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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第八十二話 銀髪の吸血鬼少女 ⑯

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 両足で着地した俺は舞い上がる土煙の中心を見つめる。
 周りではヴァンパイアハンターたちが驚き騒いでいた。まったく油を売るぐらいなら他の吸血鬼たちを見つけて殺すか、セルケの手伝いにでも行けよ。

「いきなり壁が壊れ吸血鬼が落ちてきたかと思えば、やはり仁だったか」
「影光、それにアインも。もう外は大丈夫なのか?」
「当然。全て倒しておいたぞ」
「そうか」
 どうやら倒し終えたから中に居る吸血鬼どもを狩っていたようだ。
 臨機応変な対応が出来る仲間を持って俺は幸せ者だな。

「外だと……まさか輸送機で来ていた私兵。それも精鋭部隊40人をたった2人で殺したとでも言うのか!」
 土煙から姿を現したギルバートは凄い形相で俺たちを睨んでいた。

「あれが精鋭部隊だと運動にもならなかったぞ」
「目を瞑っても殺せるほどでした。あれが精鋭部隊とは笑わせないで下さい。あれはどうみてもただの雑兵です」
「ボルティネ家が有する私兵の中でも精鋭中の精鋭。それを雑兵だと……馬鹿にするのも大概にしろ!」
 きっと影光もアインも馬鹿にはしていない。戦いに関しては嘘を言う奴らじゃないからな。
 ただ2人にとっては吸血鬼の精鋭部隊はただの雑兵でしかなかったのだ。

「別に拙者たちは馬鹿になどしておらん。ただ実際に戦って感じた感想をそのまま言っているだけに過ぎないのだからな」
「ば、馬鹿な……下等生物風情がボルティネ家の精鋭部隊に勝てるはずがない。お、お前たちはいったい何者なんだ!」
 どうやら現実が受け入れられないようだな。ならもう一度自己紹介してやるよ。

「ギルド『フリーダム』のギルドマスター、鬼瓦仁」
「ギルド『フリーダム』所属、アイン」
「ギルド『フリーダム』所属、藤堂影光」
「で、上の会議室に居るのが最近うちに入った新メンバーのヘレンだ。覚えておけ、このクズ吸血鬼野郎」
 完璧だ。
 どこに出しても恥ずかしくない。完璧な自己紹介。こうも上手く出来るとは思わなかったな。

「それじゃ拙者たちは他の吸血鬼どもを狩って来るとしようかの」
「おう、任せた」
 そう言って影光たちは行ってしまった。俺たちって自己紹介と戦い以外は自由だよな。
 ま、それはさておき、

「いい加減、お前も顔を見せたらどうなんだヘンリエッタ」
「あら、気づいていたのですか」
「当たり前だ。あの程度でやられるお前らじゃねぇだろうが」
 ま、俺としてはあのまま死んでいたくれた方が助かったけど。

「それよりもお仲間の皆さんと一緒に戦わなくて良かったのですか?」
「お前ら程度にアイツ等の力は必要ねぇよ。俺1人で十分だ」
「へぇ……そうですか!」
 我慢できなかったのか背中に隠していた魔法拳銃ハンドガンで攻撃してくる。
 久々に魔法拳銃ハンドガンで攻撃されたな。
 そんな事を思いながら俺目掛けて飛んでくる1本の炎槍ファイアーランス。吸血鬼にしてはお粗末な魔法だ。

「ジン、気をつけるのだ!その炎槍ファイアーランスには凄まじい量の魔力が濃縮されているのだ!」
 ま、そんな事だろうと思ったよ。
 同じ魔法同士がぶつかり合った場合、勝敗を決めるのはその魔法に使用された魔力量である。
 つまり初級魔法でも大量の魔力を使用すれば上級魔法すら打ち破ることが可能なのだ。ま、魔力の無い俺にとっては関係の無い事だ。

「私の魔法で貫かれて死になさい!」
 俺には魔力が無い。だから魔法で防御する事でも出来ないし、どれだけ魔力が有しているのかも分からない。
 だた1つだけ分かっている事がある。
 俺は襲い掛かって来る炎槍ファイアーランスを左手で掴もうとした。
 その瞬間、ヘンリエッタが放った炎槍ファイアーランスは霧散した。
 どれだけ強力な魔法であろうと俺が持つ称号呪いの前では無意味だ、と言う事を。

「なっ!私の炎槍ファイアーランスが消えた!貴方いったい何をしたの!」
「別に掴んで無力化しただけだ」
「無力化ですって!私があの炎槍ファイアーランスに使用した魔力量は上級魔法を余裕で5回は放てるだけの量なのよ!どれだけ魔法防御が得意な人でも負傷は免れない量なの!それを魔力すら持たない能無し風情が防ぐどころか無力化ですって!そんなのありえないわ!」
 さっきまで気品溢れる振る舞いはまさに貴婦人と言えたが、今はただ目の前の現実を受け入れられない醜いだけの女と化していた。やはり所詮は才能に恵まれただけのプライドの塊か。哀れだな。

「ま、お前たちがどう思おうが知ったことじゃない。それよりも今度はこっちの番だぜ!」
 俺はそう叫ぶと地面を蹴ってヘンリエッタの背後に回りこんだ。
 これでまずは1人――っ!
 指突でヘンリエッタの心臓を貫こうとした瞬間、攻撃を止めて後方へ跳んだ。
 すると先ほどまで立っていた俺の場所に剣が振り下ろされた。

「危ない危ない。まさかもう俺の動きに対応出来るなんてな。さすがは貴族の吸血鬼」
「舐めるなよ下等生物が。この私は一度見た攻撃を二度も食らうわけがないだろうが」
 さすがはヘレンの両親。そう簡単に殺られはしないか。
 相変わらずの舐めきった言葉を吐くが、気配からは最初に感じられた油断が一切無い。やはり倒すなら最初の一撃の時だったな。もっと力を開放しておけば良かったのかもしれないが、あれ以上あの場で開放すると周りの連中に被害が及ぶ危険性もあったからな。
 力を解放すると波動のように一瞬だけ周囲に広がる。
 それは開放するパーセンテージが大きければ大きいほど周囲の人間に害を及ぼしてしまう。
 最悪殺してしまう恐れだってある。だからあそこであれ以上力を開放すれば味方に被害が出ていたかもしれないのだ。
 ま、ここなら周囲に仲間も居ないし、ヴァンパイアハンターたちも危険だと判断したのかある程度離れた場所に移動している。
 なら遠慮なく力を開放させた貰うとするか。

「なら、これならどうだ!」
 俺は8%まで力を解放すると地面を蹴り、ギルバートを殴り飛ばした。
 しかし、今度は防がれてしまいそこまでダメージは通っていない。
 やはり真正面からは馬鹿正直過ぎたか。
 だがこれでヘンリエッタが1人になった。
 俺はそのままヘンリエッタの懐に入り込み、鳩尾に掌底を叩き込む。

「グハッ!」
「ヘンリエッタ!」
 やはりそうか。
 この2人の武器からしてある程度予想はしていたが、ギルバートは近接タイプで、ヘンリエッタは中距離タイプだ。
 なら最初に狙うはヘンリエッタだ。
 しかしさっきギルバートに攻撃を邪魔されたからな。もしかしたらまたしても邪魔されると思って最初にギルバートを攻撃したが、正解だった。まさか真正面からの攻撃を防ぐとは思ってなかったからな。ま、それでも吹き飛ばされたからヘンリエッタに攻撃することが出来たわけだけど。

「おのれ……女を先に攻撃するとは卑怯極まりない……」
 そんなギルバートに台詞を俺は鼻で笑い飛ばす。

「何がおかしい!」
 どうやらギルバートはそれが気に食わなかったようだ。

「女を先に攻撃するのが卑怯だと。それこそ笑わせるな。戦いに卑怯もへったくれも無いんだよ。あるのは生き抜き強者となるか、死んで弱者になるかのどちらかだ。それすら分からないのか」
「な、なんだと!」
「お前等はこれまで力があったからこそ好き勝手に生きてきた。違うか?」
「ああ、その通りだ。だがそれの何が悪いって言うんだ!」
「別に悪くはねぇよ」
「なに?」
 そんな俺の言葉に驚いた表情を浮かべるギルバート。

「なら、何故私たちの邪魔をする!」
「そんなの決まってるだろ。お前等が気に食わないからだ。ヘレンは俺たちの大切な仲間だ。それを殺そうとするお前等を俺が生かしておくわけがないだろ」
「そうか。それがお前の考えか。ならどちらが本当の強者か下等生物の貴様に教えてやる!」
「やってみろや!」
 俺たちは互いに地面を蹴り相手目掛けて走った。
 一瞬で無くなった距離。
 振り下ろされるギルバートの剣と振り上げる俺の拳が交差する。

「くっ!」
 俺の拳がギルバートの顎を砕き宙へと舞い上がらせる。
 しかしその前にギルバートの剣が俺の左肩を少しだが切り裂いていた。
 まさかスピードで負ける日が来るとは思わなかったな。ま、それでも命に関わるような怪我はないけどな。

「おっと」
 ギルバートに近づこうとする俺に目掛けて氷弾アイスヴァレットが襲い掛かってきたが、ジャンプして躱す。
 俺は直ぐに氷弾アイスヴァレットが飛んで来た方向に視線を向けると口から血を吐きながら魔法拳銃ハンドガンを構えるヘンリエッタの姿があった。
 どうやら戦う意志だけは強固のようだな。

「ギルバートだけは殺さないわ……」
 まさに愛する男を守るために血反吐を吐きながらも戦う女って感じだ。これが漫画やアニメなら間違いなく俺が悪者だな。
 だからこそ気になったことがあった。

「そんなにあの男の事を愛しているのか?」
「何を当たり前なことを言っているのよ」
「ならどうして自分の娘を愛さないんだ?」
「そんなのあの子が私たちの子供じゃないからよ。あんな忌み嫌われた魔眼なんか宿してなければ私たちは普通に愛していたわ!」
「やはり俺が想像していた通りお前等はクズだな」
「何ですって!」
「魔眼がなんだ!娘にどんな力があろうが無かろうが、親なら娘を愛するものだろうが!」
「そんなの関係ないわ!あの疫病神のせいで私たちが周りからどんな目で見られてきたか知らないくせに!」
「ああ、知らねぇし、興味もねぇよ。だがお前等は俺の大切な仲間を悲しませた。だから俺の力を持ってお前等を殺す。ただそれだけだ!」
 俺は地面を蹴った。
 お前等には少し実験台になって貰うぜ。
 裏十八番其の弐、手刀。
 ヘンリエッタの横を通り過ぎる瞬間に俺は手で首を跳ね飛ばした。
 必殺名に関してはま、気にしないでくれ。それに攻撃も名前通りだしな。

「ヘンリエッタアアアアアアアァァ!」
 おや、どうやらギルバートが殺される瞬間を見ていたみたいだな。
 また運の悪い。せめて死んだ後に見れば精神ダメージはそこまで大きくなかっただろうに。

「貴様だけは絶対に許さん!」
「そうかよ。だがな、俺もお前の事を許すつもりはないぜ!」
 膨れ上がり先ほどよりも強い気配。だがこの程度なら今の力で十分戦えるぜ。
 互いに剣と拳を振るう。
 そのたびに俺は腕や頬を斬られ、ギルバートはお腹や顔を殴られる。
 そんな戦いが続くが、そう長くは続かない。
 ダメージ量で言えば圧倒的にギルバートの方が受けている。その証拠にもうギルバートはヘトヘトだ。
 一旦距離を取り、互いに構え直す。

「1つ聞きたい、どうしてヘレンの事を殺そうとする」
「ヘンリエッタから聞いたはずだ。アイツは疫病神だ」
「そこまでして家の威厳が大切か」
「当たり前だ!」
「そうか。なら遠慮なく俺はお前等がやってきた横領をお前等の王に伝えられるな」
「なっ!知っていたのか!」
「当たり前だ。お前等に会う前から知っていたさ」
「なら、何故発表しない」
「発表すれば大なり小なりヘレンも周囲から軽蔑の目で見られるからな。それを防ぐためだ。それよりも分からないのか?どうしてヘレンが今までその事を発表しなかったのか?」
「そんな暇が無かっただけだろ」
「そんなわけないだろ!ヘレンはな、お前等に更正して欲しかったんだよ。どんな理由であれ自分の両親だからな。普通はそんな事は出来ない。なんせ自分を殺そうとし、今尚殺そうとして来る親をそこまでして信じられるものではないからな。なのにヘレンはそれを今までしてきた。それはヘレンが優しい心の持ち主だったからだ。それをお前等は踏みにじった。だから俺が代わりにお前等を殺す」
「ならやってみるが良い!」
「言われるまでもない」
 再び地面を蹴った。
 一瞬にして零距離になった瞬間、ギルバートの剣が俺に届く前に俺の手刀がギルバートの心臓を貫いていた。

「あばよ。地獄で妻が待っているだろうよ」
「一生呪ってやる……」
 そう呟いてギルバートを死んでいった。
 やってみろよ。こっちとら既に糞女神から呪いを受けてるんだ。お前ら屑吸血鬼に呪われたところで痛くも痒くもないわ。
 心臓から手を抜いた俺は思いっきりジャンプしてヘレンが居る会議室までやってきた。

「よ、終わったぜ」
「っ!」
 俺の言葉にヘレンは何も言わず俺に抱きついて来た。ただ俺は血の付いていない左手でヘレンの頭を撫でるだけだった。
 そんな俺たちにハルナとダグラスが近づいて来る。

「ジンさん、ありがとうございます」
「なに、俺たちは依頼をこなしただけだ。それよりも残党狩りは良いのか?」
「それは私たちがしますので問題ありません」
「そうか、なら俺たちは部屋に戻ってゆっくりとさせて貰うとしよう」
 そう言って俺とヘレンは会議室前で待っていた影光とアインと一緒に寝室に戻るのだった。
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