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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第五十九話 レイノーツ学園祭 ⑥

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「今からお前を殴り飛ばしてやるからな!」
 俺はそう言ってまたストーカー野郎目掛けて地面を蹴った。
 もう、どうでも良い。
 俺は目の前のこのクソ野郎を殴り飛ばす。
 現実と妄想の区別がつかないクズ野郎を殴り飛ばす。ただそれだけだ!
 一瞬とも言える時間でストーカー野郎に近づいた俺は奴の顔面目掛けて思いっきり拳を振り下ろす。
 しかし防がれ反撃される。しかしさっきみたいに食らいはしない。
 ギリギリで躱した俺は回し蹴りで反撃する。
 それも防がれたが少し地面を滑って距離が離れる。
 だけど防いで腕にはちゃんと痛みが伝わってるのがストーカー野郎は苛立ちを露にする。

「どうして僕の邪魔をするんだ!僕はただシャルロットと幸せになりたいだけなのに!」
「だからそれが許せねぇって言ってるんだ!」
「煩い!君に何が分かるんだ!力を持たない僕がようやく力を手に入れて願いを成就させようと思ったのに!」
「だから分かりたく無いって言ってるだろうが!それにお前が力を手に入れようがそうで無かろうがお前みたいなクズは俺が許さねぇって言ってんだよ、ストーカー野郎が!」
 何度同じ会話を繰り返せばいいんだ。逆にこっちが腹が立つ。
 けして譲らない口論。いや口論とも言えない内容だ。
 だけど分かっている事はこのストーカー野郎を野放しには出来ないって事だ。

「歯を食いしばれよ、このストーカー野郎。もうお前を相手している時間なんてないんだからな」
 俺は5%から7%まで力を上げる。
 湧き上がる力を感じたのかストーカー野郎は一歩下がる。

「おい、どうした?もしかして怖いのか?」
「そ、そんなわけないだろ!それに魔力の無いお前なんかに、この僕が負けるわけないだろ!」
「だったら証明してみせろよ!」
 俺はそう言って地面を蹴った。
 接近する俺を殴ろうとするが、それを躱してストーカー野郎の顔面に拳を叩き込む。

「カハッ!」
 一瞬顔は陥没し、鼻は折れ、そこから鼻血が流れ落ちながら後方に吹き飛ばされる。
 だが、俺の追撃は終わらない。
 奴が吹き飛ぶ後方に先回りして思いっきり背中に蹴りを叩き込む。
 体は逆くの字に反れ曲がりゴキゴキと嫌な音を立てながら前方に吹き飛んだ。

「どうしたもう終わりか?」
 そんな俺の問いかけにも反応がない。気絶したか。
 ならこの隙にと、俺はシャルロットの許へ向かう。

「大丈夫か?」
「はい。それよりも助けに来てくれたんですね」
「あたりまえだろ」
「…………」
「どうかしたのか?」
「い、いえ!何も!」
 ん?顔が赤い。もしかしてあのストーカー野郎になにかされたんだじゃ!
 一瞬そう思ってストーカー野郎にもう一撃叩き込んでやりたいところだが、今はシャルロットを安全な場所に連れて行くべきだな。
 そう思ってシャルロットに手を差し伸べる。

「立てるか?」
「はい、大丈夫です」
 俺の手を取り立ち上がる。
 見たところ手荒な事はされてないようだ。
 安堵した俺はシャルロットをつれて外に出ようとした。

「「っ!」」
 突如演習場内から途轍もない量の殺気を背後から感じ取った。
 俺は即座に振り向きシャルロットを守るように戦闘態勢に入る。
 そして尋常じゃない殺気を放つのは地面に倒れているストーカー野郎だった。

「な、なんですかあの不気味な魔力は……」
「魔力?」
「はい、あの人からドス黒い魔力が溢れて来ています」
 魔力を持たない俺には見えないし感じられないがきっとそれに殺気も込められているんだろう。
 だが、奴から感じる殺気と力は拙い。
 気がつくと額から冷や汗が流れていた。
 俺が冷や汗なんていつ以来だ?
 そしてそんな俺の不安に答えるようにストーカー野郎の体は見る見る膨張していった。
 日焼けなんてした事が無いような白い肌は強膜と同じ紫色に変貌し、150代の身長が3メートル近くまでになる。
 まさに異様な光景が目の前に広がっていた。

「シャル……ロット、ハ……ボクノ……モノダ!」
 思考力も低下したのか滑舌も悪くなる。あれはもう人間じゃない。
 外で暴れまわっている一般人と同じ。いやそれ以上に最悪な魔物と同じだ。

「シャルロット、走って逃げろ!そして誰でも良い。冒険者か学園関係者に安全なところまで案内して貰ってくれ」
「ジ、ジンさんはどうするのですか?」
「決まってるだろ。アイツをブッ飛ばすのさ」
「なら、私も残ります!」
「馬鹿!さすがの俺でもお前を守りながらは戦えない!頼むから逃げてくれ!」
「………分かりました。ですが誰か呼んで来ますから、死なないで下さいね!」
「俺は死ぬつもりはねぇよ」
 そう言ってシャルロットは演習場を走り去った。それで良い。お前はそれで良いんだ。
 皇女であるお前にこれから起きる戦いは目にして良いもんじゃない。なぜなら間違いなく血みどろの戦いになるだろうからな。
 同じ学園の生徒に見せられるものじゃない。ましてや心優しいシャルロットには見せられないと判断した俺は出て行ったシャルロットを見て安堵した。
 それにしても異様な光景だ。
 俺には見えない魔力が今どうなっているのか分からない。ただ嫌な予感しかしない。

「アレ、シャルロットハ?」
「シャルロットなら俺が助けて逃がしてやったぜ」
「オマエハ……ドコマデ……ボクノ、ジャマヲ……スルンダ!」
 まともに聞き取ることも難しくなった喋り声のままストーカー野郎は俺に殴りかかってきた。
 速い!
 さっきの時とは比べ物にならないほどの速さ。
 どうにかその攻撃を躱す。
 直ぐに奴に視線を向けるとさっき俺が立っていた地面が砕け散り小さなクレーターが出来上がっていた。おいおいマジかよ。本当に人間の腕力か?
 ドーピングに似た薬を使っているにしては効果がエグ過ぎるだろ。
 ストーカー野郎は口から涎を垂れ流しながら覚束ない足取りで近づいてくる。
 完全に魔物以下じゃねぇか。
 きっと使った薬の副作用によるものだろう。まったくどんだけ強力な薬なんだ。どう見ても使用禁止だろ。
 だがこれはチャンスだ。
 そう思った俺はすぐさまストーカー野郎目掛けて一撃を入れる。

「お前が居なくなるまでだよ!」
 さっきの問いにも答えてやる。
 おいおいマジかよ……。
 俺は思わず頬を引き攣る。
 7%の力で殴ったのに平然とガードもする事無く平然としてやがる。
 炎龍ですら余裕で殺せる一撃だぞ。それなのにビクともしないとかありえないだろ。
 すぐさま距離を取って警戒する。
 あの気まぐれ島から出てようやく楽しめる相手ではあるけど、こいつと戯れるつもりは無い。なんせシャルロットを傷付けた奴なんだからな。

「だから遠慮なく殺させて貰うぜ」
 俺は10%まで力を上げる。これなら奴も倒せるだろう。
 地面を砕く勢いで近づいた俺は全力で殴る。

「おらッ!」
 ガードもしようとしないストーカー野郎はそのまま吹き飛ばされる。
 よし、これなら戦えるな。
 そう思った瞬間奴は俺に接近してきた。

「マジかっ!」
 どうにか躱す俺だが、まさか殴り飛ばされて着地すると同時に反撃するなんて思わなかったぞ。
 驚いた俺だがすぐさま攻撃に転じる。

「ボクノ、シャルロットヲ、カエセ!」
「だからお前のじゃねぇだろうが!」
 零距離で殴り合う俺たち。
 ガードも無しで殴りあう。
 最初は俺の方が力が上だったのに魔力が暴走しているせいなのか、殴られる度にその威力が増している。
 ったく見た目だけじゃなくて本当に化け物だな。
 攻撃される度に鈍痛が強くなる。
 だがここで負けるつもりも負けるわけにもいかねぇんだよ。なんせ俺はシャルロットの護衛なんだからな!

「ぅうおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」
 俺が負ければ間違いなくコイツは外に出てシャルロットを探すだろう。
 もしもそこで一般人や冒険者と出くわせばコイツは容赦無く殺すはずだ。それだけは絶対にさせちゃならない。
 だってコイツはもう人間じゃない外で暴れている連中以上に危険な魔物なんだからな!

「シャルロットヲ、カエセ!」
「グホッ!」
 やばい……今の一撃はヤバイ。
 途轍もない激痛が脇腹を襲う。クソ……肋骨が何本か折れたな。
 クソ……10%でもコイツを倒せないのかよ!
 俺はそう思ってまたしても力を解放しようとした。
 その時、頭に懐かしい声が響いた。
 ――なんだ、もう力を解放するのか。相変わらずお前は弱いな。
 煩い。仕方が無いだろ。このままだとシャルロットだけでなく他の奴等まで危険なんだからよ。
 ――そして、お前は同じ事を繰り返すのか?
 なに?
 ――危険になった。なら力を解放して勝てば良い。それで本当に強くなれると思うのか?
 だがこのままだと……シャルロットたちが。
 ――なら今のままで勝てば良いだろう。
 それが出来れば苦労はしねよう。だいたいそんな馬鹿な事が出来る状況じゃないだろうが。
 ――私が知っているお前はいつも考え無しに戦場に飛び込んで戦う姿だけだ。プライドや誇りなんかじゃない。ただそうしたいからそうしてるだけ。馬鹿な意地で戦っていた筈だ。そして私はそんなお前が嫌いではなかったぞ。
 何、今更褒めてんだよ。褒めるならもっと早く褒めろよな。
 ――別に褒めたつもりはない。お前はそうやって強くなったんだろう。と言う話だ。
 ………。
 ――ほら、見せてみろ。もう一度私に見せてみろ。お前の馬鹿げた意地でソイツを倒して見せろ。
 ほんと相変わらず、無茶苦茶な要望を出しやがる。
 だが分かったよ。倒してやるよ!
 気がつくと俺の視界はいつも以上に良好だった。どうやら一瞬意識を失いかけていたらしい。
 足に力を込めて倒れそうになる体を持ち上げる。さぁここから第二ラウンドだ!
 久々に激痛を伴いだからの戦闘。それも命を賭けた戦闘はあの気まぐれ島以来だ。
 少し懐かしく感じながら俺は殴ったり蹴ったりを繰り返す。
 技と呼べる業じゃない。ただ効率良く殴るだけの体裁きと俺の意地が乗った拳と足を繰り出すだけの攻撃。
 そしてそれだけが俺が持つ唯一の接近戦の戦い方だ。
 だから俺は一撃一撃10%の力で殴りつける。全力で蹴る。
 その度に重くなる一撃を浴びるが、俺はしっかりと意識を持ってまたしても殴る。
 だが少しずつ相手が下がって行っているのが分かる。

「おい、どうしたもっと反撃して来いよ!」
「ウルサイ!」
「グホッ!」
 まったく自分でも呆れる。少し有利になれば調子に乗る自分の悪癖。
 だがそんな一撃を耐えて勝ってこそ、その先に強さが手に入る。別にMじゃねぇぞ。これが師匠から教えて貰った強くなる方法だ。
 ま、元々お調子者だったけどさ。それに師匠の教えで拍車を掛かったってところなんだが。
 だけど今思えばとんでもない方法だよな。
 それでも実際ここまで強くなってるんだから文句は言えないのが腹が立つけど。
 ったくなに思い出に浸ってるんだか。今はそれどころじゃないよな。
 徐々に視界が歪んで行くなか俺はストーカー野郎目掛けて拳を放つ。

「グッ!」
 その一撃に相手は顔を歪ませた。なんだ?
 気のせいと思いもう一度腹部に拳を叩き込む。

「グッ!」
 やはり間違いじゃない。どうして急に痛がりだしたんだ?
 それに急に奴の一撃が弱くなっている気がする。
 出来るだけ早く考える。ったくこう言う事はアイン担当だろうに。どうして俺がって思うが戦っているのは俺なので仕方が無い。
 戦いながら脳をフル回転させて考える。
 そして答えを導き出した。
 そう言えばアインが行っていたな。原液は投与された人間の魔力を喰らって増幅すると。そしてその分力は増幅するが殺戮衝動に襲われると。コイツの場合は俺に対する憎しみが強くて俺しか見えていない状況なんだろうが。
 で、投与された人間の魔力を食らい尽くすとソイツは血を噴き出して死ぬんだったな。
 もしももう魔力が少なくて威力が弱まっているとしたら……コイツはもう長くないって事だな。

「なら俺は全力で殴り続けるだけだ!」
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