131 / 274
第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第四十九話 レイノーツ学園祭前 ④
しおりを挟む
10月13日土曜日。
久々に王宮で朝食を食べた俺は一旦客室で用意されたスーツに着替えてからシャルロットとグレンダの2人と合流する。
「スーツも似合いますね」
「馬子にも衣装だな」
優しいシャルロットに大してグレンダの皮肉が届く。ほっとけ。
と言うよりも俺は冒険者活動する時の服装で戦いたかったんだが。ま、これは王族の気品を汚す事になりかねないから従うしかないが。
「それでは行きましょうか」
「ああ」
レイノーツ学園にも寮があるが、それは帝都に住んでいない生徒たちのためであり、大抵は家から通っている生徒が大半だ。
それはシャルロットも同様で、黒いセダンのような車に乗って俺たちはレイノーツ学園に向かった。
レイノーツ学園のセキュリティーは厳重だが、王族に関しては護衛を2人までなら同行させても良い事になっている。勿論学園側に申請しなければならないが。
それに王族の中で護衛を連れているのは今のところシャルロットとマオだけだ。サーシャは護衛が鬱陶しいと言って連れていない。マオは男だが、まだ11歳のため一人護衛を連れている。
シャルロットの場合は護衛であるグレンダと仲が良いため、義務や王族としてと言う意味合いは無いように感じられる。
シャルロットを挟む形で後部座席に座った俺たち。
窓から見える景色はゆっくりと後方へ流れていく。
正直自分で走った方が速いがそれは言わないでおこう。もうこの時、いや、王宮に寝泊りをする事になった時から依頼は始まっているのだから。
それに時間的にちょうど通勤ラッシュと言うところだろうか。車の量も多いことながらスーツ姿の者や学園の制服を来た歩行者が歩いていた。
俺は窓の外の景色を見ながら気配探知を広げる。が、予想通り。俺たちに敵意や殺意を持った者たちは半径200メートル圏内にはいない。
「そう言えばジンさんは私たちと出会う前はスヴェルニ学園に通っていたんですよね」
と、シャルロットが聞いてきた。きっとこの静寂と化した車内の空気をどうにかしようとしたんだろうが、別に気にしなくても良いんだぞ。
シャルロットの気遣いを無駄にする俺ではないので銀を撫でながら肯定した。
「一学期の間だけだったけどな」
俺のそんな言葉にシャルロットの顔に一瞬影が落ちる。
シャルロットは俺がどうして学園を去らなければならなかったのか知っているのだろう。もしかしたら以前に俺自身が話したことなのかもしれないが、覚えてはいない。
直ぐに笑顔を浮かべて再び質問してくる。
「スヴェルニ学園での生活はどうでしたか?」
「どうって言われてもな……そりゃあ楽しかったよ。授業を受けるのは面倒だったし、ルームメイトにはいつも叱られて鬱陶しいと思っていたけどそれでも楽しかったぜ。色んな奴らに出会えて馬鹿な事もしたし、ともに研鑽もした。友人も多くは無かったと思うがそれなりに出来たしな」
「そうなんですね」
どこか悲しみが混じったその言葉だが、その理由は俺には分からない。
「そ、それでジンさんはルーベンハイト家のご令嬢と仲が良かったと聞いていますが……」
「イザベラの事か?まぁ確かに仲は良かったな。命の恩人でもあるしな」
「え!?命の恩人!で、でもジンさんはそのイザベラさんに個人戦で勝ったんですよね?」
「よく知ってるな」
「ネ、ネットで見ましたので!」
なんでそんなに慌てるかは分からないが、そうか見てくれたのか。
シャルロットが他人の事をしろうとする謙虚さと優しさを持っている事におれは嬉しいと感じる。
「別に何かに襲われたとかじゃないぞ。ただ空腹で死に掛けていた所をイザベラが助けてくれたんだ」
「あ、そうだったんですね」
「それにイザベラと仲が良かったと言ってもイザベラとは学科が違ったから学園に通っていた時に会えたのは数回だけだったし」
「そうですか」
シャルロットが何故か安堵しているように見えるのは気のせいだろうが、そんなにイザベラと仲良くなりたいのか?
「それでジンさんが通っていた冒険科と言うのはどんな事を学んでいたんですか?」
「どんな事をって言われてもな……国、数、社、理は当たり前として、他には冒険者基礎知識学ってのもあったな。後は魔物の生物学や魔法の授業なんかもあったな。俺は4年生から編入したからその前の事はよく知らないが、殆ど冒険者の知識に関する事ばかりだったな。国、数、社、理に2回ほどしかなかったし。後は実習訓練だったな」
「そうなんですね。普通科に通う私とは違って専門知識が多いんですね」
「まあな。でも同じ授業ばかりじゃなくて最初は退屈じゃなかったけどな」
「貴様の基準は相変らず下らないな」
「ほっとけ」
そんなグレンダの言葉に短く反論した俺たちだったが、ちょうど目的地であるレイノーツ第一学園に到着した。
と言っても距離は王宮からそれほど離れてはいない。ただ信号が多くて遅くなっただけだ。ま、都会では当たり前の光景だけど。
目の前にはこれまた立派な白い正門があり奥には幾つもの建物が並んでいた。やはりそこら辺はスヴェルニ学園と変わらないな。
車を歩道側に寄せて止めるとグレンダが降りて周囲を確認したのちシャルロットが降りると俺もそれに続いて降りた。
他の生徒たちも登校中だったらしく沢山の生徒たちが正門を越えて学園内に入っていった。と言うか多すぎるだろ。
シャルロットは美男美女が多いこの世界の中でもトップレベルの美少女だ。ましてやこの国の王族と言う事もあって男女問わなず黄色い歓声が聞こえてくる。それもシャルロットの気品と優しさが拍車を掛けているような気もするけどな。
んで、そんな美少女であるシャルロットの傍にスーツ姿の男性が立っていれば誰もが注目するのは当たり前だ。
「それじゃ2人とも行きましょうか」
「はい」
「分かった」
正門前に立つ警備員の人に挨拶と俺の事を伝えるが、どうやらボルキュス陛下から俺が短期間だがシャルロットの護衛をする事が伝わっていたらしい。ま、伝わっていなければ問題なわけだ。
そのため軽く挨拶する程度で終えるとシャルロットの数歩後ろに控える形で俺とグレンダもレイノーツ学園へと入った。と言うかシャルロットは周りの視線が気にならないのか?俺は鬱陶しくて堪らないんだが。いや、王族として小さい時から注目されていたはずだ。なら慣れていてもおかしくはないか。
注目の視線を浴びながら校舎の中へと入った俺たち。既に所ごろに文化祭の準備が始まっているらしく、仮設テントなどの道具なんかが一箇所に置かれていた。
貴族たちも通っているのに文化祭なんて出来るのか?なんて思うがどうやら帝国の何代か前の皇帝が貴族の子息や令嬢たちにも平民の暮らしを知っておくべきだと言ったと切欠らしい。
絶対最初は反感があったろうが、この国はスヴェルニ学園の時よりも階級による差別や種族差別が少ないように感じられる。その分実力によるイジメは多いようだが。
そんな事よりも俺は冒険者として依頼をこなす。
周囲に視線を配りながら気配探知で敵意や殺意を持った者がいないか確かめる。と言うよりも確かめる以前に周囲に敵意や殺意を持った奴等ばかりだ。ま、その視線を向けている相手は俺なわけだが。
「はぁ……」
「ジンさんどうかされましたか?」
「いや、シャルロットがこの学園で人気者なのがよく分かっただけだ」
「そ、そんな私は人気者なんかでは!」
俺の言葉に慌てふためく姿は可愛らしいが、俺が呼び捨てした事が聞こえていたのかさっきよりも殺意が強くなった気がする。
この依頼俺じゃなくてアインに引き受けた方が良かったかもな。ま、あいつの場合は、マスター以外を護衛するなど論外です。って言いそうだけど。
2年1組と書かれた表札が掛けられた教室に到着すると7割が女子と言う脅威の教室だった。男にとっては肩身が狭いが天国ではあるな。
教室に入るなりクラスの女子たちがシャルロットに近づいてきた。
「シャルロットさん!」
「急に学園を休むから心配しましたよ」
「お騒がせして申し訳ありません。ですが体調が悪いわけではありませんのでお気になさらず」
「そうだったんですか。でも良かったです。せっかくの文化祭間近で体調を崩されたのかと心配してしまいましたから」
大半が貴族令嬢なんだろう、少し砕けた会話の中にも気品がある。
前世の現代女子高生とは大違いだな。まさにお嬢様学園って感じだ。と言うか普通に親しい友人が居るじゃん。それも俺よりも多いような気がする。でもこれでイジメられているわけでも一人ぼっちでもないなら良かった。
「それは良かったです。それで後ろの男性は新しい護衛ですか?」
やはり目立つのか女子たちの視線が俺に集まる。前世をあわせれば38歳になった俺。そんな男が16、7歳の女子たちに視線を向けられるのはあまりにも居心地が悪い。その先に発展するのなら俺はウェルカムだけど。
それよりも何故だか俺が想像していた女子生徒たちの好奇心の視線の中に推測みたいなモノがあるような気がするんだが。
「はい、お父様が雇ってくださった冒険者の方です」
そう言ってシャルロットが俺に視線を向けてくる。なるほど挨拶をしろって事だな。
せっかくシャルロットが気を使ってくれたんだ。迷惑を掛けないようにしないとな。
「初めまして、Cランク冒険者の鬼瓦仁と言います。シャルロット様の護衛をする事になりましたのでお見知りおきを」
挨拶したのち軽くお辞儀をする。その光景にシャルロットとグレンダが驚いていたが、俺が礼儀正しく挨拶したら変なのか?
「では貴方が悲劇の騎士様ですね!」
ああ、なるほど。
一人の女子生徒の言葉でようやく理解できた。好奇心の中に隠れていた予想。それはスヴェルニ王国で起こした事件の事を指していたのだと。
確かに戦いなんかに興味が無い貴族令嬢からしてみればあの話は話題のタネにするにはもって来いだもんな。ましてや恋バナが好きそうな年頃でもあるし。
「確かにその通りです」
俺の肯定に女子生徒から黄色い歓声が上がる。肯定して良かったのか疑問に感じるが嘘を言ってシャルロットに迷惑を掛けたくはないからな。ってなんで不満そうな顔をしてるんだ?
やっぱり何歳になっても女心ってのは分からないものだな。
「私、一度で良いから貴方に会ってお話してみたかったんです!」
「そ、それは光栄です」
「そんなに固くならなくて良いんですよ。もっとフレンドリーに話しましょ」
お、許しが出た。これなら普通通りに話しても問題ないな。
「なら、遠慮なく普通に話させて貰うぞ」
「はい。私たちもそっちの方が話しやすくて良いです!」
まさか貴族令嬢がここまで不愉快に感じないなんて思わなかった。
帝国の女性ってどんな男性が好みなんだ?
「っ!」
ふとそんな事を思っていると背後から背筋が凍るほどのドス黒い気配を感じる。
俺は直ぐに振り向くがシャルロットが笑顔を向けてくるだけだった。いったいなんだったんだ?で、なんでグレンダは呆れてるんだ?
そう思っていると丁度チャイムが鳴る。
「ああ、もうホームルームの時間ですね」
「せっかく話を聞けると思ったのに~」
「休み時間にでも話せば良い。それよりも早く席に戻らないと先生に怒られるぞ」
俺がそう言うと女子生徒たちは納得して席に戻った。
ふぅ、好奇心旺盛な女子生徒と言うのはあそこまで積極的なのか。平然とボディータッチとかしてきたぞ。
この世界の不思議な所はまだまだあると実感しながら俺はグレンダに小声で話しかける。
「(なあ、グレンダ)」
「(なんだ?)」
「(この後って俺たちはどうするんだ?)」
「(教室の後ろに立ってお嬢様の警護だ)」
「(それって授業の邪魔にならないのか?)」
「(慣れれば問題ない)」
つまりは最初は邪魔になっていたわけだな。
そんなグレンダの言葉に嘆息しながら俺はある事を考える。
既にホームルームが始まろとする時間帯だ。だから同じクラスメイトでない者たちは自分のクラスに戻っている。
それでも俺に興味を持った女子たちが視線を向けてくる。
うん、女子に興味を持たれるのは男としては嬉しいものだな。ま、慣れるまでは疲れるけど。
久々に王宮で朝食を食べた俺は一旦客室で用意されたスーツに着替えてからシャルロットとグレンダの2人と合流する。
「スーツも似合いますね」
「馬子にも衣装だな」
優しいシャルロットに大してグレンダの皮肉が届く。ほっとけ。
と言うよりも俺は冒険者活動する時の服装で戦いたかったんだが。ま、これは王族の気品を汚す事になりかねないから従うしかないが。
「それでは行きましょうか」
「ああ」
レイノーツ学園にも寮があるが、それは帝都に住んでいない生徒たちのためであり、大抵は家から通っている生徒が大半だ。
それはシャルロットも同様で、黒いセダンのような車に乗って俺たちはレイノーツ学園に向かった。
レイノーツ学園のセキュリティーは厳重だが、王族に関しては護衛を2人までなら同行させても良い事になっている。勿論学園側に申請しなければならないが。
それに王族の中で護衛を連れているのは今のところシャルロットとマオだけだ。サーシャは護衛が鬱陶しいと言って連れていない。マオは男だが、まだ11歳のため一人護衛を連れている。
シャルロットの場合は護衛であるグレンダと仲が良いため、義務や王族としてと言う意味合いは無いように感じられる。
シャルロットを挟む形で後部座席に座った俺たち。
窓から見える景色はゆっくりと後方へ流れていく。
正直自分で走った方が速いがそれは言わないでおこう。もうこの時、いや、王宮に寝泊りをする事になった時から依頼は始まっているのだから。
それに時間的にちょうど通勤ラッシュと言うところだろうか。車の量も多いことながらスーツ姿の者や学園の制服を来た歩行者が歩いていた。
俺は窓の外の景色を見ながら気配探知を広げる。が、予想通り。俺たちに敵意や殺意を持った者たちは半径200メートル圏内にはいない。
「そう言えばジンさんは私たちと出会う前はスヴェルニ学園に通っていたんですよね」
と、シャルロットが聞いてきた。きっとこの静寂と化した車内の空気をどうにかしようとしたんだろうが、別に気にしなくても良いんだぞ。
シャルロットの気遣いを無駄にする俺ではないので銀を撫でながら肯定した。
「一学期の間だけだったけどな」
俺のそんな言葉にシャルロットの顔に一瞬影が落ちる。
シャルロットは俺がどうして学園を去らなければならなかったのか知っているのだろう。もしかしたら以前に俺自身が話したことなのかもしれないが、覚えてはいない。
直ぐに笑顔を浮かべて再び質問してくる。
「スヴェルニ学園での生活はどうでしたか?」
「どうって言われてもな……そりゃあ楽しかったよ。授業を受けるのは面倒だったし、ルームメイトにはいつも叱られて鬱陶しいと思っていたけどそれでも楽しかったぜ。色んな奴らに出会えて馬鹿な事もしたし、ともに研鑽もした。友人も多くは無かったと思うがそれなりに出来たしな」
「そうなんですね」
どこか悲しみが混じったその言葉だが、その理由は俺には分からない。
「そ、それでジンさんはルーベンハイト家のご令嬢と仲が良かったと聞いていますが……」
「イザベラの事か?まぁ確かに仲は良かったな。命の恩人でもあるしな」
「え!?命の恩人!で、でもジンさんはそのイザベラさんに個人戦で勝ったんですよね?」
「よく知ってるな」
「ネ、ネットで見ましたので!」
なんでそんなに慌てるかは分からないが、そうか見てくれたのか。
シャルロットが他人の事をしろうとする謙虚さと優しさを持っている事におれは嬉しいと感じる。
「別に何かに襲われたとかじゃないぞ。ただ空腹で死に掛けていた所をイザベラが助けてくれたんだ」
「あ、そうだったんですね」
「それにイザベラと仲が良かったと言ってもイザベラとは学科が違ったから学園に通っていた時に会えたのは数回だけだったし」
「そうですか」
シャルロットが何故か安堵しているように見えるのは気のせいだろうが、そんなにイザベラと仲良くなりたいのか?
「それでジンさんが通っていた冒険科と言うのはどんな事を学んでいたんですか?」
「どんな事をって言われてもな……国、数、社、理は当たり前として、他には冒険者基礎知識学ってのもあったな。後は魔物の生物学や魔法の授業なんかもあったな。俺は4年生から編入したからその前の事はよく知らないが、殆ど冒険者の知識に関する事ばかりだったな。国、数、社、理に2回ほどしかなかったし。後は実習訓練だったな」
「そうなんですね。普通科に通う私とは違って専門知識が多いんですね」
「まあな。でも同じ授業ばかりじゃなくて最初は退屈じゃなかったけどな」
「貴様の基準は相変らず下らないな」
「ほっとけ」
そんなグレンダの言葉に短く反論した俺たちだったが、ちょうど目的地であるレイノーツ第一学園に到着した。
と言っても距離は王宮からそれほど離れてはいない。ただ信号が多くて遅くなっただけだ。ま、都会では当たり前の光景だけど。
目の前にはこれまた立派な白い正門があり奥には幾つもの建物が並んでいた。やはりそこら辺はスヴェルニ学園と変わらないな。
車を歩道側に寄せて止めるとグレンダが降りて周囲を確認したのちシャルロットが降りると俺もそれに続いて降りた。
他の生徒たちも登校中だったらしく沢山の生徒たちが正門を越えて学園内に入っていった。と言うか多すぎるだろ。
シャルロットは美男美女が多いこの世界の中でもトップレベルの美少女だ。ましてやこの国の王族と言う事もあって男女問わなず黄色い歓声が聞こえてくる。それもシャルロットの気品と優しさが拍車を掛けているような気もするけどな。
んで、そんな美少女であるシャルロットの傍にスーツ姿の男性が立っていれば誰もが注目するのは当たり前だ。
「それじゃ2人とも行きましょうか」
「はい」
「分かった」
正門前に立つ警備員の人に挨拶と俺の事を伝えるが、どうやらボルキュス陛下から俺が短期間だがシャルロットの護衛をする事が伝わっていたらしい。ま、伝わっていなければ問題なわけだ。
そのため軽く挨拶する程度で終えるとシャルロットの数歩後ろに控える形で俺とグレンダもレイノーツ学園へと入った。と言うかシャルロットは周りの視線が気にならないのか?俺は鬱陶しくて堪らないんだが。いや、王族として小さい時から注目されていたはずだ。なら慣れていてもおかしくはないか。
注目の視線を浴びながら校舎の中へと入った俺たち。既に所ごろに文化祭の準備が始まっているらしく、仮設テントなどの道具なんかが一箇所に置かれていた。
貴族たちも通っているのに文化祭なんて出来るのか?なんて思うがどうやら帝国の何代か前の皇帝が貴族の子息や令嬢たちにも平民の暮らしを知っておくべきだと言ったと切欠らしい。
絶対最初は反感があったろうが、この国はスヴェルニ学園の時よりも階級による差別や種族差別が少ないように感じられる。その分実力によるイジメは多いようだが。
そんな事よりも俺は冒険者として依頼をこなす。
周囲に視線を配りながら気配探知で敵意や殺意を持った者がいないか確かめる。と言うよりも確かめる以前に周囲に敵意や殺意を持った奴等ばかりだ。ま、その視線を向けている相手は俺なわけだが。
「はぁ……」
「ジンさんどうかされましたか?」
「いや、シャルロットがこの学園で人気者なのがよく分かっただけだ」
「そ、そんな私は人気者なんかでは!」
俺の言葉に慌てふためく姿は可愛らしいが、俺が呼び捨てした事が聞こえていたのかさっきよりも殺意が強くなった気がする。
この依頼俺じゃなくてアインに引き受けた方が良かったかもな。ま、あいつの場合は、マスター以外を護衛するなど論外です。って言いそうだけど。
2年1組と書かれた表札が掛けられた教室に到着すると7割が女子と言う脅威の教室だった。男にとっては肩身が狭いが天国ではあるな。
教室に入るなりクラスの女子たちがシャルロットに近づいてきた。
「シャルロットさん!」
「急に学園を休むから心配しましたよ」
「お騒がせして申し訳ありません。ですが体調が悪いわけではありませんのでお気になさらず」
「そうだったんですか。でも良かったです。せっかくの文化祭間近で体調を崩されたのかと心配してしまいましたから」
大半が貴族令嬢なんだろう、少し砕けた会話の中にも気品がある。
前世の現代女子高生とは大違いだな。まさにお嬢様学園って感じだ。と言うか普通に親しい友人が居るじゃん。それも俺よりも多いような気がする。でもこれでイジメられているわけでも一人ぼっちでもないなら良かった。
「それは良かったです。それで後ろの男性は新しい護衛ですか?」
やはり目立つのか女子たちの視線が俺に集まる。前世をあわせれば38歳になった俺。そんな男が16、7歳の女子たちに視線を向けられるのはあまりにも居心地が悪い。その先に発展するのなら俺はウェルカムだけど。
それよりも何故だか俺が想像していた女子生徒たちの好奇心の視線の中に推測みたいなモノがあるような気がするんだが。
「はい、お父様が雇ってくださった冒険者の方です」
そう言ってシャルロットが俺に視線を向けてくる。なるほど挨拶をしろって事だな。
せっかくシャルロットが気を使ってくれたんだ。迷惑を掛けないようにしないとな。
「初めまして、Cランク冒険者の鬼瓦仁と言います。シャルロット様の護衛をする事になりましたのでお見知りおきを」
挨拶したのち軽くお辞儀をする。その光景にシャルロットとグレンダが驚いていたが、俺が礼儀正しく挨拶したら変なのか?
「では貴方が悲劇の騎士様ですね!」
ああ、なるほど。
一人の女子生徒の言葉でようやく理解できた。好奇心の中に隠れていた予想。それはスヴェルニ王国で起こした事件の事を指していたのだと。
確かに戦いなんかに興味が無い貴族令嬢からしてみればあの話は話題のタネにするにはもって来いだもんな。ましてや恋バナが好きそうな年頃でもあるし。
「確かにその通りです」
俺の肯定に女子生徒から黄色い歓声が上がる。肯定して良かったのか疑問に感じるが嘘を言ってシャルロットに迷惑を掛けたくはないからな。ってなんで不満そうな顔をしてるんだ?
やっぱり何歳になっても女心ってのは分からないものだな。
「私、一度で良いから貴方に会ってお話してみたかったんです!」
「そ、それは光栄です」
「そんなに固くならなくて良いんですよ。もっとフレンドリーに話しましょ」
お、許しが出た。これなら普通通りに話しても問題ないな。
「なら、遠慮なく普通に話させて貰うぞ」
「はい。私たちもそっちの方が話しやすくて良いです!」
まさか貴族令嬢がここまで不愉快に感じないなんて思わなかった。
帝国の女性ってどんな男性が好みなんだ?
「っ!」
ふとそんな事を思っていると背後から背筋が凍るほどのドス黒い気配を感じる。
俺は直ぐに振り向くがシャルロットが笑顔を向けてくるだけだった。いったいなんだったんだ?で、なんでグレンダは呆れてるんだ?
そう思っていると丁度チャイムが鳴る。
「ああ、もうホームルームの時間ですね」
「せっかく話を聞けると思ったのに~」
「休み時間にでも話せば良い。それよりも早く席に戻らないと先生に怒られるぞ」
俺がそう言うと女子生徒たちは納得して席に戻った。
ふぅ、好奇心旺盛な女子生徒と言うのはあそこまで積極的なのか。平然とボディータッチとかしてきたぞ。
この世界の不思議な所はまだまだあると実感しながら俺はグレンダに小声で話しかける。
「(なあ、グレンダ)」
「(なんだ?)」
「(この後って俺たちはどうするんだ?)」
「(教室の後ろに立ってお嬢様の警護だ)」
「(それって授業の邪魔にならないのか?)」
「(慣れれば問題ない)」
つまりは最初は邪魔になっていたわけだな。
そんなグレンダの言葉に嘆息しながら俺はある事を考える。
既にホームルームが始まろとする時間帯だ。だから同じクラスメイトでない者たちは自分のクラスに戻っている。
それでも俺に興味を持った女子たちが視線を向けてくる。
うん、女子に興味を持たれるのは男としては嬉しいものだな。ま、慣れるまでは疲れるけど。
0
お気に入りに追加
3,123
あなたにおすすめの小説

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※


Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる