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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第五十四話 レイノーツ学園祭 ①
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よく見るとそこは防弾ガラスで覆われた室内であり、どちらかと言えば温室とも呼べなくはなかった。
そのなかでポツンと置かれた白いテーブルと複数の椅子。
テーブルを囲むように俺とシャルロットは椅子に座るとグレンダもシャルロットの隣の椅子に静かに腰を下ろした。どうやら今回はグレンダも座るようだな。ま、1人だけ立ったままで居られても俺が落ち着かないのでありがたいが。
座って少しするとメイドが人数分の紅茶とお菓子を持ってくる。
こうして俺たちは他愛も無い会話をしながらティータイムを楽しむことにした。
10月15日月曜日。
昨日はそのまま皇宮で一夜を過ごした俺はまたしてもスーツを着てシャルロットたちと高級車で学園に向かう。影光たちは昨日のうちにホームに戻った。書類上はフリーダムに変更になったが最初は俺だけだったし、シャルロットも俺だけの方が気楽で良いだろう。大勢でシャルロットを囲んだりしたらそれこそストーカー野郎が出てこない可能性だってあるし、何より目立つ。
対面に座るシャルロットに視線を向けると待ち遠しいのか可愛らしくどこかソワソワしていた。
そう、いよいよ今日から学園祭が始まる。
いつも以上に車の量が多いように感じながら移動していたが、どうやら俺たちと同じで学園に向かっていたようだ。
レイノーツ学園祭は一週間と長期間行われる。
だからこそ1日ぐらい遅れても別に問題は無いが、俺はシャルロットの傍で護衛があるので楽しめるか分からない。
到着した俺たちは教室へと向かった。
その間に不穏な気配が無いか確かめるが異常は無いようだった。ま、不愉快な視線は感じるが。
「それじゃ、私は着替えて来ますので」
そう言ってシャルロットはグレンダを連れて女子更衣室に行ってしまった。
窓から外を見下ろすと生徒たちが機材や材料なんかの最終確認を行ったりしていた。
真剣に作業をする生徒たちはこの学園祭を最高のモノにしようとが頑張っているのが良く分かる。だからこそ真剣な表情も学園祭が待遠しいと言わんばりの笑顔がたまに見え隠れしていた。
さて、影光とアインはちゃんと来るだろうか。ストーカー野郎に感づかれてしまう可能性を考えて普通の客として紛れ込んで貰う事にしたが、普通の格好で来られたらそれこそ目立つ。いや、そっちの方がまさかシャルロットの護衛に関っているとは思わないだろう。あ、でも俺と一緒にいる所を見たのならそうは考えないか。
それから少ししてシャルロットが他のクラスメイトたちと一緒にやってきた。可愛らしいウエイトレス姿。これで見るのは二度目だが、やっぱり似合っていて可愛いな。
材料や飲み物の確認し2年1組の準備が終わると後はお客を待つだけとなった。
「ほら、みんな集まって」
そんなリーダーシップが光るブラウンの髪を持つ女子生徒がクラスメイト全員を集める。きっとこのクラスの委員長だろう。
どうやら円陣を組むようだ。若いって良いね。肉体年齢はそんなに変わらないけど。
円陣を組み中央で手を重ねるシャルロットたち。まさに一致団結って感じだ。と思いきや何故か全員の視線が俺とグレンダに向けられる。
怪訝に感じた俺たちが互いに視線を合わせて首を傾げる。
「何してるの。2人も入って」
「いや、俺たちはクラスメイトでもなければここの学生でも無いんだが」
「そうです。私たちはあくまでもお嬢様の護衛として」
クラス委員長の言葉に俺とグレンダは遠慮するが、
「何言ってるのですの。色々と手伝って下さったではありませんか」
俺たちの言葉に金髪の女子生徒がそんな事を言ってくるが別に大した事はしていない。
そんな俺たちの言い争いとも言えない攻防にシャルロットが口を開いた。
「何を言ってるんですか。2人とも私たち2年1組の仲間じゃないですか」
「「………」」
笑顔で平然と言ってくるシャルロット。ったくそんな恥ずかしい言葉を言いやがって。逆に気恥ずかしくなる俺とグレンダに追撃してきたのは委員長が追撃してくる。
「もう2人とも時間無いんだからさっさと入る!」
「「は、はい!」」
どれだけ力や権力を有していようとこの状況で委員長より偉い人間は居ないのだと俺とグレンダは身を以って知った。
円陣の中に加わった俺とグレンダはみんなと同じように手を重ねる。円陣を組むなんて中学の体育際以来だな。
そんな事を思っていると、
「普通科2年1組喫茶店『レント』を最高のモノにして、最高の思い出にするわよ!」
『おおおおおおぉぉ!』
「「お、おお~……」」
そんなやる気に満ち溢れた学生たちの勢いに俺とグレンダは気圧されるだけだった。学生って凄いな。二ヶ月前までは俺も学生だったけど。
しかし楽しそうに笑い談話する彼女たちの姿はどこか綺麗で、少し羨ましかった。俺も少しは学生時代を楽しんでおけば良かったな。
そんな前世の人生を後悔しつつも今の人生の時間は流れていく。
少ししてアナウンスが流れる。
『これより第100回レイノーツ第一学園学園祭を開催します』
短く簡素な合図。
それで良いのかと思ってしまうが、学生たちを大いに胸を躍らせた。
その証拠に教室の窓から見下ろすと沢山の一般人がゾロゾロと入ってくる。まるで大蛇だな。
人の群れによって出来た大きな大蛇は正門から出店を素通りし、校舎や演習場の方へと枝分かれして進んでいく。
「それじゃ皆、張り切って行くよ!」
『おおっ!』
委員長の言葉に全員が嬉しそうに返事をする。
学生たちの元気さに俺が一週間持つか少し不安に感じる。
学園祭が始まり1時間。シャルロットたちの喫茶店レントは予想以上に大盛況だ。
まだお昼まで数時間あると言うのにこの賑わいは俺の想像を遥かに超える。
だが改めて考えてみれば当然なのかもしれない。
なんせ2年1組の女子のレベルは高く、大半の女生徒が貴族令嬢。ましてやその中に第二皇女であるシャルロットが居るのだ。そんな彼女たちが接客してくれるのだから大繁盛しないわけがない。
そのため客層の大半が同世代の男子か。20代男性ばかりだ。
シャルロットが笑みを浮かべれば蕩けるような表情になる。
そんなシャルロットをナンパしない男などはおらず。たまにしてくる馬鹿が居るがグレンダが一睨みすれば直ぐに退散して行く。
そして俺はシャルロットがウエイトレスをしている間は教室の端の方で見ているだけ。と思っていたがそれだとお客に不自然と思われてしまい客足が減ると委員長に却下された。
結果何故か俺までもが接客をする事になってしまった。
1人だけスーツ姿で接客するというなんともおかしな話だが、仕方ない。
と言うかいきなり言われたから困る。最初から俺に接客させるつもりなら昨日のうちに言って欲しかった。
まぁ、そんな愚痴を思っても仕方が無いので俺は接客を行う。まさか大学生の時にファミレスでバイトしていた事が役に立つ日が来るとは思ってなかった。もう何年前の事で大半忘れていたが、体が覚えていたし、時間が経つにつれて少しずつ勘を取り戻したおかげでどうにか足を引っ張らずに済みそうだ。
それにしても何故かは分からないが、俺が接客するのは男性じゃなくて女性客ばかりだ。ま、俺としては男共の相手をするよりかはありがたいが。それにしては女性客が嬉しそうにしているのはきっと上手く接客が出来ているからだろう。
それから時間が過ぎお昼時のピークを過ぎた頃ようやく休憩に入る事が出来た。疲れた……魔物討伐している時よりも疲れた。これがあと4日もあると思うと憂鬱だ。
話し合いで決まったシフトでは今からシャルロットが休憩に入る。そのため護衛である俺とグレンダも自動的に休憩となるわけだが。
「どうしたんだグレンダ、いつもになく疲れた表情をしているじゃないか」
「そう言うお前も同じ顔をしているぞ」
「はは、疲れすぎて幻覚でも見てるんじゃないのか」
「それはお前ではないのか」
なんて覇気の無い声で皮肉を言い合いながらシャルロットが女子更衣室から出てくるのを外の廊下で待つ。
「なぁ、グレンダ」
「何だ」
「学生って凄いな……」
「そうだな……」
互いに学生の凄さを認め合いながら嘆息する。疲れた。
「お待たせしました」
少しして出ててきたシャルロット。その表情はとても嬉しそうで学園祭を早く回りたいと顔に書いてあった。
正直俺とグレンダはもう少し休みたいがそんな事は言えないのでついて行く。
「それでどこから回るつもりなんだ?」
気になって聞く俺は自然とシャルロットの横を歩く。
「そうですね。色々と見て回りたいですが、そんなに時間はありませんしね」
「まだ4日もあるんだ。ゆっくり回れば良いさ」
「はい!」
満面の笑みを浮かべて答えるシャルロットはパンフレットを広げながら鼻歌を歌う。
俺も覗き込み見てみると色々なお店が出ていた。シャルロットたちと同じ飲食店や金魚すくい、輪投げ、射的、クジ引き屋。まるで日本の夏祭りの屋台だな。
そんな風に思っていると何故か屋台コースに重量挙げと言う名前のお店がある。なんで重量挙げ?
他にも棒掴み屋なんてお店もあった。
シャルロットに聞いてみると肉体強化魔法を使ってどれだけの重量を上げられるかによって貰える景品が変わってくると言うお店らしい。
棒掴みは肉体強化によって向上した動体視力で落ちてくる棒を掴むゲームらしい。
なるほど大半が魔法を使わない屋台ばかりだが、中には魔法を使った屋台もあるらしい。それも誰もが持っている無属性魔法で楽しめる屋台ばかりだ。
基礎属性になってくると持っている人が限られてくるし、中には持っていても属性によっては出来なかったりするから、そう言った屋台は限りなく数が少ない。ま、中にはあるけど、それは主にやって来た冒険者たちを狙ったお店だそうだ。色々と考えてるんだな。
そんな事を思いながらシャルロットたちと屋台を回る。
一緒にクレープを食べたり、チョコバナナを食べさせて貰ったりしながら歩く。
こうして歩いてみて分かったが、並んでいるお店の大半が庶民的なモノばかりだ。貴族の子息や令嬢が通うお店ならもっと凄いお店があると思っていたが、そうじゃないらしい。
シャルロットに聞いてみるとそう言ったお店はある事はあるらしいが、外ではなく校舎の中に作られているらしい。
なるほど外は庶民中は貴族という形で別れているのか。勿論貴族が外の屋台を回るのは禁止じゃないし悪いことじゃない。その証拠に王族であるシャルロットが出歩いているのだから。
またその逆で庶民が一時の思い出に貴族たちが通うお店に行っても問題はない。ただめちゃめちゃ高い!ただそれだけの事らしい。
つまりは貴族と庶民じゃなくて、富裕層と庶民と言う形に別れていると言った方が良いのかもしれない。
休憩時間も残り僅かになって来た時、通り過ぎる人たちから噂が耳に届いてくる。
「おい、あっちの射的屋の噂聞いたか?」
「聞いた聞いた!なんでもメイド服を着た美女が射的屋の商品を片っ端から撃ち落としてるって話だろ」
「そうそう!お店の学生泣いてたって話しだ」
「それはそうだろうな」
メイド服を着た美女が射的屋で荒稼ぎしてるだと。ま、まさかな。
俺の脳裏に浮かんだ一人の女。違うことを祈りながら歩く。
「料理研究部でやってる千切り対決見た?」
「え、何にそれ?」
「有名なお店の料理長にも勝った事があると言われてる料理研究部の部長が胴着と袴姿のおじさんに負けたって話」
「胴着と袴?ヤマトの人なのかな?」
「さあね」
胴着と袴姿のおっさんに負けた。うん、これは俺が知っている男とは別人だな。あいつが料理研究部なんてお店に行くわけが無いからな。
きっと同じ国の人間の仕業に違いない。
歩いていると時々、嫌な視線を感じる。
超小型カメラで見られているような視線じゃない。ハッキリと殺意と敵意が篭った視線だ。
まさかストーカー野郎が外に出てきたのか?いや、それはありえない。帝国軍や奴を見張っているんだ。帝国軍の監視を振り切って近づくような事は出来ないはず。
いや、待てよ。監視はしているが部屋から出ないように見張っているわけじゃないんだ。なら外に出ていてもおかしくはないか。ならこの視線はストーカー男かもしれないな。
愚かだな。自分から俺に気配を教えてくるなんて。もうお前を見失うことはないぜ。
「どうかしましたか?」
「ん?どうしてだ?」
「いえ、なんだか嬉しいことがあったような顔をしておられたので」
「ちょっとな」
「はぁ……?」
怪訝の表情を浮かべるシャルロット。危ない危ない。シャルロットにストーカー男が近くに居ることがバレるところだった。
もう少し表情を表に出さないように頑張らないとな。
そう思いながら俺たちは休憩を終えて教室に戻った。さぁ、残りの接客も頑張るぞ。
そのなかでポツンと置かれた白いテーブルと複数の椅子。
テーブルを囲むように俺とシャルロットは椅子に座るとグレンダもシャルロットの隣の椅子に静かに腰を下ろした。どうやら今回はグレンダも座るようだな。ま、1人だけ立ったままで居られても俺が落ち着かないのでありがたいが。
座って少しするとメイドが人数分の紅茶とお菓子を持ってくる。
こうして俺たちは他愛も無い会話をしながらティータイムを楽しむことにした。
10月15日月曜日。
昨日はそのまま皇宮で一夜を過ごした俺はまたしてもスーツを着てシャルロットたちと高級車で学園に向かう。影光たちは昨日のうちにホームに戻った。書類上はフリーダムに変更になったが最初は俺だけだったし、シャルロットも俺だけの方が気楽で良いだろう。大勢でシャルロットを囲んだりしたらそれこそストーカー野郎が出てこない可能性だってあるし、何より目立つ。
対面に座るシャルロットに視線を向けると待ち遠しいのか可愛らしくどこかソワソワしていた。
そう、いよいよ今日から学園祭が始まる。
いつも以上に車の量が多いように感じながら移動していたが、どうやら俺たちと同じで学園に向かっていたようだ。
レイノーツ学園祭は一週間と長期間行われる。
だからこそ1日ぐらい遅れても別に問題は無いが、俺はシャルロットの傍で護衛があるので楽しめるか分からない。
到着した俺たちは教室へと向かった。
その間に不穏な気配が無いか確かめるが異常は無いようだった。ま、不愉快な視線は感じるが。
「それじゃ、私は着替えて来ますので」
そう言ってシャルロットはグレンダを連れて女子更衣室に行ってしまった。
窓から外を見下ろすと生徒たちが機材や材料なんかの最終確認を行ったりしていた。
真剣に作業をする生徒たちはこの学園祭を最高のモノにしようとが頑張っているのが良く分かる。だからこそ真剣な表情も学園祭が待遠しいと言わんばりの笑顔がたまに見え隠れしていた。
さて、影光とアインはちゃんと来るだろうか。ストーカー野郎に感づかれてしまう可能性を考えて普通の客として紛れ込んで貰う事にしたが、普通の格好で来られたらそれこそ目立つ。いや、そっちの方がまさかシャルロットの護衛に関っているとは思わないだろう。あ、でも俺と一緒にいる所を見たのならそうは考えないか。
それから少ししてシャルロットが他のクラスメイトたちと一緒にやってきた。可愛らしいウエイトレス姿。これで見るのは二度目だが、やっぱり似合っていて可愛いな。
材料や飲み物の確認し2年1組の準備が終わると後はお客を待つだけとなった。
「ほら、みんな集まって」
そんなリーダーシップが光るブラウンの髪を持つ女子生徒がクラスメイト全員を集める。きっとこのクラスの委員長だろう。
どうやら円陣を組むようだ。若いって良いね。肉体年齢はそんなに変わらないけど。
円陣を組み中央で手を重ねるシャルロットたち。まさに一致団結って感じだ。と思いきや何故か全員の視線が俺とグレンダに向けられる。
怪訝に感じた俺たちが互いに視線を合わせて首を傾げる。
「何してるの。2人も入って」
「いや、俺たちはクラスメイトでもなければここの学生でも無いんだが」
「そうです。私たちはあくまでもお嬢様の護衛として」
クラス委員長の言葉に俺とグレンダは遠慮するが、
「何言ってるのですの。色々と手伝って下さったではありませんか」
俺たちの言葉に金髪の女子生徒がそんな事を言ってくるが別に大した事はしていない。
そんな俺たちの言い争いとも言えない攻防にシャルロットが口を開いた。
「何を言ってるんですか。2人とも私たち2年1組の仲間じゃないですか」
「「………」」
笑顔で平然と言ってくるシャルロット。ったくそんな恥ずかしい言葉を言いやがって。逆に気恥ずかしくなる俺とグレンダに追撃してきたのは委員長が追撃してくる。
「もう2人とも時間無いんだからさっさと入る!」
「「は、はい!」」
どれだけ力や権力を有していようとこの状況で委員長より偉い人間は居ないのだと俺とグレンダは身を以って知った。
円陣の中に加わった俺とグレンダはみんなと同じように手を重ねる。円陣を組むなんて中学の体育際以来だな。
そんな事を思っていると、
「普通科2年1組喫茶店『レント』を最高のモノにして、最高の思い出にするわよ!」
『おおおおおおぉぉ!』
「「お、おお~……」」
そんなやる気に満ち溢れた学生たちの勢いに俺とグレンダは気圧されるだけだった。学生って凄いな。二ヶ月前までは俺も学生だったけど。
しかし楽しそうに笑い談話する彼女たちの姿はどこか綺麗で、少し羨ましかった。俺も少しは学生時代を楽しんでおけば良かったな。
そんな前世の人生を後悔しつつも今の人生の時間は流れていく。
少ししてアナウンスが流れる。
『これより第100回レイノーツ第一学園学園祭を開催します』
短く簡素な合図。
それで良いのかと思ってしまうが、学生たちを大いに胸を躍らせた。
その証拠に教室の窓から見下ろすと沢山の一般人がゾロゾロと入ってくる。まるで大蛇だな。
人の群れによって出来た大きな大蛇は正門から出店を素通りし、校舎や演習場の方へと枝分かれして進んでいく。
「それじゃ皆、張り切って行くよ!」
『おおっ!』
委員長の言葉に全員が嬉しそうに返事をする。
学生たちの元気さに俺が一週間持つか少し不安に感じる。
学園祭が始まり1時間。シャルロットたちの喫茶店レントは予想以上に大盛況だ。
まだお昼まで数時間あると言うのにこの賑わいは俺の想像を遥かに超える。
だが改めて考えてみれば当然なのかもしれない。
なんせ2年1組の女子のレベルは高く、大半の女生徒が貴族令嬢。ましてやその中に第二皇女であるシャルロットが居るのだ。そんな彼女たちが接客してくれるのだから大繁盛しないわけがない。
そのため客層の大半が同世代の男子か。20代男性ばかりだ。
シャルロットが笑みを浮かべれば蕩けるような表情になる。
そんなシャルロットをナンパしない男などはおらず。たまにしてくる馬鹿が居るがグレンダが一睨みすれば直ぐに退散して行く。
そして俺はシャルロットがウエイトレスをしている間は教室の端の方で見ているだけ。と思っていたがそれだとお客に不自然と思われてしまい客足が減ると委員長に却下された。
結果何故か俺までもが接客をする事になってしまった。
1人だけスーツ姿で接客するというなんともおかしな話だが、仕方ない。
と言うかいきなり言われたから困る。最初から俺に接客させるつもりなら昨日のうちに言って欲しかった。
まぁ、そんな愚痴を思っても仕方が無いので俺は接客を行う。まさか大学生の時にファミレスでバイトしていた事が役に立つ日が来るとは思ってなかった。もう何年前の事で大半忘れていたが、体が覚えていたし、時間が経つにつれて少しずつ勘を取り戻したおかげでどうにか足を引っ張らずに済みそうだ。
それにしても何故かは分からないが、俺が接客するのは男性じゃなくて女性客ばかりだ。ま、俺としては男共の相手をするよりかはありがたいが。それにしては女性客が嬉しそうにしているのはきっと上手く接客が出来ているからだろう。
それから時間が過ぎお昼時のピークを過ぎた頃ようやく休憩に入る事が出来た。疲れた……魔物討伐している時よりも疲れた。これがあと4日もあると思うと憂鬱だ。
話し合いで決まったシフトでは今からシャルロットが休憩に入る。そのため護衛である俺とグレンダも自動的に休憩となるわけだが。
「どうしたんだグレンダ、いつもになく疲れた表情をしているじゃないか」
「そう言うお前も同じ顔をしているぞ」
「はは、疲れすぎて幻覚でも見てるんじゃないのか」
「それはお前ではないのか」
なんて覇気の無い声で皮肉を言い合いながらシャルロットが女子更衣室から出てくるのを外の廊下で待つ。
「なぁ、グレンダ」
「何だ」
「学生って凄いな……」
「そうだな……」
互いに学生の凄さを認め合いながら嘆息する。疲れた。
「お待たせしました」
少しして出ててきたシャルロット。その表情はとても嬉しそうで学園祭を早く回りたいと顔に書いてあった。
正直俺とグレンダはもう少し休みたいがそんな事は言えないのでついて行く。
「それでどこから回るつもりなんだ?」
気になって聞く俺は自然とシャルロットの横を歩く。
「そうですね。色々と見て回りたいですが、そんなに時間はありませんしね」
「まだ4日もあるんだ。ゆっくり回れば良いさ」
「はい!」
満面の笑みを浮かべて答えるシャルロットはパンフレットを広げながら鼻歌を歌う。
俺も覗き込み見てみると色々なお店が出ていた。シャルロットたちと同じ飲食店や金魚すくい、輪投げ、射的、クジ引き屋。まるで日本の夏祭りの屋台だな。
そんな風に思っていると何故か屋台コースに重量挙げと言う名前のお店がある。なんで重量挙げ?
他にも棒掴み屋なんてお店もあった。
シャルロットに聞いてみると肉体強化魔法を使ってどれだけの重量を上げられるかによって貰える景品が変わってくると言うお店らしい。
棒掴みは肉体強化によって向上した動体視力で落ちてくる棒を掴むゲームらしい。
なるほど大半が魔法を使わない屋台ばかりだが、中には魔法を使った屋台もあるらしい。それも誰もが持っている無属性魔法で楽しめる屋台ばかりだ。
基礎属性になってくると持っている人が限られてくるし、中には持っていても属性によっては出来なかったりするから、そう言った屋台は限りなく数が少ない。ま、中にはあるけど、それは主にやって来た冒険者たちを狙ったお店だそうだ。色々と考えてるんだな。
そんな事を思いながらシャルロットたちと屋台を回る。
一緒にクレープを食べたり、チョコバナナを食べさせて貰ったりしながら歩く。
こうして歩いてみて分かったが、並んでいるお店の大半が庶民的なモノばかりだ。貴族の子息や令嬢が通うお店ならもっと凄いお店があると思っていたが、そうじゃないらしい。
シャルロットに聞いてみるとそう言ったお店はある事はあるらしいが、外ではなく校舎の中に作られているらしい。
なるほど外は庶民中は貴族という形で別れているのか。勿論貴族が外の屋台を回るのは禁止じゃないし悪いことじゃない。その証拠に王族であるシャルロットが出歩いているのだから。
またその逆で庶民が一時の思い出に貴族たちが通うお店に行っても問題はない。ただめちゃめちゃ高い!ただそれだけの事らしい。
つまりは貴族と庶民じゃなくて、富裕層と庶民と言う形に別れていると言った方が良いのかもしれない。
休憩時間も残り僅かになって来た時、通り過ぎる人たちから噂が耳に届いてくる。
「おい、あっちの射的屋の噂聞いたか?」
「聞いた聞いた!なんでもメイド服を着た美女が射的屋の商品を片っ端から撃ち落としてるって話だろ」
「そうそう!お店の学生泣いてたって話しだ」
「それはそうだろうな」
メイド服を着た美女が射的屋で荒稼ぎしてるだと。ま、まさかな。
俺の脳裏に浮かんだ一人の女。違うことを祈りながら歩く。
「料理研究部でやってる千切り対決見た?」
「え、何にそれ?」
「有名なお店の料理長にも勝った事があると言われてる料理研究部の部長が胴着と袴姿のおじさんに負けたって話」
「胴着と袴?ヤマトの人なのかな?」
「さあね」
胴着と袴姿のおっさんに負けた。うん、これは俺が知っている男とは別人だな。あいつが料理研究部なんてお店に行くわけが無いからな。
きっと同じ国の人間の仕業に違いない。
歩いていると時々、嫌な視線を感じる。
超小型カメラで見られているような視線じゃない。ハッキリと殺意と敵意が篭った視線だ。
まさかストーカー野郎が外に出てきたのか?いや、それはありえない。帝国軍や奴を見張っているんだ。帝国軍の監視を振り切って近づくような事は出来ないはず。
いや、待てよ。監視はしているが部屋から出ないように見張っているわけじゃないんだ。なら外に出ていてもおかしくはないか。ならこの視線はストーカー男かもしれないな。
愚かだな。自分から俺に気配を教えてくるなんて。もうお前を見失うことはないぜ。
「どうかしましたか?」
「ん?どうしてだ?」
「いえ、なんだか嬉しいことがあったような顔をしておられたので」
「ちょっとな」
「はぁ……?」
怪訝の表情を浮かべるシャルロット。危ない危ない。シャルロットにストーカー男が近くに居ることがバレるところだった。
もう少し表情を表に出さないように頑張らないとな。
そう思いながら俺たちは休憩を終えて教室に戻った。さぁ、残りの接客も頑張るぞ。
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