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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第九十四話 遺跡探索 ②

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 さて、グリードにおめでとうって言って来るか。
 そう思って歩き始めると、観戦していた冒険者たちから凄いワードが聞こえてきた。

「な、なんて迫力なんだよ……」
「あれが本当にグリードかよ」
「誰だよ、弱虫グリードなんて言った馬鹿は」
 グリードってそんなあだ名が付いていたのか。
 ま、確かにアイツの性格を考えれば無理も無いか。

「だけど今の戦いを見たらどうみても……」
「ああ、あれは『戦鬼』だ」
「間違いない、あれは戦鬼だ!」
 その瞬間、グリードの二つ名が決まり、一日で沢山の冒険者たちに戦鬼と言う二つ名が広まることとなった。
 良かったなグリード、カッコいい二つ名が貰えて。ま、冒険者組合から正式に発表された二つ名じゃないから名乗る事は出来ないけど。
 そんな事を思いながら俺たちはグリードの許へと向かった。

「よ、グリード」
「あ、ジンさん」
 俺に気付いたグリードが振り向いて俺の名を呼ぶ。なんでどことなく疲れてるんだ。戦わずして勝ったってのに。もしかして緊張が解けて安堵しているのか?まったく相変わらずメンタルの弱い。ま、そこがグリードらしいっちゃらしいけど。

「よくやった。これでお前は正式にBランク冒険者だ」
「はい!」
 そんな俺の言葉にグリードは辛い訓練を生き抜いたかのような達成感に満ち溢れた表情をしていた。
 そこまで酷い事をした覚えはないんだがな。
 ま、結果的にグリードがBランクになったんだから別に良いか。
 そう思いながら俺たちは受付でグリードの冒険者免許書を更新してホームに戻っていった。


 11月26日月曜日。
 グリードがBランクに昇格して2日後俺たちは皇宮に再び来ていた。
 本当なら昨日行っても良かったが、日曜日は主に休日にしていると言う事だったので行かなかった。と言うよりもさすがに1日ぐらいグリードに休みを与えてあげたかった。
 部下の体調管理をするのもギルドマスターの勤めだからな。
 そんなわけで冒険者の最低ランクがBとなったフリーダムはこうしてボルキュス陛下の前に姿を見せたってわけ。

「まさか本当に1週間でDランクからBランクにまで昇格させるとは思わなかったぞ」
「グリードが頑張ったからな」
 泣き言を口にしながらも一生懸命に魔物を屠ってた記憶は未だに頭に残ってる。
 3メートル強の巨体で強面のグリードが泣き言を口にする光景はなんとも言えない違和感を感じさせた。

「あの程度でへばっていては今後、フリーダムではやっていけません」
「ま、及第点と言ったところだの」
「あはははは………」
 フリーダム実力ナンバー2とナンバー3の辛口なコメントにグリードから乾いた笑いが漏れていた。ま、俺も本音を言うとあれぐらい平然とこなして貰わなければ困る。
 なんせ、フリーダムはまだ出来たばかりで人数も少ないから、1人1人の実力が重要視されるからな。
 あ、因みにナンバー2はアインでナンバー3が影光だ。
 理由としてはアインは保有している魔力量を増やせばもっと強くなるからだ。
 ま、それには銀の魔力が必要なわけだが、今のところそれが必要な事件は起きていないので気にすることもないだろう。

「まさに少数精鋭だな」
 ボルキュス陛下も呆気にとられたのか、頬を軽く引きつらせたような笑みを浮かべていた。
 さてそれよりも今は本題だ。

「さて全員がBランク以上になったから改めてこの依頼を引き受けるが場所は何処だ?」
「場所は帝都から西南に1600キロの場所にある」
「西南に1600キロだと」
 そんなボルキュスの言葉にアリサが顔を顰めるようにして反応する。

「アリサなにか知っているのか?」
 隣のソファーに座るアリサに視線を向けて問う。

「ボルキュス陛下が言っている場所はスメルティス砂漠のことだ。あそこはいつも渦を巻くように強風吹き荒れ、Bランク以上の魔物が生息している。だからまともに進むのも困難な場所だ」
「彼女の言うとおりだ。その砂漠の中心に今回の依頼で調べて欲しい遺跡がある」
 おいおいマジかよ。ってそんな場所に町があること自体不思議なんだが、どういうことだ?

「今回の依頼はAランクとなってはいるが実際はSランク以上の依頼と言っても過言ではない依頼だ。だから必要な物資などがあれば言って欲しい。それと遺跡に向かう前に現地の村に寄るようにしてくれ。あそこに私の部下を待機させている。その者に遺跡までの道案内をするようにと命令してあるからな」
「分かった。なら明後日には出発する事にする」
 こうして俺たちはさっそく準備に取り掛かる事にした。


 11月28日水曜日。
 俺たちはプロペラ機に乗って目的地であるスメルティス砂漠に向かっていた。
 正確に言うのであればスメルティス砂漠にある村と言うべきだろう。
 帝都から途中までは車で移動し、そこからプロペラ機に乗り換えて移動しているわけだが、なんとも遅い。
 ま、プロペラ機に乗れる機会なんてそうそうないから、堪能でもしておくか。

「スメルティス砂漠が見えてきたぜ」
 機長の声に俺たちは全員の視線が前方へと向けられる。
 そこはまるで暴風で護られた自然の要塞と言うべき場所だった。
 その証拠に周辺の木々に砂を被った形跡がない。
 いったいどうすればこんな事が出来るのか謎だ。
 いや、それよりもだ。
 俺たちは今からこの暴風の中に入るわけだが、

「大丈夫なのか?」
「見た目はおんぼろだが、嵐の中だって飛んだこともある機体だ。墜落する事はねぇから安心しろ」
 とても不安だ。
 そんな俺の気持ちなど無視するようにプロペラ機は砂塵が吹き荒れる暴風の中へと突っ込んでいった。
 その瞬間機体は上下左右にと揺れる。

「お、おい!本当に大丈夫なんだろうな!」
「安心しろ!操縦をミスったとしてもこの暴風だ。そうそう墜落することはねぇだろうよ!」
「安心できるか!」
 墜落するよりもっと悪い。
 俺たちは無事に目的地の村に到着する事を祈る事しか出来ないまま、時間は過ぎていった。

「目的地に着いたぜ」
「あ、ああ。そうだな」
 どうにか無事に到着した俺たちの大半は顔を真っ青にしていた。
 完全に酔った。気持ち悪い。
 唯一酔ってないとすればアインぐらいだろう。それ以外のメンバー全員が口元を抑えたり、我慢できずにプロペラ機から慌てて降りて外でリバースしていた。
 俺は吐くほどでは無いけど少し酔った。正直今日はもうベッドで横になりたい。
 スカーフで顔を覆った俺たちは外に出る。
 吹き荒れる暴風で3メートル先がまったく見えない。仲間と逸れたら完全に迷子になるな。
 そう思っていると1人の男が俺たちの前に姿を現した。

「君たちがボルキュス陛下から依頼を受けた冒険者だね」
「そうだ。で、お前は?」
「おっと名乗るのがまだだったね」
 そう言うと男は暴風の中、背筋を伸ばして俺たちに敬礼をする。

「自分は帝国陸軍、スタム・アシュタリー少尉であります。よろしくね」
 砂嵐でまともに立っているのも辛い場所で姿勢を正して見事な敬礼で挨拶をすると、敬礼した右手を突き出して握手を求めて来た。
 俺はそんなスタムの要望に応えるように握手をしながら自己紹介をする。

「俺は鬼瓦仁。仁と呼んでくれ。でこっちが同じギルドメンバーの――」
「藤堂影光だ。頭が痛い……」
「アインです」
「ヘレンなのだ……フラフラするのだ……」
「グ、グリードです!吐きそうです……」
「クレイヴ。気持ち悪い……」
「アリサだ。よろし――うぷっ!」
 俺の後に続くようにして全員が挨拶を交わすが、真面に挨拶が出来たのはアインぐらいで他の連中はフラついたり、我慢できずに慌てて少し離れた場所で吐いていた。

「それじゃ遺跡について説明したいところだけど、まずは休める場所に移動しようか」
 悲惨な俺たちの体調を見て嬉しい提案をしてくれる。

「それは助かる」
 スタムの案内で俺たちは移動を開始する。
 少し進んだところにコンクリートで作られた入り口のような場所があった。
 スタムが扉を開けると地下に続く階段があった。
 どうやらここの村人たちは地下に住みかを作っているようだ。
 そう思いながら俺たちは地下に降りる。
 階段を折り終わるとそこは広い空間が広がっており、コンクリートで出来た建物が並んでいた。

「ようこそ、スメルティス村へ」
 砂漠の名前からそのまんま名前を貰った村にやって来た俺たちはスタムが住んでいるであろう家の中で休ませて貰う。
 まともに話を聞けるのはアインぐらいだ。
 俺も聞こうと思えば聞けるが3時間ほど寝かせて欲しい。
 スタムにそう伝えると部屋の奥に複数の二段ベッドが置かれていた。
 どうやらこの建物は簡易の軍の宿泊施設として使われているようだ。
 しかし見たところここにはスタムしかいない。他の仲間について聞きたいが、スタムの表情からしてあまり聞かない方が良いだろう。
 ま、そんなわけで今は使われていないベッドに横になって俺たちは休憩する。
 3時間ほどしてどうにか体調が戻った俺はアインと一緒にスタムから話を聞くことにした。
 他のメンバーはまだ気分が優れないのか寝ていた。

「それで俺たちが向かう遺跡ってどんな場所なんだ?」
「遺跡はこの村から西北西を20キロ進んだところにあるんだ。僕はその遺跡までの案内役としてずっとここにいる」
 ずっとってこんな村に1人で居るのか。さぞ寂しかっただろうに。
 そんな事を思いながら俺は出された水を飲む。この村で水は貴重だ。そのため出された水も少し濁っていたが、飲めないことはない。

「前にも探索部隊を案内したけど帰ってきたのは1人だけ。その1人も今じゃこの世にはいない」
 どことなく残念そうに語るスタム。
 あの変な腕を持ち帰った軍人の事か。

「だけどここ最近になって村周辺で死んだはずの軍人や冒険者たちを目撃する事が多くなった。それもゾンビ……いや、グールになってね」
 そこら辺はボルキュス陛下から聞いた話と一緒のようだな。

「この村の人たちはずっと昔から地下に住んでいるから被害が出たことはないけど、このままだとこの村にも入り込む危険性だってある。だからお願いだ。どうかその原因を見つけ出し潰して欲しい!」
 この村に長い事駐屯しているせいなのか、この国の軍人だからなのかは分からないが、頭を下げ頼み込んで来る。

「別にそれは構わないが、俺たちは遺跡の探索が目的なんだ。原因を見つけ出して潰しと欲しいと言われても、その原因とやらがどんなものなのか分からないと潰しようがないんだが」
 村人たちに危険が迫っている事に気が急くのは分かるが、もう少し冷静になって貰いたい。

「それもそうだね。ならジンたちに聞くけど。この砂漠を外から見た時どう思った?」
「どうって暴風によって護られた要塞だと思ったとしか言えないが」
「そうなんだよ!でも自然現象でこんな事はありえない!それも何故かあの遺跡を中心にこの砂嵐、いや渦は出来ているんだ。その証拠に遺跡を中心に半径500メートルはいっさい風が吹いていない。まるで台風の目のようにね」
 スタムの話を聞いて俺はある仮説が生まれた。だが正直信じられない。だが信じるしかないだろう。なんせあの気まぐれ島でも似た現象が毎日のように起きていたんだからな。

「つまりスタムは地上で吹き荒れている砂嵐。いや、固定された台風は遺跡が原因だと言いたいんだな」
「その通りさ。だからきっとグールもまた奇跡にその秘密が隠されていると思うんだ」
 根拠と呼ぶには関係性が薄いが遺跡探索に向かって死んだはずの冒険者や軍人がグールになって戻って来たとなれば、怪しいと結論付けても無理はない……か。
 それにどうせ遺跡探索のために向かうんだし、ついでに調べたところでさほど手間でもないしな。

「分かった。調べてみるとしよう」
「ありがとう!」
 俺が了承すると嬉々としてお礼を口にする。それだけ焦っていたって事なんだろう。

「さて、遺跡探索は明日からで構わないか?」
「ああ、それで問題ない」
 話を終えた俺とアインは影光たちが寝ている部屋に戻る。
 俺は気になった事をアインに聞いてみる。

「今回の遺跡、レグウェス帝国の遺産だと思うか?」
「それは遺跡そのものを見てみなければ分かりません。ですが先ほどの話を聞く限りでは高確率で違うと言えます」
「その理由は?」
「レグウェス帝国でも気象を操る機械の開発はされていましたが、これほど長時間の砂嵐を生み出せる物を作り上げた事はありません。あの男はここに住む住人たちは昔から地下で住んでいると言っていました。となると最低でも200年以上の時が流れている事になります。ですから違うと言えます。ただし、造った機械が暴走しているのであれば話は別ですけど」
「なるほどな」
 アインの話を聞く限り今回の遺跡はレグウェス帝国が作った物じゃなさそうだ。
 となると神々が創った物?いや、それこそ考えにくいがやはり行って確かめるしかないだろう。

「ならグールを人工的に生み出す技術はあったのか?」
「グールを生み出す事は可能です。レグウェス帝国は人工的に作り出したグールを街や村に放って攻撃してましたからね」
「そ、そうか」
 アインは平然と戦時中にレグウェス帝国が行っていた作戦を口にする。なんて恐ろしい方法だ。いや、世界征服を目指していたレグウェス帝国だ。それぐらいの事をしてもおかしくはないか。
 それにしても道徳や倫理なんかお構いなしに色々な事をしてるな。
 結局これ以上は話しても推測しか生まれない。やっぱり行って確かめるしかないと言う事なんだろう。
 その後俺は再びベッドに横になって寝ることにした。
 正直ベッド硬くて寝心地は良いとは言えないが、気まぐれ島での生活を思い返してみればまだ楽だと言えたので直ぐに寝ることが出来た。
 目を覚ましたら影光たちに説明して向かうとするか。
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