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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第八十九話 強くなるための理由

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「ヘレンだってそうだ。アイツは元気な振る舞いをしてはいるが、辛い過去を持っている。ヘレンが持つ魔眼は知っているか?」
「は、はい。偶然ジンさんたちが話していたのを聞いてしまって」
 訓練所での時か?ま、今はどうでも良いか。

「ヘレンはその魔眼のせいで周囲から恐れられ嫌われてきた。それは血の繋がった家族からもだ。何度も両親が差し向けてきた刺客と戦い生き抜いてきた。それは生きたいって心の底から想ったからだ。そしてアイツは強くなり今はこうして俺たちと出会い同じ仲間になっている」
「す、凄いですね。あんなに若いのに」
「言っておくがヘレンは22歳だぞ」
「え!?」
 あ、やっぱり知らなかったんだな。ま、無理もないか。

「影光が強くなった理由は知らない。だが奴にも強い信念がある。その信念のために強くなった」
「そじゃジンさんは?」
「俺か?俺が強くなった理由は理不尽な運命に逆らうためだ」
「理不尽な運命ですか?」
「そうだ。俺は魔力が無い」
 そんな俺の言葉にグリードは大き目を見開けた。

「え!?それって1億人に1人と言われている!」
「ああ、そうだ。その理不尽な運命に逆らうために俺は強くなった。そしてある程度強くなった俺は好きな事のために使うって決めた」
「好きな事のためにですか。でもそれって暴力なんじゃ」
「別に好き勝手暴れるために使うわけじゃねぇよ。その証拠に冒険者として生きてるだろ?」
「そうですね」
「誰だって最初から強かったわけじゃない。それぞれがそれぞれの意志、信念で強くなった。だが今、俺たちフリーダムのメンバーには同じ共通の強い意志がる。それは何か分かるか?」
 そんな俺の質問にグリードは考える。そうだ。よく考えろ。

「………お金が欲しいですか?」
「あはははっ、確かにそれもある。だが違う。俺たちフリーダムのギルドメンバーに共通している強い意志。それは仲間を絶対に見捨てない、守りたいって気持ちだ」
「見捨てない、守りたい。気持ち……」
「ああ、そうだ。想像してみろ。もしもこのオーガを見逃して放置していたら、コイツはもしかしたら俺たちでも倒せないほど強くなるかもしれない。そうなった時きっと俺は後悔する。もしも倒せたとしても仲間が負傷するかもしれない。もしかしたら仲間じゃなく友人が殺されるかもしれない。俺はそれだけは絶対に嫌だ。だから俺は敵を前にしたら容赦無く倒す。そう決めている。グリード、お前はどうだ?」
 そんな俺の質問にグリードは目を瞑り考える。そうだ想像しろ。最悪な状況を。吐き気や嫌気、怒りに憎しみを覚えるほどの最悪の惨劇を。

「……戦うのは恐いです」
「俺だって最初はそうだったさ」
 ま、今は恐怖する事なんて早々ないけどな。
 恐いのは分からないからだ。相手がどれだけ強いのか分からないから恐いんだ。でも相手の技量が分かれば強くてもそこまで恐くは無い。

「だけど、1つだけハッキリと分かった事があります」
「なんだ?」
「僕はフリーダムの皆さんが好きです。感謝してます。そんな皆さんが傷つく姿は見たくありません!」
「ならどうすれば良い?」
「強くなります!」
「お前の目の前に強くなるための壁があるぞ。さぁどうする?」
「越えて、いえ、破壊してみせます!」
 ああ、それで良い。お前がフリーダムの誰よりも破壊力を持った冒険者だ。だからやってやれ。

「グリード、戦ってみせろ!」
「はい!」
 力強く返事をしたグリードはウォーハンマーを強く握り締めてオーガ目掛けて突撃した。
 地面を踏みつけ蹴る度に地面が陥没し抉れる。今までに見た事のない程の強い気配がグリードから溢れ出ていた。
 そうだ。その意気だ。オーガなんてお前が強くなるための踏み台でしか無いんだ。だから俺に見せてみろお前の本当の強さを!

「ぅおりゃあああああぁぁ!」
 オーガ目掛けて薙ぎ払うように放ったウォーハンマーの一撃はオーガのお腹に当たるとそのまま吹き飛ばすのではなく、腹部を抉り取った。

「マジかよ」
 その光景に俺は思わず驚きを隠せなかった。
 オーガは生命力と防御力に秀でている。そんなオーガをたった一撃でお腹を抉り取るなんてどんなけの力なんだよ。
 たった一撃で上半身と下半身がお別れしたオーガは地面の上で肉の塊と化していた。
 これまで溜め込んでいた全ての力を出し切ったんだろう。グリードは肩で息をしていた。

「グリード」
「は、はい……な、なんでしょうか?」
「よくやった」
「は、はい!」
 親指を立ててそう言うと、グリードは嬉しそうに親指を立て返してきた。
 ホブゴブリンの証拠部位である耳とオーガの角が入った袋を持ったグリードと一緒に森を抜けて冒険者組合へと向かった。オーガの肉はソコソコ美味しいのでアイテムボックスに入れている。帰ったらグリードが調理してくれるそうだ。楽しみだなぁ。
 冒険者組合へとやって来た俺たちは丁度暇そうにしているミキの許へ向かった。

「あ、ジン君久しぶりね。グリード君も元気にしてた?」
「あ、はい!」
「それで今日はどうかしたの?」
「グリードが依頼をこなしてきたから確認してもらいに来た」
「分かったわ。それで今回はどんな採取の依頼を……え!?討伐の依頼を受けたの!」
「は、はい。恐かったですけどジンさんに背中を押してもらったので」
「背中を押してもらってって。ジン君、よく押せたね」
「別に物理的意味じゃないぞ」
「冗談よ」
 まったくアイーシャと違ってミキは冗談を言わないと思っていたんだがな。
 嘆息する俺を他所にミキはグリードから手渡された袋の中身を確認する。

「確かにホブゴブリンの討伐を確認しました。それと、この角はどうみてもオーガのものなんだけどどうしたの?」
「あ、それか。偶然出くわしてな。ついでに討伐しておいた」
「偶然出くわしたからといって、ついでに倒せるような相手じゃないんだけどね。ま、ジン君だし気にしたら駄目よね」
 なんだか腑に落ちない気もするが、今は。

「そのオーガを倒したのは俺じゃなくてグリードだからな」
「え!流石にそれは嘘でしょ!」
 ミキよ、グリードの事を知っているようだがそれは酷いんじゃないか。ま、分からないでもないけど。

「事実だ。嘘だと思うんならオーガの死体を見せてやっても構わないがどうする?」
「ジン君が嘘を言うとは思えないけど、念のために確認させて貰っても良いかしら?」
「ああ、良いぞ。それでどこに出せば良いんだ?」
「こっちに来てくれる?」
 そう言って俺たちはミキの案内でとある一室でオーガを死体を見せた。
 その部屋は所謂解体所だ。冒険者たちが持ち帰った魔物の肉を解体したり皮を剥いだりとする部屋だ。
 冒険者組合はこういった解体を請け負ったり、また冒険者から買い取った魔物の肉や皮を会社などに売って利益を出している。勿論それが全てではない。と言うよりもそれは全体の利益の1割~2割程度だ。大体は依頼する人が冒険者組合で手続きした際に支払うお金や指名依頼などの仲介料などで利益を出している。
 勿論依頼内容やランクで支払うお金は変わってくるらしい。
 ミキに頼まれたであろう鑑定士がオーガの死体を確認する。ミキも鑑定士の資格を持っているようだが階級が違うそうだ。

「確かにこのオーガは強い打撃で肉を抉り取られている。それも大きなハンマーのようなものでだ。そっちの青年が倒したとは思えない」
「それじゃ、本当にグリード君が?」
「だから言っただろ」
 確認が終わった俺たちはオーガをアイテムボックスに入れて受付に戻ってきた。

「ごめんね。手間を掛けて」
「別に気にしなくて良いぜ」
 それから依頼達成の手続きとオーガを倒した事で追加報酬とポイントがグリードに与えられた。
 因みに正式な依頼でない場合の討伐は正式な依頼の報酬の半額しかお金が支払われない。出なければ冒険者の誰もが依頼の手続きなんてしなくなるからな。因みにポイントは正式な依頼より2割減る。
 報酬より減りが少ないのは人間は誰もがポイントよりもお金の方が好きだからだ。
 それにわざわざポイントのために危険な魔物と戦うような事をする奴はいないそうだ。
 それならその魔物が倒せるランクになるまで待つらしい。ま、当然だよな。
 こうしてホブゴブリンとオーガ討伐で一気にポイントが貯まりグリードはDランクに昇格した。

「ジンさんやりました!」
「ああ、これからも頑張れよ」
「はい!」
 嬉しそうに俺を見下ろすグリード。
 グリードの依頼達成報告も終わった事だし、今度は俺の番だな。

「ミキ、悪いんだが冒険者募集したいと思ってるんだ」
「え?でもジン君のところは1週間で2人も入ったよね。それでもまだ足りないの?確かに他のギルドに比べたら少ないけど、出来たばかりのギルドでこれ以上人数が増えると倒産する可能性だってあるわよ」
「ま、確かにそうなんだが。現在俺たちのギルドの大半が前衛職の奴ばかりで、後衛がアインしかいないだ」
「そ、それはアンバランスね」
「その通り。だから中距離~遠距離攻撃が出来る冒険者、もしくは回復魔法が使える奴を探してるんだ」
「なるほどね。だから募集するのね。分かったわ。ならこの冒険者募集申請用紙に記入してくれる?」
「分かった」
 俺は渡された冒険者募集申請用紙に記入していく。
 上から各内容を読んでみたが、ギルド名、ギルドマスターの名前、募集人数、募集人材要項など様々だ。
 俺はそれに記入してミキに提出した。

「入社試験は11月13日。来週の火曜日なのね」
「ま、一週間もあればある程度は集まるとギルドメンバーが言うからな」
「確か、今のギルドメンバーはグリード君、アインさん、ヘレンちゃん、カゲミツさんの4名だったよね?」
「ああ、そうだ」
「ギルドメンバー全員の平均ランクがBのフリーダムか。それにあのカゲミツさんがいるわけだし。これはもしかしたら……」
「どうかしたのか?」
「いえ、なんでもないわよ。確かに受け取ったわ。明日には冒険者専用掲示板の求人募集に載るから確認しておいてね」
「分かった」
「あ、それと掲載するのは1週間だけで良いの?」
「今のところはそのつもりだ」
「なら掲載料として1万7500RKね」
「金取るのか」
「当然よ」
 まさか思いがけない出費になったが仕方が無い。
 一日掲載で2500RKの出費だが仕方がないな。
 俺が現金で支払う。因みにこれは俺の自腹だ。これぐらい自腹で払った方がギルドのためになるからな。
 目的を全て終えた俺とグリードは冒険者組合を後にした。
 その帰路中俺はある事を思い出した。

「なぁグリード」
「なんですか?」
「来週の試験が終わったら全員で屋上の家庭菜園作りでもするか」
「良いんですか!」
「その代わり材料費はギルドの経費で落とすからな。それを賄えるだけの依頼は受けて貰うからな」
「頑張ります!」
 よし、その意気だ。

「で、今日の夕食はなんだ?」
「冷蔵庫に野菜類と魚があるので炊き込みご飯と焼き魚にでもしようかと」
「お、本当か!」
「はい」
「なら急いで帰るぞ!」
「わ、分かりました!」
 日本人にとって炊き込みご飯は日本を代表する料理と言えるだろう。そして何より俺の好物でもあるからな。
 ホームに戻るとすでに影光たちが戻っていた。
 こうしていると結構一日が終わるのは早いな。

「それで影光依頼はどうだった?」
「二度とあんな依頼は受けるつもりはない!」
「そ、そうか」
 いったい何があったのか分からないが、声音から深くは聞くなと伝わってきたので、これ以上は聞かないでおこう。それにちゃんと依頼を達成してくるあたり流石だしな。

「それでアインはどうだった?」
「楽勝ですね。私は見てるだけで終わりましたから」
「つまりは銀だけで戦ったのか?」
「はい。と言うよりも姿を現した瞬間マスターの一撃で終わりました」
 ま、実力差がハッキリしてるからな。分かりきった事か。
 次に俺はジュースを飲むヘレンに視線を向けた。

「それでヘレンはどうだったんだ?」
「依頼は達成したのだ。だけどこの力はまだ上手く扱えないのだ」
「ま、まだ訓練し始めたばかりだしな。頑張れば良いさ」
「そうするのだ!」
 ポジティブな性格で助かるな。

「皆さんご飯が出来ました」
『待ってました!』
 グリードの一言で全員が食事するテーブルへと移動した。
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