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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第十二話 困惑する筆記試験
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名前を記入した俺は早速一問目を読んでみる。
─────────────────────
第一問
ギルド「朝食の珈琲」所属のSSランク冒険者、サダム・G・モーガンの好きな飲み物はなに?
─────────────────────
は?
シャルロットよ、悪い。合格できないかもしれない。
きっと俺は冒険者試験を受けに来たはずがオタク検定の会場ときっと間違えてしまったんだろう。ってそんなわけないよな!なんだこの意味の不明な問題は!いや、意味は分かるよ意味は。冒険者の好きな飲み物を答えれば良いだけだろ。だけど出題者がどうしてこの問題を試験に入れたのか、まったく意味が分からない。
ま、適当に書いておくか。
エスプレッソ・トニック、っと。
気を取り直して頑張るか。
筆記試験が終わってみると、普通に冒険者試験だった。たまに意味の分からない問題があったが一応埋めておいた。
それにしてもまさかイザベラとジュリアスに叩き込まれた知識が役に立つとは思わなかったな。まさに無駄方便だな。
それでも二学期から教わる筈だった所はどうしても分からない。ま、殆ど出題されなかったけど。それでも一応埋めておいた。
さて、20分後には実技試験Ⅰが始まる。さっさと着替えて移動するか。
更衣室で着替えた俺は1階の訓練所へとやってきた。
休憩してから来たため俺以外の受験者は既に着替えて来ていた。筆記試験前もそうだったが、俺の姿を見て噂する者もそれなりに居る。きっとニュースでも見たんだろう。ま、だからと言って俺には関係ないけど。
「あ、ジンさん!」
壁際で始まるまで待機しようとしていた俺にカルアが話しかけて来る。きっと今ので俺の名前が知れ渡ったんだろう。ニュースを見た冒険者たちが、やはりアイツが。なんて呟いていた。
それにしてもなんて戦闘服だ。ベージュを基調としたボディーラインがハッキリと分かるパッツパツな戦闘服のためか特に胸が強調されていて俺も含め大半の男性受験者が目で追いかけていた。桃源郷が向こうからやって来る!って俺は何を言ってるんだ。それに腰にはちゃっかりベレッタに似た魔導拳銃を二丁携えているし、危うく撃ち殺される恐れもあったわけか。危ない危ない。
「てか、恥ずかしくないのか?」
「なにがですか?」
「なんでもない」
今回の受験者の4割が女性だ。だからそこまで気にするような事でもないのかもしれない。ただ男からすれば、目の保養である。
「それより筆記試験の出来はどうでしたか?」
「普通だな」
自己採点では合格していると思うが。
「それは良かったって意味ですよね?」
「まあ、そうだな。で、カルアはどうなんだ?」
「自信があります!ま、一問目はラッキー問題でしたけど」
いや、あれこそ俺にとっては難問だったんだが。
「それで次は実技試験ですけど、どうですか?」
「ま、筆記試験よりかは自信があるな」
「そうなんですか……」
「自信がないのか?」
「はい。私、小さい時から冒険者に憧れていて。だから知識に関しては自信があったので筆記試験は大丈夫なんですが、実技試験が苦手で……」
明るくなったり暗くなったり表情豊かな子だな。ん?この口ぶりもしかして。
「この試験今回が初めてじゃないのか?」
「はい。今回で32回目になります」
「そ、そうか……」
そこまで我慢強く何度も試験を受ける奴も居ないだろう。そして31回も試験に落ちた受験者も居ないだろう。だけどそれなら裏試験を合格できたのは納得だな。
「でも確か冒険者組合規定で年に受けられる試験回数は10回までだったような」
「恥ずかしい話今年で21歳になります……」
「え?」
21歳!全然見えない。逆に年下に思えるんだが。冒険者組合の規定で18歳から試験が受けられる事はボルキュス陛下から教えて貰って知っていたから幼い容姿を持つ同い年かと思っていたがまさかの年上!全然見えない。
「俺の方が年下だから敬語使った方が良いか?」
「い、いえ!気にしないで下さい!」
なんで年上のアンタがそこまで頭が低いんだ。
「おいおい誰かと思えば不合格記録最高回数保持者のカルアじゃねぇかよ」
そんなカルアに二十代前半で金色の短髪の男が嘲笑うようにバカにしてくる。どうしてどの国にもこんな奴が居るのかね。呆れるぞ。
「エリックさん……」
ま、誰だってこのタイプは苦手だよな。だけど女性にこんな顔をさせるのは駄目だろ。でもま、念のために。
「カルア知り合いか?」
「何度かこの試験で会ったことがあるだけです。何故かいつもバカにされて……」
なるほどな。よく分かった。
「おい」
「誰だ………ってよく見れば有名人じゃないか!魔力が無くて国外追放された能無しさん」
こいつはちゃんとニュースを見てたのか?どうすればそんな解釈になる。
それにしても中には俺の事を知らない奴だって居るんだな。エリックだっけか。こいつの言葉で蔑みの視線や嘲笑う声が聞こえてくる。
「で、そんな能無しさんが俺になんのようだ?」
「それで女を口説いてるつもりか?そんなんじゃ一生彼女は出来ないぞ。童貞君」
「だ、誰が童貞だ!」
「その反応図星か」
「なっ!」
俺の言葉に赤面し、また周囲から聞こえるアイツ童貞なんだ。という呟きに更に顔を赤くする。
「てめぇ……上等だ。魔力が無い能無しの癖に調子に乗りやがって!」
「分かったからさっさと失せろ。もう直ぐ試験が始まるんだからよ」
「なんだよ。調子に乗ってるだけで手は出せないのかよ。情けねぇな!」
そんな安い挑発に誰が乗るかよ。でも少し脅かしておくか。
「なら、良いんだな。先に聞いておくが、俺が国外追放された本当の理由……知ってるよな?」
「ひぃっ!」
やっぱり知ってたか。
「なら、俺がこの程度のことで手を出さないと思うか?」
徐々に青褪めて涙目になって行くエリック。もう少し脅かしておくか。
「おい、何をしている!」
っとどうやら試験官が来たみたいだな。
「う、運が良かったな!だが次は覚えていろよ!」
覚えていろよ。っていつの時代だよ。それにしても逃げ足速ぇな。あれだけならイザベラよりも速い気がする。
逃げられなかった俺は試験官に捕まってしまった。
「で、何をしてたんだ?」
「別に試験前に少し話していただけですよ。互いに悔いのないように戦おうって」
「そうか。まったくどうして毎度毎度こうも喧嘩になるんだ」
あら気づいていたのね。で、毎度のことなんですね。
「ジ、ジンさん……」
「カルア大丈夫だったか?」
「わ、私は大丈夫です。それよりもジンさんが……」
「あの程度スヴェルニ学園じゃ日常茶飯事だったから気にするな。それよりも早く並ばないと怒られるぞ」
俺は急いで整列する。
「それではこれより実技試験Ⅰを始める。この試験では己の武器を使って戦って貰う。制限時間は10分。テイマーの者は既に使役している魔物を連れてきているだろうが、そうでない者は一人で戦って貰う。勿論安全防護フィールド内だから、けして死ぬことはないが負傷が大きいと明日の実技試験Ⅱを受けられなくなるので覚悟しておくように。それでは対戦相手の組み合わせを発表する」
ここら辺はスヴェルニ学園で受けた実技訓練と変わらないな。
「5組目カルル・ペッパー対オニガワラ・ジン」
俺は5組目か。ある程度は休憩出来そうだな。
「それではこれより試験を始める。1組の受験者は直ぐに準備をするように」
実技試験の説明が終わると各受験者はそれぞれ壁際に移動した。
この試験で求められるのは自分自身の実力だ。頼れる仲間が居ないからこそその力の差は愚直なまでに見えてくる。勿論対戦者同士の実力差があり呆気なく試合が終わったとしてもそれで失格とはならない。筆記試験、実技試験Ⅰ、実技試験Ⅱの総合評価で決まるからだ。そして少しでも合格率を上げたいのであればこの実技試験Ⅰで勝利したほうが良い。
「それでジンさんは何組目ですか?」
「俺は5組目だ。カルアは?」
「私は18組目です」
「最後の方だな」
「そうなんです。今からもう緊張で手が震えて……」
す、凄く震えてるな。北極で海水浴したあとみたいに震えてるぞ。
「えへへへ、どうしても実技試験で緊張しちゃって。こうなっちゃうんです」
「一つ聞くが、実技試験Ⅰで対戦相手に勝った事はあるのか?」
「………一度だけ」
「悪い、聞こえなかった。もう一度だけ頼む?」
「一度だけあります」
「そ、そうか」
31回も試験を受けて1度だけってのはある意味凄いよな。
「練習ではそれなりに動けてるんです。師匠にも、何でそれだけの実力を持っていながら勝てないんだ。っていつも叱られてます」
「ま、普通そうだよな。って師匠が居るのか」
「はい。既に冒険者を引退された方なんですけど、私が冒険者に憧れるきっかけだった人でもあって弟子入りしました」
「その人も2丁拳銃だったのか?」
「え?」
「腰に携えているだろ」
「あ、はい。そうですね。俊敏かつアクロバティックな動きをしながら戦う姿は同じ拳銃使いの間では憧れの存在でしたから」
「なるほどな」
それにしても師匠か。憎たらしくて、いつもイラつけど、的を得た事を言ってくるから反論できない。見ていないようでしっかりと弟子のことを見てくれている。俺もそんな時があったな。
「あの、もしかしてジンさんにもお師匠さんが?」
「ああ、居たよ。2年前までな」
「それって……」
「亡くなったよ。俺の目の前でな」
「す、すいません!」
「なんでカルアが謝るんだ?」
「だって不謹慎な質問をしたので」
「知らなかったんだから聞いただけだろ。それは仕方がないだろ」
まったく本当に年上なのかと思うぐらい心配になってくるな。それがカルアの魅力とも言えなくはないけど。
「カルア」
「なんですか?」
「訓練での射撃成績はどうなんだ?」
「どうしてそんな事を?」
「何となくだ」
「はぁ?」
首を傾げるカルアだが、いきなりこんな事を聞かれたら無理もないよな。でも対戦するわけじゃないから大丈夫だよな。
「訓練では15発撃って全弾命中ですね」
「因みに的はなんだ?」
「レンガです」
「距離は?」
「20メートルですね」
ほうそれは凄いな。拳銃で20メートル離れた距離から全弾命中はそうそうないぞ。
「それでカルアの対戦相手ってどいつだ?」
「あそこで壁に凭れ掛かっている男性の方です。前に一度冒険者試験で見かけましたけど肉体強化と硬化魔法を得意とする魔導剣使いでしたね」
なるほど。となると体格や剣の大きさから考えてそれなりにスピードもありそうだな。となると後は剣術のレベルだが、俺は剣術は使えないからド素人だし、見てもないから何ともいえないが、最悪の状況も踏まえて伝えておくか。
「いつもカルアがどんな戦い方をしているのか知らないが、一つアドバイスだ」
「アドバイスですか?」
「そうだ」
時間は流れて4組目が戦おうとしていた。ってエリックが戦うのか。これはお手並み拝見だな。
試合が開始し最初は互いに拮抗していた。武器も互いに魔導剣。魔法も肉体強化だけ。体力と剣術もほぼ互角。となると後は駆け引きが上手い方が勝利するだろうが、エリックにそんな賭け引きが出来るとは思えない。さっきの会話で充分にそれは分かっているからだ。
そして俺の予想通り残り時間2分20秒で相手の策に嵌って剣を弾き飛ばされ終了した。
「クソッ!」
悔しそうだが、あの表情からして絶対に自分の弱さを受け止めてないだろうな。運が悪かった。相手が姑息な事をしてきた。調子が悪かった。そんな事ばかり考えているんだろうな。あれじゃ成長はしないだろうな。
「エリックさんは実力はある方なんですが、中々負けを認められないんです。だからそれ以上強くなれないんですよね」
カルアにも見抜かれているのか。てか、それだけの洞察力がありながらなんで勝てないんだよ。どんだけ本番に弱いんだ。
「あ、次ジンさんの試合ですよね。頑張って下さい」
「ああ、頑張ってくるよ」
俺はそう言って訓練場中央に向かった。
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第一問
ギルド「朝食の珈琲」所属のSSランク冒険者、サダム・G・モーガンの好きな飲み物はなに?
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は?
シャルロットよ、悪い。合格できないかもしれない。
きっと俺は冒険者試験を受けに来たはずがオタク検定の会場ときっと間違えてしまったんだろう。ってそんなわけないよな!なんだこの意味の不明な問題は!いや、意味は分かるよ意味は。冒険者の好きな飲み物を答えれば良いだけだろ。だけど出題者がどうしてこの問題を試験に入れたのか、まったく意味が分からない。
ま、適当に書いておくか。
エスプレッソ・トニック、っと。
気を取り直して頑張るか。
筆記試験が終わってみると、普通に冒険者試験だった。たまに意味の分からない問題があったが一応埋めておいた。
それにしてもまさかイザベラとジュリアスに叩き込まれた知識が役に立つとは思わなかったな。まさに無駄方便だな。
それでも二学期から教わる筈だった所はどうしても分からない。ま、殆ど出題されなかったけど。それでも一応埋めておいた。
さて、20分後には実技試験Ⅰが始まる。さっさと着替えて移動するか。
更衣室で着替えた俺は1階の訓練所へとやってきた。
休憩してから来たため俺以外の受験者は既に着替えて来ていた。筆記試験前もそうだったが、俺の姿を見て噂する者もそれなりに居る。きっとニュースでも見たんだろう。ま、だからと言って俺には関係ないけど。
「あ、ジンさん!」
壁際で始まるまで待機しようとしていた俺にカルアが話しかけて来る。きっと今ので俺の名前が知れ渡ったんだろう。ニュースを見た冒険者たちが、やはりアイツが。なんて呟いていた。
それにしてもなんて戦闘服だ。ベージュを基調としたボディーラインがハッキリと分かるパッツパツな戦闘服のためか特に胸が強調されていて俺も含め大半の男性受験者が目で追いかけていた。桃源郷が向こうからやって来る!って俺は何を言ってるんだ。それに腰にはちゃっかりベレッタに似た魔導拳銃を二丁携えているし、危うく撃ち殺される恐れもあったわけか。危ない危ない。
「てか、恥ずかしくないのか?」
「なにがですか?」
「なんでもない」
今回の受験者の4割が女性だ。だからそこまで気にするような事でもないのかもしれない。ただ男からすれば、目の保養である。
「それより筆記試験の出来はどうでしたか?」
「普通だな」
自己採点では合格していると思うが。
「それは良かったって意味ですよね?」
「まあ、そうだな。で、カルアはどうなんだ?」
「自信があります!ま、一問目はラッキー問題でしたけど」
いや、あれこそ俺にとっては難問だったんだが。
「それで次は実技試験ですけど、どうですか?」
「ま、筆記試験よりかは自信があるな」
「そうなんですか……」
「自信がないのか?」
「はい。私、小さい時から冒険者に憧れていて。だから知識に関しては自信があったので筆記試験は大丈夫なんですが、実技試験が苦手で……」
明るくなったり暗くなったり表情豊かな子だな。ん?この口ぶりもしかして。
「この試験今回が初めてじゃないのか?」
「はい。今回で32回目になります」
「そ、そうか……」
そこまで我慢強く何度も試験を受ける奴も居ないだろう。そして31回も試験に落ちた受験者も居ないだろう。だけどそれなら裏試験を合格できたのは納得だな。
「でも確か冒険者組合規定で年に受けられる試験回数は10回までだったような」
「恥ずかしい話今年で21歳になります……」
「え?」
21歳!全然見えない。逆に年下に思えるんだが。冒険者組合の規定で18歳から試験が受けられる事はボルキュス陛下から教えて貰って知っていたから幼い容姿を持つ同い年かと思っていたがまさかの年上!全然見えない。
「俺の方が年下だから敬語使った方が良いか?」
「い、いえ!気にしないで下さい!」
なんで年上のアンタがそこまで頭が低いんだ。
「おいおい誰かと思えば不合格記録最高回数保持者のカルアじゃねぇかよ」
そんなカルアに二十代前半で金色の短髪の男が嘲笑うようにバカにしてくる。どうしてどの国にもこんな奴が居るのかね。呆れるぞ。
「エリックさん……」
ま、誰だってこのタイプは苦手だよな。だけど女性にこんな顔をさせるのは駄目だろ。でもま、念のために。
「カルア知り合いか?」
「何度かこの試験で会ったことがあるだけです。何故かいつもバカにされて……」
なるほどな。よく分かった。
「おい」
「誰だ………ってよく見れば有名人じゃないか!魔力が無くて国外追放された能無しさん」
こいつはちゃんとニュースを見てたのか?どうすればそんな解釈になる。
それにしても中には俺の事を知らない奴だって居るんだな。エリックだっけか。こいつの言葉で蔑みの視線や嘲笑う声が聞こえてくる。
「で、そんな能無しさんが俺になんのようだ?」
「それで女を口説いてるつもりか?そんなんじゃ一生彼女は出来ないぞ。童貞君」
「だ、誰が童貞だ!」
「その反応図星か」
「なっ!」
俺の言葉に赤面し、また周囲から聞こえるアイツ童貞なんだ。という呟きに更に顔を赤くする。
「てめぇ……上等だ。魔力が無い能無しの癖に調子に乗りやがって!」
「分かったからさっさと失せろ。もう直ぐ試験が始まるんだからよ」
「なんだよ。調子に乗ってるだけで手は出せないのかよ。情けねぇな!」
そんな安い挑発に誰が乗るかよ。でも少し脅かしておくか。
「なら、良いんだな。先に聞いておくが、俺が国外追放された本当の理由……知ってるよな?」
「ひぃっ!」
やっぱり知ってたか。
「なら、俺がこの程度のことで手を出さないと思うか?」
徐々に青褪めて涙目になって行くエリック。もう少し脅かしておくか。
「おい、何をしている!」
っとどうやら試験官が来たみたいだな。
「う、運が良かったな!だが次は覚えていろよ!」
覚えていろよ。っていつの時代だよ。それにしても逃げ足速ぇな。あれだけならイザベラよりも速い気がする。
逃げられなかった俺は試験官に捕まってしまった。
「で、何をしてたんだ?」
「別に試験前に少し話していただけですよ。互いに悔いのないように戦おうって」
「そうか。まったくどうして毎度毎度こうも喧嘩になるんだ」
あら気づいていたのね。で、毎度のことなんですね。
「ジ、ジンさん……」
「カルア大丈夫だったか?」
「わ、私は大丈夫です。それよりもジンさんが……」
「あの程度スヴェルニ学園じゃ日常茶飯事だったから気にするな。それよりも早く並ばないと怒られるぞ」
俺は急いで整列する。
「それではこれより実技試験Ⅰを始める。この試験では己の武器を使って戦って貰う。制限時間は10分。テイマーの者は既に使役している魔物を連れてきているだろうが、そうでない者は一人で戦って貰う。勿論安全防護フィールド内だから、けして死ぬことはないが負傷が大きいと明日の実技試験Ⅱを受けられなくなるので覚悟しておくように。それでは対戦相手の組み合わせを発表する」
ここら辺はスヴェルニ学園で受けた実技訓練と変わらないな。
「5組目カルル・ペッパー対オニガワラ・ジン」
俺は5組目か。ある程度は休憩出来そうだな。
「それではこれより試験を始める。1組の受験者は直ぐに準備をするように」
実技試験の説明が終わると各受験者はそれぞれ壁際に移動した。
この試験で求められるのは自分自身の実力だ。頼れる仲間が居ないからこそその力の差は愚直なまでに見えてくる。勿論対戦者同士の実力差があり呆気なく試合が終わったとしてもそれで失格とはならない。筆記試験、実技試験Ⅰ、実技試験Ⅱの総合評価で決まるからだ。そして少しでも合格率を上げたいのであればこの実技試験Ⅰで勝利したほうが良い。
「それでジンさんは何組目ですか?」
「俺は5組目だ。カルアは?」
「私は18組目です」
「最後の方だな」
「そうなんです。今からもう緊張で手が震えて……」
す、凄く震えてるな。北極で海水浴したあとみたいに震えてるぞ。
「えへへへ、どうしても実技試験で緊張しちゃって。こうなっちゃうんです」
「一つ聞くが、実技試験Ⅰで対戦相手に勝った事はあるのか?」
「………一度だけ」
「悪い、聞こえなかった。もう一度だけ頼む?」
「一度だけあります」
「そ、そうか」
31回も試験を受けて1度だけってのはある意味凄いよな。
「練習ではそれなりに動けてるんです。師匠にも、何でそれだけの実力を持っていながら勝てないんだ。っていつも叱られてます」
「ま、普通そうだよな。って師匠が居るのか」
「はい。既に冒険者を引退された方なんですけど、私が冒険者に憧れるきっかけだった人でもあって弟子入りしました」
「その人も2丁拳銃だったのか?」
「え?」
「腰に携えているだろ」
「あ、はい。そうですね。俊敏かつアクロバティックな動きをしながら戦う姿は同じ拳銃使いの間では憧れの存在でしたから」
「なるほどな」
それにしても師匠か。憎たらしくて、いつもイラつけど、的を得た事を言ってくるから反論できない。見ていないようでしっかりと弟子のことを見てくれている。俺もそんな時があったな。
「あの、もしかしてジンさんにもお師匠さんが?」
「ああ、居たよ。2年前までな」
「それって……」
「亡くなったよ。俺の目の前でな」
「す、すいません!」
「なんでカルアが謝るんだ?」
「だって不謹慎な質問をしたので」
「知らなかったんだから聞いただけだろ。それは仕方がないだろ」
まったく本当に年上なのかと思うぐらい心配になってくるな。それがカルアの魅力とも言えなくはないけど。
「カルア」
「なんですか?」
「訓練での射撃成績はどうなんだ?」
「どうしてそんな事を?」
「何となくだ」
「はぁ?」
首を傾げるカルアだが、いきなりこんな事を聞かれたら無理もないよな。でも対戦するわけじゃないから大丈夫だよな。
「訓練では15発撃って全弾命中ですね」
「因みに的はなんだ?」
「レンガです」
「距離は?」
「20メートルですね」
ほうそれは凄いな。拳銃で20メートル離れた距離から全弾命中はそうそうないぞ。
「それでカルアの対戦相手ってどいつだ?」
「あそこで壁に凭れ掛かっている男性の方です。前に一度冒険者試験で見かけましたけど肉体強化と硬化魔法を得意とする魔導剣使いでしたね」
なるほど。となると体格や剣の大きさから考えてそれなりにスピードもありそうだな。となると後は剣術のレベルだが、俺は剣術は使えないからド素人だし、見てもないから何ともいえないが、最悪の状況も踏まえて伝えておくか。
「いつもカルアがどんな戦い方をしているのか知らないが、一つアドバイスだ」
「アドバイスですか?」
「そうだ」
時間は流れて4組目が戦おうとしていた。ってエリックが戦うのか。これはお手並み拝見だな。
試合が開始し最初は互いに拮抗していた。武器も互いに魔導剣。魔法も肉体強化だけ。体力と剣術もほぼ互角。となると後は駆け引きが上手い方が勝利するだろうが、エリックにそんな賭け引きが出来るとは思えない。さっきの会話で充分にそれは分かっているからだ。
そして俺の予想通り残り時間2分20秒で相手の策に嵌って剣を弾き飛ばされ終了した。
「クソッ!」
悔しそうだが、あの表情からして絶対に自分の弱さを受け止めてないだろうな。運が悪かった。相手が姑息な事をしてきた。調子が悪かった。そんな事ばかり考えているんだろうな。あれじゃ成長はしないだろうな。
「エリックさんは実力はある方なんですが、中々負けを認められないんです。だからそれ以上強くなれないんですよね」
カルアにも見抜かれているのか。てか、それだけの洞察力がありながらなんで勝てないんだよ。どんだけ本番に弱いんだ。
「あ、次ジンさんの試合ですよね。頑張って下さい」
「ああ、頑張ってくるよ」
俺はそう言って訓練場中央に向かった。
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