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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第四十七話 レイノーツ学園祭前 ②

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 拠点に戻ってきた俺は3階のリビングのソファーに座ってシャルロットに電話する。
 明日あって事情を聞けば良いのだが、何やら問題があるのであれば心優しいシャルロットはきっと不安と恐怖を抱え込んでいるはずだ。

『もしもし、ジンさんですか!』
「ああ、俺だ」
 なんでそんなに嬉しそうなのは分からないが、きっと久々に話せて嬉しいんだろうな。
 俺はそう思いながら片手でお茶を飲む。

「それで大丈夫か?なにやら護衛が必要みたいだが」
『はい、大丈夫です。本当は私が学園を休めば良いだけの話なんですが、来週には学園祭がありますからどうしても学園に行きたくて。ですからお父様たちに我侭を言ってしまいました』
「別にそれぐらいの我侭は良いと思うぞ。ただ俺やグレンダがお前を悪い奴から護れば良いだけの話だ。だから気を落とすな」
『はい、ありがとうございます!』
 女性を慰めた事なんて前世じゃなかったから思った事を伝えてみたけど、良かったみたいだな。

「詳細に関しては明日王宮に行って聞くから」
『はい、お待ちしております!』
 だから何で嬉しそうなんだ?久々に会えるからか?もしかしてシャルロットって友人が少ないのか。

『あ、あの……心配の電話を掛けて頂いたのにすいませんが今日はまだ時間は大丈夫ですか?』
「ああ、依頼を終えた拠点に戻ってきたところだからな。寝るまでは大丈夫だぞ」
『で、でしたらジンさんの事教えて貰えないですか?この1ヵ月何をしていたのか、とか』
 どうしてそんな話が知りたいのか分からないが、きっとお姫様であるシャルロットは冒険者がどんな事をするのか気になるんだろうな。あ、それなら母親から聞けば良いだけの話か。
 なら、なんで?

『駄目ですか……?』
 きっと久々に会う友人がこの1ヵ月間何をしていたのか気になるんだろうな。うん、そうに違いない。俺だって仲の良かった友人に久々にあったら聞くからな。

「別に良いぞ。それでどこから話せば良いかな?」
「でしたら冒険者になって直ぐどうされたのから教えて貰えますか?」
 そんなとこから話すのか。別に構わないけど。と言うか俺のばかり知りたいなんて、本当に学友がいないんじゃ。

『どうかしましたか?』
「いや、なんでもない。そうだな冒険者になって直ぐ俺はギルドに入るべく、ギルドの試験を受ける事にしたんだ」
『はい』
 そんなこんなで2時間かけて俺はこの1ヵ月間の事を話した。勿論話してはいけないような事や話したくない事は省いたりもしたが、嘘は言っていない。
 スマホからは心配するような声や笑い声なんかが時々聞こえてくる。こんな事でシャルロットが抱えている不安が取り除けるのなら安いものだろう。
 電話を終えてから少ししてアインも戻ってきた。どうやら良いことがあったらしく、いつも以上に自信に満ち溢れた表情をしていた。これで無視したら後が怖いな。

「アイン、何か良いことでもあったのか?」
「低脳な貴方でも分かりますか」
「まあな」
 その顔を見れば誰だって気づくと思うぞ。と言うかサイボーグの癖に表情豊かだよな。ま、大半が無表情、笑顔、勝ち誇った顔、ゴミでも見るような顔のどれかだが。

「低脳な貴方に教える義理はありませんが」
「なら、別に話さなくても良いぞ」
 ガチャ!

「仕方ありません。そんなに知りたいのなら教えてあげますが、どうしますか?」
「お願いします」
「良いでしょう」
 亜空間から出したハンドガンを俺に押しつけて脅迫していれば誰だって言う事聞くしかないだろ。
 表情と行動がそぐわないアインの話を聞くため俺はお茶を飲んで気分を入れ替える。

「それで何があったんだ?」
「フフフッ、私もとうとうCランクになったのですよ」
「もうCランクになったのか。それは凄いな」
 そう言ってギルドカードを自慢げに見せてくる。何気に子供っぽいところあるよな。
 それよりも俺よりも早い速度でランクを上げてるな。このままだとランクを抜かれたりして………それだけはさせないようにしなければ!
 だが、それだけでここまで上機嫌なわけがない。

「それで他にも良いことがあったのか?」
「はい。依頼中に運良く高級食材を見つけたので手に入れたのです!」
「なにっ、高級食材だと!」
「はい、これです!」
 自信満々に亜空間から取り出したのは黄色みを帯びた茶色の毛を持つ猿だった。俺から言わせればどこにでもいるような普通の猿にしか見えないが、額から生えた毛と同じ色の一本の角が普通の猿とは違うと教えてくれる。

「なんて名前の魔物なんだ?」
「やはり低脳ですね。この魔物名前は琥珀猿アンバーモンキー。その名の通り琥珀色の毛を持つ猿型の魔物です。その見た目からは想像も付かないような俊敏性と魔力感知を有した希少性の高い魔物で、その肉は噛んだ瞬間に肉汁が溢れ出し、肉本体は舌の上で解けてしまうほどの柔らかさを持つ高級品です」
「それは是非食べてみたいな」
「何を戯けた事をぬかしているのですか。これはマスターのために見つけた物ですよ。誰が低脳で羽虫以下の貴方に食べさせないといけないのですか」
 うん、言われると分かっていたよ。絶対に罵倒してくるってね。分かっていたとしてもこのアンバーモンキーを食べてみたくて堪らないんだよ!

「さぁ、マスター。私がマスターのために取ってきたものです。どうぞ食べてください」
 そう言って銀をテーブルの上に乗せる。
 しかし銀は臭いも嗅ぐ事無くアンバーモンキーを見ただけでそっぽを向いた。

「な、何故ですか!?」
 その光景にアインは信じられないものでも見るかのような驚愕の表情を浮かべていた。
 別に銀はお腹が空いていないわけじゃない。今日も沢山食べたが、まだ余裕で食べられるはずだからな。
 なのに食べない理由はただ1つ。

「銀は猿全般が嫌いなんだよ」
「なっ!」
 銀は神狼。つまりは狼で肉食だが、肉だけ食べないわけではない。銀の母親であるエレンだって、肉だけじゃなく魚や茸、木の実、果実まで食べていたほどだからな。ま、割合で言えば9割近くが肉だったけど。
 だから銀も何でも食べる。言うなら雑食の狼と言えるが、唯一銀が食べらない物が猿の肉だ。
 気まぐれ島に居た時ゴッドモンキーを食べてお腹を壊した事があるからだ。どうしてお腹を壊したのかは分からない。俺たち人間と違って銀は生肉も平然と食べられる。
 だが、それ以来銀は猿科の肉は食べないようになったのだ。

「残念だったな。そう言うことだ」
「そ、そんな……せっかくマスターのために取ってきたのに」
「そんなに落ち込むなよな。俺が代わりに食べてやるから」
「何を言ってるんですか?マスターが食べないのであればそれはゴミと変わりありません。確かにゴミである貴方に相応しい餌かもしれませんが、ゴミでも有効活用出来るのであればゴミに与えるよりマシと言うものです」
 銀に食べて貰えなかったのが辛いのは分かるが随分と酷い言われようだ。
 そう言ってアインはアンバーモンキーを亜空間に戻してしまう。

「お、おいそのアンバーモンキーどうするんだよ」
「決まってます。明日冒険者組合に行って売るのです。そうすればそのお金でマスターが好きなお肉を買ってさし上げられますから」
「う、うそだよな。俺にも少し食べさせてくれよ」
「そんなに食べたいのなら、私が売った後に買えば良いだけの話です」
「それはあんまりだろ!」
 そんな俺の絶叫など気にする様子も無くアインは部屋に戻って行った。


 10月12日金曜日。
 銀を連れて俺は久々に王宮に来ていた。
 案内されたのは以前アインの件で訪れた応接室だった。
 中に入ると既にボルキュス陛下、レティシア王妃、ライアン、シャルロット、グレンダ、イオがソファーに座って待っていた。

「ジンさん!」
「よ、元気にしてたか?」
 俺の登場に大いに喜ぶシャルロット。それに対して何故か怒りを燃やすボルキュス陛下。よく分からないがシャルロットに変な事をした覚えはないぞ。あ、レティシアさんに耳引っ張られてる。
 シャルロットの隣、ボルキュス陛下の対面の席に座るとイオが紅茶を出してくる。きっと執事には神出鬼没のスキルだけじゃなく未来予知もあるに違いない。でなければこんなベストタイミングで紅茶が出せるわけないものな。
 丁度良い温度の紅茶を一口飲んだ俺は早速本題に入る事にした。

「それでシャルロットの護衛って事だったが、何か問題でも起きたのか?」
「世間話をしようとは思わないのだな」
「生憎と仕事をするつもりで来ているのでね」
 本当はそれでは駄目なんだろうが、今回は少しでも早く事情を知っておきたい気持ちがあるからだ。

「今回は娘の事だし、構わないだろう」
 なんだかボルキュス陛下の機嫌が悪いな。何かあったのか?
 そんな事を思いながら話が始まるのを待つ。

「実は最近の事なんだが、シャルロットが通っているレイノーツ学園や通学路なんかで変な視線を感じると言い出してね」
「それは本当か?」
「はい……」
「我々はもしかしたら何者かが命を狙っているのではないかと思い、シャルロットには学園を休んで貰っているんだが……」
「来週から学園祭が始まりますから、どうしても学園を休みたくないんです」
 なるほど、そう言う事か。だがその程度の我侭なら言っても大丈夫だろうに。

「それで俺を護衛にするために指名依頼してきたわけか」
「そう言うことだ」
 おおよその事情は理解した。
 確かにベルヘンス帝国第二皇女であるシャルロットが命を狙われるのは不思議じゃない。この国に恨みを持つ輩が復讐のために狙っているとも考えられるからな。

「因みに視線以外に何かなかったか?事件に巻き込まれるや誘拐されそうになったりとか?」
「いえ、ありません」
 無いのか。となると、まだ相手の行動パターンの調査中って事も考えられるか。

「グレンダもその視線には気づいていたのか?」
「未熟な話、私は気づいていなかった。誰かが尾行していれば気づくし、お嬢様に言われて魔力探知も行ったがなにも感じなかった。それに殺意や敵意も感じなかった」
 となると、尾行はされていないと考えるのが普通だよな。
 ん?グレンダほどの実力者が尾行している者がいないと言っている。なのに視線は感じる。これはどういう事だ?
 それに殺意や敵意もないのもおかしな話だ。命を狙っているのであれば殺意や敵意があってもおかしくはないはずだからな。

「なあ、シャルロット」
「はい」
「最近プレゼントと貰ったりしてないか。例えば学園に行ったら机の中や下駄箱の中に入っていたって事とか」
「な、何故、その事を!」
「はぁ……やっぱりそう言う事か」
「ジン君どういう事だ?我々にも説明してくれ」
 ボルキュス陛下も分からないのか、聞いてくる。

「別にシャルロットは命を狙われているわけじゃない。ストーキングされているだけだ」
「それってつまり」
「シャルロットのストカーが居るって事だな」
 どうしてボルキュスたちがこの答えに辿り着けなかったのか、想像は付く。王族であるシャルロットが視線を感じると言えば、大抵が命を狙った刺客だと思うからだ。
 だからボルキュス陛下たちは暗殺者や敵対組織の動向を調査するだろう。だがそれが全て無駄なんだ。何故なら別に命を狙っているわけじゃないからだ。ま、行き過ぎた思い込みが相手を殺す事もあったりもするわけだが。

「シャルロット。視線を感じる前に何か無かったか?例えば困っている生徒や学園関係者を助けたとか」
「……あっ!そう言えば2週間前、下校しようと廊下を歩いている時に1人の男子生徒が躓いて手にしていた荷物の中身をばら撒いてしまっていたので助けましたね。そう言えばその次の日あたりから、視線を感じるようになって下駄箱や机の中に花やプレゼントが入っている事がありますね。誰か分からないのでグレンダが一度調べてしまうのでまだ見てはいませんが」
「毒や爆弾の可能性もありますので」
 確かにその可能性はあるだろうが、相手からしてみればグレンダは邪魔者だろうな。
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