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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す
第三十六話 冒険者連続殺人事件 ①
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「それで、試験はどうだったんだよ」
「一言で言うなら、最悪ですね」
うわぁ……なにがあったのか想像できないが、あれは他人の前でして良い顔じゃないな。
「試験会場に着くなり同じ班でもないくせに下等生物がゲスな視線を向けながら話しかけて来ましたし」
まぁ、性格は最悪だが見た目は超が付くほどの美女だからな。男共が話しかけてくるのはしかたがない。
「で、そいつらはどうなんたんだ?」
「平和的にお話で解決しましたよ。私的には即座に焼却処分したかったところですが」
「そ、そうか」
アインがどうやって解決したのか簡単に想像できてしまうな。きっとそれ以上に内心は苛立っていただろうけど。それを考えるなら成長したって言えるのかもしれない。
「それで試験中はどうだったんだ?」
「不本意ながら連携しなければ合格できないことを同じ班の低脳な連中に教えてあげましたよ。それでも信じなかった者には少し頼み込みましたけど」
「そ、そうか」
「だけど私は大きな勘違いをしていました」
「大きな勘違い?」
「貴方以上に低脳な存在はこの世にいないと思っていましたが、それは間違いでした。ですから謝罪します。貴方は下から50番目の低脳でした」
それは謝罪してないよな。逆に喧嘩売ってるんだよな?そうだよな?
沸々と湧き上がる怒りをどうにか押し殺して俺はアインの話の続きを聞く。
「それになんですかあの森は。あまりにも脆弱な魔物ばかり。あれでは私の力の1割も発揮する事は不可能です」
ま、確かにアインの強さなら、仕方が無いよな。でもそれは俺だって同じだぞ。それに1年はそんな雑魚相手の依頼ばかりを受けることになるだろうよ。
「それでも完璧な私です。自分の実力を魅せつつ、仲間の力は150%引き出せてみせました。これで落ちるようなら、この国の冒険者は節穴どころの話ではありません。クズ以下の存在です」
「そ、そうだな」
頼む!アインを合格にしてやってくれ!でないと直ぐにでも冒険者組合が瓦礫の山と化してしまう!
心の底から祈りを捧げる。
9月28日金曜日。
あれから2日が過ぎ、今日冒険者試験の合格発表が行われる。と言うよりも現在行われている真っ最中だろう。
正直自分の時以上に緊張している。だって冒険者組合の未来が掛かってるんだから!
そのためアインは試験会場に行っている。
頼むから悪い事にはなるなよ。
緊張のあまりいつも以上に喉が渇くがお茶でどうにか潤す。
それから30分ほどしてアインが戻ってきた。
「ど、どうだった!?」
「合格しましたよ。ほら」
アインの手には冒険者であることを証明するギルドカードが握られていた。
「よ、良かった~」
「それほどまでに私に合格して欲しかったようですね」
「ま、まあな」
実際は合格してくれないと俺たちがお尋ね者になるのが不安だったからだけど。
「これでマスターと一緒に依頼を受けられますね」
「何言ってるんだ?まだ無理だぞ」
「なですか?理由によっては処刑することになりますけど」
「冒険者になっても最初はGランクからだ。そこに強さは関係ない。全員がそこからスタートなんだ。だから現在Eランクの俺と一緒に依頼を受けたければ最低でもFランク、もしくは同じEランクになって貰う必要がある。ま、俺はもう少しでDランクだからお前が俺と同じランクになるのはまだまだ先の話だろうけどな」
「くっ!そう言う事ですか。何気に真面目に冒険者活動を行っていると思えばそこまでして私をマスターから遠ざけたいのですか!」
「い、いや、別にそんなつもりはないぞ。ただ俺の方がランクが上って事を自慢したかっただけなんだが」
「分かりました。良いでしょう。1週間で貴方と同じEランク。いえDランクになってみせます」
って人の話を聞いちゃいないな。どこまで自分勝手なんだよ。
「Gランクは最初、Gランクの依頼しか受けられないんでしたね」
「あ、ああ」
「今日中にFランクに昇格してみせます!」
そう言ってアインは飛び出して行った。
いったいあいつのどこにそんなやる気があるんだ?
「クゥウ?」
あ、ここか。
10月5日金曜日。
あれから1週間が過ぎた。
季節の変わり目も終わった頃が油断できないんだよな。
コンビニのパンで朝食を終えた俺たちは久々に休日を楽しんでいた。やはり毎日コンビニ弁当だと飽きるな。やっぱり仲間に料理が出来る奴が欲しい。
この1週間は働きっぱなしだったからな。
ま、そのお陰でアインはDランクに昇格。俺はCランクにまで昇格した。
お金もそこそこ貯まった。となるとあと必要なのは3人目の仲間とギルド名だけだ。
ま、ギルド名はその時にでも考えれば良いか。問題なのは仲間だ。だけどここで問題が生じる。
仲間なら誰でも良いと考えていたがアインが仲間になったことである程度強くなければこのギルドで冒険者活動する事は不可能だからだ。
ま、簡単に言うなら精神面が強くなければ直ぐに挫折するって事だ。
「だけどそう簡単に見つかるわけも無いしな~」
さてどうするか。アインと銀は依頼を受けて冒険者活動中だし、このままズルズル部屋の中で居ても仲間は見つからない。
「たまには一人で外を出歩くのも悪くないかもな」
そうと決まれば行動開始だ。
考えもなしに俺は街へと出かける。
流石は帝都なだけあって人口の数は桁違い。ま、その半分近くが腰に背中にと武器を携えているわけだけど。
俺もこの帝都に来て一ヶ月が過ぎた。だからそこそここ帝都については知っているし、知り合いも増えた。たまにバッタリ出くわす事もあるしな。
『本日のニュースです。昨夜、帝都23番地区にてまたしても殺人事件がありました。被害者はCランクギルドに所属するDランク冒険者。被害者は大きな刃物で斬られており、即死との事です。帝国軍警邏隊は犯人が力試しの犯行ではないかと言う見解のようです。先月から既にこれで12件目。帝国軍警邏隊が犯人を追っていますが未だにその行方どころか素性も分かっていない現状です。これについて専門家は――』
電光掲示板に流れるニュース。
まったく帝都も最近物騒だな。先月と言っても正確には9月22日が最初の事件が発生した時期だ。
どうしてこんな事をするのか分からない。自分の力がどこまで通用するのか知りたいんだろうがなんでこんなやり方を取る必要がある。
「ま、犯人の気持ちなんて知りたくもないけど」
それよりも問題なのはさっきから尾行されている事だ。
正直気配は駄々漏れなので直ぐに分かったが、裏試験の時のソーナたちよりかは断然強いし尾行も上手い。まさか犯人は1人じゃなくてグループなのか?
ま、今はそんな事よりもこの尾行をなんとかしないとな。
俺は適当に路地裏に入り身を隠し気配も消す。
「おい、どこに行った!?」
「分からねぇ。ったく魔力が無いから魔力探知で気づかれる事が無いって言ったのは誰だよ」
「うるせぇ!それよりも早く見つけないと朧様に殺される」
黒服に腰には刀を携えた2人組の男。さてどうするか。
朧様?一体誰のことだ?それよりも魔力が無いからって油断しすぎだろ。気配が駄々漏れだっての。
少し話を聞く必要があるな。
「よ、俺になんか用か?」
『!?』
突然現れた俺の姿に驚いた2人はいつでも戦えるように身構える。そこまで警戒されるような事をした覚えはないんだが。
「それで俺に用か?」
「悪いが一緒に来てもらう。姉御がお前に会いたがっていてな」
「尾行してくるような連中の上司に会えと?それでホイホイ付いていく馬鹿はいないだろ」
「なら力ずくでもついてきて貰うぞ」
こいつらは強い。俺が出会ってきた冒険者の中でもトップと言っても良いだろう。イザベラとも二人がかりならギリギリ良い勝負が出来るってところだろう。
だけど俺には通用しない。
0.5%の力で2人の背後に回り首筋に指先を当てる。
「やめておけ。お前等じゃ俺には勝てねぇよ」
日中でも薄暗い路地に静寂が訪れる。こいつらが今何を考えているのかなんとなくなら想像できる。
プライドのために反撃するか、それとも任務を遂行するために俺の言葉を受け入れるかの葛藤と言ったところか。
「………悪かった。だけど頼む。どうしても朧様がお前に会いたがってるんだ」
後者を取ったか。やはりプライドだけ高い馬鹿じゃないようだ。
それにしてもここまでしてお前等の姉御は俺に会いたがっている理由はなんだ?
ま、行ってみないと分からないしな。
俺はやつらの首筋から手をどける。
「良いぜ。朧様とやらのところまで案内してくれ」
「助かる。俺の名前はゲンジだ。ゲンジ・ロットマイヤー。で、こっちが」
「イスギ・ケプリンだ」
「俺は――」
「知ってるぜ。冒険者試験に合格して僅か1ヵ月足らずでCランクにまで昇格したオニガワラ・ジンだろ。一部じゃ久々に現れた期待のルーキーって噂だ」
「別に期待されるような事じゃねぇんだがな」
「謙遜するな。それよりも姉御の許に案内する」
姉御ってフレーズに黒服。まるでヤ○ザだな。
車に乗って40分ほどで案内された場所は、これまた立派な和風の木造建築だった。大きな旅館と言っても良いだろう。
「こっちだ」
靴を脱いで案内された一室からは少し懐かしい畳の臭いがしてきた。
それにしても立派な家だな。庭なんてまさに日本庭園だったし。この帝都でこんな場所にこれるなんて思いもしなかったな。
少しして襖を開けて入ってきたのは和服を崩し着こなす巨乳美女だった。
紫に近い青紫の長髪にカーネリアン色の縦長の瞳。顔立ちはどうみてもこの国の人間じゃない。ヤマト皇国の人間だ。いや、ヤマトの人間とのハーフロードか。
男なら一瞬で目を奪われそうな程だが、問題はそこじゃない。
――強い。
これほどまでに強い人間に出会ったのは初めてだ。最後に闘った時のイザベラでも相手にならないレベルの強さの持ち主。いったい何者だ?
「初めまして、鬼瓦仁。わっちはSSランク冒険者の東雲朧。Sランクギルド『夜霧の月』のギルドマスターをしていんす」
SランクギルドのギルマスにしてSSランク冒険者。なるほど道理で強いわけだ。それにしても凄い言葉遣いだな。これが素の喋り方なのか営業用の口調なのかは分からないな。確か廓言葉って言うんだよな。
「突然、主さんを連れて来ておゆるしなんし。だけど許しておくんなんし?」
「別に手荒な真似はされてないから気にしないでくれ。それよりも俺を呼んだ理由はなんだ?」
「主さんやあまり女性を急かすものじゃありんせん」
突然呼び出されて世間話をするのも変だろ。
「それにしても……うふふ」
「なんだ?」
「なんでもござりんせん。気にしないでおくんなんし」
いや、普通に気になるだろ。
「ほな、本題と行きんしょうか」
なんと言うか、リズムを狂わされる人だな。
「主さんにはとある人物を探して欲しいんす」
「とある人物?」
「そうでありんす。その者の名前は藤堂影光。世界最強と言われてる剣豪で、藤堂はんはわっちと同じヤマト出身でわっちが小さい時に通っとった道場の兄弟子でありんすが、2週間ほど前から行方が分からんのでありんす。ただ1週間ほど前にこの帝都で見かけはしたでありんすが、それっきり」
一枚の写真を手渡してくる。
黒の長髪を一束に纏めた髪型に少し吊り目の黒い瞳。寡黙と言うか怖い顔をしている。俺が想像していた通りの侍と言うよりも新撰組の一人って感じだな。
世界最強の剣豪か。そんな人物の行方が分からなくなれば心配するのは無理も無い。ましてや道場の兄弟子ならばな。
「で、その男を俺に捜して欲しいって事だな?」
「そうでありんす。勿論報酬は出すでありんす」
「因みに幾ら?」
「これだけなら出すことは可能でありんすが?」
そう言って朧さんは右手をパーに開く。
「5万?」
「違いんす」
「50万!」
「500万RKでありんす」
「500万RK!そんなに!」
「そりゃ勿論でありんす。ただしここにしっかりつれて来たらの話でありんすが」
「分かった。その依頼引き受ける!」
「助かりんす!」
フレンドリーかと思ったがどこか距離がある。仮面を被っていると言ってもいいだろう。だけど今の言葉だけは心の底からのような気がした。
「ただ幾つか質問して良いか?」
「なんでありんすか?」
「どうして自分たちで探さずに俺に依頼する?」
「生憎、わっちも忙しい身でありんしてな。探せるだけの実力を持った仲間たちも依頼でこの都市に居ーひん始末。そないな時知り合いに主さんを進められたってわけでありんす」
「知り合い?」
「レティシアさんでありんす」
「え?」
レティシアってシャルロットの母親で第二皇妃さんだろ。どうしてってそう言えば昔冒険者として活動してたって言ってたな。その時に知り合ったのか。
「だけど仁はんに頼んで正解やったわ」
ん?正解?よく分からないが引き受けた以上はちゃんと依頼をこなけど。
話を終えた俺は立ち上がる。
「それじゃ俺はこれで」
「待ちなんし」
「ん?」
「もしもなんか分かったらここに連絡しておくんなんし」
そう言って扇子の先端に挟まれた一枚の名刺を突き出して来た。
俺はそれを受け取り、
「分かった。それじゃ」
俺はこうしてSS冒険者から藤堂影光を探す。依頼を引き受けたのだった。
「一言で言うなら、最悪ですね」
うわぁ……なにがあったのか想像できないが、あれは他人の前でして良い顔じゃないな。
「試験会場に着くなり同じ班でもないくせに下等生物がゲスな視線を向けながら話しかけて来ましたし」
まぁ、性格は最悪だが見た目は超が付くほどの美女だからな。男共が話しかけてくるのはしかたがない。
「で、そいつらはどうなんたんだ?」
「平和的にお話で解決しましたよ。私的には即座に焼却処分したかったところですが」
「そ、そうか」
アインがどうやって解決したのか簡単に想像できてしまうな。きっとそれ以上に内心は苛立っていただろうけど。それを考えるなら成長したって言えるのかもしれない。
「それで試験中はどうだったんだ?」
「不本意ながら連携しなければ合格できないことを同じ班の低脳な連中に教えてあげましたよ。それでも信じなかった者には少し頼み込みましたけど」
「そ、そうか」
「だけど私は大きな勘違いをしていました」
「大きな勘違い?」
「貴方以上に低脳な存在はこの世にいないと思っていましたが、それは間違いでした。ですから謝罪します。貴方は下から50番目の低脳でした」
それは謝罪してないよな。逆に喧嘩売ってるんだよな?そうだよな?
沸々と湧き上がる怒りをどうにか押し殺して俺はアインの話の続きを聞く。
「それになんですかあの森は。あまりにも脆弱な魔物ばかり。あれでは私の力の1割も発揮する事は不可能です」
ま、確かにアインの強さなら、仕方が無いよな。でもそれは俺だって同じだぞ。それに1年はそんな雑魚相手の依頼ばかりを受けることになるだろうよ。
「それでも完璧な私です。自分の実力を魅せつつ、仲間の力は150%引き出せてみせました。これで落ちるようなら、この国の冒険者は節穴どころの話ではありません。クズ以下の存在です」
「そ、そうだな」
頼む!アインを合格にしてやってくれ!でないと直ぐにでも冒険者組合が瓦礫の山と化してしまう!
心の底から祈りを捧げる。
9月28日金曜日。
あれから2日が過ぎ、今日冒険者試験の合格発表が行われる。と言うよりも現在行われている真っ最中だろう。
正直自分の時以上に緊張している。だって冒険者組合の未来が掛かってるんだから!
そのためアインは試験会場に行っている。
頼むから悪い事にはなるなよ。
緊張のあまりいつも以上に喉が渇くがお茶でどうにか潤す。
それから30分ほどしてアインが戻ってきた。
「ど、どうだった!?」
「合格しましたよ。ほら」
アインの手には冒険者であることを証明するギルドカードが握られていた。
「よ、良かった~」
「それほどまでに私に合格して欲しかったようですね」
「ま、まあな」
実際は合格してくれないと俺たちがお尋ね者になるのが不安だったからだけど。
「これでマスターと一緒に依頼を受けられますね」
「何言ってるんだ?まだ無理だぞ」
「なですか?理由によっては処刑することになりますけど」
「冒険者になっても最初はGランクからだ。そこに強さは関係ない。全員がそこからスタートなんだ。だから現在Eランクの俺と一緒に依頼を受けたければ最低でもFランク、もしくは同じEランクになって貰う必要がある。ま、俺はもう少しでDランクだからお前が俺と同じランクになるのはまだまだ先の話だろうけどな」
「くっ!そう言う事ですか。何気に真面目に冒険者活動を行っていると思えばそこまでして私をマスターから遠ざけたいのですか!」
「い、いや、別にそんなつもりはないぞ。ただ俺の方がランクが上って事を自慢したかっただけなんだが」
「分かりました。良いでしょう。1週間で貴方と同じEランク。いえDランクになってみせます」
って人の話を聞いちゃいないな。どこまで自分勝手なんだよ。
「Gランクは最初、Gランクの依頼しか受けられないんでしたね」
「あ、ああ」
「今日中にFランクに昇格してみせます!」
そう言ってアインは飛び出して行った。
いったいあいつのどこにそんなやる気があるんだ?
「クゥウ?」
あ、ここか。
10月5日金曜日。
あれから1週間が過ぎた。
季節の変わり目も終わった頃が油断できないんだよな。
コンビニのパンで朝食を終えた俺たちは久々に休日を楽しんでいた。やはり毎日コンビニ弁当だと飽きるな。やっぱり仲間に料理が出来る奴が欲しい。
この1週間は働きっぱなしだったからな。
ま、そのお陰でアインはDランクに昇格。俺はCランクにまで昇格した。
お金もそこそこ貯まった。となるとあと必要なのは3人目の仲間とギルド名だけだ。
ま、ギルド名はその時にでも考えれば良いか。問題なのは仲間だ。だけどここで問題が生じる。
仲間なら誰でも良いと考えていたがアインが仲間になったことである程度強くなければこのギルドで冒険者活動する事は不可能だからだ。
ま、簡単に言うなら精神面が強くなければ直ぐに挫折するって事だ。
「だけどそう簡単に見つかるわけも無いしな~」
さてどうするか。アインと銀は依頼を受けて冒険者活動中だし、このままズルズル部屋の中で居ても仲間は見つからない。
「たまには一人で外を出歩くのも悪くないかもな」
そうと決まれば行動開始だ。
考えもなしに俺は街へと出かける。
流石は帝都なだけあって人口の数は桁違い。ま、その半分近くが腰に背中にと武器を携えているわけだけど。
俺もこの帝都に来て一ヶ月が過ぎた。だからそこそここ帝都については知っているし、知り合いも増えた。たまにバッタリ出くわす事もあるしな。
『本日のニュースです。昨夜、帝都23番地区にてまたしても殺人事件がありました。被害者はCランクギルドに所属するDランク冒険者。被害者は大きな刃物で斬られており、即死との事です。帝国軍警邏隊は犯人が力試しの犯行ではないかと言う見解のようです。先月から既にこれで12件目。帝国軍警邏隊が犯人を追っていますが未だにその行方どころか素性も分かっていない現状です。これについて専門家は――』
電光掲示板に流れるニュース。
まったく帝都も最近物騒だな。先月と言っても正確には9月22日が最初の事件が発生した時期だ。
どうしてこんな事をするのか分からない。自分の力がどこまで通用するのか知りたいんだろうがなんでこんなやり方を取る必要がある。
「ま、犯人の気持ちなんて知りたくもないけど」
それよりも問題なのはさっきから尾行されている事だ。
正直気配は駄々漏れなので直ぐに分かったが、裏試験の時のソーナたちよりかは断然強いし尾行も上手い。まさか犯人は1人じゃなくてグループなのか?
ま、今はそんな事よりもこの尾行をなんとかしないとな。
俺は適当に路地裏に入り身を隠し気配も消す。
「おい、どこに行った!?」
「分からねぇ。ったく魔力が無いから魔力探知で気づかれる事が無いって言ったのは誰だよ」
「うるせぇ!それよりも早く見つけないと朧様に殺される」
黒服に腰には刀を携えた2人組の男。さてどうするか。
朧様?一体誰のことだ?それよりも魔力が無いからって油断しすぎだろ。気配が駄々漏れだっての。
少し話を聞く必要があるな。
「よ、俺になんか用か?」
『!?』
突然現れた俺の姿に驚いた2人はいつでも戦えるように身構える。そこまで警戒されるような事をした覚えはないんだが。
「それで俺に用か?」
「悪いが一緒に来てもらう。姉御がお前に会いたがっていてな」
「尾行してくるような連中の上司に会えと?それでホイホイ付いていく馬鹿はいないだろ」
「なら力ずくでもついてきて貰うぞ」
こいつらは強い。俺が出会ってきた冒険者の中でもトップと言っても良いだろう。イザベラとも二人がかりならギリギリ良い勝負が出来るってところだろう。
だけど俺には通用しない。
0.5%の力で2人の背後に回り首筋に指先を当てる。
「やめておけ。お前等じゃ俺には勝てねぇよ」
日中でも薄暗い路地に静寂が訪れる。こいつらが今何を考えているのかなんとなくなら想像できる。
プライドのために反撃するか、それとも任務を遂行するために俺の言葉を受け入れるかの葛藤と言ったところか。
「………悪かった。だけど頼む。どうしても朧様がお前に会いたがってるんだ」
後者を取ったか。やはりプライドだけ高い馬鹿じゃないようだ。
それにしてもここまでしてお前等の姉御は俺に会いたがっている理由はなんだ?
ま、行ってみないと分からないしな。
俺はやつらの首筋から手をどける。
「良いぜ。朧様とやらのところまで案内してくれ」
「助かる。俺の名前はゲンジだ。ゲンジ・ロットマイヤー。で、こっちが」
「イスギ・ケプリンだ」
「俺は――」
「知ってるぜ。冒険者試験に合格して僅か1ヵ月足らずでCランクにまで昇格したオニガワラ・ジンだろ。一部じゃ久々に現れた期待のルーキーって噂だ」
「別に期待されるような事じゃねぇんだがな」
「謙遜するな。それよりも姉御の許に案内する」
姉御ってフレーズに黒服。まるでヤ○ザだな。
車に乗って40分ほどで案内された場所は、これまた立派な和風の木造建築だった。大きな旅館と言っても良いだろう。
「こっちだ」
靴を脱いで案内された一室からは少し懐かしい畳の臭いがしてきた。
それにしても立派な家だな。庭なんてまさに日本庭園だったし。この帝都でこんな場所にこれるなんて思いもしなかったな。
少しして襖を開けて入ってきたのは和服を崩し着こなす巨乳美女だった。
紫に近い青紫の長髪にカーネリアン色の縦長の瞳。顔立ちはどうみてもこの国の人間じゃない。ヤマト皇国の人間だ。いや、ヤマトの人間とのハーフロードか。
男なら一瞬で目を奪われそうな程だが、問題はそこじゃない。
――強い。
これほどまでに強い人間に出会ったのは初めてだ。最後に闘った時のイザベラでも相手にならないレベルの強さの持ち主。いったい何者だ?
「初めまして、鬼瓦仁。わっちはSSランク冒険者の東雲朧。Sランクギルド『夜霧の月』のギルドマスターをしていんす」
SランクギルドのギルマスにしてSSランク冒険者。なるほど道理で強いわけだ。それにしても凄い言葉遣いだな。これが素の喋り方なのか営業用の口調なのかは分からないな。確か廓言葉って言うんだよな。
「突然、主さんを連れて来ておゆるしなんし。だけど許しておくんなんし?」
「別に手荒な真似はされてないから気にしないでくれ。それよりも俺を呼んだ理由はなんだ?」
「主さんやあまり女性を急かすものじゃありんせん」
突然呼び出されて世間話をするのも変だろ。
「それにしても……うふふ」
「なんだ?」
「なんでもござりんせん。気にしないでおくんなんし」
いや、普通に気になるだろ。
「ほな、本題と行きんしょうか」
なんと言うか、リズムを狂わされる人だな。
「主さんにはとある人物を探して欲しいんす」
「とある人物?」
「そうでありんす。その者の名前は藤堂影光。世界最強と言われてる剣豪で、藤堂はんはわっちと同じヤマト出身でわっちが小さい時に通っとった道場の兄弟子でありんすが、2週間ほど前から行方が分からんのでありんす。ただ1週間ほど前にこの帝都で見かけはしたでありんすが、それっきり」
一枚の写真を手渡してくる。
黒の長髪を一束に纏めた髪型に少し吊り目の黒い瞳。寡黙と言うか怖い顔をしている。俺が想像していた通りの侍と言うよりも新撰組の一人って感じだな。
世界最強の剣豪か。そんな人物の行方が分からなくなれば心配するのは無理も無い。ましてや道場の兄弟子ならばな。
「で、その男を俺に捜して欲しいって事だな?」
「そうでありんす。勿論報酬は出すでありんす」
「因みに幾ら?」
「これだけなら出すことは可能でありんすが?」
そう言って朧さんは右手をパーに開く。
「5万?」
「違いんす」
「50万!」
「500万RKでありんす」
「500万RK!そんなに!」
「そりゃ勿論でありんす。ただしここにしっかりつれて来たらの話でありんすが」
「分かった。その依頼引き受ける!」
「助かりんす!」
フレンドリーかと思ったがどこか距離がある。仮面を被っていると言ってもいいだろう。だけど今の言葉だけは心の底からのような気がした。
「ただ幾つか質問して良いか?」
「なんでありんすか?」
「どうして自分たちで探さずに俺に依頼する?」
「生憎、わっちも忙しい身でありんしてな。探せるだけの実力を持った仲間たちも依頼でこの都市に居ーひん始末。そないな時知り合いに主さんを進められたってわけでありんす」
「知り合い?」
「レティシアさんでありんす」
「え?」
レティシアってシャルロットの母親で第二皇妃さんだろ。どうしてってそう言えば昔冒険者として活動してたって言ってたな。その時に知り合ったのか。
「だけど仁はんに頼んで正解やったわ」
ん?正解?よく分からないが引き受けた以上はちゃんと依頼をこなけど。
話を終えた俺は立ち上がる。
「それじゃ俺はこれで」
「待ちなんし」
「ん?」
「もしもなんか分かったらここに連絡しておくんなんし」
そう言って扇子の先端に挟まれた一枚の名刺を突き出して来た。
俺はそれを受け取り、
「分かった。それじゃ」
俺はこうしてSS冒険者から藤堂影光を探す。依頼を引き受けたのだった。
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しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
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異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
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