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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第七十七話 銀髪の吸血鬼少女 ⑪
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移動を開始してから30分が経過した。
先ほどの可愛らしさは無くなり真剣な表情を向けてくるハルナの姿を見て俺は気持ちを切り替えた。
「今後の予定を話しますね。まず、帝都を出たら車で5時間の所にあるカヴス都市に向かいます。そこには現在使われていない空港があり、そこで小型ジェット機に乗り換えて私たちの本部があるヌイシャ連邦国に入ります」
「この車はどうするんだ?」
「部下が支部に持って帰りますから安心してください」
どうやらこの国にヴァンパイアハンターの支部があるようだ。そうなると他の国にもあるに違いない。
「空港に降りたらまた車にのり本部へと向かいますが、貴方方はヘレンさんの両親と接触していますので変装して貰う必要がありますが、安心してください。変装道具などはジェット機の中にありますから」
いや、安心できないんだが。
普通に考えれば彼女たちと同じグレーを基調とした軍服のような服装をするんだろうが、ふざけた格好をさせられる恐れだってある。
それ以前にアインがあのメイド服を脱ぐ度は思えない。スペアがあるのかいつも同じメイド服だ。
「話は以上ですが、なにか質問はありますか?」
「この国に敵対派閥の手下は居るのか?」
「いえ、居ません。ですがもしかしたら闇ギルドに依頼を出している可能性があります」
考えられるとしたらそうだろうな。
ま、俺たちは気配察知や魔力察知で周囲を警戒しながら進むだけだ。
到着するまでは寛いでいるとしよう。
あれから時間は流れ最初の目的地である空港に到着した。
俺たちはそれぞれが周囲を警戒していたが襲われる事は無く、どうやら杞憂に終わったようだ。ま、安全な移動じゃなきゃこの先が思いやられるからな。
いったいいつの空港なのかしらないが鉄柵はさび付き、滑走路には雑草が生えていた。
周囲に建物が無いことからどこかの組織が昔使っていた滑走路だろう。
「それではみなさん乗り込んでください」
ハルナの指示で俺たちはジェット機に乗り込む。
イザベラの家が所有していたジェット機に似ているが、これは完全に戦闘用にカスタマイズされていた。
一旦席に座り無事に離陸したあと俺たちは軍服に着替えることにした。
「それではみなさんはこれに着替えてください」
そう言って渡された服はハルナたちと同じグレーの軍服だった。
良かった。どうやら変な格好はさせられないようだ。
その事に安堵していたがまだ終わらない。
俺の心配は的中しアインは何事も無かったようにメイド服のまま座席から立ち上がろうしなかった。
「あ、あのアインさん。すいませんがこの服に着替えて貰えませんか?」
困った表情でハルナがアインに話しかけるが。
「何故私がそのような服を着なければならないのですか?私には創造主様が与えてくださったこの正装がありますから結構です」
「で、ですが……」
「まだ何か?」
「い、いえ!」
ハルナは完全にアインの気迫に押し負けていた。はぁやっぱりな。
ハルナは俺に視線を向けて助けを求めた。ま、最初からこうなると分かっていたからな。
俺は早速アインに近づく。
「アイン、我侭を言うなよ」
「ゴミ虫は黙っていてください」
相変わらずの口の悪さだな。
もう慣れたけど。
「別にお前が何を着ようが勝手だ。だがな、これは依頼だ。そして俺たちは戦場へと行くんだ。もしもお前のせいで計画が台無しになる可能性だってある。それはつまり銀が死ぬ可能性だってあがるんだぞ」
「………」
無反応か。
「お前がそれで良いんなら構わないぜ。もうこの世には居ない創造主と現在のマスターの命、どっちが大切なのか考える事だな」
俺はそう言うと受け取った軍服を持って更衣室で着替える。
着替え終わり戻ってみるとアインの姿は無かった。
そう思っているとアインが戻ってきた。
しかしアインの服装はメイド服ではなくグレーの軍服だった。
「これで文句は無いはずです」
「ああ、ねぇよ」
そう吐き捨てるとアインは先ほど座っていた席にまた座る。
まったく相変わらず素直じゃねぇな。
笑みを零した俺も空いている席に座る。
俺が座った席は偶然にもヘレンの隣の席だった。
俺が座ったことで視線を向けてきたヘレンの右目は蒼く輝いていた。
「ヘレン、その眼はどうしたんだ?それに眼帯も変わってるな」
「ハルナが用意してくれたのだ。赤い目は目立つからって」
なるほどな。確かにそのままヴァンパイアハンターの本部に向かえば俺たちの正体がバレていたかもしれない。と言うよりもその可能性が大きい。
眼帯を着けたヴァンパイアなんて早々居ないからな。
どう考えてもヘレンだってバレる。
ドジっ子かと思いきやこういった作戦行動中の事は気が利くんだな。
「カラーコンタクトか」
「そうなのだ。初めてで最初は怖かったのだ。それにまだ違和感があるのだ」
慣れるまでは違和感があるだろうな。
「それにしても服だけでなく、カラーコンタクトに替えの眼帯まで。随分と用意が良いんだな」
そう感想を呟くと俺の前の席に座っていたハルナが背凭れから顔を出す。
「このジェット機は任務で使います。バンパイアハンターは確かに悪しきヴァンパイアを討伐するのが目的ですが、平地や森の中で戦うわけじゃないりません。勿論無いわけじゃありませんけど、そう言ったヴァンパイアは貴族ではありませんから」
「貴族?」
「はい。吸血鬼は他の種族よりも戦闘能力が高いですが、特に貴族は一般の吸血鬼よりも圧倒的に身体能力、魔力ともに優れているのです。そしてそれは階級が上がれば上がるほど高いです」
そうだったのか。
ん?待てよ。
確かヘレンの家は伯爵だよな。
貴族の階級は下から騎士爵、準男爵、男爵、子爵、伯爵、辺境伯、公爵だ。
つまりは上から3番目の強さを持っているって事だよな。それかつ戦闘センスがあり、固有スキル3倍速を持っていて、尚且つ魔眼の持ち主。なに、このチートのオンパレードは。
なんでこの世はこんなにも理不尽なんだよ!俺なんてまともな戦闘で役に立ちそうな固有スキルなんて1個も無いどころか、クソ女神のせいで魔力もないし、武器だって持てないんだぞ!それなのにそれなのに……。
「あ、あのどうかしましたか?」
「いや、この世は不公平と理不尽の塊だな。と思っただけだ」
「よ、よく分かりませんが、お気を確かに」
落ち込む俺に苦笑いを浮かべて慰めてくれるハルナ。ありがとうよ。
で、才能に恵まれて生まれてきたヘレンはと言うとジェット機に乗るのが初めてなのか、嬉しそうに窓から外の風景を眺めていた。
うん、この気持ちをぶつけても意味はないな。
「ええっと。本題に戻りますね。犯罪に手を染めた吸血鬼。特に貴族の吸血鬼たちは隠れ家や仲間の許で身を隠すか、組織の客人、もしくは用心棒となります。そうなると殺すのは用意ではありません。ですから移動手段であるこのジェット機には変装道具が色々と置いてあるんです。勿論武器もありますし、ジェット機自体も攻撃することが可能なように改造もしてあります」
まるでスパイ映画で主人公が使かう乗り物のようだな。
少しして影光も着替え終わり、思いのほか似合っていたことに驚きつつも俺はハルナに質問する。
「それでヌイシャ連邦国までどれぐらいで到着するんだ?」
「約8時間ぐらいですね」
ジェット機で移動するのにそんなに掛かるのか。
車の中でもそうだったが、その時まで待つと言うのは退屈なものだな。こんな事になるんだったらトランプの1つでも持ってくれば良かったな。
結局することも無いので軽く水分補給をした俺はヌイシャ連邦国に到着するまで寝ることにした。
ヌイシャ連邦国に到着したのは午後の9時過ぎ。
すっかり外は真っ暗闇だ。ま、移動するには好都合かもしれないけど。
出迎えてくれた一台のミニバン風の黒い車に乗り込み俺たちは本部へと向かった。
車に揺られること7時間。
移動だけで20時間を費やし、俺たちはようやく目的地であるヴァンパイアハンターの本部を目視できる距離まで来ていた。
そこは一言で説明するなら要塞だ。
高さ30メートルはあるであろう城壁に囲まれたその建物は時の流れを感じさせる。
「この建物は1500年前に滅んだレグウェス帝国から自国を護るために建てられた要塞なんですが、この要塞を建てた国も既に滅び、持ち主の居なくなったためヴァンパイアハンターである私たちの大先輩たちが拠点として使い始めたのがきっかけです」
それってただ単に勝手に住み着いただけだろ。
内心そう思うが口には出さない。それが大人と言うものだからな。
門を潜り中に入るとまるでタイムスリップでもしたかのような気分にさせられる。
もしもこの建物が地球にあったら世界遺産に認定されていただろうな。
車を降りた俺たちはハルナの案内で建物内に入る。
何人ものヴァンパイアハンターたちが俺たちに視線を向けてくるが、さて敵か味方か。
気配を調べると一瞬で分かった。
ハルナと同じグレーの軍服のような服を着た連中からは何も感じないが、色違いの軍服を着た連中からは強い殺意を感じた。どうやら奴等が敵対派閥のようだな。
大広間を抜け少し進んだところにある螺旋階段を上る。
すると突然ハルナが口を開いた。
「もう分かったと思いますが、私たちと同じ服を着た人たちは同じ派閥で、白を基調にした軍服を着ているのが敵対派閥です」
「まさか色分けしているとは思わなかった」
「あの色違いの軍服はそれぞれが管轄する範囲を明確にするために作られたのですが、時代の流れとともに自分がどの派閥に属しているのかを明確にする物に変わってしまいました」
「ま、それぞれのリーダーが変われば考えも変わるさ。それにこれは国でも言えることだが、その時代の王が賢王だからと言って、次代の王が賢王とは限らない。それどころか愚王かもしれないしな」
「ええ、まさにその通りですね」
ハルナは俺の言葉に同意するが、その声音には悲しみが宿っていた。
何かあるのかもしれないが、俺たちの依頼は敵対派閥の増援で来るであろうヴァンパイアたちだ。
「そう言えば俺たちはどこに向かってるんだ?」
「私たちのリーダーの所です。正確には私の直属の上司の方なんですが」
「なるほど」
未だに終わらない螺旋階段を上る。なんでエレベーターを取り付けてないんだ。
そんな疑問を感じながらも俺たちは螺旋階段を上る。
ようやく螺旋階段を上りきると目の前に木造の扉があった。
扉まで昔のままか。防音や盗聴対策は大丈夫なのか?
そんな事を考えているとハルナが木造の扉をノックする。
「誰かね?」
「ハルナ特等執行官、入ります」
「どうぞ」
了承の返事が聞こえるとハルナは扉を開けた。
「ダグラス超等、例の者達を連れてきました」
ハルナがダグラスと呼ぶ男はオフィスチェアに座り書類を見ていた。
ネイヴィブルーのオールバックの髪型に同じ色の瞳。
特に特徴的だったのは左目に付けている片眼鏡だ。
この建物内と相まってとても似合ってはいるが、今の時代コンタクトもある。そんな時代にモノクルを付けている人間は早々居ないだろう。
ダグラスは立ち上がり俺たちの前まで来ると右手を差し出す。
「初めまして。私はダグラス・ライトネル。ハルナの直属の上司であり階級は超等執行官だ」
ま、そうだろうな。
この部屋に入ってきた時からアンタからは尋常じゃない気配を感じたからな。
冒険者ランクにすれば余裕でSSランクだろうな。
それぐらいこの男から感じる気配は只者じゃない。朧さんと良い勝負だ。
「俺の名前は鬼瓦仁だよろしく」
そう言って俺はダグラスの手を握り握手を交わす。
「拙者は藤堂影光」
「私はアイン」
「私はヘレンです」
「よろしく。よく来てくれた」
笑みを浮かべてオフィスチェアに座るダグラス。
「それよりも防音、盗聴対策は大丈夫なのか?」
「それに関してはなんの問題もないよ。見た目は昔の要塞だが、魔法や現代の建築技術を活かし、この部屋の内容は一切外には聞こえないようになっているからね」
「それなら安心だ」
先ほどの可愛らしさは無くなり真剣な表情を向けてくるハルナの姿を見て俺は気持ちを切り替えた。
「今後の予定を話しますね。まず、帝都を出たら車で5時間の所にあるカヴス都市に向かいます。そこには現在使われていない空港があり、そこで小型ジェット機に乗り換えて私たちの本部があるヌイシャ連邦国に入ります」
「この車はどうするんだ?」
「部下が支部に持って帰りますから安心してください」
どうやらこの国にヴァンパイアハンターの支部があるようだ。そうなると他の国にもあるに違いない。
「空港に降りたらまた車にのり本部へと向かいますが、貴方方はヘレンさんの両親と接触していますので変装して貰う必要がありますが、安心してください。変装道具などはジェット機の中にありますから」
いや、安心できないんだが。
普通に考えれば彼女たちと同じグレーを基調とした軍服のような服装をするんだろうが、ふざけた格好をさせられる恐れだってある。
それ以前にアインがあのメイド服を脱ぐ度は思えない。スペアがあるのかいつも同じメイド服だ。
「話は以上ですが、なにか質問はありますか?」
「この国に敵対派閥の手下は居るのか?」
「いえ、居ません。ですがもしかしたら闇ギルドに依頼を出している可能性があります」
考えられるとしたらそうだろうな。
ま、俺たちは気配察知や魔力察知で周囲を警戒しながら進むだけだ。
到着するまでは寛いでいるとしよう。
あれから時間は流れ最初の目的地である空港に到着した。
俺たちはそれぞれが周囲を警戒していたが襲われる事は無く、どうやら杞憂に終わったようだ。ま、安全な移動じゃなきゃこの先が思いやられるからな。
いったいいつの空港なのかしらないが鉄柵はさび付き、滑走路には雑草が生えていた。
周囲に建物が無いことからどこかの組織が昔使っていた滑走路だろう。
「それではみなさん乗り込んでください」
ハルナの指示で俺たちはジェット機に乗り込む。
イザベラの家が所有していたジェット機に似ているが、これは完全に戦闘用にカスタマイズされていた。
一旦席に座り無事に離陸したあと俺たちは軍服に着替えることにした。
「それではみなさんはこれに着替えてください」
そう言って渡された服はハルナたちと同じグレーの軍服だった。
良かった。どうやら変な格好はさせられないようだ。
その事に安堵していたがまだ終わらない。
俺の心配は的中しアインは何事も無かったようにメイド服のまま座席から立ち上がろうしなかった。
「あ、あのアインさん。すいませんがこの服に着替えて貰えませんか?」
困った表情でハルナがアインに話しかけるが。
「何故私がそのような服を着なければならないのですか?私には創造主様が与えてくださったこの正装がありますから結構です」
「で、ですが……」
「まだ何か?」
「い、いえ!」
ハルナは完全にアインの気迫に押し負けていた。はぁやっぱりな。
ハルナは俺に視線を向けて助けを求めた。ま、最初からこうなると分かっていたからな。
俺は早速アインに近づく。
「アイン、我侭を言うなよ」
「ゴミ虫は黙っていてください」
相変わらずの口の悪さだな。
もう慣れたけど。
「別にお前が何を着ようが勝手だ。だがな、これは依頼だ。そして俺たちは戦場へと行くんだ。もしもお前のせいで計画が台無しになる可能性だってある。それはつまり銀が死ぬ可能性だってあがるんだぞ」
「………」
無反応か。
「お前がそれで良いんなら構わないぜ。もうこの世には居ない創造主と現在のマスターの命、どっちが大切なのか考える事だな」
俺はそう言うと受け取った軍服を持って更衣室で着替える。
着替え終わり戻ってみるとアインの姿は無かった。
そう思っているとアインが戻ってきた。
しかしアインの服装はメイド服ではなくグレーの軍服だった。
「これで文句は無いはずです」
「ああ、ねぇよ」
そう吐き捨てるとアインは先ほど座っていた席にまた座る。
まったく相変わらず素直じゃねぇな。
笑みを零した俺も空いている席に座る。
俺が座った席は偶然にもヘレンの隣の席だった。
俺が座ったことで視線を向けてきたヘレンの右目は蒼く輝いていた。
「ヘレン、その眼はどうしたんだ?それに眼帯も変わってるな」
「ハルナが用意してくれたのだ。赤い目は目立つからって」
なるほどな。確かにそのままヴァンパイアハンターの本部に向かえば俺たちの正体がバレていたかもしれない。と言うよりもその可能性が大きい。
眼帯を着けたヴァンパイアなんて早々居ないからな。
どう考えてもヘレンだってバレる。
ドジっ子かと思いきやこういった作戦行動中の事は気が利くんだな。
「カラーコンタクトか」
「そうなのだ。初めてで最初は怖かったのだ。それにまだ違和感があるのだ」
慣れるまでは違和感があるだろうな。
「それにしても服だけでなく、カラーコンタクトに替えの眼帯まで。随分と用意が良いんだな」
そう感想を呟くと俺の前の席に座っていたハルナが背凭れから顔を出す。
「このジェット機は任務で使います。バンパイアハンターは確かに悪しきヴァンパイアを討伐するのが目的ですが、平地や森の中で戦うわけじゃないりません。勿論無いわけじゃありませんけど、そう言ったヴァンパイアは貴族ではありませんから」
「貴族?」
「はい。吸血鬼は他の種族よりも戦闘能力が高いですが、特に貴族は一般の吸血鬼よりも圧倒的に身体能力、魔力ともに優れているのです。そしてそれは階級が上がれば上がるほど高いです」
そうだったのか。
ん?待てよ。
確かヘレンの家は伯爵だよな。
貴族の階級は下から騎士爵、準男爵、男爵、子爵、伯爵、辺境伯、公爵だ。
つまりは上から3番目の強さを持っているって事だよな。それかつ戦闘センスがあり、固有スキル3倍速を持っていて、尚且つ魔眼の持ち主。なに、このチートのオンパレードは。
なんでこの世はこんなにも理不尽なんだよ!俺なんてまともな戦闘で役に立ちそうな固有スキルなんて1個も無いどころか、クソ女神のせいで魔力もないし、武器だって持てないんだぞ!それなのにそれなのに……。
「あ、あのどうかしましたか?」
「いや、この世は不公平と理不尽の塊だな。と思っただけだ」
「よ、よく分かりませんが、お気を確かに」
落ち込む俺に苦笑いを浮かべて慰めてくれるハルナ。ありがとうよ。
で、才能に恵まれて生まれてきたヘレンはと言うとジェット機に乗るのが初めてなのか、嬉しそうに窓から外の風景を眺めていた。
うん、この気持ちをぶつけても意味はないな。
「ええっと。本題に戻りますね。犯罪に手を染めた吸血鬼。特に貴族の吸血鬼たちは隠れ家や仲間の許で身を隠すか、組織の客人、もしくは用心棒となります。そうなると殺すのは用意ではありません。ですから移動手段であるこのジェット機には変装道具が色々と置いてあるんです。勿論武器もありますし、ジェット機自体も攻撃することが可能なように改造もしてあります」
まるでスパイ映画で主人公が使かう乗り物のようだな。
少しして影光も着替え終わり、思いのほか似合っていたことに驚きつつも俺はハルナに質問する。
「それでヌイシャ連邦国までどれぐらいで到着するんだ?」
「約8時間ぐらいですね」
ジェット機で移動するのにそんなに掛かるのか。
車の中でもそうだったが、その時まで待つと言うのは退屈なものだな。こんな事になるんだったらトランプの1つでも持ってくれば良かったな。
結局することも無いので軽く水分補給をした俺はヌイシャ連邦国に到着するまで寝ることにした。
ヌイシャ連邦国に到着したのは午後の9時過ぎ。
すっかり外は真っ暗闇だ。ま、移動するには好都合かもしれないけど。
出迎えてくれた一台のミニバン風の黒い車に乗り込み俺たちは本部へと向かった。
車に揺られること7時間。
移動だけで20時間を費やし、俺たちはようやく目的地であるヴァンパイアハンターの本部を目視できる距離まで来ていた。
そこは一言で説明するなら要塞だ。
高さ30メートルはあるであろう城壁に囲まれたその建物は時の流れを感じさせる。
「この建物は1500年前に滅んだレグウェス帝国から自国を護るために建てられた要塞なんですが、この要塞を建てた国も既に滅び、持ち主の居なくなったためヴァンパイアハンターである私たちの大先輩たちが拠点として使い始めたのがきっかけです」
それってただ単に勝手に住み着いただけだろ。
内心そう思うが口には出さない。それが大人と言うものだからな。
門を潜り中に入るとまるでタイムスリップでもしたかのような気分にさせられる。
もしもこの建物が地球にあったら世界遺産に認定されていただろうな。
車を降りた俺たちはハルナの案内で建物内に入る。
何人ものヴァンパイアハンターたちが俺たちに視線を向けてくるが、さて敵か味方か。
気配を調べると一瞬で分かった。
ハルナと同じグレーの軍服のような服を着た連中からは何も感じないが、色違いの軍服を着た連中からは強い殺意を感じた。どうやら奴等が敵対派閥のようだな。
大広間を抜け少し進んだところにある螺旋階段を上る。
すると突然ハルナが口を開いた。
「もう分かったと思いますが、私たちと同じ服を着た人たちは同じ派閥で、白を基調にした軍服を着ているのが敵対派閥です」
「まさか色分けしているとは思わなかった」
「あの色違いの軍服はそれぞれが管轄する範囲を明確にするために作られたのですが、時代の流れとともに自分がどの派閥に属しているのかを明確にする物に変わってしまいました」
「ま、それぞれのリーダーが変われば考えも変わるさ。それにこれは国でも言えることだが、その時代の王が賢王だからと言って、次代の王が賢王とは限らない。それどころか愚王かもしれないしな」
「ええ、まさにその通りですね」
ハルナは俺の言葉に同意するが、その声音には悲しみが宿っていた。
何かあるのかもしれないが、俺たちの依頼は敵対派閥の増援で来るであろうヴァンパイアたちだ。
「そう言えば俺たちはどこに向かってるんだ?」
「私たちのリーダーの所です。正確には私の直属の上司の方なんですが」
「なるほど」
未だに終わらない螺旋階段を上る。なんでエレベーターを取り付けてないんだ。
そんな疑問を感じながらも俺たちは螺旋階段を上る。
ようやく螺旋階段を上りきると目の前に木造の扉があった。
扉まで昔のままか。防音や盗聴対策は大丈夫なのか?
そんな事を考えているとハルナが木造の扉をノックする。
「誰かね?」
「ハルナ特等執行官、入ります」
「どうぞ」
了承の返事が聞こえるとハルナは扉を開けた。
「ダグラス超等、例の者達を連れてきました」
ハルナがダグラスと呼ぶ男はオフィスチェアに座り書類を見ていた。
ネイヴィブルーのオールバックの髪型に同じ色の瞳。
特に特徴的だったのは左目に付けている片眼鏡だ。
この建物内と相まってとても似合ってはいるが、今の時代コンタクトもある。そんな時代にモノクルを付けている人間は早々居ないだろう。
ダグラスは立ち上がり俺たちの前まで来ると右手を差し出す。
「初めまして。私はダグラス・ライトネル。ハルナの直属の上司であり階級は超等執行官だ」
ま、そうだろうな。
この部屋に入ってきた時からアンタからは尋常じゃない気配を感じたからな。
冒険者ランクにすれば余裕でSSランクだろうな。
それぐらいこの男から感じる気配は只者じゃない。朧さんと良い勝負だ。
「俺の名前は鬼瓦仁だよろしく」
そう言って俺はダグラスの手を握り握手を交わす。
「拙者は藤堂影光」
「私はアイン」
「私はヘレンです」
「よろしく。よく来てくれた」
笑みを浮かべてオフィスチェアに座るダグラス。
「それよりも防音、盗聴対策は大丈夫なのか?」
「それに関してはなんの問題もないよ。見た目は昔の要塞だが、魔法や現代の建築技術を活かし、この部屋の内容は一切外には聞こえないようになっているからね」
「それなら安心だ」
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