはあの異様な形をした籠手はスケルトンが装着していたのではなく、本当に右腕だったと言いたいのか?」
「ああ、その証拠にあの骨野郎の形は普通の人間とは違う骨の形をしていたぜ」
「そうか。となるとあの遺跡を作ったのは人間ではない別の種族と言う事になるのかもしれないな」
「その可能性は十分ありえると思うぜ」
 ボルキュス陛下が言っている事は俺も考え付いていた。なんせあの不気味な見た目をした骨野郎が同じ人間だとは思いたくないからな。

「それで他に何も無かったか?」
「そ、それはだな……」
 ボルキュス陛下の言葉に思わず言葉を濁して目を逸らす。
 そんな俺の態度にボルキュス陛下の眼光が鋭さを増す。

「言っておくが嘘を言ったら依頼ミスとして慰謝料を支払って貰う事になるぞ」
 それだけは絶対に嫌だ!

「じ、実はだな。遺跡の最深部に置かれていた鏡を破壊してしまったんだ。と言うより破壊した」
「ほぉ、それは何故だ?」
 止めて!そんな興味深そうに、そして事と次第によっては俺が死ぬような声音で言わないで!お願いだから!

「嫌な、その鏡はその人間が心の底から会いたい人物を映す鏡なんだ」
「なら、どうして破壊したんだ?」
「よくは分からないが、その鏡を見た者をその場から離さないような効果があるような気がしたんだ。だからこれは危険だと判断して……その、なんだ……思いっきり殴って破壊したんだ」
 言ってしまった。もしもこれで依頼失敗って言われたらみんなすまん!俺の自腹で慰謝料を払うから勘弁してくれ!

「そうか、よくやってくれた!」
「へ?」
 ボルキュス陛下の言葉に俺は思わず、変な声が出てしまう。
 だってそうだろ。誰もよくやった!なんて言葉を想像出来た者なんていないだろうからな。

「それはどういう事だ?」
「実はその鏡には魅了の力があると言われているらしくてな。我々はその鏡を破壊するのが目的の1つでもあったんだ」
「ま、待て!俺もそうだが、フリーダムメンバーは強弱はあれど状態異常の耐性は持っているぞ」
「調べた限りあの鏡が持っているのはスキルでは無く、称号ではないかと言う意見も出ていてな。称号はスキルではどうにも出来ないからな」
 確かに称号は固有スキル、スキルより圧倒的にその効果が強い。だからと言って鏡に称号ってありなのか?付喪神じゃあるまいし。

「ま、なんにせよ。お前たちでもその場から動けなくなる程の強力な魅了が存在し、道具にも称号が与えられる可能性が出てきたと言う事が分かっただけでも大きな成果と言えるだろう」
 なんだよそれ。つまりは俺たちは探す依頼だけでなく実験台にもされたってわけか。そう言うことは前もって言ってくれないと困るんだが。
 訴えても良いけど、ボルキュス陛下に勝てる気がまったくしないので止めておいた。

「これで話は以上だな」
「ああ」
「なら、イオに研究所に案内するからそこに蜥蜴と骸骨の骨を置いていってくれ。依頼達成の報酬は冒険者組合に報告してから払っておく」
 こうして俺たちは無事に依頼を達成したのだった。なんとも釈然としない終わりになってしまったが、無事に依頼を終えられた事だけは分かる。
 その後俺たちはイオの案内で皇宮内にある研究所に蜥蜴と骨野郎の遺体を置いてホームへと戻ってきた。
 途中で食材などを買い込んだから帰ってくるのが遅くなったけど。
 ソファーに座ったお茶を飲んでいるとスマホの通知音が鳴る。
 スマホを開いてみると指名依頼達成の通知だった。
 そして俺は昇格ポイントが貯まり、Aランク昇格試験を受けられる事になった。だがそれは俺だけでなくアインもそうらしい。
 ま、互いに残り僅かだったからな。
 フリーダムメンバー全員での初依頼を達成した事を祝うとしよう。
 と言うわけで俺たちはリビングで宴会を開く事にした。
 料理は勿論、グリードのお手製だ。
 酒も買い足しておいたのでなんの問題もない。と言うよりも旅行先で買った酒は既にない。
 生憎と我がフリーダムには酒豪が数人居る。
 名前を挙げれば影光、アリサのこの2人だ。
 俺も飲もうと思えば幾らでも飲めるが嗜む程度だ。だってどれだけ飲んだも称号でほろ酔いにしかならないからな。
 アインも酒は幾らでも飲める。何故なら全て胃の中でアルコールを分解してしまうからだ。と言うかサイボーグだから酔う事はない。
 クレイヴも飲めるが嗜む程度だ。
 飲めないのはヘレンとグリードぐらいだろう。
 ヘレンはおこちゃま体質なので少しでも飲めば倒れるし、グリードは飲まない。
 そんなわけで我がフリーダムの食費の酒代の大半を影光とアリサが使っているわけだ。あ、でもこないだはサシ勝負をする羽目になって俺も参加したっけな。え?勝負の結果って。勿論勝ったさ。だってどれだけ飲んでもほろ酔いにしかならないからな。
 ま、そんなわけでテーブルには大量の料理と酒が用意されているわけだ。
 酒代の半分は今後自腹にした方が良いかもしれないな。
 そんな事を考えながら俺はビールが注がれたグラスを片手に持つ。

「それじゃ初めてのフリーダム全員での依頼達成を祝して乾杯!」
『乾杯!』
 少し掲げたグラスを鳴らし合った俺たちは一気に胃へと流し込む。

「プハッー!やっぱり仕事の後はこの一杯だよな」
「仁、まだ若いのにおっさん臭いぞ」
「うるさいな。美味いものは美味いんだから仕方がないだろ」
 それに中身は本当におっさんだし。
 そんな事を思いながら俺はグリードが作ってくれた料理を一口食べる。
 うん、美味い!
 テーブルには様々な料理が並んでいる。
 酢豚、刺身、寿司、サイコロステーキ、生ハムサラダ、フライドポテト、など様々だ。

「それにしてもジンの旦那が鏡を割った時はどうなるかと思ったが、結果オーライで良かったぜ」
「まったくです。やはり低脳が居ると周りが苦労しますね」
 煩いな。結果的に良かったんだから良いじゃないか。

「だがこれでフリーダムの株も上がると言うものだ。なんせ皇族からの依頼を見事に完遂したのだからな。もしかしたら他の者達からも指名依頼が来るかも知れぬぞ」
 それは良い話だな。
 一々過去を持ち出さず未来を見ているとは流石は影光だ。

「ま、それも今回の依頼が偶然にも上手く行ったお陰だけどの」
 前言撤回だ。
 お前も過去を見るなんて酷いぞ。俺たち冒険者は未来に繋がる今日を生きるべきだと俺は思うぞ。
 ま、そんな俺だからあの鏡を割れたんだしな。

「それで仁よ。今後の予定は決まっているのか?」
「そうだな。俺とアインはAランク昇格試験を受けるつもりだ。その間はお前たちは自由に依頼を受けてくれ」
「つまりはいつも通りと言うことだな」
「ま、そうだな。でも俺としてはグリードにも早くAランク。いや、Sランクになって貰いたいと思っているからな」
「え!?」
 そんな俺の言葉に食べようとしていた生ハムサラダが皿の上に落ちる。

「じゃないと今回戦ったような魔物と戦えないだろ?」
「あ、あんな魔物とまた戦うんですか!?」
 また戦うってグリードは何を言ってるんだ。

「またじゃなくて何度も戦うつもりだ」
「何度もですか!で、でも、今回の戦いで連携も上手く行きましたしそこまで急ぐ必要は無いと思うんだすけど!」
「あんなの偶然上手く言っただけだ。それに暗闇で戦うなんて特殊ケースだからな。本当なら地上の明るいところで戦うのがベストなんだぞ」
「仁の言う通りだぞ。それに一度連携が上手く行ったからとまた上手く行くとは限らない。なんども陣形を組み、連携を試すことでようやく使える状態になるのだ。それぐらい冒険者のお前なら知っていて当然だと思うが?」
「そ、それはそうですが、別に最初かあんな化物と戦う必要はありませんよね?」
「それはそうだが、俺たち全員で良い勝負が出来る相手となるとどうしてもSランク以上の魔物になってしまうからな」
 それにあの蜥蜴が化物なら気まぐれ島の連中はなんだ?怪物か何かか?

「そんな……」
 俺の言葉に落ち込むグリード。お前は本当に強くなりたいのか未だに疑問に思うぞ。ま、戦場で戦えていたから口には出さないけど。
 そんなこんなで俺たちの宴会はまだまだ続くのだった。




─────────────────────
【依頼内容】
スメルティス砂漠にある遺跡探索 完了
依頼報酬+500万RK

【ギルド残高】
指名依頼依頼報酬2割
100万+1万RK
居酒屋飲み代 -4万7250RK

ギルド口座残高 476万1500RK

【ギルドランク】
Dランク

【個人残高】
指名依頼報酬 +57万RK
煙草2カートン -1万400RK
ジップ・ライター -1万2600RK 
残高 1480万5740RK

【冒険者ランク】
Aランク昇格まで残り0ポイント
Aランク昇格試験可能!



=================================

お久しぶりです、月見酒です。
これにて第二章終了です。
第二章が始まってから3ヶ月と少しが過ぎましたが、どうでしたでしょうか。
仁はようやく最初の目標であった冒険者になり、自分のギルドと仲間を持つことが出来ましたね。
感想を見さして貰うと大半が誤字脱字の報告でいつも申し訳なさと感謝で一杯です。
そして思い返してみれば第二章はエロさが少なかった!と思います。
と言うことで、第三章はエロさ多めで行きたいと思うぜ!(多分)
それでは今後とも「魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~」を宜しくお願いします。

あ、それと鬼神転生記の方はもう暫く待って貰えるとありがたいです。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
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