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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第十七話 宴会

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「こんな結果に納得出来るか!どうしてその能無しとクズが合格で、俺が不合格なんだよ!」
 不満を爆発させたのは誰でもないエリックだった。ま、アイツならやらかしそうだな。てか武闘大会個人戦学園代表選抜の表彰式の時にも似たような事があったな。俺がそんなに壇上や前に立つことが嫌なのかね。俺、少し傷つくんだが。

「こんなの不当だ!どうみてもアイツ等なんかより俺の方が敵は倒した筈だ。活躍した筈だろ!」
 やっぱりそう言う考えなのか。ま、そんな考えだから合格出来なかった訳だが。

「いえ、不当なのではありません。私を含めここに居る冒険者の方、そして冒険者組合レイノーツ支部長の受諾を得て彼等を合格させました」
「なら、どうして俺が不合格なんだよ!おかしいだろ」
「いえ、おかしくなどありません。貴方、そして不合格だった者全員が冒険者になる資格が無いと判断したまでです」
「そんなのおかしいだろ……」
 淡々と答える組合員の言葉に暗い影が見える。

「おかしくなどないさ」
「パ、パイクさん!」
 誰だ?
 エリックたちが相当驚いている人物。奴から感じる強い気配。有名な冒険者なんだろうが、俺は知らないぞ。

「厳しい言い方をするなら、今のお前たちに冒険者になる資格はない。いや、冒険者になって欲しくない」
「な、何故ですか!」
「実技試験Ⅱが始まる前、俺たちは既にお前たちの行動を見て今のところ合格に値する者が居るかを見ていた。その時合格に値したのはオニガワラ・ジン。ただ1人だけだった」
「あ、あの能無しが……」
「お前はオニガワラ・ジンの事を能無しと思っているようだが、この中で実技試験Ⅱの本質を見抜いていたのは奴だけだったよ」
「本質?」
「なんだそれすらも分からないのか。なら何度受験したところで冒険者にはなれないだろうな。と言うか俺はお前が冒険者になっても絶対に一緒には依頼を受けたくはないがな」
「何故ですか!」
 そんな厳しい言葉に問い返すエリックの姿にパイクは怒鳴り返す。

「当たり前だろうが!魔物の群れを他の受験者に押し付け囮にして自分だけ助かろうとするクズに背中を預けられるわけがないだろうが!」
「ひぃ!」
 そんなパイクの言葉にエリックは完全に腰を抜かす。

「冒険者には冒険者のルールがある。そしてお前がやったのは一番やってはいけない事だ。それなのに不当だ。ふざけるな!お前みたいな奴を俺は絶対に冒険者にすることはない!」
 そう怒鳴りつけるとパイクは訓練所を出て行った。

「受験者のみなさん。パイクさんが言った通りです。今回合格したこの方たちにあって貴方たちに無かった物。それが何なのか。それに気付けば次は合格出来るでしょう」
 そう言い残し組合の人たちも訓練所を出て行った。
 完全に取り残された受験者たち。きっとそれぞれか色々と考えていることだろう。ま、合格した俺たちには関係ないけど。

「俺たちも行こうぜ」
「そうやな。そうや!合格祝いにパーッと飲もうや!」
 唐突にカイがそんな提案をしてくる。それは良いな。イザベラやジュリアスみたいな堅物は居ないし。存分に酒が飲めそうだ。

「ほぉ、それは良い考えじゃの」
「僕も賛成!」
「俺は別に良いぞ」
「私も大丈夫です」
「私も平気だ」
「私も大丈夫だよ」
 談話しながら近くの居酒屋へと向かった。
 安くて美味いと言われている居酒屋に来た俺たちは天に掲げるようにグラスを打ち付けあった。

「合格を祝して乾杯や!」
『乾杯!』
 カイの音頭で俺たちは宴会を始めてた。
 飲み物はそれぞれで、酒、お茶、ジュースとさまざまだ。ただ嬉しかったことがあるとすればこの居酒屋がペットOKだったことだ。前世では考えられないからな。
 冒険者試験の時には想像もしていなかった光景が目の前にある。喜び、嬉しさ、笑い。それだけがこの空間に充満していた。

「久々に美味い酒が飲めたわ!これもリーダーてあるジンのお陰やな!」
「別に俺は何もしてないぞ」
「謙遜することはない。実際お前に試験の本質を教えて貰わなければ私たちは落ちていただろう」
「そうじゃぞ」
 別にそんなつもりはないんだが。ま、宴会だし良いか。

「なら、リーダー命令でカイ、なんか一発芸でもしろ!」
「そんな無茶な!」
 それだけでも笑いが起こる。嬉しいことがあり酒も入れば、誰だって気分が良いのはあたりまえだ。昼前だが、誰にも迷惑はかけてないので大丈夫だろう。
 それと相変わらず銀は女性陣にモテモテだな。

「ギンが羨ましいな。あんなに密着して」
 カイがそんな事を呟くが男なら誰だってそうだろう。

「私は強い者が好きなだけだ」
「確かにギンちゃんは強いもんね。試験の時も格好良かったよ」
「ガウッ!」
「じぇらしーや。まさかこんなワンコロにじぇらしーを感じる日が来るなんて。ああ、なんで世界はこうも不公平なんや!」
 それならこの世界を創ったあの糞女神にでも文句を言うんだな。もしかしたら俺みたいな呪いを貰う羽目になるかもしれないけど。

「安心しろ。私はお前に微塵も魅力を感じてないから」
「それのどこが安心できるっちゅうんね!」
 流石は関西風男ナイスツッコミだ。

「ほな、もしもこの中で付き合うとしたら誰と付き合いたいんや!」
 なんで合コンみたいな流れになるんだよ。そこまで女が恋しいんなら風俗かキャバクラにでも行ったらどうなんだ。

「ほな、一斉に指差してや!行くで、いっせいーのせ!」
 女性3人がカイの言葉で指を指す。何気に乗るんだな。
 で、指を指した相手が、

「なんでギンなんやあああぁぁ!」
「だって強いし可愛いし」
「その通りだ」
 なんてジュディーとミレイユが銀を撫でながら答えた。良かったな銀。どうやらお前にモテ期が到来したみたいだ。いや、前から来てたか。

「で、カルアちゃんはなんでリーダーやねん!」
「え?だってもしも付き合うならって……」
「カルア、これはただの遊びだ。その場のノリって言うやつだ」
「そ、そうだったんですか!私はてっきり答えるものだと!」
 あーこれが所謂天然って奴だな。まさか年上巨乳美少女に氏名されるなんて俺も立派になったものだな。

「リーダーもなに嬉しそうにニヤけんとんねん!」
 おっと俺としたことが嬉しさが顔に出ていたか。

「か、勘違いしないでください。もしもこの中で付き合うならの話ですよね。だから私はこの中で一番マシな人を選んだだけですので!ですけら勘違いですから!」
 うん、分かってる。だからそんなに否定されると傷つくぞ。それとその言い方だとカイたちも可哀相だから。ほら、落ち込んでるし。

「俺……今まで生きてきた意味ってなんやったんやろ……」
「僕もそう思うよ……」
「あわわわわっ!す、すいません!冗談!冗談ですから!」
 そんなに慌てて訂正しても説得力はないぞ。
 結局お酒を飲んで復活したカイたち。ほんと分かり易いな。

「そんで、皆はこれからどうすんの?」
 宴会が始まって2時間ちょい。突然カイがそんな事を聞いてきた。

「私は夢だったギルドの入社試験を受けてみようかと」
「僕もそのつもりだよ」
「お前は無理だろ」
「煩いよおっさん」
「なんやと!」
 ライとカイが今にも殴り合いを始めそうになっているが、誰も止めに入ろうとしていない。いや、カルアが慌てふためいているか。ま、宴会だしほっといても喧嘩はしないだろう。

「私は一度故郷に帰って報告しようと思っている」
「私も家族に報告しようと思ってるよ」
「あ、私も師匠に報告はします。それから入社試験を受けます」
 女性陣は一旦報告するのか。カルアは別に訂正しなくていいからな。

「儂は既に入社試験を受けるギルドは決まっておる」
「その年じゃ合格は無理だと思うで」
「何を言うか。儂はまだ20歳じゃぞ」
『え!?』
 この日一番の驚きと衝撃を与えた一言だった。

「ホンマにか……なら、俺が一番年上なの?」
「そうだよ、おっさん」
「餓鬼はだまっとれ!」
 ライは一々挑発するなよ。楽しいのは分かるが。

「そんでリーダーはどうするんや?」
「俺か?俺はまずはギルド探しだな。俺の要望にあったギルドがあるかどうか。んであれば入社試験を受けるって形だな」
「そうか。なら今日で皆ともお別れやな。ま、もしかしたら依頼で合えるかもしれんけど」
「そうだな。その時はまた私が背中を守ってやる」
「僕も前衛として敵を引き付けるよ」
「私だよ!」
「硬い敵は儂に任せとけ!」
「わ、私も精一杯頑張ります!」
「その時は俺と銀も全力で頑張るとしよう」
「ガウッ!」
 そして俺たちは再びグラスを打ち付けあうのだった。
 それから少しして宴会はお開きとなり居酒屋の外に出ると空は茜色になっていた。
 するとスマホから着信音が鳴る。

「もしもし」
『ジンさん、シャルロットです』
「シャルロットか。どうかしたのか?」
『い、いえ!今日が冒険者試験の合格発表だと思いまして。そ、それで結果は……』
 スマホからシャルロットの不安が伝わってくる。そこまで心配してくれていたのか。ならもっと早く知らせておくべきだったな。

「無事合格したよ」
『ほ、本当ですか!』
「ああ。今、合格した他の連中と飲んでいたところだ」
『そうだったんですか。そんな時に電話して申し訳ありません』
「いや、ちょうど終わったところだし。俺としてはベストタイミングだったよ」
『そうですか。それは良かったです』
 シャルロット相手だと精神的疲労が凄いな。全然ジョークとかノリが分からないだろうからな。その部分だけで言えばカルアも同じか。

「リーダーはさっきから誰と話してるんや?」
「おい、邪魔するなよ。それよりも酒臭いぞ」
 ゴルバスと飲み比べしていたが、20杯目を越えたあたりで酔いつぶれたのだ。ドワーフであるゴルバスに勝てると本気で思ってたのか?それよりも意識が復活しただけでも凄いと言うべきか。

「それでリーダーはさっきから誰と話してるの?」
「私も気になるな~」
 ったく、ライもジュディーも興味がある事は躊躇うことなく聞いてくるからな。

「友達だよ。それよりお前等少し静かにしていてくれ」
「リーダー酷い!僕たちにも喋らせてよ!」
「そうだ!そうだ!ソーダーは三ツ実のソーダー!」
 まったく酔っ払いどもめ。それでジュディーは何が言いたいんだ?

『あの、ジンさん?』
「あ、悪い。少し酒の飲みすぎで酔っ払ってるんだ」
『そ、そうですか』
「それでシャルロット。みんながお前と話したいって言うんだが、大丈夫か?」
『え?私は構いませんが』
「そ、そうか。ならテレビ電話にするが平気か?」
『はい。先ほどまで外国の重鎮の方と会食していたので服装も大丈夫ですので』
 今、サラッと凄いこと言わなかったか?

「よ、お前らそこに二列横隊に並べ」
 俺の一言で一瞬にして並ぶ。お前等本当に酔っ払ってるんだよな?
 ジュディー、ゴルバス、ライの3人が前でミレイユ、カイ、カルアの3人が後ろに並ぶ。

「それじゃ、礼儀正しく挨拶しろよ」
 俺はそう言うとテレビ通話モードにして画面をカルアたちの方に向ける。

『初めまして。ジンさんの友人の、ベルヘンス帝国第二皇女シャルロット・デューイ・ベルヘンスと申します。気兼ねなく、シャルロットとお呼び下さい』
「「「「「「…………………」」」」」」
『あ、あのジンさん。急にフリーズしたのですが電波状態は大丈夫ですか?』
「うん?普通に大丈夫だぞ。ほら」
『本当ですね。では何故この方達は固まってらっしゃるのですか?』
「さぁあ?」
 ったく酔っ払ってるからと言って初対面の相手に失礼だぞ。時間停止が流行ってるからって。

『ジ、ジンさん。申し訳ありませんがこのあとも用事がありますので』
「そうなのか。それなのに電話をくれてありがとうな」
『いえ、それではまた』
「ああ、またな」
 俺は電話を切ると、まだフリーズして遊んでいた。まったくコイツ等と来たら。

「おい、いい加減遊ぶのやめろ」
「こら、ジン!」
「な、なんだよ、急に。それよりもカイ、酔いはさめたのか?」
「そんなもん一瞬で吹っ飛ぶわ!」
 そんな芸当を持ってたのか。凄いな。

「それよりもお前は何者なんや!」
「何者って今さっき冒険者になったばかりの一般人だが?」
「どこの世界に第二皇女様と友人関係を持つ一般人がおるねん!」
「ココに」
 俺は自分を指差す。それよりもお酒を大量に飲んだ後でそんなに興奮するのは体に悪いぞ。

「も、もしかして、もう手出したのか?」
「お前はバカか?第二皇女に手を出すわけないだろ。常識的に考えろ」
「お前の常識の方がおかしいわ!」
「手を出すべきだったのか!?」
「違うわ、アホ!」
 お前にアホとか言われたくないんだが。

「それよりも、俺は帰って寝る。じゃあな」
 俺はカルアたちと分かれてホテルに戻るのだった。まったく酒の飲みすぎには注意しないとな。じゃないとカイみたいに意味不明な事を口走ることになるからな。
 そんな仁の後姿を見送りながらカルアたちはこう思うのであった。
((((((ジンって何者!?))))))
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