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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第七十一話 銀髪の吸血鬼少女 ⑤

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「別に今すぐ答えを出して欲しいわけじゃない。その時が来るまでに答えを出しておいてくれれば良いからな」
「すまないのだ……」
 別にヘレンが謝るような事じゃねぇだろうに。
 さてとあらかたの事情は分かった。と言うか全然作戦会議になってねぇな。よし、改めて作戦会議をするとしよう。

「影光、アイン」
「なんだ?」
「なんですか?」
「ヘレンを完全に救うとするならどんな方法がある?」
 そんな俺の言葉に影光を顎に手を当てて思考を巡らせ。
 アインは銀の頭を撫でながら軽く目を瞑った。
 別に俺自身が案を思いついていないわけじゃない。だが2人の考えも聞いておきたいんだ。なんせ影光は俺よりも冒険者としての経験値が上だし、アインはサイボーグだから確率として答えを出してくれるはずだからな。

「そうだな。さっき見た執行官の強さから考えてあれは上等執行官以上のレベルだろう。となるとアイツ等を倒したところで敵の数が増えるか、上の階級の執行官が狙いに来るかだろう。そうなれば俺たちの冒険者活動にも支障が出てくる。ならバンパイアハンターの本部を襲撃するのが良いのかもしれないが、それだとヴァンパイアハンターではなく裏ギルドや暗殺者たちを雇って来る可能性だってある。ま、その前に俺たちが犯罪者として世界中に名前が知れ渡るだろうな」
 それじゃ意味無いだろ。と言うか分かってるなら言わなくて良いだろうに。

「それならばヘレンの両親を暗殺するのが一番手っ取り早い方法だと私は思います。依頼を出しているのがヘレンの両親ですから依頼主が死ねばヴァンパイアハンターの連中も依頼を止める可能性が93%ですね」
 俺も最初に思いついたのがその作戦だ。だがこの作戦はどう見てもヘレンの心に傷をつける可能性があるものだ。だからあまり使いたくはない。それに、

「それだと俺たちがまたしても犯罪者扱いされないか?」
「やはり馬鹿ですね。私たちも刺客を雇って殺させれば良いだけの話です。しかし複数の吸血鬼を殺せるだけの実力を持った暗殺者となるとそれなりの依頼料を支払わなければならないわけですが」
 つまりは金と言うことか。ギルドと俺の貯金で足りるのか不満だ。と言うよりもヘレンの前でお前は堂々とそんな話が出来るな。ある意味感心するわ。
 微笑を浮かべて銀の背中を撫でるアインの姿はいつも通りな事に思わず嘆息してしまう。
 ったく思いのほか良い案が浮かばないな。と言うよりも10年間も娘を殺したいって思う両親も凄い執念だよな。どうしてそこまでヘレンを殺したいのか逆に興味が沸くぞ。
 だってそうだろ。ヘレンはもう1人の冒険者として生きている。吸血鬼の国を出てだ。なら両親が娘は居ないと言い張ればそれで済む話だ。なのにどうしてここまでする必要があるのか、俺には分からない。
 もしかしてヘレンが何かを知っているのか?

「なぁヘレン。お前の両親、何か悪いことに関わっていたりしてないよな?」
「っ!」
 俺の言葉にヘレンの体がビクッ!と一瞬震える。どうやら当たりみたいだな。
 ヘレンは話したくないだろう。だが俺は聞かなければならない。そうしなければヘレンを救えないからだ。

「ヘレン、お前の両親はいったい何をしたんだ?」
「そ、それは………」
 ヘレン、お前は優しいな。シャルロット並に優しいよ。
 自分を殺そうとする両親を庇うなんて俺には無理だ。いや、誰だって出来ることじゃない。それが同じ肉親であろうともだ。

「頼む、教えてくれ」
「……私が生まれた家は伯爵家なのだが、裏では人攫いを統括する仕事に就いていたのだ」
『なっ!』
 衝撃的事実に俺たちは驚愕の顔を浮かべた。
 だってそうだろう。まさかさっき話していた他国で攫った人々を奴隷にしているって話がまさかヘレンの家、ボルティネ家が統括しているなんて誰も思わないんだからな。
 だけどこの情報はデカい。もしもこの事が他国に知られたら間違いなく外交問題どころの話じゃない。完全に国際問題だ。つまりこの情報が公になればベラグールは他国からの信頼を無くすどころか滅亡する危険性だってあるんだからな。ま、傲慢な吸血鬼たちがその事をちゃんと理解するかどうかは別の話だが。だが間違いなくベラグール国と面している国は間違いなく国境の警備を強化するだろうな。最悪壁を作るかもしれない。
 だけどそれだと1つ問題がある。

「その情報は俺たちにも危険だな」
「仁の言うとおりだ。それだとヘレンが軽蔑される恐れがある。それだけは避けなければならないからの」
 影光の言うとおりだ。
 人は誰かを軽蔑する際、自分と違う部分を探して線引きをしたがる生き物だ。
 そして最も分かりやすい違いは種族だ。
 前世の地球でも人種差別があったぐらいだからな。
 これほど分かりやすく違いはないだろう。だからこそそれだけは避けたい。仲間が軽蔑されるのは見たくないからな。

「となるとこれは使えないな。使えないことは無いがこのカードは最後の最後。更なる最後のカードって事になるだろうな」
「そうだろうの。それにヘレンが言っている事が事実だったとしても証拠があるのか?」
「それは無いのだ……」
「なら使えないの。事実だったとしても証拠が無いのであれば取引のカードとしては使えない。それどころか国に頼み込んだとして捜索して貰えるか怪しいところだ」
 影光の言うとおりだ。
 証拠が無いのであればカードとしては使えない。いや、使えない事も無いのかもしれないが巧みな話術が使えなければ意味が無い。生憎俺の仲間に詐欺師は居ないからな~。ま、居たとしてもそれこそ最終手段だけど。

「その代わり、両親が攫った人を奴隷商や個人に売った売り上げ金を横領したデータなら持っているのだ」
『それを先に言え!』
「ご、ごめんなのだ!」
 まったくヘレンはもう少し事の重大さを理解して欲しいものだ。そう思うと俺は額に手を当てて嘆息していた。
 と言うか遥かにこっちの方が手札としての効果は絶大だ。なんせ外側だけでなく内側に対しても効果があるんだからな。
 いや、ちょっと待てよ。

「1つ聞きたいんだが人攫いはお前の両親が統括しているんだよな?」
「そうなのだ」
「統括しているだけで人攫いをして来いって命令を下した奴が居るって事だよな?」
「勿論なのだ」
「それは誰なんだ?」
「勿論国王様に決まっているのだ」
「マジかよ」
 吸血鬼って言う種族はどこまで傲慢なんだ。まさか国王自らが人攫いを命令するなんて頭がおかしいだろ。
 それよりもヘレンが本当に吸血鬼なのか少し怪しく感じるほどだ。
 だが横領してくれているのは有難い。その証拠があればどうにかなるかもしれない。
 ま、問題はその証拠を国王が素直に信じてくれるかが問題なわけだが。そうなれば最終的にボルキュス陛下に頼るしかないだろう。だがそうなれば間違いなくヘレンが軽蔑の視線を向けられるわけだが、そこは俺たちでフォローするしかないだろう。

「だけどこれでヘレンを助ける目星はついた。後はどう交渉するかだな」
「ヘレンは両親のスマホの番号か家の番号は覚えてないのか?」
「知らないのだ。屋敷に居た時はお風呂とトイレ以外部屋から出してもらえなかったのだ」
「そうか。すまない事を聞いた」
「平気なのだ。だからカゲミツもあまり気にしないで欲しいのだ!」
 軽く頭を下げる影光をヘレンは慌ててフォローする。
 まったく影光はこの中で一番年上の癖に、なに慰めるはずの相手からフォローされてるんだよ。

「だけどこれじゃヘレンの両親に電話して取引しようにもこれじゃどうする事も出来ないか」
 となると後考えられる方法としてはだ。

「アイン、お前の力でヘレンの家の電話番号、もしくはスマホの番号って調べられるか?」
「余裕です」
「なら頼む」
「仕方ありませんね」
 面倒そうに言うもののちゃんと調べてくれるあたり、アインはそれだけヘレンの事を心配しているのだろう。
 そう思うと少し笑みが零れそうになるが、アインが機嫌を悪くしそうなので表には出さない。
 目を瞑って調べること数分。アインは長い睫が生えた瞼ゆっくりと持ち上げた。

「それでどうだった?」
「はい、見つけました。と言うよりも楽勝ですね。番号は08X-XXXX-XXXXXです」
「分かった」
 言われた番号を打ち込むために俺は自分のスマホポケットから取り出す。
 そうそう言い忘れていたけど、この世界は前世と違ってスマホや携帯の番号が1つ多い。
 前世では3、4、4、だったが、この世界は、3、4、5だ。
 ま、そんな説明はどうでも良いだろう。それじゃ番号を打ち込むか。
 そう思ったとき、俺のスマホに着信が入った。
 こんな時にって一瞬思ったが電話の相手はなんとボルキュス陛下からだった。
 さすがにボルキュス陛下からの電話を無視するわけにはいかないので応答する。

「もしもし」
『ジン君、今時間は大丈夫かね?』
「少しの間なら大丈夫だが、どうかしたのか?まさかまたシャルロットに何かあったのか?」
『いや、そう言う訳ではない』
 なら、なんの用なんだ?正直俺としては直ぐにでも取引を済ませたいところなんだが。

『単刀直入に言うおう。ジン君のところに眼帯をした吸血鬼の少女が居るだろう』
 スマホから聞こえるボルキュス陛下の信じられない言葉に俺は一瞬目を見開けた。まさかエスパーか何かかと一瞬思ってしまったが、そうじゃないだろう。
 どこか物々しい声音は父親としてではなく皇帝としての威厳が感じられた。
 そう感じ取った時、嫌な予感が脳裏を過ぎった。
 その予感が当たらない事を祈りながら俺は返答する。

「ああ、居るがそれがどうかしたのか?」
『そうか……なら悪いが明日の9時に彼女を皇宮にまで連れて来て欲しい』
「理由を聞いても良いか?」
『ジン君の傍に居る彼女の名前はヘレン・ボルティネ。ベラグール王国ボルティネ伯爵家の息女だ』
「それはもう知ってる。それよりもどうしてヘレンを渡さなければならないのか聞いてるんだ」
 俺の返答にヘレンの体がビクッっと震える。一瞬内容を察して振るえたのかと思ったが影光とアインの表情を見る限りそうじゃない。
 どうやら冷静に返事をしたつもりだったが、苛立ちで怒気が含まれていたようだ。

『家出をした娘を探しているとの事で直々に協力願いが我のところに来たのだ。断る理由もあるまい』
 だとしても見つけるのが早すぎるだろ。まさかボルキュス陛下に場所を教えた?それはない。そうなると協力願いなんて出す必要も無いはずだ。となるとボルキュス陛下の力か。

「分かった。明日連れて行く」
『助かる』
 そう言って俺は通話を終えた。

「それで誰か――」
「クソッ!」
 影光が質問しようとしていたが、その前に苛立ちを抑えていられなかった俺はスマホをソファーに投げつけていた。
 だってこんな最悪な事を我慢できるわけないだろ!

「ジン落ち着け!ヘレンが怯えている!」
「っ!わ、悪い……」
 やってしまった。つい怒りで力の一部が開放されてしまった。俺は軽く深呼吸をして心を落ち着かせる。

「それで何があったんだ?」
「ボルキュス陛下が明日ヘレンを連れて来いって言って来た」
「何故、ボルキュス陛下がヘレンの事を知っているのだ」
「どうやらヘレンの両親がボルキュス陛下にヘレンの捜索協力を頼んだようだ。クソッ!先手を打たれた!」
「やられましたね」
「そ、そんな……」
 やってくれるぜ。ヘレンの両親よ。ヘレンと違って随分と頭の回るのようだな。
 俺はお茶を飲んで膨れ上がった苛立ちを抑えようとしたが収まる気配がない。

「だが腑に落ちないな」
 顎に手を当てて考え込んでいた影光が口を開いてそう言った。

「と言うと?」
「何故今になってボルキュス陛下に頼み込む?」
「きっと俺が今日ヘレンを守ったからじゃないのか?まさかヘレンを助ける存在が現れることなんて想像もしてなかったんだろうよ」
「それにしては対応が速いような気もするが……」
 確かにそれはあるが、今の時代電話もあるんだ。
 俺たちが謎の仮面3人組との戦闘を終えてもう4時間は経過してるんだ。それならその間に3人組の誰かが本部に連絡してその情報を本部がヘレンの両親に連絡したと考えるのが妥当だ。となると3時間以上の余裕がある。その間に捜索協力を頼むことなんて出来るだろうよ。

「だが一番腑に落ちないのはヘレンの両親はヘレンが横領のデータを持っていることは知らないのか?知っていたら他国に協力を依頼するなんて普通はしないはずだ」
「確かに……言われてみればそうだな…」
 もしかして何か裏でもあるのか?
 全員で考え込んでいると突然強烈な殺気を感じ取った。
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