魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第七十二話 銀髪の吸血鬼少女 ⑥

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「「伏せろ!」」
 どうやら影光も感じたらしく同じタイミングで叫んでいた。
 一斉に地面に伏せた瞬間、窓ガラスを破壊してソファーの背もたれに大きな風穴を開けるほどのライフル弾が襲ってきた。
 それと同時に4時間前に戦った連中と同じ仮面を被ったヴァンパイアハンター10名が窓ガラスを破壊して襲撃してきた。
 ただ前に戦った3人と違うのは着ている戦闘服のぐらいだ。
 ったく対戦車ライフルでの攻撃と同時に突入ってどこの特殊部隊だよ!
 いや、今はそんな事よりもだ。

「なんでヴァンパイアハンターがこんなに居るんだよ!」
「拙者が知るわけ無いだろ!」
「私も同じです」
 だよな。ったく本当は3人じゃなくて10人以上でこの帝都に来ていたのか。
 それになんだよコイツ等は。1人1人から感じる殺気が尋常じゃない。きっと全員がイザベラ並み一等執行官って言ったところか。
 強い奴と戦えるのはありがたいが誰も今は望んじゃいねぇんだよ。
 そんな事を思っている間にもヴァンパイアハンターたちは武器を構える。流石に室内で銃を使うわけにはいかないのか全員が短剣やショートソードなどを構えている。ま、同士撃ちになるもんな。
 敵を把握した俺は影光たちに指示を飛ばす。

「俺と影光がコイツ等の相手をする。アインは後方から援護。それとさっきソファーに風穴開けた奴の始末。銀は大型犬の大きさになってヘレンを護ってくれ。で、ヘレンは悪いがその場から動くなよ」
「久々にまともな相手との戦闘で腕が鳴るのぉ」
「マスターの住処を破壊するなど万死に相対します」
「ガルルルゥ……」
 どうやら全員が殺る気のようだ。
 こういう時、俺の仲間は頼りになるからありがたい。

「お前等、行くぜ!」
「「おう!」」
 俺の掛け声が合図となり戦闘が始まった。
 俺は4%の力を解放して戦う。
 ヴァンパイアハンターたちも一斉に襲い掛かってくる。しかし俺たちにとっては丁度良い運動相手でしかない。
 俺は敵の攻撃を躱してカウンター気味に右フックで殴り飛ばす。
 影光は相手に攻撃させる暇も与える事無く斬って行く。
 アインは魔導拳銃ハンドガンを使って援護射撃をしてから魔導狙撃銃スナイパーライフルで外から俺たちを狙うヴァンパイアハンターを狙撃する。
 敵から感じる殺気よりも実力が見合っていないと言う予想外の展開に僅か10分足らずで俺たちは敵を全滅させた。
 と言うよりも最初襲ってきた3人の気配がまったくしない。
 どうやらコイツ等は俺たちの力を調べるために使われたか、別の派閥が送り込んできた連中なんだろう。
 僅か10分足らずで終了したとは言え、リビングは酷い状態だった。ソファーには最初の攻撃で出来た風穴だけでなく敵の攻撃で切り裂けていたり、壁や床、絨毯には敵の血痕があちこちにある始末。もうこれは映画やドラマで見るヤクザが事務所を襲撃してきたレベルを超えている。
 運が良かったのはテレビと冷蔵庫だけが無事に残っていただけで他は全て戦闘で壊されていた。
 そんな惨劇に俺の中で沸々と怒りが湧き上がってくる。

「さすがにこれは頭に来たぜ……」
 まさかここまでするとは思っていなかった。
 どう言うつもりで襲撃したのか俺たちが分かるはずも無い。だが1つ言える事がある。

「俺たちのギルドを襲撃するなんてな。つまりは殺されても文句は無いって事だよな」
「拙者も異論はない」
「私もです」
 どうやら影光もアインも今回は頭に来たらしい。
 ヴァンパイアハンター、そして吸血鬼。俺たちを怒らせた事を後悔させてやる!
 短い話し合いが終わると俺は早速指示を出した。

「アインは悪いがこの部屋の掃除を頼む。影光はまた襲撃があるかもしれないからここで周囲を警戒していてくれ」
「分かった」
「分かりました。と言うよりも貴方達にさせたらもっと汚くなりそうなのでしないでください」
 相変わらず口が悪いが、掃除は面倒なので俺としてはありがたい。
 ま、影光は苦笑いを浮かべていたけど。

「それで仁はどうするのだ?」
「ヘレンを連れてギルドに行ってくる。本当は明日でもフリーダムに入社登録させるつもりだったが、今の内に済ませておく」
「分かった」
 今は少しでも時間が惜しい。
 そして明日起きるであろう話し合いと言う名の戦争に勝つため、今できる準備をしておく。
 さて、それじゃ向かうか。と思ったがさっきから呆けた表情のまま突っ立っているヘレン。

「おい、ヘレン大丈夫か?」
「はっ!だ、大丈夫なのだ。あまりにも凄い戦闘に驚かされてしまっただけなのだ!」
「褒めてくれるのはありがたいが、別に凄くはねぇぞ。なぁ?」
 俺はそう言って影光とアインに同意を求めた。

「仁の言う通りだ。と言うよりも今回は運動にもならなかったからの」
「力も無いくせにマスターのテリトリーを侵略するなど万死どころの話ではありませんね。まさに身の程知らずです」
(一等執行官は冒険者で言うところのAランクと同等の実力者たちなのだ。それが10人以上も居たのにそれを運動にもならなかった。ってこの者たちの実力は化物なのだ)

「と言うかヘレンもこれぐらい欠伸しながらでも倒せる程度にはなって貰うつもりだからな」
「え?それは本当なのか?」
「当たり前だろ。なんせ俺たちフリーダムはまだ4人なんだ。そうなると高ランクの依頼をこなすにも実力がなければ受けられないからな。だからヘレン。俺たちがみっちり強くしてやるからな」
「あわわわわっ!」
 きっとヘレンには俺たちの姿が悪魔か鬼にでも見えてたかもしれない。だが強くなって貰わなければ困る。もしかしたらまたビルが襲撃されるかも知れないんだからな。

「って思ったんだが、ソファーや窓ガラスの修理費は誰が出すんだ?」
「そんなの貴方しかしないでしょ」
「ですよね~」
 俺の質問に呆れ気味にアインが答えを告げてきた。
 なにもしてないのに無駄に出費が重なるなんて納得できないんだが。絶対にヘレンの両親に修理代も含めて慰謝料をふんだくってやる!
 そうと決まればさっそく俺は銀を頭に乗せてヘレンと一緒に冒険者組合へと向かった。
 既に外は暗くなっており、歩いているのは居酒屋なんかに寄っていたサラリーマンや夜の街を楽しむ若者と冒険者だけとなっていた。
 そんな街の中を歩き俺たちは冒険者組合の扉を開けた。
 日中と違い冒険者の姿は殆ど無い。
 だが殆どと言うだけでまったく居ないわけじゃない。
 視界に入るだけでも数人は居る。
 どうしてこんな時間まで居るのか俺には分からない。依頼を終えて依頼報告をするために来ているのかもしれないし、誰かを待っているのかもしれないし、俺たち同様にギルドへに入社するための手続きをするために来ているのかもしれない。
 え?もう夜なのにギルド登録が出来るのかって?
 勿論だ。冒険者組合は緊急時に備えて年中無休24時間体制をとっているわけだが、通常業務が出来ないわけじゃない。ただし出来ない業務だってある。
 例えばお金だ。依頼を達成して口座に振り込むことは可能だが、現金にする事はできない。ま、少し違う銀行だと思ってくれれば良い。
 だからギルド登録なんかは普通に出来るのだ。
 受付に行くとミキの姿はない。きっと日中で仕事が終わって帰宅したのだろう。
 その証拠に受付嬢の数が日中の半分しかいない。
 きっとシフトが組まれていて今は夜勤の人たちなんだろう。
 赤みが混ざったブラウンの髪にそれと同じ猫耳と尻尾。ハワイアンブルーの目と縦長の瞳。少し膨らんだ胸を持つ受付嬢は俺たちが前まで来た事を確認すると話しかけてきた。

「ジン君、こんばんは」
 まさか俺の事を知っているなんて思わなかった事一瞬驚いた俺は質問する。

「俺の事を知っているのか?」
「当たり前だよ~なんせジン君は冒険者になってたった一ヶ月で自分のギルドを持つほどの逸材なんだから。私たち受付嬢の間でも人気なんだよ」
「人気?」
「そうだよ。だって仲間の1人があのSランク冒険者でメイドの子もかなりの実力者って話だもん」
「まぁ確かにな」
 正直あの2人をスカウトできたのは運が良かったと俺も思っている。ま、正直言うならそこで運を使うんじゃなくてカジノの方で使いたいところなんだが。

「それに年齢的にも将来性が望めるし。どうかな、私をこ――っ!」
「こ?」
「な、なんでも無いよ!それよりも今日はどうしたの?」
 周囲に視線を向けると慌てて話を変える……えっと名前は……。
 そう言えば名前を知らなかったな。と思って名札に視線を向けるとアネーシャと書かれていた。
 アネーシャがどうして急に話を変えたのか分からないし、他の受付嬢がアネーシャを一瞬睨んでいたような気もするがいつものように営業スマイルを浮かべているので気のせいだろう。

「今日、ここに来たのはヘレンをフリーダムの新しいギルドメンバーとして登録するために来たんだ」
「なるほどね。ならこの登録書に名前や年齢、種族を記入してね。それと冒険者免許書の提示もお願いね」
 ヘレンの見た目を見ても驚かないのは見た目で人を判断しないと心がけているのか、それとも受付嬢としての経験で分かっているのかのどちらかだろう。
 だからアイーシャは平然とヘレンに用紙とボールペンを手渡した。
 受け取ったヘレンはスラスラと項目に記入していく。
 その間暇なので俺は情報収集を兼ねてアイーシャに質問してみる。

「なぁ、アイーシャ」
「な、何かな?」
 どうしてそんなに慌てているのか分からないが、まあ良いか。

「最近帝都と言うかこの辺りで不審な奴等を見かけたって噂とかないか?」
「そんな噂は聞かないね。ただ北東の人間が誰かを探し回っているって噂はよく耳にするね。なんでもその人は冒険者を片っ端から話しかけているみたいだからね」
「そうか」
 きっとヘレンを探しているんだろう。だがもうヘレンは見つかったからその噂ももう広まる事はないだろう。

「それとこれは帝都での事じゃないだけど、なんでも東北東に大量のワイバーンが出現したって噂を耳にしたよ」
「ワイバーンが?またなんで?」
「さすがにそこまでは。ただその話が本当かどうかも曖昧らしいからね」
「なんだよそれ」
 ワイバーンの産卵時期は3月~5月だ。だから今の時期は全然違う。それを考えると大量のワイバーンが出現したって話は嘘に近いはずだ。
 それにその話が本当だったとしても今はヘレンの事で一杯だ。

「ま、今のところはこれぐらいかな」
「そうか、ありがとうな」
「別に良いよ。それにお礼なら言葉じゃなくて他の事で返して貰えると嬉しいかな?」
「考えておくよ」
 正直高級バッグを買って欲しいなんて願いなら今は無理だ。だって出費でお金が飛ぶのは間違いないんだからな。
 そう答えているとボールペンを握っていたヘレンの右手が止まる。

「書き終わったのだ。それとこれが冒険者免許書なのだ」
「確認するわね……え?Aランクなの?」
 そんなアイーシャの驚きに俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。だってその気持ち俺も分かるからな。アインに至っては数分間現実逃避するほどだったし。

「何か問題でもあるのか?」
「い、いえ無いわよ。大丈夫ね。今すぐに登録するから待っててね」
 アイーシャが登録を終えるまで俺はヘレンと話をする。だからと言って警戒を怠るつもりはない。
 現在この周囲に俺たちに敵意や殺意を向けてくる連中が居ないことは確認済みだ。だから気兼ねなく話すことが出来る。

「ヘレンはここに来る前は世界中を転々していたんだよな?」
「そうなのだ。それがどうかしたのか?」
「いや、ちょっと気になってな。俺が知っているのはスヴェルニ王国とこの国ベルヘンス帝国だけだからな。少し知っているの国となるとホーツヨーレン王国とテメル自由都市国家ぐらいだな。だからそれ以外の国に行った事のあるヘレンの話に興味があるんだ」
「理解したのだ。私が行った事のある国は東の国だとヤマト国、チネル王国だな。ヤマト国は海に面しているから魚料理が絶品なのだ。特に刺身は最高なのだ!」
「そうだよな。山葵を少し乗せて醤油をつけて食べるのは絶品だよな。冷酒に合うしな」
「そうなのだ!だけどあのタコだけは無理なのだ。どうしてヤマトの人間はあんなグネグネした生き物が食べられるのだ?」
「あー確かに他の国の奴等から見たら確かに不気味かもなだけど美味しいだぞ」
「そうなのか?なら次に行った時に食べてみるのだ」
 そう言って無邪気に話すヘレンの姿はまさに子供。ま、見た目も相まって完全に少女と言えるだろう。
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