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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第一話 テメル自由都市国家

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「もう二度とこんな事するんじゃないぞ」
「へいへい」
 国境を越えた最初の駅で降りた俺の背中に向けて2人居る軍人の片方が別れの挨拶と言わんばかりに投げ掛けて来たので適当に返事をして、改札へと向かった。
 現在俺が居る駅は小さな町駅なわけだが、目指す目的地があるわけでもないので、一先ず首都を目指す事にする。
 切符を買った俺は駅のベンチで首都行きの電車を待つ。
 駅のホームは小さな町駅なだけあって電車を待つ人の姿はチラホラと数名しか居ない。
 そのかわり国外に運ばれるであろう貨物列車とその従業員と思しき人の方が遥かに多い。
 1時間ほどしてようやく来電車に乗り込んだ俺は缶コーヒーを片手に、ゆっくりと後ろに流れていく窓の外の景色を眺めていた。
 現在俺が居るのはスヴェルニ王国の北東に面している隣国テメル自由都市国家である。
 国土面積で言うならスヴェルニ王国の10分の1も無い小国だが、それでも複数の国に面しているため流通都市とまで言われているらしい。分かっていると思うが俺は行ったことがない。この知識も全てイザベラに叩き込まれたものだ。
 ハロルドのおっさんが俺の口座に幾らか振り込んでおいてくれたらしい。とてもありがたいことだ。
 だからお金には困ってはないが、冒険者になるっていう目的が未だ叶っていない。これだけはどうにかしないといけない。

「また他の学校に通うのもな」
 途中編入には問題ないだろうが、授業を受けるのは憂鬱だ。それにスヴェルニ学園の時とは違い授業料や教材なんかは全て自腹になる。ハロルドのおっさんの優しさが今になって身に染みたぜ。

「まずは宿探しだな」
 銀と一緒に泊まれる場所を探さないとな。
 気がつけば幾つかな駅を通り過ぎていたが、気にする事無く俺は次の駅で降りた。

「さて、宿を探すか」
 駅から出た俺は宿を探して街を歩く。
 やはり前世の現代建造建築と変わりない街並み。これじゃ内政チートは無理だな。
 そんな事を思いながらタクシーを拾った俺は格安でペットもOKなホテルまで向かった。
 20分ほどして到着した場所は確かに格安なんだろうと見た瞬間に分かるほどのボロさに驚きを感じていた。ま、雨風凌げるならどこでもいいか。
 店の中に入りチェックインした俺は直ぐに外を出て街を歩く。部屋に篭っていてもすることがないからな。
 さて、ここで皆ならどうするだろうか。
 初めての土地、今後の計画も未定。勿論冒険者になるって事は置いといてだ。君たちなら何をする?俺ならまず、

「腹ごしらえだな」
 観光しながら銀と入れるお店を探す。それにしても流石は流通都市と言われるだけはある。通る大半の車が大型トラックだ。いったい何を運んでいるのかは分からないが。だが、一つだけ言えるのはそれだけ盗まれやすいって事だろう。物が一箇所に集まればそれだけ狙うのは楽だ。そして警備なんかをしているのが冒険者ってのが、またこの自由都市らしい光景だな。
 服装も所属しているギルドもバラバラ。10分程度歩いただけでも12のギルドの冒険者が依頼をこなしているのを見かけた。お、ペットOKの店を発見。ん?

「グルルルルルゥ」
「銀、大丈夫だ。俺たちに向けられたものじゃない」
 血の臭い。それに殺気。全部で………5人。追われているのは2人か。それも一人は俺と変わらないぐらいの年齢だな。大人5人がかりで子供と大人の2人を追い回して殺そうとしてるのか。なんておっかない場所。いや、自由都市だから。殺しも犯罪も自由。バレなきゃ良いってか。見た目に反して物騒な国だな。

「ま、俺の知った事じゃないか」
 イザベラにも散々足を突っ込むなって言われてるしな。それよりもまずは食事だ。

「何を食べたい銀?やはり肉が良いよな?」
「ガウッ!」
「だよな~」
 ああ、何度も見ても癒されるな。
 お店に入って俺たちは昼食を堪能した。因みにローストビーフが格別に美味しかった。銀も嬉しそうに食べてたからな。
 店を後にした俺は食後の運動にと適当に街をぶらつく。それにしても夏だな。軽く歩いただけで汗が出る。
 んで、歩くこと30分。

「迷った」
 俺は完全に迷っていた。別に方向音痴とかじゃないぞ。土地勘の無い場所を適当に歩いていたら迷っただけだからな。
 それにしてもさっきまで街中を歩いていたはずが、なんで気がつけば路地に居るんだ俺は。暑いから陰にって無意識に来たのかもしれないな。

「ま、このままここに居ても仕方がないしホテルに戻る――」
「キャッ!」
「ん?」
 誰かにぶつかったが、相手大丈夫か?ぶつかってきた相手が尻餅をつくって相当だぞ。
 お尻を撫でる少女はウェーブがかった金髪に翡翠色の瞳を持つ美少女。年齢は俺より一つか二つ年下って感じだな。

「大丈夫か?」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。それよりも逃げてください!」
 逃げてくださいってどういうことだ?ってこいつの気配。さっき追われていた子供か。それにしても一人ってことは一人はやられたのか?
 ヒュッ!
 殺気の篭った短剣が俺の頬を掠めて壁に突き刺さる。魔導武器か。

「もう、追っ手が!早く逃げてください!あの人たちの目的は私ですので!」
「そう言うわけにも行かないみたいだぜ」
「え?……あ」
 気がついた時には既に遅し。覆面で顔を隠した黒づくめの暗殺者3人に囲まれていた。まったく一ヶ月も経たないうちに暗殺者と二回も戦う羽目になるなんてな。

「お願いです!目的は私はず!この人は無関係なんです!ですから見逃してください!」
 力も無いのに自分の身より他人の心配か。だが、

「それは無理みたいだぜ」
 魔導短剣を構える暗殺者たち。

「そんな……」
 絶望で顔を歪ませる金髪美少女。なんなのこのラノベ的展開は。俺は別に望んじゃいないぞ。可愛いこと知り合いになれるのはとても嬉しいけど。でもそうするにはこの暗殺者どもを何とかしないとな。

「安心しろ。俺がなんとかする」
「え?」
「銀はその少女を守ってやれ」
「ガウッ!」
 殺すのは簡単だがこの子の前で血を流すのは拙いだろうな。面倒だが気絶ですませておくか。

「行くぜ!」
 0.4%の力で俺は暗殺者どもを気絶させていく。掛かった時間およそ0.2秒。余裕っていうかイザベラたちよりも弱すぎだろ。

「終わったぜ」
「あ、貴方様はいったい何者ですか?」
「俺か?そうだな……俺はただの職無しだ」
「職無しですか?」
「そう、冒険者を目指すな」
「はぁ……」
「それよりも今はこの場を離れるぞ」
「はい!」
 俺たちはどうにか路地から抜け出しタクシーでボロホテルまで戻ってきた。尾行されている気配はないな。

「汚い場所だが我慢してくれ」
「いえ、お気になさらずに」
 ベッドに座る美少女の対面の壁に俺は凭れる。

「さて、まずは自己紹介だな。俺は仁。鬼瓦仁だ。さっきも言ったが冒険者を目指す職無しだ」
「ジン様ですね」
「様付けしなくていい。されると逆に背中が痒くなる」
「それではジンさんとお呼びします」
「ああ、それでいい。で、こっちが銀。俺の家族だ」
「ギンちゃんですね。さっきは守ってくれてありがとう」
「ガウッ!」
 返事をした事に一瞬驚きながらも嬉しそうに銀を撫でる。銀って美少女に好かれる体質なのか?

「それで、アンタの名前は?」
「私はシャルロット……ウェルゴーと申しますわ」
「シャルロットか。よろしくな」
「はい、よろしくお願いしますね」
 あんな事があったのに笑顔を絶やさないか。何気に根性をあるみたいだな。

「さて、何か食べ物でも買ってくるとしよう」
「でしたら私も」
「命を狙われてるんだろ。だったらあまり出歩かない方が良い。念のために銀を護衛につけるから」
「分かりました」
 銀もいる事だし大丈夫だろう。

「あ、あの!」
「なんだ?」
「どうして先ほど会ったばかり私にここまでしてくれるのですか?」
「ま、これも何かの縁だしな。それにさっき俺のために庇ってくれただろ。あれ、けっこう嬉しかったんだよな。だからそれの恩返しだ。んじゃちょっと出てくる。俺以外の人が来ても絶対に扉を開けるなよ」
「そ、そんな事で……」
 聞いているのか?ま、大丈夫だろ。銀も居るし。
 俺は近くのコンビにで彼女が食べられそうな物を適当に籠に入れていく。思った以上に時間がかかったな。

「っ!」
 ホテルの外からでも分かる。俺の部屋に銀とシャルロット以外の気配があるな。
 俺はゆっくりと足音を立てないように部屋の前まで来る。見た感じ扉は壊されてないな。となるとシャルロットが開けたのか?あいつ、俺の話聞いてなかったな。あとで叱らないと。
 今はともかく救出が先だな!
 扉を開けて中に――

「っ!」
 入った瞬間、殺意の篭った短剣が振り下ろされた。

「危ないな。いきなり襲い掛かってくるなんて」
 ブラウン色をしたミディアムヘアを靡かせる美女。まったく女がそんな殺意の篭った目をするもんじゃないぞ。
 それにしても強いなこの女。防がれたと分かった瞬間2撃目をやめて距離をとりやがった。

「暗殺者の貴様に言われる筋合いはない!」
「暗殺者?お前誰と勘違いしているんだ?」
「白々しい。貴様には死んで貰う!」
「待ってください!」
 襲い掛かろうとしたがシャルロットの声で動きが止まる。

「お嬢様、危険ですから隠れていてください!」
「グレンダこそ剣をしまいなさい!その方は私の恩人です!」
「え?」
 いったいどうなってるんだ?ただ一つ言えることは。

「シャルロット、服を着ないとタオルが落ちそうだぞ」
「え?キャアアアァァ!!」
 この日、ボロホテルに殺人も起きていないのに悲鳴が響き渡った。他の客と店員に言い訳するの俺なんだぞ。
 互いに冷静になったところで俺たちは再び対面していた。

「先ほどは失礼した。私の名前はグレンダ・ゲフェル・バロン。お嬢様の護衛をしている者だ」
 見た目は20代前半と言ったところか。それにしても随分と睨まれてるな。

「俺は仁。鬼瓦仁だ」
「苗字が最初と言う事はヤマトの出身者か」
「まあな」
「そんな人間がこの国で何しているんだ?」
 信用されてはいないとはいえ、根掘り葉掘り訊かれるのは良いもんじゃないな。それも偉そうだし。ま、一応答えるけど。

「冒険者になるためさ」
「なぜ、この国に来て冒険者を目指す?」
「なんで、俺が尋問されてるんだ?」
「怪しいからに決まってるだろ」
「グレンダ!」
「も、申し訳ありません!」
 なるほど。誰かに似ていると思ったが、こいつロイドに似ているんだ。この堅物で危険と判断したら敵意を向けてくるあたりとか。ま、ロイドよりかはまだ経験があるようだが。

「俺にも事情があるんだよ。お前たちと一緒でな」
「「…………」」
 俯くシャルロットと睨むグレンダ。分かりやすいことで。

「この話はこれで終わりで良いだろう。今はご飯にしようぜ。適当に買ってきたから好きな物を食ってくれ」
「お嬢様にこの様なものを食べさせるわけにはいかない!」
「グレンダ、なんて事を言うのですか!ジンさんがわざわざ買って下さったと言うのに」
「ですが、毒が入っている恐れもありますし」
「それなら私を助けるような事をする理由がありません」
「そ、それは確かに……」
「それに人の厚意を無下にするものではありません!」
 ああ、人が出来た令嬢と忠義に厚い堅物護衛って感じだな。まさに二代目イザベラとロイド。ま、イザベラほど怖くはないけど。どちらかと言えばこっちの方が和む。

「っ!」
「ジンさんどうかなされましたか?」
「いや、急に寒気が。たぶん気のせいだから気にしないでくれ」
「では、私たちはご飯を頂きますね」
「ああ、食ってくれ。そっちの失礼な護衛も食べて良いぞ」
「くっ!」
 袋から弁当やサンドイッチ、おにぎりなんかを取り出して食べる。プライドの高いロイドならさっきの言葉で絶対に食べなかっただろうが、グレンダは食べている。それは腹が減っては戦は出来ぬ。って事を理解しているからだろう。やはり経験が違うな。

「それでこれからどうするんだ?」
「食事を用意してくれた事には感謝するが、部外者には関係ない話だ」
「それがそうじゃないんだな。これが」
「どういう事だ?」
 俺の言葉に顔を顰める。そんな顔をすると眉間に皺が出来るぞ。

「俺も暗殺者に顔バレしてるからな」
「だが、暗殺者は始末したんだろ?」
「いや、気絶させただけだ」
「なぜ、殺さなかった!」
「なら、シャルロットの前で流血沙汰にしても良かったんだな?」
「そ、それは……」
 ようやく自分が失言したことに理解したらしい。暗殺者を生かしておく理由はない。今の状況なら特にだ。だが、心優しいシャルロットの前で血を流す行為は極力避けるべきだと、グレンダは知っている。理由は簡単だ。シャルロットが優しすぎるからだ。
 自分のせいで人が死ぬ、傷つく、または人殺しをしなくてはならない。そういった状況を目の前で見せ付ける行為はシャルロットに直接的な精神的ダメージを与えてしまうからだ。
 だから俺もあの場では殺さなかったのだ。
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