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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第四十五話 ギルド、フリーダム!

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 10月10日水曜日。午後2時12分。
 目を覚ました俺は昼食をご馳走になった。鮭のおにぎりと漬物、それからワカメとネギの味噌汁。元日本人にはたまらない食事だったな。

「宴会楽しかったよ。ありがとうな」
「わっちも楽しかったからお互い様じゃ。それよりも報酬はお主の講座に振り込んでおいたから後で確認しとくんじゃぞ」
「ああ、分かった」
 なんだか、朧さんって美人ってセクシーな人かと思ったが何気に姉御肌だよな。ま、たまに魅せるエロさはハンパないけど。

「藤堂はんもたまには遊びにきてくりゃれ」
「か、考えておこう」
 妹弟子の対応に困る影光はどこか面白いな。

「それじゃまた遊びに来るよ」
「わっちたちも楽しみにしておるぞ」
 手を振って見送ってくれる朧さんやゲンジたちと別れた俺たちは冒険者組合に向かった。
 電車に揺られて15分、降りた駅から徒歩5分のところにある冒険者組合へとやって来た俺たちはさっそく受付をしているミキの前に立つ。

「あ、ジン君。なんだか久しぶりね」
「そうだな」
「それで今日はどうしたの?」
「実は前々から考えていたギルド設立の申請に来たんだ」
「そう言えば言ってたわね。ってもう!」
「ああ、仲間も3人集めた。拠点もある。ランクだって問題ないはずだ」
「でもお金は?」
「それに関しても問題ないぜ」
 なんせ500万RKもあるんだからな。

「確かに既に拠点もあるから規定値は低くなるけどそれでも200万RKは必要よ」
 予想より自己資金が低い事に驚くが改めて考えればそれぐらいなのかもな。
 他の会社とは違い。俺たち冒険者は掲示板の依頼を受けて達成すればお金が入る。
 だから何かを製造販売している会社のように材料費や他の会社と契約を結ぶ必要がない。
 出費するとしても年に一度払う固定資産税としてビルの税金と人件費、光熱費、それから武器のメンテナンス料ぐらいだろうか。いや、でも武器は自腹でメンテナンスするから必要ないのか。
 だから自己資金と言っても拠点を持っていなければそっちに上乗せさせられるってわけか。ならなんでギルド設立の規定に加えたんだ?
 ま、そんな事俺には関係ないか。

「その倍のお金はあるからな」
「確かにジン君ならそれぐらいは稼いでいそうね。分かったわ。ならこのギルド設立申請書に記入してくれる。それとギルドカードを出して欲しいの」
「分かった」
 渡されたギルド設立申請書に超短いボールペンで記入していく。偶然文房具やで見つけて買っておいて正解だったな。
 ギルドマスターのとろこに名前を記入し、ギルドメンバーの欄にアインと影光の名前、それから種族名を記入していく。

「そう言えば影光の種族ってなんだ?」
「拙者か?拙者はハーフロードだ」
 やはり人間じゃなかったか。
 あの動きはただの人間じゃ難しいと思っていたし、陽宵の目が人間じゃなかったからな。
 そんな事を思いながらも項目を一つ一つ記入していく。
 ギルドマスターは俺。サブギルドマスターはアインの名前を記入しておいた。
 そして最後の項目。ギルド名を記入する欄だ。

「それでギルド名は何かしら?」
 手を止めた俺にミキが聞いてくる。

「俺たちのギルド名は『フリーダム』だ」
 俺はそう言ってフリーダムと記入してギルド設立申請書をミキに手渡した。

「確かに受け取ったわ。少し待っててね。審査してくるから」
 そう言ってミキは一旦席を離れる。
 その間、ソファーに座って待っていると他の冒険者がこっちに視線を向けてくる。
 どうやら影光の事を知っている連中らしい。
 ま、世界最強の剣豪だからな。知っていてあたりまえか。
 その噂は徐々に広まり、冒険者組合に入ってきた他の冒険者たちにも直ぐに広まっていく。
 視線で落ち着かないな。アイン、鬱陶しいのは分かるが頼むから大人しくしていてくれ。
 それから1時間ほどしてミキが戻ってきた。

「確かに口座にもお金が入っていたわ。これなら問題ないわ。それでは改めてギルド、フリーダム。貴方方の活躍を私たち冒険者組合は期待しています」
 社交辞令を口にしたミキはギルドカードを渡してくる。
 そこには指名、ランク、種族、年齢、だけでなくギルド名まで書かれていた。

「一応ギルドの口座も作れるけどどうする?」
「頼む。で今後はそっちに振り込んでおいてくれ」
「分かったわ」
 ギルド専用の口座を作った俺たちはフリーダムの拠点である蔦だらけのビルに戻るのだった。
 途中のスーパーで食べ物を買った俺たちは共有フロアでギルド結成の宴を開いていた。
 人数はたったの3人。いや、2人と1機と1匹だけだ。昨日の宴に比べれば寂しいような気もするが、別に構わない。なんせ自分の誕生日にギルド結成がされると言う最高の日なのだから。

「それじゃ、フリーダム結成と商売繁盛を願って乾杯」
『乾杯』
 短い音頭に俺たちはグラスを軽くぶつけて中の酒をクイッと飲む。
 アインは酒を飲まないのでお茶だけど。
 昨日の宴に比べれば酒も食事も貧相だが別に不満などない。逆にこれはこれで身内だけの宴会な気がして俺は楽しい。

「それで仁よ。今後どうするんだ?高ランクの依頼を受けるにしても拙者とはランクが離れすぎているぞ」
「そうなんだよな……」
 どれだけ仲間の1人が高ランクの冒険者だったとしても仲間の1人がCランクならば最高でもBランクの依頼しか受けられない。これは出来るだけ死ぬ確立を下げるための冒険者組合の処置だ。
 ま、高ランクを目指す冒険者からしてみれば、ふざけるなと言いたくなるような内容だが、命あってこそだから仕方が無い。

「別に同じ依頼を受けても良いが、それだと昇格ポイントが減るし、なにより影光が退屈するだろうからな。フォーメーションを決めて練習するにしたって俺たちの実力ならもう少し上の敵の方が良いだろうし」
 俺たちフリーダムは出来たばかりのギルドだ。だから人数も最低人数の3人だ。だけどここの実力で言えばSランク以上の超少数精鋭ギルドと言っても過言ではない程だ。
 だからこそパーティーを組んでCランクの依頼を受けたところで連携の訓練にすらならない。個々の実力がずば抜けているからだ。
 それなら、一定のランクになるまでは個々で活動した方が良いだろう。

「俺とアインが最低でもBランクになるまでは個人で活動する事にしよう。そっちの方がギルドの利益にも繋がるだろうからな」
「拙者はそれで異論はないぞ」
「私もありません」
 そう言って二人は頷く。
 影光はともかくアインが素直に了承するなんて明日は雪でも降るんじゃないだろうな。

「仁よ。そんなお前にランクを効率よく上げる方法をおしえてやろう」
「効率よく上げる方法?」
 そんなモノがあるのか。
 グラスの酒を飲み干した影光は説明しだす。

「Dランク以上になると依頼を受けるにしてもその殆どがパーティー専用となるだろ。特にCランク以上の依頼となれば9割以上。Bランク以上の依頼にはあるのが珍しいほどだ」
「確かにな。俺もそれで困ってるんだ」
「だが、自分のランクより下のランクの依頼であれば、パーティー専用の依頼でも個人で請け負う事が出来る」
「本当なのか?」
「ああ、可能だ。だがそれが通用するのはAランクの依頼までだ。Sランク以上の依頼は絶対にパーティーでなければならない」
 それは当然だろう。強さの境界線とも言われる程の差があるほどの違いがある。冒険者組合としては出来るだけ死者を減らしたいわけだからな。ましてやSランクに挑戦できるだけの実力と才能を持った奴等にみすみす死んで貰っては困るはずだからな。

「だから今はCランクの依頼でも構わないがBランクになったらBランクの依頼ではなく、Cランクの依頼を受けると良い。そうすれば昇格ポイントが効率よく手に入る」
「それは知らなかった。良い情報をサンキューな」
「なに、拙者が受けられる依頼も一人だとAランクの依頼だけだからな」
 確かにSランクの影光が受けられるのはAランクだけだ。
 Sランクの冒険者が個人で依頼を受ける場合同じランクの依頼を受ける事は出来ない。それは死亡する確率が高いからだ。だから自分より1つ上の依頼を受けるなんて絶対に不可能なのだ。
 でも、影光がその情報を俺たちに教えたのはギルドの利益だけを考えただけじゃないだろう。

「そんなにSランクの依頼を受けたいのか?」
「当然だろ。そうすればもっと強くなれるからな」
「どこまで行っても上を目指すか」
「それが拙者であり、武士の性と言うものだ」
 そんな俺の言葉に澄んだ瞳で答える。
 何歳になろうが上を目指すか。それは俺も同じだ。だからこそ自ら力に制限を付けているわけだからな。
 異常な身体能力だけでは勝てない相手がこの大陸には存在するかもしれない。その時のために俺は術を技を覚えたいのだ。
 力押しではなくてな。
 それよりも影光は早く上を目指したいか。つまりはさっさと上に上がって来いと言う事か。
 ギルマスとしてそれには答えなければならないな。

「お前が辞めたいなんて言い出す前にはお前と同じランクに到達できるよう精進するよ」
「それでこそ拙者たちのギルドマスターだ」
「私はマスターのためですけど」
「お前は少しぐらい空気読もうぜ」
「何故ですか?」
 何故って。ま、こいつに言ったところで無駄だろうが。

「それより影光のステータスを見せてもらって良いか?知っておきたいんだが」
「別に構わないぞ。ほれ」
 そう言って胴着の内からスマホを取り出す。
 侍がスマホを取り出す光景って少しシュールだよな。
 開かれたステータス画面を俺は見る。

─────────────────────
 藤堂影密
 種族 ハーフロード
 職業 冒険者(侍)
 レベル 424
 MP 215000
 力 58000
 体力 66000
 器用 82000
 敏捷性 104000

 固有スキル
 経験値2倍速
 
 スキル
 剣術Ⅹ
 体術Ⅸ
 瞬脚Ⅹ
 空脚Ⅹ
 耐熱Ⅳ
 耐寒Ⅳ
 雷電耐性Ⅲ
 危機察知Ⅷ
 物理攻撃耐性Ⅷ
 魔法攻撃耐性Ⅵ
 状態異常耐性Ⅳ
 魔力操作Ⅶ
 気配操作Ⅸ
 
 称号
 龍殺し
 一騎当千
 剣の申子
 武神の寵愛を受けし者

 属性
 風
─────────────────────

 なんだよこのステータスは。才能の塊じゃねぇか!
 イザベラに比べれば才能は劣るがなんでこんなに数値が高いんだ?サイボーグのアインより高いって馬鹿げてるだろ。俊敏性に至っては10万超えだし。

「拙者に勝ったお主がなんでそんなに驚いてるんだ?」
 俺の表情を見て察したんだろうが、仕方が無いだろ!だって俺測定不能なんだから。
 因みにステータス表示の上限はレベルなら1000。数値なら1000万までらしい。つまり俺はそれよりも上だって事なんだろう。

「だが、どうしてそんなに強いんだ?」
「それは嫌味か?」
「そうじゃない。学園に通っていた時の友人にステータスを見せてもらったがあまりにも違うからな」
 俺の言葉に首を傾げる影光。そうか、影光は俺がスヴェルニ学園に通っていた事を知らないんだよな。
 俺は分かり易く学園に通っていた事、そして事件を起こして国外追放された事を伝える。

「なるほど。だから帝国で冒険者をしているわけか」
「そう言うことだ。それよりもどうして学生とここまでレベルが違うんだ?」
「それは簡単だ。実戦の数が違うからだ。経験値は普通に訓練をしていても入りはするが実戦で敵を倒した方が遥かに入る。ましてや強い敵を倒せば倒すほどその経験値量は多い」
「なるほどな」
 強い敵を倒せば経験値が大量に入る事は知っていたが、なるほど。だからイザベラたちよりもこんなにステータスの差があるわけか。
 つまりは学生時代の時よりも冒険者になった方が強くなる速度は遥かに速いと言う訳か。
 面白いな。普通は学生時代に成長するものだが、この世界はプロになってからの方が強くなる速度も量も多いってわけか。それも愚直に現れて。
 学園は所詮、現場で生き抜くための力と知識を養うためだけの場所って事か。退学した後に知るなんてな。
 午後8時頃に宴会は終了し、それぞれ自由にすごす。影光には以前貸した部屋をそのまま使ってもらう事にした。
 俺は久々に銀と一緒に風呂に入って、さっさと寝る事にした。
 明日からはギルドとして活動するわけだからな。




─────────────────────
非公式依頼報酬 +500万RK
ギルド口座に振込み -200万RK
残高383万8740RK
5階建てビル

昇格まで残り332ポイント


ギルド口座残高 200万RK
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