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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第九十六話 遺跡探索 ④
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先ほどまでの轟音が嘘かと思えるほど静寂と化す。
俺たちは階段を下りて確実に死んだか確かめる。
「どうやら死んでいるようだな」
俺の呟きにメンバーから安堵の溜息が漏れる。ま、気持ちは分かるぜ。なんせこんな大きな蠍に襲われるなんて嫌だもんな。
「アインたちは弾薬の方はどうだ?」
「他の銃は使ってませんから、弾薬の心配はありまえんが、魔導軽機関銃の弾薬は残り100発と言ったところですね」
「私は問題ないぜ。元々多く持ち歩いているからな」
「俺はあと150発。それが無くなったら終わる」
「そうか」
クレイヴは狙撃手だ。それなのにまだ150発もあるなら十分だと言えるか。
前衛の俺たちが消費した物と言えば魔力と体力ぐらいだ。あとは俺のパチンコ玉ぐらいか。でもまだ1000発はあるから余裕だな。
俺たちは蠍の死骸の中を進み先ほどの甲冑の傍まで向かう。
するとアインが甲冑を調べ何かを取り出し俺たちに見せる。
「これが甲冑を動かしていた正体です」
「虫の死骸?」
「はい。この虫、いえ、魔物の名前は魔蟲。虫などの死骸に多くの魔力が宿ることで活動する魔物です」
「それってゾンビみたいなものか?」
「そうです」
なるほど道理で気配が感じられないわけだ。死体に気配はない。ただ意志ある死体は別だ。リッチーなんかがそうだ。
つまり魂無き敵からは気配が感じられないと言う事だ。
「それじゃ一旦休憩したら、探索開始だ」
俺たちは階段まで戻り休憩する。ここなら魔物に襲われる事は無いからな。ま、もう居ないだろうけど。
それにしても面倒な遺跡だな。
軍人や冒険者の血痕や武器が転がっているかと思えば敵は居ないし、階段を下りれば大量の蠍に襲われるし。もう嫌だ。帰って寝たい。
「アリサ、一本くれ」
「吸うのか?」
「吸わないとやってられないからな」
俺はアリサから煙草を貰って火を点す。
前世でも煙草は吸っていたから抵抗はないが、やっぱり最初は少し咽る。
それでも懐かしい感覚だ。
休憩を終えた俺たちは立ち上がり先へと進む。
分かった事といえば、ここは俺たちの最終目的地じゃないって事だ。
探索を進めていると今度は大きな扉の前に辿り着く。
その扉を開けると先が見えないほどの長い通路が待ち構えていた。
「今度は歩くのか」
誰かがそうボヤく。
その気持ちは分かるが言わないでくれ。
そう思いながら俺たちは先へと進む。
罠でも仕掛けられているかもしれないと思い警戒しながら進んだが何も起こらないまま、俺たちは二手に分かれる分岐に辿り着いた。
「それでどっちに行くんだ?」
影光がそう聞いてくるが正直分からない。
こういう時はただ一つ。
俺はコインを取り出して指で弾く。
それを手の甲で受け止める。
「表なら右、裏なら左だ」
「なんとも不安しかない決め方だな」
「適当すぎますね」
「不安なのだ」
「こ、怖いですね」
「ジンの旦那、私が言うのもなんだが、もう少し真剣に決めようぜ」
「天国か、地獄か」
お前ら好き勝手に言うんじゃねぇよ。
で、結果は裏だった。
「よし、左だな」
そんな俺の言葉に後ろから嘆息する声が聞こえてくる。
まったく酷い連中だな。
そんなこんなで俺たちは左の通路へと進む。
で、進むこと5分。
俺たちの右側に別の通路があった。と言うよりも分岐が終わったような場所に出た。
「どうやら右から行こうと、左から行こうと出口は同じだったようですね」
「なんだよそれ!」
アインの言葉に俺は思わず叫ぶ。
だってそうだろ。どっちからでも行き先が同じならあんなに悩む必要も俺のスーパーアイディアを披露することも無かったんだぞ。
でもここで苛立っていても仕方が無い。さっさと先に進むとするか。
俺たちはライトで照らしながら先へと進んだ。
そしてようやく通路の出口とも言える扉に辿り着いた。
ゆっくりと扉を開けると幾つもの柱が立っており、その中心に大きな鏡が置かれているだけだった。
他に通路は無いかと思い周辺を捜索してみるが、何も無い。やはりあるのは鏡だけだ。
「それにしてもこの鏡はなんなんだ?」
「俺が知るわけ無いだろ。アインはどうだ?」
「私の中に鏡に関するデータはありませんね。と言うよりもこの鏡がなんなのかも分かりません」
「そうか」
こんな一番奥に置かれた鏡がただの鏡なわけがない。
俺たちはこの部屋に入った瞬間から感じていた。
だがどうするか。この鏡を持ち帰るのは簡単だ。俺のアイテムボックスに収納すれば良いだけの話なんだからな。
だけどこれで終わりと言うのはなんだか拍子抜けだ。どうして軍人や冒険者たちが死んだのかそれすらも謎のままなんだからな。
『っ!』
突然鏡が強烈な光を放つ。
な、なんだ!
俺たちは警戒して身構えるが、あまりにも強烈な発光に片手で視界を覆うことしか出来なかった。
しかし不可思議な発光現象は数秒で治まるとまたしても普通の鏡に戻っていた。
「いったい何だったんだ?」
別に指定した問いかけじゃない。
独り言に近い呟きだ。だけど誰かが俺の呟きに答えてくれるものだと思っていた。しかし誰も答えてはくれなかった。
そんな事もあるだろう。と思いながらメンバーに視線を向けると何故か全員が驚愕の表情を浮かべながら鏡を凝視していた。
「お、おい。どうしたんだよ」
「師匠……それに陽宵……」
は?影光、お前は何を言ってるんだ?
「創造主様……」
おい、アインもかよ。
「いったいお前らどうした――って!」
信じられなかった。
現実じゃ無いのかと思った。
だが現実だ。
今、目の前の鏡に映る1人の女性。
白銀の長髪を煌かせ、蒼月のような瞳。
俺よりも少し身長が高く、完璧なプロポーションの女。
その女は俺にとって師匠であり、主人であり、そして――
鏡の中の彼女が堂々とした態度で笑みを零す。
俺はその瞬間気づいてしまった。
この鏡がなんなのか。と言うことに。
だからこそ俺は拳を強く握り締め、鏡を殴って破壊した。
『なっ!?』
俺が鏡を破壊した事に影光たちは驚いていた。
ま、無理も無いか。だがこの鏡は存在して良い物じゃない。他人の人生の歩みを阻む代物だ。邪魔物だ。
「お、おい仁!何故壊した!」
「お前らが何を見たかなんてどうでもいい。ただお前らは一生この鏡の前で生活するつもりか」
そんな俺の言葉に全員が下を向く。
「俺たちは冒険者だ。依頼を受け、依頼をこなし、達成する。それだけだ。そんな人生に鏡如き邪魔されてたまるかよ」
誰も返事をしようとしない。別に求めているわけじゃないけど。
「ほら、もう鏡は壊れた。さっさと別の場所を探索するぞ」
あの鏡の正式名称は知らない。ただあの鏡が心の底から一番会いたがっている人物を映し出す鏡だと言う事だけは分かった。
だがそれは生きている俺たちからしてみれば、甘美な匂いを放つ麻薬と同じだ。
そんな下らない物に囚われたりはしない。なんせ俺たちは生きているんだからな。
俺たちは踵を返して部屋から出て行く。
俺はその部屋の扉を閉め終わる僅かな隙間から鏡があった場所に視線を向けた。
鏡を壊す瞬間、聞こえた気がしたんだ。
師匠であり、主人であったエレンの声が、
――ああ、それで良い。
って満足げに呟く声が。
完全に閉じた俺は影光たちに視線を向けた。
「それじゃ、戻ってもう一度探索だ」
そんな俺の言葉に誰もが笑みを浮かべた。
ここに居る奴らの大半が辛い人生を経験しているだろう。だがそれを語ろうとも聞こうとも思わない。
ただ俺たちは冒険者として依頼をこなすだけだ。
通路を戻り蠍たちを全滅させたフロアに戻ってきた俺たちは徹底的に探索を開始する。
だがやはり遺跡に関するような物は何も無かった。と言うよりも死体も無い。
それが不思議でならない。土に埋めれば確かに虫や微生物が分解してくれる。だが石で出来たこの床では骨まで分解することは難しいだろう。
いったいどれだけの年月が過ぎたのかは分からないが、それでも無いのはおかしい。
「ジンさん何もありませんよ」
「だな。一旦戻るか」
俺の指示で全員が階段を上る。
階段を上り終え、ようやく最初のフロアへと戻ってきた。ああ、これからまた長い階段を上るのか。
そう思うとやはり憂鬱だ。
「だけど皇帝陛下にはどう説明するんだ?」
「ありのままを話すしかないだろ。何もありませんでしたって」
「正確に言うのであれば、あったけど壊しましたが正解です」
「うるせぇ」
確かに今思えばあの鏡を割ったのは失敗だった。まったく感情に素直な自分が恨めしいぜ。
そう思いながらフロアの中心あたりにまで来たときだった。
『っ!』
全員がその場で止まり周囲を警戒する。
「影光、気が付いたか?」
「ああ、これの気配。只者じゃないぞ」
「魔力も凄まじいです。これほどの魔力。最初に出会ったころのマスターと同じぐらいあります」
なるほどだからヘレンやグリードたちも気づいたわけか。
物凄い殺気を感じるのに姿が見えない。
どこだ?
俺は気配感知を密にして探す。
「っ!上だ!」
俺がそう叫ぶと全員の視線が上を向く。
ライトで照らされたのは体長40メートルはあるであろう巨大な蜥蜴が俺たちを見据えていた。
ヤバい目が合った。
そう思った瞬間、巨大な蜥蜴は下りてきた。
「散開!」
俺の言葉と同時に全員が走り出す。
空中で体の向きを変えた蜥蜴は地面を揺らしながら着地する。
ったくなんて野郎だ。
いや、それよりもだ。
「全員、無事か!」
「拙者は無事だ!」
「私もです」
「私も平気なのだ!」
「き、奇跡的に生きています!」
「私も平気だぜ!」
「俺も大丈夫」
銀は俺の隣に居るし大丈夫だな。
だけどこれでようやく理解できた。
「どうやらこいつが冒険者や軍人たちを食べた張本人だな」
ったくまさか犯人の正体がこんな奴だったとはな。
「仁、あの蜥蜴の背中を見てみろ!」
暗くて影光は見えないが気配でなんとか分かるな。
それよりもあの蜥蜴の背中だと。
「誰か奴の背中を照らしてくれ」
そんな俺の指示にライトを持つ誰か、いや気配を感じないからきっとアインが照らしてくれたんだろう。
アインに照らされたトカゲの背中には、歪な骨格をしたスケルトンが一体居た。
そして良く見ると奴の右腕の肘から先がなくなっていた。
「なるほど、アイツが例の右腕の持ち主か」
「どうやらそのようだの」
しかし、籠手だと思っていたが、まさか本当は骨だったとは思いもしなかったぜ。
そう思うと思わず冷や汗が流れ落ちる。
「ジ、ジンさん、これからどうするんですか!」
「決まってるだろ。こいつを倒すしかないだろ!」
「やっぱりそうですよね」
グリード、死にたくないなら泣き言を言うんじゃない。戦わないといけない時だぜ。
そう思いながら俺は指示を出す。
「陣形は最悪だが、ポジションは決めた通りだ。前衛が近づき攻撃、後衛は味方の支援をしつつ、攻撃」
『了解!』
「行くぞ!」
『おう!』
俺の合図と同時にフリーダム初めての実戦が開始された。
暗く視界も悪い状態での戦闘になるとは思っていなかったけどな。
「銀、お前も普段の姿に戻って魔法攻撃だ」
「ガウッ!」
俺がそう言うと直ぐに4メートル近くまで大きくなり魔法で攻撃する。まったくまた成長しているな。
だけどこれで前衛4人、後衛4人になったぜ。ま、正確に言うのなら。後衛は2人と1機と1匹だけど。まぁどうでも良いか。
俺は頭を切り替え5%まで力を開放する。
「行くぜ、おらっ!」
地面を蹴って接近した俺は蜥蜴の左顎辺りを思いっきり殴り飛ばす。
攻撃を食らった蜥蜴野郎は確かに吹き飛んだが、10メートルほど動いただけだった。
やっぱりこの巨体になるとそうそう動かないか。
それにどうやら上にのる操縦者の力で強化されているようだしな。
俺たちは階段を下りて確実に死んだか確かめる。
「どうやら死んでいるようだな」
俺の呟きにメンバーから安堵の溜息が漏れる。ま、気持ちは分かるぜ。なんせこんな大きな蠍に襲われるなんて嫌だもんな。
「アインたちは弾薬の方はどうだ?」
「他の銃は使ってませんから、弾薬の心配はありまえんが、魔導軽機関銃の弾薬は残り100発と言ったところですね」
「私は問題ないぜ。元々多く持ち歩いているからな」
「俺はあと150発。それが無くなったら終わる」
「そうか」
クレイヴは狙撃手だ。それなのにまだ150発もあるなら十分だと言えるか。
前衛の俺たちが消費した物と言えば魔力と体力ぐらいだ。あとは俺のパチンコ玉ぐらいか。でもまだ1000発はあるから余裕だな。
俺たちは蠍の死骸の中を進み先ほどの甲冑の傍まで向かう。
するとアインが甲冑を調べ何かを取り出し俺たちに見せる。
「これが甲冑を動かしていた正体です」
「虫の死骸?」
「はい。この虫、いえ、魔物の名前は魔蟲。虫などの死骸に多くの魔力が宿ることで活動する魔物です」
「それってゾンビみたいなものか?」
「そうです」
なるほど道理で気配が感じられないわけだ。死体に気配はない。ただ意志ある死体は別だ。リッチーなんかがそうだ。
つまり魂無き敵からは気配が感じられないと言う事だ。
「それじゃ一旦休憩したら、探索開始だ」
俺たちは階段まで戻り休憩する。ここなら魔物に襲われる事は無いからな。ま、もう居ないだろうけど。
それにしても面倒な遺跡だな。
軍人や冒険者の血痕や武器が転がっているかと思えば敵は居ないし、階段を下りれば大量の蠍に襲われるし。もう嫌だ。帰って寝たい。
「アリサ、一本くれ」
「吸うのか?」
「吸わないとやってられないからな」
俺はアリサから煙草を貰って火を点す。
前世でも煙草は吸っていたから抵抗はないが、やっぱり最初は少し咽る。
それでも懐かしい感覚だ。
休憩を終えた俺たちは立ち上がり先へと進む。
分かった事といえば、ここは俺たちの最終目的地じゃないって事だ。
探索を進めていると今度は大きな扉の前に辿り着く。
その扉を開けると先が見えないほどの長い通路が待ち構えていた。
「今度は歩くのか」
誰かがそうボヤく。
その気持ちは分かるが言わないでくれ。
そう思いながら俺たちは先へと進む。
罠でも仕掛けられているかもしれないと思い警戒しながら進んだが何も起こらないまま、俺たちは二手に分かれる分岐に辿り着いた。
「それでどっちに行くんだ?」
影光がそう聞いてくるが正直分からない。
こういう時はただ一つ。
俺はコインを取り出して指で弾く。
それを手の甲で受け止める。
「表なら右、裏なら左だ」
「なんとも不安しかない決め方だな」
「適当すぎますね」
「不安なのだ」
「こ、怖いですね」
「ジンの旦那、私が言うのもなんだが、もう少し真剣に決めようぜ」
「天国か、地獄か」
お前ら好き勝手に言うんじゃねぇよ。
で、結果は裏だった。
「よし、左だな」
そんな俺の言葉に後ろから嘆息する声が聞こえてくる。
まったく酷い連中だな。
そんなこんなで俺たちは左の通路へと進む。
で、進むこと5分。
俺たちの右側に別の通路があった。と言うよりも分岐が終わったような場所に出た。
「どうやら右から行こうと、左から行こうと出口は同じだったようですね」
「なんだよそれ!」
アインの言葉に俺は思わず叫ぶ。
だってそうだろ。どっちからでも行き先が同じならあんなに悩む必要も俺のスーパーアイディアを披露することも無かったんだぞ。
でもここで苛立っていても仕方が無い。さっさと先に進むとするか。
俺たちはライトで照らしながら先へと進んだ。
そしてようやく通路の出口とも言える扉に辿り着いた。
ゆっくりと扉を開けると幾つもの柱が立っており、その中心に大きな鏡が置かれているだけだった。
他に通路は無いかと思い周辺を捜索してみるが、何も無い。やはりあるのは鏡だけだ。
「それにしてもこの鏡はなんなんだ?」
「俺が知るわけ無いだろ。アインはどうだ?」
「私の中に鏡に関するデータはありませんね。と言うよりもこの鏡がなんなのかも分かりません」
「そうか」
こんな一番奥に置かれた鏡がただの鏡なわけがない。
俺たちはこの部屋に入った瞬間から感じていた。
だがどうするか。この鏡を持ち帰るのは簡単だ。俺のアイテムボックスに収納すれば良いだけの話なんだからな。
だけどこれで終わりと言うのはなんだか拍子抜けだ。どうして軍人や冒険者たちが死んだのかそれすらも謎のままなんだからな。
『っ!』
突然鏡が強烈な光を放つ。
な、なんだ!
俺たちは警戒して身構えるが、あまりにも強烈な発光に片手で視界を覆うことしか出来なかった。
しかし不可思議な発光現象は数秒で治まるとまたしても普通の鏡に戻っていた。
「いったい何だったんだ?」
別に指定した問いかけじゃない。
独り言に近い呟きだ。だけど誰かが俺の呟きに答えてくれるものだと思っていた。しかし誰も答えてはくれなかった。
そんな事もあるだろう。と思いながらメンバーに視線を向けると何故か全員が驚愕の表情を浮かべながら鏡を凝視していた。
「お、おい。どうしたんだよ」
「師匠……それに陽宵……」
は?影光、お前は何を言ってるんだ?
「創造主様……」
おい、アインもかよ。
「いったいお前らどうした――って!」
信じられなかった。
現実じゃ無いのかと思った。
だが現実だ。
今、目の前の鏡に映る1人の女性。
白銀の長髪を煌かせ、蒼月のような瞳。
俺よりも少し身長が高く、完璧なプロポーションの女。
その女は俺にとって師匠であり、主人であり、そして――
鏡の中の彼女が堂々とした態度で笑みを零す。
俺はその瞬間気づいてしまった。
この鏡がなんなのか。と言うことに。
だからこそ俺は拳を強く握り締め、鏡を殴って破壊した。
『なっ!?』
俺が鏡を破壊した事に影光たちは驚いていた。
ま、無理も無いか。だがこの鏡は存在して良い物じゃない。他人の人生の歩みを阻む代物だ。邪魔物だ。
「お、おい仁!何故壊した!」
「お前らが何を見たかなんてどうでもいい。ただお前らは一生この鏡の前で生活するつもりか」
そんな俺の言葉に全員が下を向く。
「俺たちは冒険者だ。依頼を受け、依頼をこなし、達成する。それだけだ。そんな人生に鏡如き邪魔されてたまるかよ」
誰も返事をしようとしない。別に求めているわけじゃないけど。
「ほら、もう鏡は壊れた。さっさと別の場所を探索するぞ」
あの鏡の正式名称は知らない。ただあの鏡が心の底から一番会いたがっている人物を映し出す鏡だと言う事だけは分かった。
だがそれは生きている俺たちからしてみれば、甘美な匂いを放つ麻薬と同じだ。
そんな下らない物に囚われたりはしない。なんせ俺たちは生きているんだからな。
俺たちは踵を返して部屋から出て行く。
俺はその部屋の扉を閉め終わる僅かな隙間から鏡があった場所に視線を向けた。
鏡を壊す瞬間、聞こえた気がしたんだ。
師匠であり、主人であったエレンの声が、
――ああ、それで良い。
って満足げに呟く声が。
完全に閉じた俺は影光たちに視線を向けた。
「それじゃ、戻ってもう一度探索だ」
そんな俺の言葉に誰もが笑みを浮かべた。
ここに居る奴らの大半が辛い人生を経験しているだろう。だがそれを語ろうとも聞こうとも思わない。
ただ俺たちは冒険者として依頼をこなすだけだ。
通路を戻り蠍たちを全滅させたフロアに戻ってきた俺たちは徹底的に探索を開始する。
だがやはり遺跡に関するような物は何も無かった。と言うよりも死体も無い。
それが不思議でならない。土に埋めれば確かに虫や微生物が分解してくれる。だが石で出来たこの床では骨まで分解することは難しいだろう。
いったいどれだけの年月が過ぎたのかは分からないが、それでも無いのはおかしい。
「ジンさん何もありませんよ」
「だな。一旦戻るか」
俺の指示で全員が階段を上る。
階段を上り終え、ようやく最初のフロアへと戻ってきた。ああ、これからまた長い階段を上るのか。
そう思うとやはり憂鬱だ。
「だけど皇帝陛下にはどう説明するんだ?」
「ありのままを話すしかないだろ。何もありませんでしたって」
「正確に言うのであれば、あったけど壊しましたが正解です」
「うるせぇ」
確かに今思えばあの鏡を割ったのは失敗だった。まったく感情に素直な自分が恨めしいぜ。
そう思いながらフロアの中心あたりにまで来たときだった。
『っ!』
全員がその場で止まり周囲を警戒する。
「影光、気が付いたか?」
「ああ、これの気配。只者じゃないぞ」
「魔力も凄まじいです。これほどの魔力。最初に出会ったころのマスターと同じぐらいあります」
なるほどだからヘレンやグリードたちも気づいたわけか。
物凄い殺気を感じるのに姿が見えない。
どこだ?
俺は気配感知を密にして探す。
「っ!上だ!」
俺がそう叫ぶと全員の視線が上を向く。
ライトで照らされたのは体長40メートルはあるであろう巨大な蜥蜴が俺たちを見据えていた。
ヤバい目が合った。
そう思った瞬間、巨大な蜥蜴は下りてきた。
「散開!」
俺の言葉と同時に全員が走り出す。
空中で体の向きを変えた蜥蜴は地面を揺らしながら着地する。
ったくなんて野郎だ。
いや、それよりもだ。
「全員、無事か!」
「拙者は無事だ!」
「私もです」
「私も平気なのだ!」
「き、奇跡的に生きています!」
「私も平気だぜ!」
「俺も大丈夫」
銀は俺の隣に居るし大丈夫だな。
だけどこれでようやく理解できた。
「どうやらこいつが冒険者や軍人たちを食べた張本人だな」
ったくまさか犯人の正体がこんな奴だったとはな。
「仁、あの蜥蜴の背中を見てみろ!」
暗くて影光は見えないが気配でなんとか分かるな。
それよりもあの蜥蜴の背中だと。
「誰か奴の背中を照らしてくれ」
そんな俺の指示にライトを持つ誰か、いや気配を感じないからきっとアインが照らしてくれたんだろう。
アインに照らされたトカゲの背中には、歪な骨格をしたスケルトンが一体居た。
そして良く見ると奴の右腕の肘から先がなくなっていた。
「なるほど、アイツが例の右腕の持ち主か」
「どうやらそのようだの」
しかし、籠手だと思っていたが、まさか本当は骨だったとは思いもしなかったぜ。
そう思うと思わず冷や汗が流れ落ちる。
「ジ、ジンさん、これからどうするんですか!」
「決まってるだろ。こいつを倒すしかないだろ!」
「やっぱりそうですよね」
グリード、死にたくないなら泣き言を言うんじゃない。戦わないといけない時だぜ。
そう思いながら俺は指示を出す。
「陣形は最悪だが、ポジションは決めた通りだ。前衛が近づき攻撃、後衛は味方の支援をしつつ、攻撃」
『了解!』
「行くぞ!」
『おう!』
俺の合図と同時にフリーダム初めての実戦が開始された。
暗く視界も悪い状態での戦闘になるとは思っていなかったけどな。
「銀、お前も普段の姿に戻って魔法攻撃だ」
「ガウッ!」
俺がそう言うと直ぐに4メートル近くまで大きくなり魔法で攻撃する。まったくまた成長しているな。
だけどこれで前衛4人、後衛4人になったぜ。ま、正確に言うのなら。後衛は2人と1機と1匹だけど。まぁどうでも良いか。
俺は頭を切り替え5%まで力を開放する。
「行くぜ、おらっ!」
地面を蹴って接近した俺は蜥蜴の左顎辺りを思いっきり殴り飛ばす。
攻撃を食らった蜥蜴野郎は確かに吹き飛んだが、10メートルほど動いただけだった。
やっぱりこの巨体になるとそうそう動かないか。
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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