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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す

第五十一話 表彰式から始まる決闘

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 休憩が終わると全ての試合が終わっていた。
 そして即座に表彰式の準備がされていた。教師人の迅速な行動力パネェ。
 開会式と同様にクラスごとに整列されられた俺。正直さっきの闘いで体力の限界が近い。あのまま保健室に行きたかったがさすがに優勝者が表彰式をすっぽかすわけにもいかないので、今こうして真面目に並んでいるのだ。俺って超偉い!

「それではこれより武闘大会個人戦学園代表選抜表彰式を執り行います。一同礼!」
 俺も一応しておく。

「今から名前を呼ばれた生徒は前に。武闘大会個人戦学園代表選抜第三位、軍務科三年一組オスカー・ベル・ハワード!」
「はい」
「武闘大会個人戦学園代表選抜準優勝、軍務科四年一組イザベラ・レイジュ・ルーベンハイト!」
「はい!」
「そして武闘大会個人戦学園代表選抜優勝、冒険科四年十一組オニガワラ・ジン!」
「ふぁ~い」
「なんだ、その返事は!」
「眠くて欠伸と返事が一緒にだちゃったんですよ」
 せっかくの表彰式なんだから、一々怒らなくても良いだろうに。丸刈り先生と違ってスキン先生は頭が固いな。

「これより一人ずつ学園長より表彰状と副賞が贈られる。まずはオスカー・ベル・ハワード!」
「はい」
 三位の奴から順番にあの狸爺から渡されるのか。

「オニガワラ・ジン!」
「はい」
 考えていたらもう俺の番か。早いな。
 ゆっくりと歩いて俺は学園長の前に立つ。そういえば前世もあわせて一度も表彰されたことなんてなかったな。

「おめでとう」
「どうも」
「君には表彰状より副賞の方が興味があるんじゃろ?」
「あたりまえだ」
「欲には素直じゃな」
 悪いかよ。

「以上3名がスヴェルニ学園代表として、二学期に行われる第68回武闘大会個人戦に出場する。全員拍手!」
 パチパチパチパチ!
 きっとこの拍手の大半はイザベラとオスカーに向けられたものだろうな。優勝したのに酷い扱いだ。

「では、最後にダグラス学園長挨拶」
「生徒の諸君。大変素晴らしい試合を見せくれた。対戦相手を研究して対策を練り、オリジナル魔法や融合魔法による攻撃。危機的状況に陥ってからの冷静な判断力と想像力。本当に素晴らしい試合ばかりじゃった。最終学年である4年生は今年で卒業じゃが、今日の試合を忘れずに軍人や冒険者になろうと粉骨砕身を続けてほしい。そして1年生から3年生の諸君は残りの学園生活を後悔することのないよう、今以上に授業に励んでもらいたい。ワシからの話はこれで以上じゃ」
 パチパチパチパチ!

「これにて武闘大会個人戦学園代表選抜表彰式を終了す――」
「待ってください!」
 ようやく終わりかと思った矢先、壇上前に一人の男子生徒が出てきた。邪魔するなよようやく保健室に行けると思ったのによ。

「表彰式の邪魔をするとは何を考えている!」
 ま、当然怒られるよな。スキン先生は行事とかキッチリこなしたいタイプだからな。

「申し訳ありません。ですがこの場でハッキリと言わせてください。僕はその能無しが優勝したことに納得できません!」
『なっ!』
 俺以外の教師陣や生徒の大半が驚きの表情を浮かべていた。オスカーの野郎は驚いているのか分からないけど。

「確か君は軍務科四年一組のロイ・フォン・ボルティックだったな」
「はい」
「ロイ生徒はジン生徒が不正行為を行って優勝したと言いたいんだな?」
「そうです」
「その証拠はあるのか?」
「そ、それは………」
 完全に言葉が詰まっているな。感情で動いただけなのか。抗議するなら仕掛けぐらい用意しとくだろ普通。

「証拠も無いのに君はジン生徒を疑うのかね」
「ですが!魔力の無い能無しが優勝出来るはずがありません!そんなの不正行為を行った以外ありえないでしょ!」
 その言葉に生徒がざわつく特に軍務科連中は好き勝手言ってそうだな。ってスキン先生まで黙り込まないで欲しいんだけど!

「ロイ君」
「イ、イザベラ様!」
 スキン先生に代わってイザベラが口を開いた。いったい何を話す気だ。

「君はジンが不正ツールやドーピングなどのどれかを使って私に勝ったって言ってるのよね?」
「そ、その通りです!」
「つまり私は魔力も無い人間が不正ツールやドーピングなんかを使えば勝てちゃう程度の実力って言いたいのね?」
「そ、それは違います!」
「でもそう言うことでしょ?」
 あ、これは激怒モードだ。まさか俺以外にもあのモードを引き出せる奴がいたとは。

「…………」
「なに黙り込んでいるのかしら?」
 あ~あ、完全に青ざめてるよ。この学園で憧れ的存在のイザベラにあんなこと言われたらそりゃあ青ざめるよな。特に同じ軍務科の生徒なら。

「はぁ………もう良いわ。今彼が言った言葉に納得した者たちがいるわね。特に軍務科の生徒!」
 あ、軍務科の生徒連中完全に震えてる。可哀想に。

「貴方達が前からジンの事を嫌っているのは知っているわ。その理由もね。でもここでは何も言わないわ。同じ軍務科の生徒として恥ずかしいもの。だけど心を入れ替えなさい!そして覚えておきなさい!オニガワラ・ジンはオスカーやこの私と正々堂々と闘い勝利を掴んだ生徒だと。良いわね!」
「………」
「返事は!」
『はい!』
 さすが学園最強の女帝。迫力が全然違うな。後ろで見ていた俺ですら気圧されそうだったもん。
 でも、さすがにこれ以上イザベラに任せっきりと言うのも悪いな。

「イザベラ」
「ジン、どうかしたの?」
「俺が話しても良いか?」
「え、ええ」
 マイクを受け取った俺。

「どうも、魔力が無いくせに優勝したオニガワラ・ジンだ」
 うわっ!めっちゃ睨まれてる。お前のせいで怒られたって顔だな。貴族連中はこんな器の小さい奴しか居ないのかね。イザベラが少し不憫に感じる。

「別に俺はお前らにどう思われようがどうだっていい。だから後ろで見てたわけだけど。でもイザベラだけに色々と言わせて俺だけ後ろで見物ってわけにもいかないから、今こうして喋ってるわけだけど」
 早く終わらせて保健室に行こう。

「お前らさっきのイザベラの言葉に納得したか?」
 返事なし。

「納得してないよな。そうだよな。魔力が無い人間が魔力ある人間に勝てるわけがないもんな。お前ら全員そう思ってるんだろ?」
「…………」
「おいおいこの国の貴族様は自分の意思を口に出すことも出来ないのか?それとも都合の悪いことは他人に任せて傍観者気取りのつもりか?俺としてはさっき抗議してきたロイの方が何倍も凄いと思うけどな!」
「………うるさいわね!無能の癖に生意気なのよ!」
「そうよ!」
「不正野郎!」
 やっぱり貴族だな。軽く挑発すればこんなにも釣れた。軍務科の8割、ざっと2000人ってところか。

「ちょっ、ジン!」
「まあ、見てな」
 これで早く済むし、納得もするだろう。

「お前らは俺が不正ツールやドーピングしたって思ってるんだよな」
「そうだ!」
「それ以外になにがるのよ!」
 予想通りの反応だな。

「アンドレア!」
「え、私ですか?」
「そうだ。確かお前の家は魔法武器や魔導武器などの製造を行う大手製造会社って聞いたんだが?」
「ええ、そうですわよ」
「なら、不正ツールについて詳しいか?」
「誰に聞いてますの。将来は私が継ぐのですからそれぐらいの知識当然頭に入ってますわ」
「なら聞くが、魔力の無い人間の身体能力を向上させる不正ツールって存在するのか?」
「いえ、存在しませんわ。現在分かっている身体能力を向上させる不正ツールは1500近くありますが、魔力の無い人間が使用できる物は一つもありません。全てが魔力がないと起動しませんから」
「なるほど、つまり俺が不正ツールを使うことは不可能ってことだな」
「ええ、そうなりますわね」
 予想通り苦虫を噛み締めたような顔をしているな。

「だけど、ドーピングはどうなんだ!」
「私が知る限りイザベラ様を一対一で倒せるだけのドーピングは存在しません。ですが、一度に大量に投与すれば可能です」
「きっとそれだ!」
「間違いない!」
「このドーピング男!」
「ですが!イザベラ様を倒せるだけのドーピングを一度に投与すれば間違いなく死にます!死ななかったとしても植物人間になってもおかしくはありません」
「だとよ。これでもお前等が信じられないんなら俺はこのあと保健室に行くからそん時に調べて貰うとするが、どうする?」
 完全にだんまりか。でも納得したって顔じゃねぇな。ま、これも予想通りだけどな。

「だったら一つだけ方法があるぜ。こういう揉め事のときに手っ取り早い解決策が」
「ま、まさか!」
「決闘だ。生徒同士が揉めた際に闘うことが出来る校則。これほど、うってつけの解決方法はない。そこでだ。今不満に感じた生徒全員対俺で決闘を行う」
『なっ!』
「(ジン、貴方なに考えてるのよ!)」
「(仕方が無いだろ。これじゃないと解決しないんだから)」
「(でも、そんな事をすれば!)」
「(ま、一生恐れられるだろうな。で今いる友達も俺から離れていくだろうな)」
「(本当にそれで良いの?)」
「(ま、お前が怒ってくれたからな。俺はそれで満足さ)」
「(馬鹿……)」
 さと、もう一押しだな。

「決闘開始は今から一時間後だ。不満のある生徒はさっさと着替えて自分の武器を持ってここに戻って来い。で審判はそうだな……」
「ワシが勤めよう」
「ダグラス学園長自らですか!」
「そうじゃよ、イザベラ君。ジン君ワシで構わないじゃろ?」
「ああ、良いぜ」
 そういう事か。ようやく納得が言ったよ。まったくこの狸爺が。

「おっと忘れてた。おい、ライゼと愉快な仲間たち!」
 俺の言葉に体をビクッと震わせる。まさか逃げるつもりだったのか?

「お前等とは前から約束してたもんな。丁度良いお前たちも参加しろ」
「お、俺たちは遠慮しておくぜ。お前が不正なんかせずに正々堂々と闘っていたことは今日までに十分理解したからよ」
「え、ええ。そうね。私たちはやめておくわ」
「おいおい、お前たちは一度交わした約束を破るのか?それで冒険者になってもきっと信頼されないだろうな。約束を破るような奴等はよ」
『うっ』
「で、参加すのか?」
「わ、分かった参加する」
「なら、今のうちに戦闘服に着替えて愛用の武器を持ってきて良いぞ」
 その言葉と同時にライゼたちは慌てて演習場を出て行った。

「で、貴族様方はなんで未だにつっ立ったままなんだ?まさかやっぱり闘うのは無理とか言わないよな。冒険科の連中は闘おうとしてるのに」
「…………」
「まさか本当に闘わないつもりなのか。おいおいマジかよ。軍務科は誇り高き生徒しかいないって聞いてたんだが、嘘だったのかよ。イザベラやアンドレア、オスカーみたいな凄い奴等がいるからてっきり本当だと思ってたのによ。あ、そうか!お前等は誇り高い軍務科に入って威張りたかっただけで、本当は安全なとこから見下すだけの矮小な存在だったんだな。それじゃイザベラたちが可哀想だな。こんな弱い奴等ばかりじゃ強くなるのは無理だ。だから俺に負けたのか」
「話を聞いてればなんだその言い草は!」
「そうよ!イザベラ様を馬鹿にするなんて1億年早いのよ!」
「待ってろ、今すぐ着替えてお前を倒してやるからよ!」
 その言葉を引き金に軍務科の生徒の大半が演習場を出て行った。これでよし。

「悪いな、イザベラ。お前のことを悪く言って」
「別に良いわよ、気にしてないもの。それよりもよくもアレだけの挑発が出来るわね。ある意味関心したわ」
「貴族ってプライドが高そうだからな、ちょっと刺激してやればこの通りだ」
「はぁ……先生方に頼んで今度から冷静さを付ける訓練も入れてもらった方が良いかもしれないわね」
「そん時は俺が特別講師として呼ばれるかもな」
「無いとは言い切れないわね……」
 呆れて嘆息するイザベラ。

「それよりも体は平気なの?」
「ああ、大丈夫だ。表彰式の前にフェリシティーたちが治療してくれたからな」
「でも軽い手当てだけでしょ?本当にそれで闘えるの?」
「イザベラ様の言うとおりだ。馬鹿者」
 聞きなれた声に振り向くとそこにはジュリアスたちが眉間に皺を寄せて立っていた。どうしたいきなり近眼か?

「ジュリアス。それにみんなも」
「何、勝手に決闘なんか始めちゃってるのさ!」
「その体で無茶はしないで下さいって言いましたよね?」
「仕方が無いだろ。ああでもしなければ納得しなさそうだったんだから」
「そうかもしれないけど……」
「ま、なんとかなるだろ」
「なんて短絡思考なんだ」
 どうしてみんな頭を抑えてるんだ?別に酸素濃度は変わってないはずだぞ。



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 武闘大会個人戦学園代表選抜順位と戦績

1位 11勝0敗 鬼瓦仁
2位 10勝1敗 イザベラ・レイジュ・ルーベンハイト
3位 9勝2敗 オスカー・ベル・ハワード
4位 8勝3敗 真壁冬也
5位 7勝4敗 ロイド・サウス・グリード
6位 5勝6敗 渡辺飛鳥
6位 5勝6敗 レーネ・オネスト
8位 4勝7敗 エイミー・トロイ・バレアレ
9位 3勝8敗 ジュリアス・L・シュカルプ
9位 3勝8敗 イーサン・ゲンリ・ムーサル
11位 1勝10敗 ライヤス・ユーラ
12位 0勝11敗 ネルソン・ボーン・ガルシア
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