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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第三十七話 冒険者連続殺人事件 ②

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「失礼します」
「源之助か。なんざんす?」
「あの男は依頼を引き受けたようですが、どうしますか?監視しますか?」
「そんなもの必要ありんせん」
「し、しかし……」
「どうやらわっちは思いがけない人物と出会ってしもうたみたいでありんすから」
「は?」
「なんでもござりんせん。それよりも仁はんを監視する必要はありんせん。と皆に伝えておくんなんし」
「分かりました」
 静かに襖が閉められ1人になった。
 でもまさかレティシアさんに教えて貰った人物がアレ程の逸材だったとは。この世界もまだまだ広いでありんすな~。
 対面した瞬間に感じた陽だまりのような心地良よさ。しかしその裏に潜むは深淵よりも深く冷たい闇。
 あれほど光と闇が表裏一体した人間は見たことがありんせん。いや、あれはまず人間なのかも怪しいでありんすね。
 強者とは思えないどこにでも居るような青年。いえ、魔力が無い事を踏まえるなら劣等者と言うべき存在でありんすが……その鍛え上げられた肉体から発せられる気配・・は迷いも淀みも無い強者その者でありんした。

「わっちでも勝てるかどうか……」
 底が見えない強さ。いったいあれだけの強さをどこで手に入れたんでありんしょうな~。

「うふふ……」
 駄目ありんす。欲しいんす。仁はんの事欲しくなったでありんす。

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「っ!」
 な、なんだ。急に悪寒が。季節の変わり目も終わった頃だし風でも引いたか?
 藤堂影光を捜す事になったが、写真だけじゃどうする事も出来ないな。
 銀が居れば持ち物でも貸してもらって探せるだろうが、今はアインと一緒に依頼を受けてる真っ最中だしな。
 一度でも会った人間ならそいつの気配を追って捜せるかもだけど。会った事の無い人間には無理だしな。

「適当に歩いていたら見つかるか」
 考えなしの行動だが、捜す手がかりが写真だけじゃどうする事も出来ないしな。
 もう一度戻って朧さんに藤堂影光の所持品を貸してもらうのは何だが身の危険を感じるからやめておこう。
 適当に街中をぶらつくが予想通り見つける事が出来なかった。ま、無理も無いか。
 期限があるわけじゃないし、気楽に捜すか。
 拠点に戻ると依頼を終えたアインと銀が共有フロアで寛いでいた。

「おや、帰ってきたのですか。てっきり出て行ったのかと思いましたが」
「お前は毒舌を俺に言わないと気がすまないのか?」
「いえ、実際に思っている事なので」
 このやろう……。
 いつか絶対に上下関係をハッキリさせてやる。

「それでどこに行っていたのですか?」
「依頼を受けてきたんだよ」
「依頼ですか?どうせショボイ依頼なんでしょうけど」
 お前はそこまでして俺を見下すか。
 俺は冷蔵庫からお茶が入ったペットボトルを取り出して、アインの傍に座れば殺されかねないので少し離れた場所に座る。

「全然違うわ。指名依頼だよ。それもSSランク冒険者の東雲朧から直々のな」
「ほぉ、古流武術、神道零限流しんとうれいげんりゅうを使う東雲朧ですか」
「知っているのか?」
「いえ、今調べました。なんでも帝国の遊女なんて言われているみたいですが」
 まぁ確かにあんな格好していたら、そう思われても不思議じゃないわな。

「ですが、実際は月夜の舞姫ってのが彼女の異名のようですが」
「月夜の舞姫?全然戦うのイメージがないんだが」
「なんでも戦っている姿が舞い踊っているかのようである事からその異名が付いたみたいですね」
 なるほどな。ってそうだ。銀の力を借りなくてもこいつの力があれば直ぐに見つかるかもしれない。

「なぁ、俺が受けた依頼一緒にやらないか?」
「お断りします」
「なんでだよ!」
「貴方が受けた依頼ですよね。だったら貴方が達成するのが筋と言う物です」
「うっ」
 こいつ、ここに来て正論を口にしやがって。だがこの俺に屁理屈勝負で勝てると思うなよ。

「そうか、残念だ。依頼達成の報酬が500万RKなんだが、それで銀に美味しい肉でもご馳走しようと思ってたんだがな。お前の力があれば直ぐにでも終わるだろうに。だけどそれじゃ当分美味しい肉は無しだな。それに銀もお前の事を褒めてくれるだろうにな。仕方が無いコツコツ捜すとするか」
「待ちなさい」
「なんだ?」
「今すぐ依頼内容を説明しなさい。さもなければ殺します」
 よしっ!
 俺の巧みな話術でアインをその気にさせてやったぜ。まったく銀がいればチョロいものだな。
 おっと早く話さないとアインに殺されかねないな。

「依頼内容は藤堂影光って言う男の捜索だ。で、こいつが藤堂影光だ」
 俺は朧さんから貰った写真をアインに渡す。

「お前のネットワークで街中の監視カメラ映像から見つけ出して欲しいんだ」
「なるほど。まさに私に打って付けの依頼ですね」
「そうだろ。だから見つけて欲しい――」
「見つけました」
「早っ!」
 まさか今の僅かな間で見つけ出したのか。口は悪いがコイツの力は本物だな。

「最後に監視カメラに映っていたのは、今日の午前11時58分。場所は帝都34地区16番地の路地です」
 帝都は一定の大きさで地区があり全部で50の地区ある。それ全てに番号で振り分けられているのだ。
 アインが見つけ出してくれたお陰で一気に捜索は進みだした。

「それからどっちに行ったか分かるか?」
「いえ、その周囲の監視カメラ映像には映っていませんのできっと建物中に入ったのでしょう」
「分かった。銀、行くぞ!」
「ガウッ!」
 時刻はまだ午後の1時30分になろうとしている時間。ならまだその建物に居る可能性だってありえる。
 俺はさっそく銀を連れて34地区の16番地に向かう。

「ってなんでお前まで付いてきてるんだ?」
「私もこの依頼を手伝うと決めたのです。それに貴方だけマスターの寵愛を受けさせるわけにはいきません」
 別にそんな事考えた事もないんだが。ま、1人より2人の方がもしもの時に良いか。

「言っておくが相手は世界最強の剣豪らしいからな。十分に気をつけろよ」
「貴方に心配されるほど私は落ちぶれてはいませんので」
「そうかよ」
 皮肉を言い合いながらも俺たちは車よりも速い速度で34地区へと向かう。
 待っていろよ藤堂影光。そして500万!
 俺たちの拠点があるのは48地区。そこから34地区まではそこそこの時間が掛かるが俺とアインの力に掛かれば楽勝だ。
 信号なんてものは全て無視して移動する。ま、信号を無視したところで俺たちに気づく奴なんていない。
 景色が高速で移動しているようにも見えなくはないが、実際は俺たちがそれだけの速度で移動している。
 そして僅か20分足らずで俺たちは目的地の34地区16番地に来た。

「この路地です」
 アインの言葉で到着した路地は各階に飲食店を経営しているビルとビジネスホテルに挟まれた路地だった。確かに監視カメラが備わっているな。
 俺は気配察知を密にして藤堂影光を探す。

「いた」
「私も見つけました」
「え?」
「なにか?」
「どうやって見つけ出したんだ?」
「この2つの建物の中で一番魔力量が多い人間を見つけだしただけの事です」
「な、なるほど」
 高性能のサイボークならそんな事も出来るのか。え?俺はどうやって見つけたのかって。そんなもの気配でだよ。大抵気配はその発している生物と同じ形をしているからな。写真の姿と照らし合わせて見つけ出したのさ。ま、他の奴等に比べて気配を操作しているし、間違いないだろう。
 藤堂影光が居たのはビジネスホテルではなくとなりの複数の飲食店を経営しているビルの方だった。

「場所は4階だな」
「はい。それでここからはどうするつもりなのですか?」
「相手がどんな人物なのか分からないからな。まずは接触して話してみるしかないだろう」
「もしも断った場合は強制連行で良いですね」
「相手が襲ってきたらな」
 コイツの場合は無理、駄目、嫌だなんて単語が聞こえた瞬間に攻撃しそうだけどな。

「何か?」
「いや、別に。それよりも行くぞ」
「貴方に命令されるまでもありません」
 ほんと口が減らない奴だな。
 俺たちははさっそく藤堂影光だと思われる人間がいる4階の飲食店へと向かった。
 そこは和風食堂と書かれたお店で。ヤマトなどの料理を出す飲食店だった。なんとも分かりやすいお店だな。
 中に入ると味噌汁の良い匂い鼻腔を擽る。ヤバイ。元日本人としてはこの匂いはたまらない。ましてやお昼を食べてないからな。食欲を刺激される。
 でも今は依頼をこなすのが先だ。なんせ達成すれば報酬が500万だからな。それだけあればギルド設立に必要な自己資金も達成したに等しいからな。
 少し店内を歩くと目的の人物である藤堂影光を見つけた。
 さて、どうするか。普通に話しかけても良いが。

「っておい!」
 そんな俺の考えなど知る由もないアインは藤堂影光に近づく。

「貴方が藤堂影光ですね」
「いかにも拙者が藤堂影光だ。お主は何者だ?まったくを感じぬが?」
「私はアイン。至高なお方に仕える世界最高のメイドです」
「もしやそのお方と言うなのは後ろの男の事か?」
「あれはただの蛆虫以下の存在ですので気にしないでください」
「そ、そうか。して拙者に一体なんのようだ?」
「それに関してはこっちの蛆虫以下の存在が説明します。ほら、早くしろ」
「誰が蛆虫以下の存在だ」
「死にたいのですか?」
「分かったから銃を取り出そうとするな」
 どうにかアインの宥めた俺は目的の男に対面する。

「悪いな。こっちにも色々あるんだ」
「そのようだな。それでお主は誰だ?」
「俺の名前は鬼瓦仁。Cランク冒険者だ。実はSランクギルド「夜霧の月」のギルドマスターにしてSSランク冒険者の東雲朧からアンタを連れて来てくれって依頼を受けたんだ。悪いが付いて来てくれるか?」
「なるほど、そういう事か。食事が終わった後ならば付いていってやろう」
「そうか。なら俺たちも一緒に食事を取っても良いか?」
「構わぬぞ」
 許可も貰った事だし俺たちは昼食を食べる事にした。

「それにしてもまさかこれほどの男がこの世に居るとはまだ世界は広いな」
「なんの話だ?」
「こっちの話だ」
 よく分からないが、今は本題に入る事にしよう。

「それで、藤堂さんは」
「影光でよい」
「そうか。なら影光はどうして急に姿を消したりしたんだ。朧さんが心配してたぞ」
「そうか。それは謝らなければな。拙者にはある目的でこの帝都に来た」
「ある目的?」
「そうだ。ある男を追っている。その者は私利私欲のために拙者が尊敬していた師匠を亡き者にした男だ」
 パキッ!と使っていた割り箸を握り折られ、その男の事が憎いと言う事だけが全身から伝わってくる。
 師匠殺しか。どうしてそう言う経緯になったのかは分からない。だが憎いものは憎い。それは変える事は難しい。
 ただ俺たちには出来ることはない。出来るのはその望みが叶うかどうか後から聞くことだけ。
 食事を終えた俺たちは会計を済ませてお店の外に出ようとした時だった。
 突然帝国軍警邏隊の機動部隊が俺たちを包囲した。な、何事だ?

「藤堂影光。冒険者連続殺人事件の件で任意同行を求める」
「なっ!」
 その言葉に俺は驚きを隠せなかった。影光が最近帝都で起きている冒険者を狙った殺人事件の犯人だって疑ってるのか!
 だって事件が起きたのは9月22日。だがその時影光はヤマトに居たはずだ。影光が犯人なわけがないだろ!警邏隊の連中は何を考えてるんだ。

「悪いが拙者はまだ捕まるわけにはいかぬのだ!」
 そう叫ぶと影光は腰に携えていた2尺8寸の刀を抜刀すると窓ガラスを細切れにする。
 速い。俺の目でも全然斬っている動きが見えなかった。これが世界最強の剣豪の力か。ってそんな事思ってる場合じゃない。

「ここ4階だぞ!」
 って注意する暇も無く影光は窓から飛び降りた。

「おいおいマジかよ……」
 粉々に切断された窓から見下ろすと影光は平然と走り去って行った。13メートルはある場所から飛び降りて平然としているなんて、本当に人間かよ。って俺も出来るけど。え?俺は人間だよ。多分……。

「ま、今はそれよりもだ」
 未だに包囲されている俺たちは影光との関係を聞くために警邏隊の事務所まで連行されてしまった。
 なんで人捜しの依頼でこんな目にあわないといけないんだよ。
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