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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第六十一話 レイノーツ学園祭 ⑧

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 10月19日金曜日。
 10時過ぎに退院した俺は病院前で待機していたアイン、影光と一緒にお城へと向かった。
 なんでこの2人がここに居るかと言うと昨日の夜にライアンとシャルロットが帰った後で連絡したからだ。
 タクシーに乗ってお城の前まで移動した俺たちは警備員のおっちゃんに挨拶してから中に入る。
 お城に入った瞬間予想通りイオが出迎えてくれた。ほんといつから待ってるんだ?
 そんなイオの案内で応接室へとやって来た俺たちを待っていたのはボルキュス陛下、シャルロット、ライアン、レティシアさんの4人だった。いつもならグレンダも居るが今は療養中のため居ないのだろう。

「よく来てくれた」
 そう言われた俺たちは対面のソファーに座る。
 それと同時にイオが俺たちの前にお茶を出す。絶対にこいつは未来予知の能力を持っているに違いない。
 そんな事を思いながら俺は出されたコーヒーを飲む。
 いつもは紅茶だが、今回はコーヒーにして貰うようにエレベーターの中で頼んでおいたのだ。
 飲んだ瞬間に酸味が口に広がったあとに苦味がやってきた。
 豆自体が酸味を多く含んでいるのかそれとも浅煎りなのかは分からないが、とても美味しい。
 コーヒーを堪能しているとボルキュス陛下が話しかけてくる。

「それで体の方はどうなんだね?医者にはどこも異常は無いと言われたようだが」
 シャルロットかライアンのどちらかに教えて貰ったんだろう。
 そう思った俺はコーヒーカップをテーブルに置く。

「いつもと同じ健康さ」
「まったく最初は肋骨が折れたと聞いて吃驚したものだが、ずば抜けた回復能力だな」
「まあな」
 本当の事を言えばどんな怪我や病気をも一瞬で治す水を飲んだお陰なんだが。この事を伝えたら俺がどこで育ったのか話さないといけなくなるからな。それはイザベラとの約束で言うわけにはいかないからな。
 それに常人より回復力が早いのは確かだからな。

「ジン君、皇帝として一人の父親として言わせてくれ。シャルロットを学園の生徒たちを助けてくれてありがとう」
「別にお礼を言われるためにシャルロットを助けたわけじゃないんだが」
「勿論分かっている。謝礼金として報酬を増やすつもりだ」
「マ……いや、そう言う意味で言ったんじゃないんだが」
 おっと危ない危ない思わず喜んでしまうところだった。欲望に素直な事が仇になるところだった。

「それにシャルロットが誘拐されたのは俺がシャルロットの傍から離れたわけだしな」
「それに関してはシャルロットから聞いている。君は護衛対象者の指示に従って動いたに過ぎない。それに君に罰を与えると言うのであればシャルロットの傍で護衛していたグレンダにも罰を与えないといけない事になるが?」
「はぁ……分かったよ。遠慮なくお礼を受け取っておくよ」
「そうしてくれると我もありがたい」
 俺の言葉に笑みを浮かべるボルキュス陛下と安堵の表情を浮かべるシャルロット。
 話の区切りが見えたところでシャルロットとレティシアさんが退出する。
 そうここからが今日呼ばれた本当の目的なんだろう。

「さて、本題に入るがジン君君が倒したあれはなんだか分かるかね?」
「さっぱり分からないな。意見は出来るけどな」
「聞かせて貰えるかね」
 真剣な表情で言ってくるボルキュス陛下。ま、教えない理由も無いので俺としては別にかまわないけど。と、言うか逆に調べて貰いたいほどだ。

「アインが言うにはシャルロットを襲ったストーカー野郎、名前は……」
「マイフェル・コーゲン。レイノーツ学園技術科1年10組の生徒だ。その見た目と性格から男子からは馬鹿にされ、女子からは陰気だと影でコソコソ言われていたらしい」
「なるほど、そんな奴がシャルロットに手を差し伸べられたら惚れるのも無理はないな」
「まったく見た目と実力は関係ないと言うのに。学園長に強く言っておくべきだな」
 嘆息交じり呟くボルキュス陛下。それだけ生徒に対する指導が緩んでいると思っているのだろう。だが1万人近い生徒一人一人を見ることなんて無理だ。生徒と同じ人数の教師を集められるなら別だがまず無理だろう。
 だが、ボルキュス陛下が言っていることは間違っていない。見た目で相手を見下せば痛い目を見る事だってある。俺もあの気まぐれ島で経験したことがあるからな。
 だが、どうしても人って言うのはまず、相手の内面や実力で判断するのではなく、見た目で判断してしまう生き物だ。それが分かっていても、そうするのは難しい。

「おっと話が反れたな。本題に戻ってくれたまえ」
 冷静になったボルキュス陛下はそう言ってくる。

「まず俺。と言うよりも俺たちフリーダムの考えでは今回の事件の首謀者は別にいると思っている」
「ほう……と言うと?」
 ボルキュス陛下は生返事をするが、反応から見て同じ考えに至っていると言う感じだ。それに俺たちがその考えを導き出した事に驚いてはいない。関心を示しているだけだ。

「まず、あの異常な力を増幅する薬はまずいち学生が手に入れられるようなものじゃないだろう。もしも手に入れられるならもっと世間が騒いでいてもおかしくは無い。つまりあの薬は薬を製造しているであろう組織の奴がマイフェルを利用したに過ぎないって事だ」
「我も同じ考えだ。だがそれだけではないのだろう?」
 悪戯小僧のような笑みを浮かべるボルキュス陛下。ほんと皇族や王族って何を考えているのか分からないな。

「その通りだ。まず一つ目が、今回の事件はどうみても突発的な物じゃない。前もって用意された物だって事だ。でなければあれだけの人数の暴徒共を学園内に忍び込ませる事なんて出来ないだろうからな」
「つまりは学園内に共犯者が居ると言う事かね?」
「その可能性は低いだろう。アインが言うにはあの薬は1500年前に滅んだレグウェス帝国で作られた薬と似ているそうだ。その薬にも種類があり即効性の物と遅効性の物があるらしい。そして今回使われたのは」
「後者と言う訳だな」
「そう言うことだ。きっとその資料か何かを見つけて作り出したんじゃないか」
「確かにそれは無いとは言い切れないだろう。以前ジン君が見つけ出した未発掘の遺跡同様にまだレグウェス帝国の施設や技術に関してすべて分かっているわけじゃないからね」
 そうだろうな。出なければこの国はもっと発展していてもおかしくはないからな。

「そして今回使用された遅効性の薬を投与した奴等を学園祭に紛れ込ませ学園祭を滅茶苦茶にしたと考えるのが妥当だろう」
「だが、そこまでして妹が欲しかったのか」
 と、ライアンが怒り交じりの声で呟く。

「いや、それは違うと思うぞ」
「ジン君、それはどういうことだい?」
「シャルロットが誘拐されたのは薬を投与された連中が暴れだしてからだ。そうなれば護衛であるグレンダの警戒心はMAXの筈だ。そんなところを襲う理由は無いはずだ」
「だが実際に誘拐されたじゃないか」
「確かにそうだが、誘拐するのは事件を起こす前にした方が効率的って話さ」
「なるほど……」
 俺の言葉に納得したのか少し俯くライアン。
 そんなライアンに一瞬視線を向けたあと俺に視線を移すボルキュス陛下。

「だから俺の推測では今回の誘拐と学園内での暴徒どもの事件は別物だってことだ」
「それはつまり……」
「本当の首謀者にマイフェルは利用されただけってことだ」
「だがなんのために?」
「俺が思うにだが、陽宵の時同様に実験だったんじゃないかと俺は考えている」
「実験だと?」
「そうだ。最初は投与した人間がどの程度の身体能力を持っているか、また自我を維持した人間がどの程度戦えるか。それがこないだの連続殺人事件に関与した首謀者の狙い。そして今回の事件では自我を無くした暴徒どもがどれだけの被害を出すのか、また冒険者、軍がどの程度の時間で対応してみせるかを見るためと、マイフェルが使用したと思われる薬の原液の効果を見るため」
「それはつまり学園を実験場にしたと言う事か。それも学園祭と言う場を使って」
「そうなるな」
「ふざけおって!」
 俺が導き出した答えにボルキュス陛下はテーブルを殴る。おいおい肉体強化も使わずになんて威力だよ。テーブルに穴が開いたぞ。
 よく見るとライアンも激怒しているのか奥歯を強く噛み締めていた。

「勿論これは俺の推測に過ぎない事だけは忘れないでくれよ」
 もしも本当は違っていてボルキュス陛下たちが暴れられたら俺は責任取れないからな。
 その後どうにか落ち着いたボルキュス陛下とライアン2人と今後の対策なんかを話し合った。
 アインと影光はギルドに戻るためエレベーター前で分かれた俺は寝室のベッドで横になる。
 強い敵と戦えるのは嬉しい。それは俺が強くなることが出来ると言う事だから。
 だが、一般人を巻き着込むような連中は許せない。ん?なんだか俺らしからぬ考えだな。スヴェルニ学園の時なら力が全てって考えだったのに。

「俺も影響を受けているって事か……」

            ************************

 ジン君たちが出て行った後、我とライアンだけとなった一室。イオはアイン殿たちを見送りに行っていて今はいない。

「それで結果は出たのか?」
「はい、父上。研究科の報告では死亡したマイフェルの戦闘能力は魔物のランクにしてSSランク相当だったとの事です」
「そうか……オニガワラ・ジン。やはり只者では無いな」
「はい。SSランクをたった1人で倒しただけでなく、負傷が肋骨数本だけ。それを考えると彼の実力は冒険者ランクで言えばSSSランクに匹敵します」
「あれで未だにCランク冒険者と思うとゾッとする」
「仕方がありません。必ず昇給するには冒険者ポイントを貯めるしかないのですから」
「そうだな」
 オニガワラ・ジン。お前はいったいなんの目的でこの国にやってきた。いや、それ以前にお前は何者だ。
 答えるが出るわけでもなく、教えてくれる存在がいるわけでもない問いを我は必死に求めた。
 だが予想通り答えは出なかった。

「ですが、これで納得は出来ました。あのトウドウ・カゲミツ殿がフリーダムと言う創設したばかりのギルドに入ったのか。ジン君が持つ人を引き寄せる魅力の持ち主である事は知っています。ですが強い意思を持った彼がそれを曲げてまで入るとは思いませんでしたからね」
 ライアンの言うとおりだ。カゲミツ殿は世界でも有名な剣豪だ。
 そしてフリーの冒険者であり世界中のギルドが欲しい人材でもある。
 しかしカゲミツ殿は自分より弱い者の下で戦うつもりはないと断言している。だからこそ一時期は彼に挑むものが幾万と居たが、その全員が敗北し諦めた。中には何度も挑戦した者もいただろうが、それすらも倒してみせる程の剣豪だ。
 そのような男を倒してしまうなどやはりオニガワラ・ジンと言う男が持つ力はこの世界は揺るがす程の力なのかもしれない。
 
            ************************

 闇へと変わろうとする空は悲鳴を上げるかのように紅く染まっていた。
 そんな空を黄昏るように眺める一人の美女。
 紅い太陽光を浴びて光る漆黒の長髪。
 それとは相対的に彼女が着る服は真っ白な服。
 そして何より髪と同じ色の目に光は宿ってなく濁りきっていた。
 その美女は人の気配のないゴーストタウンとなりかけている一つの廃ビルの貯水タンクの上で寛ぐ。

「思いのほかデータが取れなかったわね」
 誰も居ない場所で彼女は空にでも語りかけるように独り言を呟く。

「やっぱり根暗なストーカーを利用したのが駄目だったわね。もう少しデータが貰えると期待してたのに。やっぱり選ぶ人間を間違えたんでしょうね。あの屑王子と一緒で」
 落胆するその姿を男性陣が見れば自分が相談相手になると接近するほどの表情をしていた。
 だが、その表情は一変し不気味とも思えるほどの三日月型の笑みを浮かべた。

「だけどあの男はやっぱり良いわね。正義感の中にある暗く深淵よりも深く、残酷的なまでの闇。きっと彼なら私たちの仲間になってくれる」
 遠いどこかを見るその目はまるで恋する乙女。

「もっと彼のことが知りたい。いったいどうすればそれだけの闇と力が手に入るのか」
 内の底から湧き上がってくるような高揚感にも似た弾んだ声音で彼女は喋る。

「だけど、今は他の事よね。待っててね、いつか迎えに行くから」
 その方向に居るであろう愛しき人物に視線を向けたかと思えばいつの間にか彼女の姿はどこにも無く消えていた。
 そして再びゴーストタウンに静寂が訪れる。

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