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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第七十七話 イザベラ救出!
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「おい、少しスピードを落とせ!」
「急いでるんだから無理に決まってるだろ!」
「だいたいイザベラ様の居場所は分かってるのか!」
「分からない」
「なっ!」
「だが、探す方法には心当たりがある」
「本当か!」
周りの建物に被害が出ない程度にしたいといけないからな+0.5%だな。
「少し速度を上げるぞ」
「おい、まさか――!」
「黙ってろ。でないと舌を噛むぞ」
「ぅあああああああああああああぁぁ!!」
俺は急いで屋敷に向かった。
「到着!」
その時間僅か2分。カップ麺よりも早く到着するなんて流石俺だな。
「おい、ロイド到着したぞ」
「最悪の気分だ……」
「手加減したんだからマジだと思え」
「この化け物め」
「はいはい」
俺は扉を強く開けた。
「ジン君!何故ここに!それにロイド君どうしたんだい」
みんながイザベラを探していたのか一階ホールに集まっていた。
「それよりもだ。イザベラが居なくなったって聞いたんだが本当か!」
「あ、ああ。それでどうして此処に――」
「銀!」
「ガウッ!」
俺の一声に一瞬にして駆けよってくる。流石だな。
「イザベラが普段から使っている物を持ってきてくれ。服や下着、靴下なんでも構わない」
俺の言葉にドン引きするが、今はツッコミをしている場合じゃない。
「早くしろ!」
「よく分からないが持って来てくれ!」
ハロルドのおっさんの指示でメイドたちが動き出す。
「これなんかはどうでしょうか。今日洗う予定でしたブラジャーです」
白を基調として花柄が描かれたブラジャーが俺の目の前にある。それも昨日使ったブラジャーが。なぜそれを持ってきたかは俺にもわからない。きっと焦っていたんだろう。
「よし、貸してくれ!」
「で、ですが……」
「別に変な事をするわけじゃない!」
真剣な表情で、ブラジャーを欲する男。それだけ聞けばただの変態だな。
「は、はい!」
俺の声に怯えたのかメイドは渡してきた。これでよし。あ、少しまだ温かいかもってそんな事を考えている場合じゃないな。
「銀、頼む」
銀の鼻先にブラジャーを持っていき、臭いを覚えさせる。
「銀覚えたか?」
「ガウッ!」
「よし、元の姿になって俺を乗せてイザベラの許まで連れて行ってくれ!」
「ガウッ!」
「ジンさん、私たちも乗せていって下さいませ!」
アンドレアたちがそう言ってくるが、
「銀の速度に耐えられるのは俺だけだ」
「ですが……」
「ジン君これを!」
ハロルドのおっさんにスマホを渡される。
「私たちは君のGPSを追ってあとから向かう」
流石は公爵当主。頭の回転が違うな。
「ああ、そうしてくれ。銀!」
「ガウッ!」
俺と銀は急いでイザベラの元に向かう。待ってろよイザベラ。絶対に助けてやるからな!
************************
あれからどれだけの時間が過ぎたんだろう。既に外は明るい。
イディオに指定場所は王都の外れの廃工場だった。
一人でそこに来たのは良いけど、ジンを脅しの材料に使われて拘束されてしまった。
この場にはイディオと同じようなクズのチンピラが何人も居た。
「待ってろよイザベラ。今すぐ犯してやるからな」
「ジンに潰されたはずでしょ」
「ああ。だけどもう少しで完全に治る」
未だに犯されてないのはそのためだ。あの男が欲しいのは私の処女。でもそれで良いわ。これでジンの命が助かるのなら。
「それにしても女って生き物は本当に馬鹿だよな」
「真に受けて本当に来るなんて思わなかったぜ」
え?手下たちは何を言ってるの?
「それはどういう意味よ!」
「手下どもの言った通りだぜイザベラ。あの男は処刑される」
「なっ!約束が違うじゃない!」
「約束?王族の俺がどうしてお前みたいな女との約束を守らなければならないだ。それにあの男はこの俺に恥をかせただけじゃなく、機能不能にしやがった。そんな奴を生かしておく理由がどこにあるんだ?」
「クズが……」
「安心しろ。どうせ直ぐに何もかもを忘れて快楽の虜になるからよ」
奴の手には注射器が握られていた。
「なによ、それ?」
「これか?これは天使の花て言ってな。強い快楽衝動と幻覚作用があるんだ。媚薬と麻薬の融合物だと思ってくれればいい。ま、強力すぎて直ぐに廃人になってしまうがな」
「イディオ様のおかげで俺たちはこれで金稼ぎしてるってわけだ」
「下種どもが」
まさかこれまでもそんな事をしてたなんて。
「だからお前の減らず口もこれでなくなるってわけだ」
「くっ――!」
ドゴオオオオオオオオオオォォォ!!
「いったい何事だ!」
突如扉が破壊され、土煙が舞う。
「ゴホッ、ゴホッ。思った以上に汚い場所だな」
「ま、まさか………」
この聞きなれた愚痴り声。何度も何度も耳にしたことがある。
でも、どうしてなの……
「ジン!」
************************
土煙が晴れると20人のチンピラとイディオ。それから服を無理やり破られ、拘束されてあられもない姿になっているイザベラがいた。見た感じまだ犯されてはいないようだな。だが虫唾が走る。女に対してなんて非道だ。駄目だ怒りが際限なく湧き上がってくる。だが今は冷静でいなければ。
「イザベラ大丈夫か?」
「え、ええ。まだなにもされてはないわ。って見るな変態!」
無茶な。全裸になったわけじゃないんだから許してくれたって良いだろうに。
「な、なんで貴様が此処にいる!」
「何でってそりゃイザベラを助けてに来たからに決まってるだろ」
「こんな事してただで済むと思ってるのか?」
「既に死刑判決をされた身にこれ以上何があるって言うんだ?」
「くっ!」
「それよりも、よくイザベラを酷い目にあわせてくれたな。全員覚悟しろよ」
「お前等、その男を殺せ!」
イディオの指示にチンピラどもは魔導短機関銃を連射する。まったくあの武器もイディオの野郎が準備したものか。だが、
「全然上手くねぇな」
学園の生徒じゃないんだ。連携も命中精度も遥かに劣る。そんな奴等の弾が俺にあたるわけがない。
弾丸を躱しチンピラどもを殴り飛ばしていく。
「なんだコイツの強さは、化け物か!」
チンピラからそんな言葉が聞こえるがどうだっていい。さっさと殴られろ。
「なにをしているさっさと殺さないか!」
「無理ね」
「なに!」
「貴方、ジンの事何も知らないでしょ?」
「知るわけないだろ。あんな平民の男の事なんか!」
「なら、心に刻んでおきなさい。貴方が敵にしているのは今年の武闘大会スヴェルニ学園個人戦優勝者にして、この私が負けた学園最強の男よ」
「アイツが!」
(一度私と決闘をした事があるイディオなら分かるはず。私の力でも勝てない圧倒的力を持つ男が如何に恐ろしい存在なのか)
「そんな男を素人20人で殺せる筈がないでしょ」
「これで最後だ!」
「がはっ!」
これで全員倒したはずだ。
「あとはお前だけだな、クズ野郎」
「ひぃ!」
さて、どんな風にして殺すかだな。ただ殺すだけじゃ生ぬるい。絶対にアイツだけは許さない。
「動くな!少しでも動いてみろ。この麻薬をこの女に打ち込んでやる!」
「チッ!」
やはり麻薬か。あの島にあった幻覚を見せる花と似たような匂いがしたからもしかしてとは思ったが。
「それで何人の女を廃人にした」
「一々下民の女の事なんか覚えてられるかよ」
「「クズが」」
俺とイザベラの声が重なる。変なところで重なるな。ってそんな事を考えてる場合じゃないない。今はどうにかしてイザベラを助けないと。
「それにしてもようやく上手く行きそうだったのお前のせいで、この有様だ!二度もこの女を殺そうとしたのに失敗し、二度も俺の物にするのにも失敗した。今回こそはって思ってたのにお前のせいで台無しだ!」
この状況に苛立ってなにをベラベラ喋ってるんだ?いや、それよりも二度って。
「まさか暗殺者にイザベラを殺すよう依頼したのはお前なのか?」
「ああ、そうさ。王宮で厳重保管されているフレンジーパウダーまで持ち出して渡してやったのに失敗しやがって!役立たずの暗殺者どもが!」
「なら、もう一回はいつだ?」
「炎龍だよ。だがそれはこの女に討伐されてしまった。だから暗殺者を使ったのによ!」
そうか、コイツが首謀者だったのか。だったら絶対に殺す。後悔させるだけじゃ気がすまない!
「ひぃい!」
溢れ出る力の本流。
%にすれば10%は出しているだろうか。今の俺じゃ力を抑えていられるのがそれぐらいだ。出ないと制限限界で奴を一撃で殴り殺してしまう。
「う、動くなよ。この女がどうなっても――」
ゴキッ!
「へ?……う、腕があああああああああぁぁ!!」
注射器を持つ右腕を俺はへし折った。
「絶対に許さない」
地べたをのたうち回るクソ野郎に跨がり、何度も殴る。死なないギリギリの力で。
顎が砕けようが、鼻が陥没しようが、歯が砕け散ろうが知ったこっちゃない。顔が駄目なら腕。腕が駄目になったら足。足が駄目なら肋骨。死なないギリギリの力で殴り折る。
「ぼげだい、やべで」
「まだ喋るみたいだな」
「アガッ!」
「お願いする時はなんて言うんだ?」
「ぼげだいじばず、だづげでぐだざい」
「なんだ、まだ喋れるのか」
「ゴァッ!」
何度も殴る。顔が腫れ上がろうとも関係ない。こいつは殺す。ただ出来るだけの苦しみと後悔を与えて殺す。それだけだ。
「おい、もう一度お願いしてみろ」
「…………」
「返事しろ」
「…………」
殴っても反応がない。気絶しているのか?いや、激痛で意識も飛ばないほどにしてやった。なら死んだか?心臓は動いてる。となると返事をする気力もないのか。
「なら、これで死ね」
渾身の一撃で奴の頭を破壊するつもりで振り下ろした。
「駄目ええええええええぇぇ!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォ!!
轟音と共に土煙が舞う。
土煙が晴れると地面には俺の一撃で小さなクレーターがで出来上がっていた。
だけど、イザベラの言葉のせいでクソ野郎の数センチ隣の地面を殴っていた。
「なんで邪魔をするんだ。こいつはお前を二度も殺そうとしただけでなく、薬でおかしくして犯そうとした奴だぞ!なんで助ける!」
「でも、そんな事をすればジンが王族殺しになるでしょ!」
「どうせ俺は国家反逆罪で死刑される身だ。関係ない」
「関係あるわよ!私の前でこれ以上罪を重ねないで!お願いだから……」
苦しそうに、悲しげに涙を流す。
「分かったよ」
ったく。どんだけ力があったって仲の良い女の涙には勝てないな。
アイテムボックスから取り出した水で手を洗った俺はイザベラの拘束を解いた。
「大丈夫か?」
「ええ、軽く何度か殴られた程度だもの」
「よし、殺そう」
「やめなさい」
「冗談だって。それよりもほらこれでも羽織っておけ」
「あ、ありがとう」
水を取り出す際に取り出しておいた俺の上着を渡す。
「立てるか?」
「ええ、大丈夫――っ!」
「まさか足を怪我したのか?」
「殴られた時に捻ったみたいね」
「やはり殺しておくべき――」
「駄目って言ってるでしょ!」
これだけ元気があれば大丈夫だな。
「ほら、負ぶされよ」
「で、でも」
「良いから」
「絶対に振り向かないでよ!」
「分かってるって」
イザベラを背負った俺はゆっくりと歩く。銀に乗せれば早いがイザベラの体が耐えられるとは思えないからな。
「また、ジンに助けられたわね。私、保護者なのに……」
「当たり前だろ、イザベラは俺の大切な友達なんだから」
「そうね……」
(これほど嬉しくて辛い、友達って言われたのは初めて)
「………」
(ジンの背中って思ってた以上に大きいのね。ん?ジンのポケットに入ってる物は何かしら?)
「こ、これって!」
「どうかした――ぐへっ!」
「どうしてジンが私のブラジャーを持ってるのよ!」
「ひ、必要だったからだ」
「何に使うつもりだったのよ!」
「匂いを嗅ぐ為に」
「この変態男が!」
「ち、違う!お、俺じゃなくて。ぎ、銀が嗅ぐ為に必要だったんだ。お、お前を探すために」
「そ、そう言う事なのね」
ああ、死ぬかと思った。
「助けたのに殺されるところだったぜ」
「ジンが紛らわしい事を言うからでしょ!」
「それは悪かったな」
まったく、なんで戦いが終わった後に助けたイザベラに殺されかけなければならないんだ。死ぬかと思ったぞ。
そのまま廃工場の外に積み上げられている鉄板の上に俺とイザベラは座る。
「それよりもどうして死刑宣告されたのに、そんなに平然としているのよ。あの島を我武者羅に生き抜いた人間だとは思えないわ」
「別に受け入れちゃいないぞ」
「なら、何で」
鋭い視線を向けてくる。答える内容によってはここでイザベラに殺されるかもしれないけど。
だからと言ってここで答えないわけにはいかない。
イザベラは俺にとって大切な友達だからだ。
何故かいつも以上に輝いているように見える紅の髪を靡かせるイザベラに一瞬視線を向けた俺は口を開いた。
「あの場で何を言っても無駄だと思っただけだよ。俺は面倒くさがり屋だからな。それに気づいていただろ?あれが不正裁判だって」
「そ、そうだけど」
「だからあの場で否定したところで意味が無いって思ったってのもある」
「ならどうするつもりでいたのよ」
「逃げる」
「え?」
「隙を見て逃げるつもりだったのさ。ま、今回の脱走でもっと厳重な牢屋にでも入れられるから難しくなるだろうけど。ま、その時は処刑される寸前にでも逃げるさ」
「ジン……」
ここで何も言い返してこないのはそれが無駄だと分かっているからだろう。
すでに俺は死刑宣告を言い渡された犯罪者。お尋ね者だ。そんな人間が脱走するって言っても結局のところ何も変わりはしない。ただイザベラに迷惑を掛けないようにするにはこの方法が手っ取り早いのだ。
殺風景な廃工場に涼しい微風を浴びながら俺たちは休憩する。
「急いでるんだから無理に決まってるだろ!」
「だいたいイザベラ様の居場所は分かってるのか!」
「分からない」
「なっ!」
「だが、探す方法には心当たりがある」
「本当か!」
周りの建物に被害が出ない程度にしたいといけないからな+0.5%だな。
「少し速度を上げるぞ」
「おい、まさか――!」
「黙ってろ。でないと舌を噛むぞ」
「ぅあああああああああああああぁぁ!!」
俺は急いで屋敷に向かった。
「到着!」
その時間僅か2分。カップ麺よりも早く到着するなんて流石俺だな。
「おい、ロイド到着したぞ」
「最悪の気分だ……」
「手加減したんだからマジだと思え」
「この化け物め」
「はいはい」
俺は扉を強く開けた。
「ジン君!何故ここに!それにロイド君どうしたんだい」
みんながイザベラを探していたのか一階ホールに集まっていた。
「それよりもだ。イザベラが居なくなったって聞いたんだが本当か!」
「あ、ああ。それでどうして此処に――」
「銀!」
「ガウッ!」
俺の一声に一瞬にして駆けよってくる。流石だな。
「イザベラが普段から使っている物を持ってきてくれ。服や下着、靴下なんでも構わない」
俺の言葉にドン引きするが、今はツッコミをしている場合じゃない。
「早くしろ!」
「よく分からないが持って来てくれ!」
ハロルドのおっさんの指示でメイドたちが動き出す。
「これなんかはどうでしょうか。今日洗う予定でしたブラジャーです」
白を基調として花柄が描かれたブラジャーが俺の目の前にある。それも昨日使ったブラジャーが。なぜそれを持ってきたかは俺にもわからない。きっと焦っていたんだろう。
「よし、貸してくれ!」
「で、ですが……」
「別に変な事をするわけじゃない!」
真剣な表情で、ブラジャーを欲する男。それだけ聞けばただの変態だな。
「は、はい!」
俺の声に怯えたのかメイドは渡してきた。これでよし。あ、少しまだ温かいかもってそんな事を考えている場合じゃないな。
「銀、頼む」
銀の鼻先にブラジャーを持っていき、臭いを覚えさせる。
「銀覚えたか?」
「ガウッ!」
「よし、元の姿になって俺を乗せてイザベラの許まで連れて行ってくれ!」
「ガウッ!」
「ジンさん、私たちも乗せていって下さいませ!」
アンドレアたちがそう言ってくるが、
「銀の速度に耐えられるのは俺だけだ」
「ですが……」
「ジン君これを!」
ハロルドのおっさんにスマホを渡される。
「私たちは君のGPSを追ってあとから向かう」
流石は公爵当主。頭の回転が違うな。
「ああ、そうしてくれ。銀!」
「ガウッ!」
俺と銀は急いでイザベラの元に向かう。待ってろよイザベラ。絶対に助けてやるからな!
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あれからどれだけの時間が過ぎたんだろう。既に外は明るい。
イディオに指定場所は王都の外れの廃工場だった。
一人でそこに来たのは良いけど、ジンを脅しの材料に使われて拘束されてしまった。
この場にはイディオと同じようなクズのチンピラが何人も居た。
「待ってろよイザベラ。今すぐ犯してやるからな」
「ジンに潰されたはずでしょ」
「ああ。だけどもう少しで完全に治る」
未だに犯されてないのはそのためだ。あの男が欲しいのは私の処女。でもそれで良いわ。これでジンの命が助かるのなら。
「それにしても女って生き物は本当に馬鹿だよな」
「真に受けて本当に来るなんて思わなかったぜ」
え?手下たちは何を言ってるの?
「それはどういう意味よ!」
「手下どもの言った通りだぜイザベラ。あの男は処刑される」
「なっ!約束が違うじゃない!」
「約束?王族の俺がどうしてお前みたいな女との約束を守らなければならないだ。それにあの男はこの俺に恥をかせただけじゃなく、機能不能にしやがった。そんな奴を生かしておく理由がどこにあるんだ?」
「クズが……」
「安心しろ。どうせ直ぐに何もかもを忘れて快楽の虜になるからよ」
奴の手には注射器が握られていた。
「なによ、それ?」
「これか?これは天使の花て言ってな。強い快楽衝動と幻覚作用があるんだ。媚薬と麻薬の融合物だと思ってくれればいい。ま、強力すぎて直ぐに廃人になってしまうがな」
「イディオ様のおかげで俺たちはこれで金稼ぎしてるってわけだ」
「下種どもが」
まさかこれまでもそんな事をしてたなんて。
「だからお前の減らず口もこれでなくなるってわけだ」
「くっ――!」
ドゴオオオオオオオオオオォォォ!!
「いったい何事だ!」
突如扉が破壊され、土煙が舞う。
「ゴホッ、ゴホッ。思った以上に汚い場所だな」
「ま、まさか………」
この聞きなれた愚痴り声。何度も何度も耳にしたことがある。
でも、どうしてなの……
「ジン!」
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土煙が晴れると20人のチンピラとイディオ。それから服を無理やり破られ、拘束されてあられもない姿になっているイザベラがいた。見た感じまだ犯されてはいないようだな。だが虫唾が走る。女に対してなんて非道だ。駄目だ怒りが際限なく湧き上がってくる。だが今は冷静でいなければ。
「イザベラ大丈夫か?」
「え、ええ。まだなにもされてはないわ。って見るな変態!」
無茶な。全裸になったわけじゃないんだから許してくれたって良いだろうに。
「な、なんで貴様が此処にいる!」
「何でってそりゃイザベラを助けてに来たからに決まってるだろ」
「こんな事してただで済むと思ってるのか?」
「既に死刑判決をされた身にこれ以上何があるって言うんだ?」
「くっ!」
「それよりも、よくイザベラを酷い目にあわせてくれたな。全員覚悟しろよ」
「お前等、その男を殺せ!」
イディオの指示にチンピラどもは魔導短機関銃を連射する。まったくあの武器もイディオの野郎が準備したものか。だが、
「全然上手くねぇな」
学園の生徒じゃないんだ。連携も命中精度も遥かに劣る。そんな奴等の弾が俺にあたるわけがない。
弾丸を躱しチンピラどもを殴り飛ばしていく。
「なんだコイツの強さは、化け物か!」
チンピラからそんな言葉が聞こえるがどうだっていい。さっさと殴られろ。
「なにをしているさっさと殺さないか!」
「無理ね」
「なに!」
「貴方、ジンの事何も知らないでしょ?」
「知るわけないだろ。あんな平民の男の事なんか!」
「なら、心に刻んでおきなさい。貴方が敵にしているのは今年の武闘大会スヴェルニ学園個人戦優勝者にして、この私が負けた学園最強の男よ」
「アイツが!」
(一度私と決闘をした事があるイディオなら分かるはず。私の力でも勝てない圧倒的力を持つ男が如何に恐ろしい存在なのか)
「そんな男を素人20人で殺せる筈がないでしょ」
「これで最後だ!」
「がはっ!」
これで全員倒したはずだ。
「あとはお前だけだな、クズ野郎」
「ひぃ!」
さて、どんな風にして殺すかだな。ただ殺すだけじゃ生ぬるい。絶対にアイツだけは許さない。
「動くな!少しでも動いてみろ。この麻薬をこの女に打ち込んでやる!」
「チッ!」
やはり麻薬か。あの島にあった幻覚を見せる花と似たような匂いがしたからもしかしてとは思ったが。
「それで何人の女を廃人にした」
「一々下民の女の事なんか覚えてられるかよ」
「「クズが」」
俺とイザベラの声が重なる。変なところで重なるな。ってそんな事を考えてる場合じゃないない。今はどうにかしてイザベラを助けないと。
「それにしてもようやく上手く行きそうだったのお前のせいで、この有様だ!二度もこの女を殺そうとしたのに失敗し、二度も俺の物にするのにも失敗した。今回こそはって思ってたのにお前のせいで台無しだ!」
この状況に苛立ってなにをベラベラ喋ってるんだ?いや、それよりも二度って。
「まさか暗殺者にイザベラを殺すよう依頼したのはお前なのか?」
「ああ、そうさ。王宮で厳重保管されているフレンジーパウダーまで持ち出して渡してやったのに失敗しやがって!役立たずの暗殺者どもが!」
「なら、もう一回はいつだ?」
「炎龍だよ。だがそれはこの女に討伐されてしまった。だから暗殺者を使ったのによ!」
そうか、コイツが首謀者だったのか。だったら絶対に殺す。後悔させるだけじゃ気がすまない!
「ひぃい!」
溢れ出る力の本流。
%にすれば10%は出しているだろうか。今の俺じゃ力を抑えていられるのがそれぐらいだ。出ないと制限限界で奴を一撃で殴り殺してしまう。
「う、動くなよ。この女がどうなっても――」
ゴキッ!
「へ?……う、腕があああああああああぁぁ!!」
注射器を持つ右腕を俺はへし折った。
「絶対に許さない」
地べたをのたうち回るクソ野郎に跨がり、何度も殴る。死なないギリギリの力で。
顎が砕けようが、鼻が陥没しようが、歯が砕け散ろうが知ったこっちゃない。顔が駄目なら腕。腕が駄目になったら足。足が駄目なら肋骨。死なないギリギリの力で殴り折る。
「ぼげだい、やべで」
「まだ喋るみたいだな」
「アガッ!」
「お願いする時はなんて言うんだ?」
「ぼげだいじばず、だづげでぐだざい」
「なんだ、まだ喋れるのか」
「ゴァッ!」
何度も殴る。顔が腫れ上がろうとも関係ない。こいつは殺す。ただ出来るだけの苦しみと後悔を与えて殺す。それだけだ。
「おい、もう一度お願いしてみろ」
「…………」
「返事しろ」
「…………」
殴っても反応がない。気絶しているのか?いや、激痛で意識も飛ばないほどにしてやった。なら死んだか?心臓は動いてる。となると返事をする気力もないのか。
「なら、これで死ね」
渾身の一撃で奴の頭を破壊するつもりで振り下ろした。
「駄目ええええええええぇぇ!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォ!!
轟音と共に土煙が舞う。
土煙が晴れると地面には俺の一撃で小さなクレーターがで出来上がっていた。
だけど、イザベラの言葉のせいでクソ野郎の数センチ隣の地面を殴っていた。
「なんで邪魔をするんだ。こいつはお前を二度も殺そうとしただけでなく、薬でおかしくして犯そうとした奴だぞ!なんで助ける!」
「でも、そんな事をすればジンが王族殺しになるでしょ!」
「どうせ俺は国家反逆罪で死刑される身だ。関係ない」
「関係あるわよ!私の前でこれ以上罪を重ねないで!お願いだから……」
苦しそうに、悲しげに涙を流す。
「分かったよ」
ったく。どんだけ力があったって仲の良い女の涙には勝てないな。
アイテムボックスから取り出した水で手を洗った俺はイザベラの拘束を解いた。
「大丈夫か?」
「ええ、軽く何度か殴られた程度だもの」
「よし、殺そう」
「やめなさい」
「冗談だって。それよりもほらこれでも羽織っておけ」
「あ、ありがとう」
水を取り出す際に取り出しておいた俺の上着を渡す。
「立てるか?」
「ええ、大丈夫――っ!」
「まさか足を怪我したのか?」
「殴られた時に捻ったみたいね」
「やはり殺しておくべき――」
「駄目って言ってるでしょ!」
これだけ元気があれば大丈夫だな。
「ほら、負ぶされよ」
「で、でも」
「良いから」
「絶対に振り向かないでよ!」
「分かってるって」
イザベラを背負った俺はゆっくりと歩く。銀に乗せれば早いがイザベラの体が耐えられるとは思えないからな。
「また、ジンに助けられたわね。私、保護者なのに……」
「当たり前だろ、イザベラは俺の大切な友達なんだから」
「そうね……」
(これほど嬉しくて辛い、友達って言われたのは初めて)
「………」
(ジンの背中って思ってた以上に大きいのね。ん?ジンのポケットに入ってる物は何かしら?)
「こ、これって!」
「どうかした――ぐへっ!」
「どうしてジンが私のブラジャーを持ってるのよ!」
「ひ、必要だったからだ」
「何に使うつもりだったのよ!」
「匂いを嗅ぐ為に」
「この変態男が!」
「ち、違う!お、俺じゃなくて。ぎ、銀が嗅ぐ為に必要だったんだ。お、お前を探すために」
「そ、そう言う事なのね」
ああ、死ぬかと思った。
「助けたのに殺されるところだったぜ」
「ジンが紛らわしい事を言うからでしょ!」
「それは悪かったな」
まったく、なんで戦いが終わった後に助けたイザベラに殺されかけなければならないんだ。死ぬかと思ったぞ。
そのまま廃工場の外に積み上げられている鉄板の上に俺とイザベラは座る。
「それよりもどうして死刑宣告されたのに、そんなに平然としているのよ。あの島を我武者羅に生き抜いた人間だとは思えないわ」
「別に受け入れちゃいないぞ」
「なら、何で」
鋭い視線を向けてくる。答える内容によってはここでイザベラに殺されるかもしれないけど。
だからと言ってここで答えないわけにはいかない。
イザベラは俺にとって大切な友達だからだ。
何故かいつも以上に輝いているように見える紅の髪を靡かせるイザベラに一瞬視線を向けた俺は口を開いた。
「あの場で何を言っても無駄だと思っただけだよ。俺は面倒くさがり屋だからな。それに気づいていただろ?あれが不正裁判だって」
「そ、そうだけど」
「だからあの場で否定したところで意味が無いって思ったってのもある」
「ならどうするつもりでいたのよ」
「逃げる」
「え?」
「隙を見て逃げるつもりだったのさ。ま、今回の脱走でもっと厳重な牢屋にでも入れられるから難しくなるだろうけど。ま、その時は処刑される寸前にでも逃げるさ」
「ジン……」
ここで何も言い返してこないのはそれが無駄だと分かっているからだろう。
すでに俺は死刑宣告を言い渡された犯罪者。お尋ね者だ。そんな人間が脱走するって言っても結局のところ何も変わりはしない。ただイザベラに迷惑を掛けないようにするにはこの方法が手っ取り早いのだ。
殺風景な廃工場に涼しい微風を浴びながら俺たちは休憩する。
応援ありがとうございます!
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