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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第六十九話 おにぎりの具は何が一番好き?
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次の日。
日付にすればまだ7月22日日曜日だ。昨日森の中で殺し合いをしたとは思えないほどの能天気な空模様だな。
屋敷の中に居ても居心地が悪い俺はすることもないので近場の公園で銀と一緒に横になっていた。
「少し宜しいですの?」
そんな俺に話しかけてきたのはアンドレアだった。
「なんだ?」
「大事な話がありますの」
真剣な面持ちで言って来る。大事な話ってなんだろうな。「貴方は最低な人ですわ!」って言いに来たのか?
よく見ると一人のようだが。
「一人で来たのか?」
「はい。大事な話ですもの」
「それもそうだな。なら、座れよ」
「なら遠慮なく」
芝の上とは言え平然と座るんだな。絶対に「こんな場所には座れませんわ!」って言いそうなタイプに見えるのに。
「私の顔に何かついてますの?」
「いや、なんでもない。それで話ってなんだ?」
「じ、実は……」
ま、まさか告白!それはないよな。だがもしかしたらもしかすると。
「昨日公爵様と話しているのを聞いてしまったんです!」
「そうか」
予想はしていたがやっぱり違ったか。それよりも話を聞かれていたのか。それは拙いな。
「話の内容は誰かに話したか?」
「いえ、誰にも。公爵様には謝罪の為に今朝お伝えしましたわ」
黙っていれば咎められることもないだろうに。根は素直な奴なんだな。
「で、なんて言われたんだ?」
「聞いてしまったものは仕方が無い。ただ誰にも他言無用で。と」
「それで良い」
「でも、本当に貴方はそれで宜しいのですの!」
「何がだ?」
「本当は貴方はイザベラ様を護ってくださったのに。嫌われてしまった。本当ならお礼を言われるべきなのに……」
「ああ、別に構わねぇよ」
「何故ですの!」
「もしも本当の事を言えば、ロイドは血眼になって首謀者を探すだろう。イザベラも責任感が強いからな。もしも本当の事を言えば今回の魔物騒動は自分の責任だと思ってしまうかもしれない。そんな悲しい姿を見たお前らや部下たちがロイドみたいに探し回ったらすぐに首謀者に悟られる恐れだってあるからな」
「そこまで考えて……」
「それに命の恩人兼友達のイザベラには悲しい顔はして欲しくないからな。そのためなら悪者役を引き受けるぐらいするさ」
「随分と信頼なさってますのね」
「そりゃあな。友達だしな」
「え?それだけですの?」
「え?それだけって?」
「イザベラ様の事を好いておられるのでは?」
「友達としては好きだぞ。だけど女性としてみるとイザベラは俺の姉、もしくは母親って感じだな」
「そ、それは貴方の言動に問題があるからなのでは?」
「そうかもな」
(呆れましたわ。あの話を耳にしてきっとこの方はイザベラ様の事を好きだと思っておりましたのに。でも自分の気持ちに気づいていないという感じでもないですし、これならお父様から頼まれた調査も上手く行くかもしれませんわね)
「ジ、ジンさん」
「なんだ?」
「暇なのでしたら、一緒に街に出かけませんこと?」
「別に構わないが、あんまりこの街の事は知らないぞ?」
「ええ、構いませんわ」
「なら、行くか。行きたい場所とかあるか?」
「お任せしますわ。貴方のエスコートがどれほどのものかも気になりますし」
「まったく無茶を言うな」
「うふふ」
(不思議な方ですわね。最初は礼儀知らずな方だと思ってましたのに。話してみれば優しくてどこか落ち着きますわ)
いったい何を考えてるんだ?金持ちのお嬢様を案内できるような場所なんか知らないしな。それになんで笑ってるんだ?
まさか!「やっぱり貴方は私が想像してた通りの最低な男ですわ!これ以上イザベラ様に近づかないでください!」とか言うんじゃ。
「どうかしましたの?」
「いや、なんでも」
「なら、早くエスコートして下さいな」
参ったな。そこそこ金はあるけど、金持ちのお嬢様を満足させられる程の金は持ってないぞ。ああ、考えるのも面倒だ!適当で良いや。
「なら、行くか」
「はい」
俺たちは一緒に街へと出かけることになった。
近くにあったバス停からバスに乗って街へと赴く。
「ん?どうかしたのか?」
「い、いえ。このようなバスに乗ったのは初めてですので少し緊張しただけですわ」
「マジで?」
「はい。いつもはリムジンとかですもの」
「そうか」
分かってはいたがイザベラの友人も俺たちとは生きる世界が違い過ぎて驚きすらこねぇな。
十分弱バスに揺られてモール前で降りた俺たち。さて、最初はどこに行くとするか。
「そう言えば、もう直ぐお昼だし適当に店でも探すか」
「今日は全て貴方にお任せしますわ」
「と、言われてもな~。ん?アンドレアはバスに乗るのが初めてだったんだよな?」
「そ、それがなんですの?」
「なら、ファストフードとか食べたことあるのか?」
「平民がよく食べるファストフードの事ですの?」
「その言い方だと微妙に一般人を敵にまわすと思うが、まあそうだな」
「勿論ありますわ」
「マジで!」
「なに、そんなに驚いてますの。でも街中でよく見かけるファストフード店には入ったことがありませんわ」
「なら、どんなファストフードを食べてたんだ?」
「そうですわね……値段で説明するならバーガー一つで2万RKですわね」
「2万RK!いったいどんな材料を使ったらそんな馬鹿げた値段になるんだ!」
「炎龍のパテと黄金麦など様々ですわ」
それに似たバーガーなら俺も食べたな。この国に来て一週間もせずに。値段なんて気にせずに馬鹿みたいに食べたけど。つまりは……
「もっと味わって食べれば良かった……」
「急に落ち込んでどうかしましたの?」
「いや、己の食欲の強さに呆れていただけだ」
元々俺は質より量のタイプでもあるからな。それも原因なんだろうけど。
でも食事をするならどうしてもファストフードになるよな。呪いの事があるから。
「そう言えば、アンドレアは俺の呪いの事は知ってるんだよな?」
「存じてますわ。イザベラ様から教えて頂きましたもの」
秘密にしているのは俺のステータスであって呪いのことじゃない。だからイザベラに文句は言えないから仕方がない。それにイザベラの事だ。呪いの名前までは言ってないだろう。
「なら、手で持って食べられるお店になるが構わないよな?」
「全てお任せしますわ」
「そうだったな」
何もかも俺で決めて良いってのは楽だけど、公認だと逆にやり辛いよな。
「なら、お昼まで30分ほど時間あるしモールを見て回るか」
「分かりましたわ」
本当に全て俺に任せる気なんだな。前世でも女性と出かけた事なんて数える程度しかない俺がお嬢様をエスコートってどんなけ一足飛びなんだよ。ハードすぎるだろ。
「どうかしましたの?」
「な、なんでもない」
俺たちはモール内を歩きながら色々なファストフード店を探し回る。予想していた以上にお店があるな。バーガー、ホットドック、タコス、チュロス、チュロスはお菓子か。おにぎりの専門店まである。
アンドレアはお嬢様だ。おにぎりを食べた事はあるだろうが見た目からして洋食ばかりな気がする。
「あそこにしよう」
「おにぎりの専門店ですわね」
「嫌か?」
「いえ、今日はお任せしますわ」
不満の一つも言われない。俺が知っているコイツなら、「まあ、なんて庶民的なお店!私にこのような物を食べろとおっしゃいますの!」とか言いそうなのに。
「何しか失礼な事を想像してますわね」
「ソンナコトナイゾ」
「……まぁ、良いですわ。早く入りますわよ」
「あ、ああ」
なんでこの世界の住人はこうも鋭いんだ。おちおち心の中でも喋れないじゃないか。
俺とアンドレアはお店の中に入る。
「いらっしゃいませ。二名様ですね?」
「そうだ」
「では、こちらのカウンターにお座り下さい」
店員に案内されて俺たちはカウンター席に座る。
お昼前と言う事もあってか店は繁盛していた。
「そちらのお品書きの中から好きな物を選びましたら、お呼び下さい」
お品書きを開いて中を見る。
「へぇ……」
「どうかしましたの?」
「いや、種類が豊富だと思ってな」
「そうですの?初めてですのでよく分かりませんわ」
分からないことは分からないとハッキリと口にする。やはり根は素直なんだな。
それにしても種類が豊富だな。大きさは全て同じだが、具の種類だけでも20種類以上、二つ以上組み合わせもOKとなるともっとだな。凄い。それに海苔有り無しも自由なのか。お、炊き込みご飯のおにぎりまであるのか。これは悩むな。
「アンドレアは何にする?」
「お任せしますわ」
「わ、分かった」
料理の品までお任せする必要はないと思うが。
「なら、いくつなら食べられる?それだけは教えてくれ」
「そうですわね」
他の客に視線を向ける。きっとおにぎり一つの大きさを確かめているんだろう。
「なら、三つでお願いしますわ」
「そうか。なぁアンドレア」
「なんですの?」
「今日は俺とこうして遊んでいるがイザベラたちと訓練はしなくて良いのか?」
「イザベラ様には用事があると早めに抜けさせていただきましたので問題ありませんわ」
「そうか。因みにこれは前から気になってたんだが軍務科の生徒ってどんな訓練をするんだ?」
「そうですわね……大抵は冒険科の方たちとあまり変わりませんわ。ただ模擬戦が違いますわね」
「模擬戦が?」
「はい。冒険科でもグループを作っての模擬戦は行いますわよね?」
「5人一組のだろ?」
「ええ、そうですわ。ですが軍務科ではもしもの為にそれ以上の人数に指示を出す場合がありますわ。先日の魔物討伐の際にイザベラ様が行ったような」
「確かにあれだけの人数に指示を出すのは大変だろうし、頭がおかしくなりそうだな」
「その通りですわ。ですから5人一組ではなく、10人、25人一組で模擬戦を行ったりしますわ。別のクラスとの合同訓練ともなりますと50人一組で模擬戦を行うこともありますわ」
「そ、そんな事もするのか」
俺が想像していた遥か上を行く内容に驚きを隠せなかった。この学園を卒業すればそれなりの階級までは行けるのは知っている。日本で言うなら学園が防衛大学でそこの卒業生が幹部候補生と思って貰えれば良い。でもそこまでするとは思わなかったが。
「なら、今日の訓練もそんな感じなのか?」
「いえ、今日は模擬団体戦はしませんでしたわ。人数も居ませんでしたし。軽く手合わせした程度ですわ」
俺が考える手合わせとコイツらが考える手合わせが一緒なわけがない。
「それよりも早く選んでくれませんこと」
「ああ、そうだな。悪かった」
俺はアンドレアの品を選んで店員に伝えた。
「お待たせしました」
五分ほどして店員が俺たちの品を持ってきた。うん、美味そうだ。因みに銀には肉の塊を用意してもらった。きっと俺たちよりも金銭的に豪華だ。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
そう言って店員は店の奥へと行ってしまう。
「それではいただきますわね」
「まった」
「なんですの?」
「食べるなら右から順に食べてくれないか?」
「よく分かりませんが、分かりましたわ」
頭に疑問符を浮かべながらもアンドレアはおにぎりを口にする。俺も食べるか。
パリッっと海苔が破けるこの音。うん、美味い。明太子のピリ辛が食欲をそそるんだよな。
「これは鮭ですわね」
「そうだ」
アンドレアが食べている一つ目は鮭、絶妙な塩梅と鮭の旨みが口の中に広がる。素晴らしい一品だ。それにしてもなんて上品な食べ方。流石はお嬢様。
「だけどそんなチマチマ食べて美味しいか?」
「食事をする時のマナーですわよ」
「そうかもしれないが、誰も見てないんだ。もう少し豪快に食べても良いと思うがな」
「………分かりましたわ。郷に入れば郷に従えですわね」
「そうだな」
この世界に、そのことわざがあるのか!衝撃的な事実に内心驚く俺。
「では、次いただきますわね」
パリッ!先ほどよりも良い音を出して食べる。
「小さく刻まれた牛肉の油がお米に絡まったとても美味しいですわね」
「それは良かった」
(それに軽く運動をしたあとですのでピッタリですわ)
どうやら不満が無くてよかった。不味くてこのお店を潰すとか言うんじゃないか心配だったが大丈夫のようだし。これなら俺も安心して食べられる。因みに俺の二つ目はおかか。やはり元日本生まれとしては外せない一品だよな。
「それでは最後をいただきますわね」
そう言って食べる。
「っ!この酸味。まさか梅干ですの!」
「そうだ」
「昔食べた事がありますが、酸っぱ過ぎで苦手でしたのに、これはそこまで酸味が強くなくて逆に食べやすいですわ」
「ねり梅だからな」
「ねり梅?なんですのそれは?」
「梅干の種を取り出して梅酢を加えた物だ。まろやかになって食べやすい。それにご飯と混ぜる分量を自分決める事が出来る。だから梅干が苦手な人でも食べることが出来るんだ」
梅干でも可能だけど、酸味が強いからな。
(それに口の中に残った先ほど食べたお肉の脂がねり梅で中和されて胃へと流されて行きますわ。まるで小さなコース料理を食べているかのようですわ。分かりましたわ!だからこの人は右から食べて欲しいと私に言ったのですわ。まさか此処まで考えて……)
うん、やはり最後は梅のおにぎりだな。元日本人にとって欠かせないソウルフードでもあるしな。
日付にすればまだ7月22日日曜日だ。昨日森の中で殺し合いをしたとは思えないほどの能天気な空模様だな。
屋敷の中に居ても居心地が悪い俺はすることもないので近場の公園で銀と一緒に横になっていた。
「少し宜しいですの?」
そんな俺に話しかけてきたのはアンドレアだった。
「なんだ?」
「大事な話がありますの」
真剣な面持ちで言って来る。大事な話ってなんだろうな。「貴方は最低な人ですわ!」って言いに来たのか?
よく見ると一人のようだが。
「一人で来たのか?」
「はい。大事な話ですもの」
「それもそうだな。なら、座れよ」
「なら遠慮なく」
芝の上とは言え平然と座るんだな。絶対に「こんな場所には座れませんわ!」って言いそうなタイプに見えるのに。
「私の顔に何かついてますの?」
「いや、なんでもない。それで話ってなんだ?」
「じ、実は……」
ま、まさか告白!それはないよな。だがもしかしたらもしかすると。
「昨日公爵様と話しているのを聞いてしまったんです!」
「そうか」
予想はしていたがやっぱり違ったか。それよりも話を聞かれていたのか。それは拙いな。
「話の内容は誰かに話したか?」
「いえ、誰にも。公爵様には謝罪の為に今朝お伝えしましたわ」
黙っていれば咎められることもないだろうに。根は素直な奴なんだな。
「で、なんて言われたんだ?」
「聞いてしまったものは仕方が無い。ただ誰にも他言無用で。と」
「それで良い」
「でも、本当に貴方はそれで宜しいのですの!」
「何がだ?」
「本当は貴方はイザベラ様を護ってくださったのに。嫌われてしまった。本当ならお礼を言われるべきなのに……」
「ああ、別に構わねぇよ」
「何故ですの!」
「もしも本当の事を言えば、ロイドは血眼になって首謀者を探すだろう。イザベラも責任感が強いからな。もしも本当の事を言えば今回の魔物騒動は自分の責任だと思ってしまうかもしれない。そんな悲しい姿を見たお前らや部下たちがロイドみたいに探し回ったらすぐに首謀者に悟られる恐れだってあるからな」
「そこまで考えて……」
「それに命の恩人兼友達のイザベラには悲しい顔はして欲しくないからな。そのためなら悪者役を引き受けるぐらいするさ」
「随分と信頼なさってますのね」
「そりゃあな。友達だしな」
「え?それだけですの?」
「え?それだけって?」
「イザベラ様の事を好いておられるのでは?」
「友達としては好きだぞ。だけど女性としてみるとイザベラは俺の姉、もしくは母親って感じだな」
「そ、それは貴方の言動に問題があるからなのでは?」
「そうかもな」
(呆れましたわ。あの話を耳にしてきっとこの方はイザベラ様の事を好きだと思っておりましたのに。でも自分の気持ちに気づいていないという感じでもないですし、これならお父様から頼まれた調査も上手く行くかもしれませんわね)
「ジ、ジンさん」
「なんだ?」
「暇なのでしたら、一緒に街に出かけませんこと?」
「別に構わないが、あんまりこの街の事は知らないぞ?」
「ええ、構いませんわ」
「なら、行くか。行きたい場所とかあるか?」
「お任せしますわ。貴方のエスコートがどれほどのものかも気になりますし」
「まったく無茶を言うな」
「うふふ」
(不思議な方ですわね。最初は礼儀知らずな方だと思ってましたのに。話してみれば優しくてどこか落ち着きますわ)
いったい何を考えてるんだ?金持ちのお嬢様を案内できるような場所なんか知らないしな。それになんで笑ってるんだ?
まさか!「やっぱり貴方は私が想像してた通りの最低な男ですわ!これ以上イザベラ様に近づかないでください!」とか言うんじゃ。
「どうかしましたの?」
「いや、なんでも」
「なら、早くエスコートして下さいな」
参ったな。そこそこ金はあるけど、金持ちのお嬢様を満足させられる程の金は持ってないぞ。ああ、考えるのも面倒だ!適当で良いや。
「なら、行くか」
「はい」
俺たちは一緒に街へと出かけることになった。
近くにあったバス停からバスに乗って街へと赴く。
「ん?どうかしたのか?」
「い、いえ。このようなバスに乗ったのは初めてですので少し緊張しただけですわ」
「マジで?」
「はい。いつもはリムジンとかですもの」
「そうか」
分かってはいたがイザベラの友人も俺たちとは生きる世界が違い過ぎて驚きすらこねぇな。
十分弱バスに揺られてモール前で降りた俺たち。さて、最初はどこに行くとするか。
「そう言えば、もう直ぐお昼だし適当に店でも探すか」
「今日は全て貴方にお任せしますわ」
「と、言われてもな~。ん?アンドレアはバスに乗るのが初めてだったんだよな?」
「そ、それがなんですの?」
「なら、ファストフードとか食べたことあるのか?」
「平民がよく食べるファストフードの事ですの?」
「その言い方だと微妙に一般人を敵にまわすと思うが、まあそうだな」
「勿論ありますわ」
「マジで!」
「なに、そんなに驚いてますの。でも街中でよく見かけるファストフード店には入ったことがありませんわ」
「なら、どんなファストフードを食べてたんだ?」
「そうですわね……値段で説明するならバーガー一つで2万RKですわね」
「2万RK!いったいどんな材料を使ったらそんな馬鹿げた値段になるんだ!」
「炎龍のパテと黄金麦など様々ですわ」
それに似たバーガーなら俺も食べたな。この国に来て一週間もせずに。値段なんて気にせずに馬鹿みたいに食べたけど。つまりは……
「もっと味わって食べれば良かった……」
「急に落ち込んでどうかしましたの?」
「いや、己の食欲の強さに呆れていただけだ」
元々俺は質より量のタイプでもあるからな。それも原因なんだろうけど。
でも食事をするならどうしてもファストフードになるよな。呪いの事があるから。
「そう言えば、アンドレアは俺の呪いの事は知ってるんだよな?」
「存じてますわ。イザベラ様から教えて頂きましたもの」
秘密にしているのは俺のステータスであって呪いのことじゃない。だからイザベラに文句は言えないから仕方がない。それにイザベラの事だ。呪いの名前までは言ってないだろう。
「なら、手で持って食べられるお店になるが構わないよな?」
「全てお任せしますわ」
「そうだったな」
何もかも俺で決めて良いってのは楽だけど、公認だと逆にやり辛いよな。
「なら、お昼まで30分ほど時間あるしモールを見て回るか」
「分かりましたわ」
本当に全て俺に任せる気なんだな。前世でも女性と出かけた事なんて数える程度しかない俺がお嬢様をエスコートってどんなけ一足飛びなんだよ。ハードすぎるだろ。
「どうかしましたの?」
「な、なんでもない」
俺たちはモール内を歩きながら色々なファストフード店を探し回る。予想していた以上にお店があるな。バーガー、ホットドック、タコス、チュロス、チュロスはお菓子か。おにぎりの専門店まである。
アンドレアはお嬢様だ。おにぎりを食べた事はあるだろうが見た目からして洋食ばかりな気がする。
「あそこにしよう」
「おにぎりの専門店ですわね」
「嫌か?」
「いえ、今日はお任せしますわ」
不満の一つも言われない。俺が知っているコイツなら、「まあ、なんて庶民的なお店!私にこのような物を食べろとおっしゃいますの!」とか言いそうなのに。
「何しか失礼な事を想像してますわね」
「ソンナコトナイゾ」
「……まぁ、良いですわ。早く入りますわよ」
「あ、ああ」
なんでこの世界の住人はこうも鋭いんだ。おちおち心の中でも喋れないじゃないか。
俺とアンドレアはお店の中に入る。
「いらっしゃいませ。二名様ですね?」
「そうだ」
「では、こちらのカウンターにお座り下さい」
店員に案内されて俺たちはカウンター席に座る。
お昼前と言う事もあってか店は繁盛していた。
「そちらのお品書きの中から好きな物を選びましたら、お呼び下さい」
お品書きを開いて中を見る。
「へぇ……」
「どうかしましたの?」
「いや、種類が豊富だと思ってな」
「そうですの?初めてですのでよく分かりませんわ」
分からないことは分からないとハッキリと口にする。やはり根は素直なんだな。
それにしても種類が豊富だな。大きさは全て同じだが、具の種類だけでも20種類以上、二つ以上組み合わせもOKとなるともっとだな。凄い。それに海苔有り無しも自由なのか。お、炊き込みご飯のおにぎりまであるのか。これは悩むな。
「アンドレアは何にする?」
「お任せしますわ」
「わ、分かった」
料理の品までお任せする必要はないと思うが。
「なら、いくつなら食べられる?それだけは教えてくれ」
「そうですわね」
他の客に視線を向ける。きっとおにぎり一つの大きさを確かめているんだろう。
「なら、三つでお願いしますわ」
「そうか。なぁアンドレア」
「なんですの?」
「今日は俺とこうして遊んでいるがイザベラたちと訓練はしなくて良いのか?」
「イザベラ様には用事があると早めに抜けさせていただきましたので問題ありませんわ」
「そうか。因みにこれは前から気になってたんだが軍務科の生徒ってどんな訓練をするんだ?」
「そうですわね……大抵は冒険科の方たちとあまり変わりませんわ。ただ模擬戦が違いますわね」
「模擬戦が?」
「はい。冒険科でもグループを作っての模擬戦は行いますわよね?」
「5人一組のだろ?」
「ええ、そうですわ。ですが軍務科ではもしもの為にそれ以上の人数に指示を出す場合がありますわ。先日の魔物討伐の際にイザベラ様が行ったような」
「確かにあれだけの人数に指示を出すのは大変だろうし、頭がおかしくなりそうだな」
「その通りですわ。ですから5人一組ではなく、10人、25人一組で模擬戦を行ったりしますわ。別のクラスとの合同訓練ともなりますと50人一組で模擬戦を行うこともありますわ」
「そ、そんな事もするのか」
俺が想像していた遥か上を行く内容に驚きを隠せなかった。この学園を卒業すればそれなりの階級までは行けるのは知っている。日本で言うなら学園が防衛大学でそこの卒業生が幹部候補生と思って貰えれば良い。でもそこまでするとは思わなかったが。
「なら、今日の訓練もそんな感じなのか?」
「いえ、今日は模擬団体戦はしませんでしたわ。人数も居ませんでしたし。軽く手合わせした程度ですわ」
俺が考える手合わせとコイツらが考える手合わせが一緒なわけがない。
「それよりも早く選んでくれませんこと」
「ああ、そうだな。悪かった」
俺はアンドレアの品を選んで店員に伝えた。
「お待たせしました」
五分ほどして店員が俺たちの品を持ってきた。うん、美味そうだ。因みに銀には肉の塊を用意してもらった。きっと俺たちよりも金銭的に豪華だ。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
そう言って店員は店の奥へと行ってしまう。
「それではいただきますわね」
「まった」
「なんですの?」
「食べるなら右から順に食べてくれないか?」
「よく分かりませんが、分かりましたわ」
頭に疑問符を浮かべながらもアンドレアはおにぎりを口にする。俺も食べるか。
パリッっと海苔が破けるこの音。うん、美味い。明太子のピリ辛が食欲をそそるんだよな。
「これは鮭ですわね」
「そうだ」
アンドレアが食べている一つ目は鮭、絶妙な塩梅と鮭の旨みが口の中に広がる。素晴らしい一品だ。それにしてもなんて上品な食べ方。流石はお嬢様。
「だけどそんなチマチマ食べて美味しいか?」
「食事をする時のマナーですわよ」
「そうかもしれないが、誰も見てないんだ。もう少し豪快に食べても良いと思うがな」
「………分かりましたわ。郷に入れば郷に従えですわね」
「そうだな」
この世界に、そのことわざがあるのか!衝撃的な事実に内心驚く俺。
「では、次いただきますわね」
パリッ!先ほどよりも良い音を出して食べる。
「小さく刻まれた牛肉の油がお米に絡まったとても美味しいですわね」
「それは良かった」
(それに軽く運動をしたあとですのでピッタリですわ)
どうやら不満が無くてよかった。不味くてこのお店を潰すとか言うんじゃないか心配だったが大丈夫のようだし。これなら俺も安心して食べられる。因みに俺の二つ目はおかか。やはり元日本生まれとしては外せない一品だよな。
「それでは最後をいただきますわね」
そう言って食べる。
「っ!この酸味。まさか梅干ですの!」
「そうだ」
「昔食べた事がありますが、酸っぱ過ぎで苦手でしたのに、これはそこまで酸味が強くなくて逆に食べやすいですわ」
「ねり梅だからな」
「ねり梅?なんですのそれは?」
「梅干の種を取り出して梅酢を加えた物だ。まろやかになって食べやすい。それにご飯と混ぜる分量を自分決める事が出来る。だから梅干が苦手な人でも食べることが出来るんだ」
梅干でも可能だけど、酸味が強いからな。
(それに口の中に残った先ほど食べたお肉の脂がねり梅で中和されて胃へと流されて行きますわ。まるで小さなコース料理を食べているかのようですわ。分かりましたわ!だからこの人は右から食べて欲しいと私に言ったのですわ。まさか此処まで考えて……)
うん、やはり最後は梅のおにぎりだな。元日本人にとって欠かせないソウルフードでもあるしな。
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