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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第六十八話 魔物騒動の真実
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上空数十メートルから飛び降りたアンドレアたちは肉体強化と魔法で無事に着地すると残りの魔物たちは殲滅してくれた。
なんて心強い援軍なのかしら。
戦いが終わり私は即座に部下たちに後片付けの指示を出す。
「イザベラ様」
「アンドレア、それに二人も助けに来てくれて本当に助かったわ」
「いえ、緊急時との事でしたので公爵様に頼み込んで無理に付いてきましたの」
「公爵様、普通に困っていたな」
「アンドレアは~少し反省すべき~」
「わ、分かっていますわよ!」
ほんと仲が良いわね。
「でも、結果的に私たちがした事といえば残党を始末するだけでしたし、お役に立てたかどうか」
「そんな事はないわ。貴方たちのお陰で私たちは助かったもの」
「そう言っていただけると嬉しいですわ」
「だが、ここまで苦戦するとは予想以上に敵が強かったのですか?イザベラ様やロイドさん、それにあの男がいればたやすいと思っていたのですが」
「ジン……」
「「「ひぃっ!」」」
今思い出しただけでも腹が立つ。戦闘が終わっても未だに帰ってこないなんて。いったいどこで油を売ってるのよ。
「あの薄情者のことは忘れて下さい」
「あらロイドさん、お疲れ様ですわ。それで薄情者と言うのはいったい?」
「あの男は姿を消したのです。イザベラ様がプライドを捨ててまで頼み込み乗車させたと言うのにあの男は危機的状況になったときには既に居なくなっていたのです!」
「「「…………」」」
ロイドの言葉にアンドレアたちはただ真剣な面持ちで黙り込むだけだった。
別にプライドを捨ててまでなんて言わない。それでも貴方の事を信頼していた私を裏切った事が許せないのよ!
「よ」
そんな私たちの前に飄々とした態度でジンが現れた。
************************
森から抜けると既に空は闇に覆われようとしていた。
「どうやら、終わったようだな。悪い悪い最初は暇だったから森の中散歩してたら道に迷ってよ。で、ようやく出てこれたってわけだ。やっぱり知らない森でウロウロするもんじゃ――」
ドガッ!!
喋っていると強烈な鈍痛が左頬を襲う。やっぱり殴られるよな。
「どこでなにしてたのよ!」
「いや、だから散歩してたら迷子になってな」
激怒の形相のイザベラ。こりゃぁ、覚悟したほうがよさそうだな。
「貴方が居なくなったせいでどれだけ混乱が生じたと思ってるの!」
「念のために銀を置いてたから大丈夫だと思ったんだよ」
「そういう問題じゃないわよ!貴方が居ればどれだけの部下が助かったって言ってるのよ!」
「まさか誰か死んだのか?」
「誰も死んではないわよ!」
「そうか。それは良かった」
「良くないわよ!」
そう良い残してイザベラは駆け去っていった。その一瞬水滴が飛び散ったように見えた。
「よ、ロイドお疲れ様。でなんでアンドレアたちが居るんだ?」
「用事があって来てましたの。そんな時に援軍要請を耳にしてここに」
「そうか俺は迷子になってたからお前らが来てくれて助かった」
「オニガワラ・ジン」
「確かお前は一つ下のオスカーだったな」
「ああ。その頬の傷はどうした?」
「ん?これか散歩している時に枝でな」
「そうか」
「で、なんでロイドはさっきから黙り込んでるんだ?」
「くっ!」
ドガッ!!
またしても左頬に鈍痛が襲う。
「見損なったぞ!」
そういい残してロイドも去って行った。まったくイザベラと同じところを殴りやがって。反対側を殴ってくれれば良かったのに。
「で、お前たちは殴らないのか?」
「殴りたくても殴る資格は私たちにはありませんわ」
「殆ど終わった後に来た俺たちにはな」
「でも~今すぐにでも殴り殺したい気分なのは確かよ」
「そ、そうか」
いつも眠たそうにしているくせに、なんて声で言うんだよ。
「そう言えば銀は?」
「あそこだ」
オスカーが指差した方向を見てみると銀がブラックウルフの肉を食べていた。
「まったくあんなに美味そう食べやがって。銀!」
「ガウッ!」
俺に気がついた銀は走って来ると抱きついてきた。
「おい!馬鹿!その大きさで抱きつくな!あと生肉を食ってた口でペロペロするな!」
結局五分間は銀が元の姿に戻ることはなかった。
装甲列車に乗り込んだ俺は寝室のベッドで寛いでいた。正確には都市に到着するまでは寝室から出ることを禁止されてしまった。
トントン。
「誰だ?」
「セバスにございます」
「入っていいぞ」
「失礼します」
洗礼された一礼を見せるとサービストレーを持って入ってきた。
「夕食になります」
「つまりは会いたくないってわけね」
「申し訳ありません」
「気にしないでくれ。話さないように頼んだのは俺だからな」
「そうでしたね」
セバスは暗殺者集団の事を知っている数少ない人物だ。他に知っているのはこの列車の中では4名のみ。その人たちにもけして喋らないように頼んでおいた。
「安心してください。あの4名は口が固いですから」
「そ、そうか」
なんで分かったんだ?
別に馬鹿にもしてないぞ。きっとエスパーに違いない。そうでなかったら間違いなく鋭い選手権で優勝出来るレベルだ。流石は俺の中で最も謎だらけの男だ。
「それでは一時間後に食器を取りに参りますので」
「ありがとうセバス」
「いえ」
そう言い残して出て行った。
「ちゃんと銀の分も用意されてるな」
おにぎりと一緒に少し冷まされた4キロステーキが置かれていた。
毎度ながら思うが、どうして俺より銀の方が豪華なんだ?いや、俺が呪いのせいで食べられない事は知っているよ。でもね、今回はあからさま過ぎるよ。だって俺の夕食が塩おにぎり三個だけって。きっとこれもイザベラの指示なんだろう。俺が喋るなって言った手前。仕方が無いけどこれはあんまりだ。
「クゥ?」
「食べるか」
「ガウッ!」
俺は銀と一緒に夕食を堪能した。塩おにぎりか。たまに食べると美味しいな。
それから時は流れ、俺たちは次の日の昼前には屋敷まで戻ってきた。本当に寝室から出るの禁止する奴があるかよ。部屋に風呂もトイレもあるとはいえ、あんまりだ。
車から降りるとハロルドのおっさん、ライラさん、ライオネル、リリー、執事とメイド複数が出迎えてくれていた。
「お父様、お母様、お兄様、リリー、ただいま戻りました」
「うむ、よく無事で帰ってきた。食事をしたいところだろうが、まずは書斎に来て報告してくれると助かる。すまないが、客人であるアンドレアさんたちも一緒に頼む」
「分かりました」
なんだ、食事は後かよ。楽しみにしてたのに。
俺はいつもどおりイザベラたちの後に続いて屋敷に入ろうとした。しかしメイド、執事たちによって塞がれてしまった。
「おいおい今度は何の真似だ。取り押さえられないだけマシだけど。酷い冗談だな」
「冗談ではないわ」
俺の疑問に物凄い剣幕のイザベラが答えた。初めて見る。あれほど激怒のイザベラを見るは。
「悪いけどジン、貴方には出て行ってもらうわ」
信じられない衝撃の事実に誰もが驚き、そして納得した。勿論それは真実を知らない者だけだが。
でもまさか、ここまでするとは思わなかったな。ま、黙っておくように頼んだのは俺だし仕方が無いか。よく見ると執事、メイドも物凄い剣幕だ。どうやら既に耳にしているみたいだな。
「分かったよ。まさかここまで嫌われるとは思ってなかったけどな」
大抵の荷物はアイテムボックスの中だ。寝室には殆ど荷物が無いし無くても困ることはない。
「じゃあな」
俺は踵を返してルーベンハイト家の屋敷から出て行――
「待ちたまえ」
突然ハロルドのおっさんに止められた。
「なら、私の客人としてもてなすとしよう」
「お父様!」
驚きの言葉にイザベラ、ロイド、アンドレアたちにメイド、執事の誰もが驚愕の表情を浮かべていた。正直俺もだ。まさかこんな展開になるとは。
「イザベラ、何か文句でもあるのか?」
「ジンが何をしたか知ってますよね!」
「ああ。だが、それがなんだ。私はジン君を客人としてもてなすと決めた。それをお前にとやかく言われる筋合いはない。まさかルーベンハイト家当主の指示に意義を唱えるのか?」
「くっ!分かりました。好きにすれば良いのです!」
そう言い残してイザベラはさっさと屋敷の中へと入って行った。
「さあ、ジン君遠慮なく寛ぐと良い。部屋は前の部屋で構わないね?」
「あ、ああ。でも本当に良かったのか?」
「なに、イザベラは才能に恵まれては要るが、まだ子供だ。時間が経てばすぐに冷静になるさ」
いや、俺が言いたいのはそういう意味ではないんだが。親馬鹿なアンタが娘に嫌われるような事をして平気なのかって意味なんだが。あ、足が震えてる。本当は今にも泣きたいんだな。
「それじゃ、ジン君も悪いけど書斎に来てくれ」
「分かった」
俺はこうして屋敷の中へと入る事が出来た。が、メイドや執事たちの敵意の視線が凄い。相当嫌われたな。ん?そう言えばあのクレイジー三姉妹が見当たらないな。どこかで油でも売ってるのか?
少し遅れて書斎に入ると予想通り敵意の篭った視線をイザベラたちから向けられる。これほど居心地の悪かったことはないな。
「先ほども言ったけど、魔物討伐ご苦労様。アンドレアさんたちもありがとうね。それじゃ報告を聞こうか」
「はい、最初は情報どおり200の魔物が都市に目掛けて進行してきました。負傷者は出したものの大きな被害はなく無事に対処することが出来ました。しかしその後に最初の倍以上の魔物が押し寄せてくると言う異常事態が発生しましたが、多めに持っていっていた弾薬と援軍、そしてギンのお陰で無事に討伐を完了しました」
「うん、報告どおりだ」
「ただ、異常事態に伴い戦闘員として乗車していたオニガワラ・ジンが持ち場を離れるという予想外の出来事に一時的に指揮系統が混乱に陥りました。その結果予想以上の負傷者を出す羽目になりました」
「だそうだが、ジン君。これに意義はあるかね?」
まるで裁判だな。
「全て事実だ」
「……分かった。報告は以上かね?」
「はい」
「なら、下がってよい。ただしジン君だけは此処に残って貰いたい」
「分かった」
ざまぁみろ見たいな表情のロイドとイザベラたちが出て行った。それを見計らうようにハロルドのおっさんが口を開いた。
「本当にこれで良かったのかい?」
「ああ。これが最善だ」
「だが、これでは君一人が悪者だ」
「良いんだよ。それに俺が持ち場から離れたのは事実だし、もしも俺が軍人なら間違いなくその場で処刑されていてもおかしくないからな」
「………それじゃ現在分かっている事から話すとしよう。君が予想したとおり、今回の魔物騒動は人為的に起こされたものだと判明した」
「やっぱりか」
「ああ、調べた死体からこれが出てきたからね」
机に上に置かれた小瓶に入った紫色の粉。
「なんだそれは?」
「魔煙香だ。別名フレンジーパウダーとも呼ばれる物でね。魔物を誘き寄せる事が出来る粉だ。その危険性から全ての国で使用禁止されている」
「それって普通に手に入るものなのか?」
「いや、無理だ。各国で製造販売は禁止なのは勿論だが、現存する物も全て国が厳重に保管している。もしも使用すれば間違いなく重罪だ」
「そんな物を使えるって、あの暗殺者集団はそんなに権力を持った奴らだったのか?」
「いや、身元を調べる限り彼らは闇ギルドの人間だ。そんな彼らが手に入れる代物じゃない」
「つまり、それを渡した奴は闇ギルドに依頼してきた首謀者ってことか。それもかなりの権力を持った」
「信じたくないが、そうなるね」
「そしてその首謀者は間違いなくイザベラを殺したがっている」
「そのようだ……」
俺が最初に殺した暗殺者はスナイパーだ。そいつがスコープ越しに狙っていた標的がイザベラだった。本当にイザベラを狙っているのか確実ではないが、あの場に居た奴の中で一番の可能性があるのがイザベラだからだ。俺は暗殺者たちと話した際に違うと言う事が分かっているしな。
「なら、スナイパーが持っていたライフルからは何か分からなかったのか?」
「あのライフルを調べるのは簡単だったよ。あれは15年前にCWMが開発したライフルだったよ」
「CWM?」
「アンドレアさんの家だよ」
「なるほど」
「今分かっていることはこれぐらいだ。何か分かり次第報告するよ」
「良いのか?子供が首をつっこんで良い話じゃないと思うが?」
「既に君は成人しているし、なにより今回の事を突き止めてくれたのは君だからね」
「それはありがたい」
「それと今回の事を知っているのは私と君。それからライラにライオネル、セバスと調査した四名と現在調べている三人だけだから安心して良いよ」
「随分と人数が多いな」
「君と電話で話している時にライラとライオネルは傍にいたからね」
「なるほど」
運が悪いとき連絡してしまったかもしれないな。
「だけどそれだけの者たちは君がイザベラを護ってくれたことを知っている。だから何かあったら気兼ねなく相談すると良い」
「ああ、助かる。なら俺は寝室で寝させて貰うよ」
「昼食は要らないのかい?」
「この状況で食堂に行きづらいからな」
自分がしたこととはいえ。
「すまないね。なら後でセバスに昼食を持って行かそう」
「悪いな」
俺はそう言い残して書斎を後にした。
きな臭いとは思っていたが、いよいよ面倒になりそうだな。
なんて心強い援軍なのかしら。
戦いが終わり私は即座に部下たちに後片付けの指示を出す。
「イザベラ様」
「アンドレア、それに二人も助けに来てくれて本当に助かったわ」
「いえ、緊急時との事でしたので公爵様に頼み込んで無理に付いてきましたの」
「公爵様、普通に困っていたな」
「アンドレアは~少し反省すべき~」
「わ、分かっていますわよ!」
ほんと仲が良いわね。
「でも、結果的に私たちがした事といえば残党を始末するだけでしたし、お役に立てたかどうか」
「そんな事はないわ。貴方たちのお陰で私たちは助かったもの」
「そう言っていただけると嬉しいですわ」
「だが、ここまで苦戦するとは予想以上に敵が強かったのですか?イザベラ様やロイドさん、それにあの男がいればたやすいと思っていたのですが」
「ジン……」
「「「ひぃっ!」」」
今思い出しただけでも腹が立つ。戦闘が終わっても未だに帰ってこないなんて。いったいどこで油を売ってるのよ。
「あの薄情者のことは忘れて下さい」
「あらロイドさん、お疲れ様ですわ。それで薄情者と言うのはいったい?」
「あの男は姿を消したのです。イザベラ様がプライドを捨ててまで頼み込み乗車させたと言うのにあの男は危機的状況になったときには既に居なくなっていたのです!」
「「「…………」」」
ロイドの言葉にアンドレアたちはただ真剣な面持ちで黙り込むだけだった。
別にプライドを捨ててまでなんて言わない。それでも貴方の事を信頼していた私を裏切った事が許せないのよ!
「よ」
そんな私たちの前に飄々とした態度でジンが現れた。
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森から抜けると既に空は闇に覆われようとしていた。
「どうやら、終わったようだな。悪い悪い最初は暇だったから森の中散歩してたら道に迷ってよ。で、ようやく出てこれたってわけだ。やっぱり知らない森でウロウロするもんじゃ――」
ドガッ!!
喋っていると強烈な鈍痛が左頬を襲う。やっぱり殴られるよな。
「どこでなにしてたのよ!」
「いや、だから散歩してたら迷子になってな」
激怒の形相のイザベラ。こりゃぁ、覚悟したほうがよさそうだな。
「貴方が居なくなったせいでどれだけ混乱が生じたと思ってるの!」
「念のために銀を置いてたから大丈夫だと思ったんだよ」
「そういう問題じゃないわよ!貴方が居ればどれだけの部下が助かったって言ってるのよ!」
「まさか誰か死んだのか?」
「誰も死んではないわよ!」
「そうか。それは良かった」
「良くないわよ!」
そう良い残してイザベラは駆け去っていった。その一瞬水滴が飛び散ったように見えた。
「よ、ロイドお疲れ様。でなんでアンドレアたちが居るんだ?」
「用事があって来てましたの。そんな時に援軍要請を耳にしてここに」
「そうか俺は迷子になってたからお前らが来てくれて助かった」
「オニガワラ・ジン」
「確かお前は一つ下のオスカーだったな」
「ああ。その頬の傷はどうした?」
「ん?これか散歩している時に枝でな」
「そうか」
「で、なんでロイドはさっきから黙り込んでるんだ?」
「くっ!」
ドガッ!!
またしても左頬に鈍痛が襲う。
「見損なったぞ!」
そういい残してロイドも去って行った。まったくイザベラと同じところを殴りやがって。反対側を殴ってくれれば良かったのに。
「で、お前たちは殴らないのか?」
「殴りたくても殴る資格は私たちにはありませんわ」
「殆ど終わった後に来た俺たちにはな」
「でも~今すぐにでも殴り殺したい気分なのは確かよ」
「そ、そうか」
いつも眠たそうにしているくせに、なんて声で言うんだよ。
「そう言えば銀は?」
「あそこだ」
オスカーが指差した方向を見てみると銀がブラックウルフの肉を食べていた。
「まったくあんなに美味そう食べやがって。銀!」
「ガウッ!」
俺に気がついた銀は走って来ると抱きついてきた。
「おい!馬鹿!その大きさで抱きつくな!あと生肉を食ってた口でペロペロするな!」
結局五分間は銀が元の姿に戻ることはなかった。
装甲列車に乗り込んだ俺は寝室のベッドで寛いでいた。正確には都市に到着するまでは寝室から出ることを禁止されてしまった。
トントン。
「誰だ?」
「セバスにございます」
「入っていいぞ」
「失礼します」
洗礼された一礼を見せるとサービストレーを持って入ってきた。
「夕食になります」
「つまりは会いたくないってわけね」
「申し訳ありません」
「気にしないでくれ。話さないように頼んだのは俺だからな」
「そうでしたね」
セバスは暗殺者集団の事を知っている数少ない人物だ。他に知っているのはこの列車の中では4名のみ。その人たちにもけして喋らないように頼んでおいた。
「安心してください。あの4名は口が固いですから」
「そ、そうか」
なんで分かったんだ?
別に馬鹿にもしてないぞ。きっとエスパーに違いない。そうでなかったら間違いなく鋭い選手権で優勝出来るレベルだ。流石は俺の中で最も謎だらけの男だ。
「それでは一時間後に食器を取りに参りますので」
「ありがとうセバス」
「いえ」
そう言い残して出て行った。
「ちゃんと銀の分も用意されてるな」
おにぎりと一緒に少し冷まされた4キロステーキが置かれていた。
毎度ながら思うが、どうして俺より銀の方が豪華なんだ?いや、俺が呪いのせいで食べられない事は知っているよ。でもね、今回はあからさま過ぎるよ。だって俺の夕食が塩おにぎり三個だけって。きっとこれもイザベラの指示なんだろう。俺が喋るなって言った手前。仕方が無いけどこれはあんまりだ。
「クゥ?」
「食べるか」
「ガウッ!」
俺は銀と一緒に夕食を堪能した。塩おにぎりか。たまに食べると美味しいな。
それから時は流れ、俺たちは次の日の昼前には屋敷まで戻ってきた。本当に寝室から出るの禁止する奴があるかよ。部屋に風呂もトイレもあるとはいえ、あんまりだ。
車から降りるとハロルドのおっさん、ライラさん、ライオネル、リリー、執事とメイド複数が出迎えてくれていた。
「お父様、お母様、お兄様、リリー、ただいま戻りました」
「うむ、よく無事で帰ってきた。食事をしたいところだろうが、まずは書斎に来て報告してくれると助かる。すまないが、客人であるアンドレアさんたちも一緒に頼む」
「分かりました」
なんだ、食事は後かよ。楽しみにしてたのに。
俺はいつもどおりイザベラたちの後に続いて屋敷に入ろうとした。しかしメイド、執事たちによって塞がれてしまった。
「おいおい今度は何の真似だ。取り押さえられないだけマシだけど。酷い冗談だな」
「冗談ではないわ」
俺の疑問に物凄い剣幕のイザベラが答えた。初めて見る。あれほど激怒のイザベラを見るは。
「悪いけどジン、貴方には出て行ってもらうわ」
信じられない衝撃の事実に誰もが驚き、そして納得した。勿論それは真実を知らない者だけだが。
でもまさか、ここまでするとは思わなかったな。ま、黙っておくように頼んだのは俺だし仕方が無いか。よく見ると執事、メイドも物凄い剣幕だ。どうやら既に耳にしているみたいだな。
「分かったよ。まさかここまで嫌われるとは思ってなかったけどな」
大抵の荷物はアイテムボックスの中だ。寝室には殆ど荷物が無いし無くても困ることはない。
「じゃあな」
俺は踵を返してルーベンハイト家の屋敷から出て行――
「待ちたまえ」
突然ハロルドのおっさんに止められた。
「なら、私の客人としてもてなすとしよう」
「お父様!」
驚きの言葉にイザベラ、ロイド、アンドレアたちにメイド、執事の誰もが驚愕の表情を浮かべていた。正直俺もだ。まさかこんな展開になるとは。
「イザベラ、何か文句でもあるのか?」
「ジンが何をしたか知ってますよね!」
「ああ。だが、それがなんだ。私はジン君を客人としてもてなすと決めた。それをお前にとやかく言われる筋合いはない。まさかルーベンハイト家当主の指示に意義を唱えるのか?」
「くっ!分かりました。好きにすれば良いのです!」
そう言い残してイザベラはさっさと屋敷の中へと入って行った。
「さあ、ジン君遠慮なく寛ぐと良い。部屋は前の部屋で構わないね?」
「あ、ああ。でも本当に良かったのか?」
「なに、イザベラは才能に恵まれては要るが、まだ子供だ。時間が経てばすぐに冷静になるさ」
いや、俺が言いたいのはそういう意味ではないんだが。親馬鹿なアンタが娘に嫌われるような事をして平気なのかって意味なんだが。あ、足が震えてる。本当は今にも泣きたいんだな。
「それじゃ、ジン君も悪いけど書斎に来てくれ」
「分かった」
俺はこうして屋敷の中へと入る事が出来た。が、メイドや執事たちの敵意の視線が凄い。相当嫌われたな。ん?そう言えばあのクレイジー三姉妹が見当たらないな。どこかで油でも売ってるのか?
少し遅れて書斎に入ると予想通り敵意の篭った視線をイザベラたちから向けられる。これほど居心地の悪かったことはないな。
「先ほども言ったけど、魔物討伐ご苦労様。アンドレアさんたちもありがとうね。それじゃ報告を聞こうか」
「はい、最初は情報どおり200の魔物が都市に目掛けて進行してきました。負傷者は出したものの大きな被害はなく無事に対処することが出来ました。しかしその後に最初の倍以上の魔物が押し寄せてくると言う異常事態が発生しましたが、多めに持っていっていた弾薬と援軍、そしてギンのお陰で無事に討伐を完了しました」
「うん、報告どおりだ」
「ただ、異常事態に伴い戦闘員として乗車していたオニガワラ・ジンが持ち場を離れるという予想外の出来事に一時的に指揮系統が混乱に陥りました。その結果予想以上の負傷者を出す羽目になりました」
「だそうだが、ジン君。これに意義はあるかね?」
まるで裁判だな。
「全て事実だ」
「……分かった。報告は以上かね?」
「はい」
「なら、下がってよい。ただしジン君だけは此処に残って貰いたい」
「分かった」
ざまぁみろ見たいな表情のロイドとイザベラたちが出て行った。それを見計らうようにハロルドのおっさんが口を開いた。
「本当にこれで良かったのかい?」
「ああ。これが最善だ」
「だが、これでは君一人が悪者だ」
「良いんだよ。それに俺が持ち場から離れたのは事実だし、もしも俺が軍人なら間違いなくその場で処刑されていてもおかしくないからな」
「………それじゃ現在分かっている事から話すとしよう。君が予想したとおり、今回の魔物騒動は人為的に起こされたものだと判明した」
「やっぱりか」
「ああ、調べた死体からこれが出てきたからね」
机に上に置かれた小瓶に入った紫色の粉。
「なんだそれは?」
「魔煙香だ。別名フレンジーパウダーとも呼ばれる物でね。魔物を誘き寄せる事が出来る粉だ。その危険性から全ての国で使用禁止されている」
「それって普通に手に入るものなのか?」
「いや、無理だ。各国で製造販売は禁止なのは勿論だが、現存する物も全て国が厳重に保管している。もしも使用すれば間違いなく重罪だ」
「そんな物を使えるって、あの暗殺者集団はそんなに権力を持った奴らだったのか?」
「いや、身元を調べる限り彼らは闇ギルドの人間だ。そんな彼らが手に入れる代物じゃない」
「つまり、それを渡した奴は闇ギルドに依頼してきた首謀者ってことか。それもかなりの権力を持った」
「信じたくないが、そうなるね」
「そしてその首謀者は間違いなくイザベラを殺したがっている」
「そのようだ……」
俺が最初に殺した暗殺者はスナイパーだ。そいつがスコープ越しに狙っていた標的がイザベラだった。本当にイザベラを狙っているのか確実ではないが、あの場に居た奴の中で一番の可能性があるのがイザベラだからだ。俺は暗殺者たちと話した際に違うと言う事が分かっているしな。
「なら、スナイパーが持っていたライフルからは何か分からなかったのか?」
「あのライフルを調べるのは簡単だったよ。あれは15年前にCWMが開発したライフルだったよ」
「CWM?」
「アンドレアさんの家だよ」
「なるほど」
「今分かっていることはこれぐらいだ。何か分かり次第報告するよ」
「良いのか?子供が首をつっこんで良い話じゃないと思うが?」
「既に君は成人しているし、なにより今回の事を突き止めてくれたのは君だからね」
「それはありがたい」
「それと今回の事を知っているのは私と君。それからライラにライオネル、セバスと調査した四名と現在調べている三人だけだから安心して良いよ」
「随分と人数が多いな」
「君と電話で話している時にライラとライオネルは傍にいたからね」
「なるほど」
運が悪いとき連絡してしまったかもしれないな。
「だけどそれだけの者たちは君がイザベラを護ってくれたことを知っている。だから何かあったら気兼ねなく相談すると良い」
「ああ、助かる。なら俺は寝室で寝させて貰うよ」
「昼食は要らないのかい?」
「この状況で食堂に行きづらいからな」
自分がしたこととはいえ。
「すまないね。なら後でセバスに昼食を持って行かそう」
「悪いな」
俺はそう言い残して書斎を後にした。
きな臭いとは思っていたが、いよいよ面倒になりそうだな。
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恐縮ながら少しでも観てもらえると嬉しいです
なろう様カクヨム様にも投稿していますのでよろしくお願いします
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
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異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
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