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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第三十七話 武闘大会団体戦学科別代表選抜決勝 中
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「それでお前はどうする?俺の命令に従うか、愚かな虫けら二匹のように絶望を知るか」
ったくどこまで王様気取りなんだ。こいつは。だが一つだけハッキリしていることがある。それは仲間が倒された事への怒りだ。これまで誰一人としてリタイアすることなくここまで来た。だからこそ冷静でいられたが、まさか死ぬわけでもないのにこれほどまでに怒りが沸き立つなんてな。あの気まぐれ島では味わえなかったことだ。
「生憎両方ともお断りだ」
「ほう……ではどうするつもりだ?」
「決まってるだろ。お前はぶん殴るのさ」
「俺をぶん殴るだと……ふ、ふはははっ!愚かで虫けらの中でもお前はそれ以上だな。魔力も持たないお前に何が出来ると言うのだ。この学園は誰もが知る実力主義だ。だがそれは魔力量と魔力属性の多さが優劣を決めると言っても過言ではない。つまり魔法こそが弱肉強食を決める全てなのさ!」
魔法こそが全て。そう言う考えも確かに出来る。だが弱肉強食ってのは魔法だけじゃないんだよ。俺はそれをあの島で身を持って知っている。
「だからこそ俺が教えてやるよ。本当の弱肉強食がどんなものなのかをな!」
「ふふ、良かろう。だがそれは不可能だ。お前一人では俺たち三人には勝てない」
「なに?」
俺は一瞬その意味を理解出来なかった。だが視界の端に入り込んだ倒れるジュリアスの姿を見て理解した。
「ジュリアス!」
敵を前にして愚かな行為だと分かっていも俺はジュリアスに駆け寄っていた。
「ジュリアス!しっかりしろ!」
「……ジン、すまない……どうやら私はここまでのようだ……リーダーであり……一組で……ありながら……まったく情けない……ものだな……相手の魔力を……削ることしか……出来なかった……すまないが……後は……頼んだ……」
「………」
なんで笑ってるんだよ!お前は負けたんだぞ!なのに笑って気を失うなよ馬鹿野郎が!
『な、なんと悲しい光景なのおおおおぉぉ!最愛のジュリアス選手を失ってしまったジン選手!二人の恋はまだ始まったばかりだというのに、これほどの悲劇があって良いの!』
『ミューラまだ試合中なのよ!なに自分の趣味を全開に実況してるのよ!』
『うおおおおおおぉぉぉ!!』
『って、なに号泣してるのよ!ちゃんと実況しなさいよ!ああ、もう!申し訳ありませんがここからは私が実況を行います!ほら、これで涙を拭いてって鼻水を拭かないでよ汚いな!』
『だっでがなぢぐでなみだがとまりまないんです!』
ああ、任せろ。後は俺があいつらをぶっ飛ばすからな。それにしても仲間が倒れるのがこれほど辛く腹立たしいなんて初めてだ。アイツを亡くした時と似て非なるものだが、この気持ちは味わいたくないな。だからこそ俺はあの島で身をもって知った事を奴に教えないといけない。
「これでもまだ、貴様は俺に馬鹿げたことを教えるというのか?」
「いや、教えるのは止めだ」
「ほう、どうやら物事を理解する脳みそは持っていたようだな」
「その代わりお前の体に刻み込んでやるよ。真の弱肉強食が如何に恐ろしいものかをな」
「………もうよい。弱者の貴様が如何に戯言を口にしようが関係ない。不愉快なだけだ」
『たった一人となってしまったジン選手。それに対して失われた大冠にはレイラ選手、ジュリアス選手を倒したオリヴィア選手、そしてフェリシティー選手、レオリオ選手、エミリア選手を瞬殺したサイモン選手が残っています。絶体絶命のこの状況でジン選手はどう闘うのでしょうか!観客席からはジン選手を応援する女子生徒と同じ十一組の生徒の声が響き渡っています』
「レイラ、オリヴィア。あの虫けら以下の存在を今すぐ倒して来い」
「畏まりましたサイモン様」
「分かったよ。サイモンを馬鹿にした奴は私が全員撃ち殺してあげる」
「先に行動を開始したのは失われた大冠のレイラ選手とオリヴィア選手!レイラ選手は側面に周り込み魔導拳銃を向け、オリヴィア選手はその場から魔法剣銃を構えた」
「「死ね」」
『大量の魔導弾と火弾がジン選手を襲う!』
遅いな。
『しかしその全てを躱しています!これは凄い!』
(本当に凄い。貫通力も速度も桁違いの魔導弾丸と威力が高い魔法弾丸の雨を綺麗に躱している。やっぱり彼の実力は十一組の実力じゃない。いえ、遥かに学生の領域を超えている)
「もう、なんで当たらないのよ!」
「ウェルドの攻撃を全て躱していただけの事はありますね。だけどこれならどうですか!」
『オリヴィア選手二丁目の魔法剣銃を取り出した!これではさすがのジン選手も躱すのは厳しいか!』
(いえ、彼なら全て躱す。私との模擬戦でも本気を出さなかった彼なら……)
「レイラ、貴方も少しは本気を出しなさい」
「うるさいな。私に指図して良いのはサイモンだけなんだからね!」
二人とも魔法剣銃、魔導拳銃の二丁剣銃か。だけどレイラの方はマガジンを変えているな。何か仕掛けてくる気だな。
「火弾!雷弾!」
「弾丸水纏!」
違う属性を同時に発動できるのか。イザベラからは高等技術だと教わっていたけど出来る奴が居たとはな。いや流石は魔族と言うべきか。それとやはり仕掛けがあったな。水を纏った弾丸か。貫通強化、速度強化はそのままで属性付与の術式まで組み込んでいるのか。よくもまあ、そんな発想が思いつくよな。
『こ、これは!火、水、雷の弾丸の雨がジン選手を襲う!』
だけど数が増えたところで意味はないな
『しかしこれもジン選手は全て躱しています!いったいどんな方法で高速の弾丸の雨を躱しているのでしょうか!』
「もう、これでも駄目なの!」
「レイラ慌てては駄目ですよ。ウェルドもあの男の挑発に乗ってやられたのですから」
「分かってるよ!それと指図していいのは――」
「サイモン様だけでしょ。分かってますよ」
「人の台詞を横から奪わないでよ!」
「我侭ですね……」
こいつらよく今まで上手いこと連携出来たよな。俺としてはとても不思議なんだが。
「それより早く終わらせましょう」
「指図されるのは気に食わないけど、それには同感」
二人が纏う空気が変わったな。少し本気を出すつもりか。
「では行きますよ!」
「レイラ選手とオリヴィア選手が同時にジン選手目掛けて走り出した!」
「今すぐ死になさい!」
「おっと」
「よそ見してると本当に死んじゃうよ!」
「危なっ!」
こいつら仲が悪いくせに連携が凄い。次にどう動くか即座に予測して攻撃してきやがる!それにあの魔法剣銃名前の通り剣にも銃にもなりやがる。状況を見て即座に切り替えてくるから厄介だ!
『レイラ選手とオリヴィア選手!中距離からの攻撃では倒せないと判断すると即座に近距離に切り替えジン選手を追い込む!ってミューラいい加減に立ち直りなさいよ!』
『じんぐんががわいぞう……じゅりあずぐんがじゅりあずぐんが』
『勝手にジュリアス選手を殺さないでよ!分かってるでしょこれは大会なの。本当に死ぬわけじゃないのよ』
『………そうでした』
『まったくもう……って大変御見苦しい姿をお見せしました!それよりもジン選手未だにレイラ選手とオリヴィア選手の猛攻を全て躱しています!いったい彼は何者なのでしょうか!十一組の担任としてとても気になります!』
最初は苦戦したが流石に目が慣れてきたな。
「もうなんなのコイツ!」
「攻撃を続けますよ!もう残り時間は5分弱です。このまま押し切れば私たちの勝ちです!」
なに!残り時間が5分だと。決勝戦は30分と長いなと思っていたがやはり闘っていると時間の流れは早いな。なら俺も少し本気を出すとするか。
「悪いがお遊びはここまでた!」
ドンッ!
「………」
「………」
『………っ!二人の猛攻の隙をついたジン選手の一撃でレイラ選手とオリヴィア選手が倒されてしまいました!その光景に生徒、そして我々教師人も一瞬なにが起きたのか分かりませんでした!ですがこれで残りは1対1決着がどうなるか分かりません!』
演習場内が静まり返る。俺ってそんなに弱いって思われてたの。ちょっと悲しい。
「貴様、よくも俺の仲間を……」
「お前にだけには言われたくないな」
「容赦無く女を倒しておいてよく言う」
「だからお前にだけには言われたくないって!」
「俺は女の顔を掴んで地面に叩き付けたりはしない」
「生憎と俺は敵に対しては平等主義なんだ」
「都合の良い言葉だな」
「悪いか?」
「いや、これで存分に貴様を叩き潰せる」
「そうだな。俺も存分に弱肉強食を刻み付けられる」
絶対にこいつには負けられない。こいつだけは絶対に許さない。どんな理由があれ俺の仲間を倒し奴は許さない!
俺はサイモン目掛けて走る。
「三種の獅子!」
短縮詠唱と同時に火、雷、闇の属性を持つ獅子が出現した。時間もないと言うのに面倒な!
「魔力を持たないお前にこいつらを倒す術はない。逆に触れようものなら身を焼かれるか、痺れるか、幻影に犯されるかだ」
あの真っ黒の獅子は幻を見せるのか。厄介極まりないな。
「だが、関係ねぇ!」
獅子共の攻撃を躱した俺は一直線にサイモンに近づく。
「フッ、やはり貴様は虫けら以下だな」
「なに――っ!」
ちっ!どうなってやがる!獅子どもの攻撃は全て躱し置き去りにしてきた筈!なのにどうして横から襲われる!ってこのままだと右腕が丸焦げになっちまう!
「闇の扉だ。俺が指定した場所同士を繋げる魔法だ」
「時空間魔法か!」
「ほう、魔力を持たぬ貴様にしては、よく知っていたな。だがもう終わりだ俺の獅子は一度噛み付けば離れる事はなっ!」
『これはどう言うことでしょうか!いきなりサイモン選手の炎の獅子が消滅してしまいました!』
「貴様何をした!」
「誰がそうそう教えるかよ」
痛い!超痛い!久々に使ったからこの感じすっかり忘れてた。魔力量が多ければ多いほど痛みが増すとはいえ、どれだけ魔力込めてんだよ!アホか!
「それにしても驚いたのはこっちだっつうの!別属性の魔法を同時に発動したかと思えば時空間魔法まで使えるなんてチートにもほどがあるだろ!」
「虫けらである貴様には一生手にすることの出来ぬ才能だ」
「うるせぇそんなこと分かってるよ。だけどお前に時空間魔法があることだけ分かっただけでも良好だ。残り時間三分カップ麺が出来る前にテメェを倒してやるよ」
「虫けらがほざくな。勝つのは俺だ!」
俺は再びサイモンの野郎に近づく。
「チッ!さっきより速いだと!ならこれならどうだ!」
お前ら二匹が邪魔したところで意味は無いんだよ!
「また消滅ただと!」
「これはフェリシティーの分だ!」
「ぐへっ!」
『入った!ジン選手の拳がサイモン選手の顔面に叩き込まれました!』
だけどやっぱり才能だけ野郎じゃないな。あの一撃を食らっても倒れないなんて、沢山鍛錬した証拠だ。ジュリアスたちの想いのついでに楽しませて貰うぜ。
「随分と男前になったなサイモン」
「貴様……よくも俺の顔を傷つけたな。許さん!貴様には絶望なんて生ぬるい!それ以上のモノを味合わせてやる!三種の猛獣!」
「やってみやがれ!」
今度こそてめぇを地面と対面させてやる!
火、雷、闇で具現化した大量の猛獣どもが俺に襲い掛かってくる。面倒な!今度は獅子だけじゃないのかよ!それにしてもどれだけだしてるんだよ!優に五十は超えてるぞ!
「貴様の切り札の原理は分からないが、これだけの数を一度に相手するのは至難の筈だ!さあ、倒して見せろ出来るものならな!」
誰がまともに相手するかよ。手駒が多かろうが関係ねぇ、てめぇさえぶっ飛ばせば勝ちなんだからよ!
「ぐあああああぁぁぁ!」
「三種の猛獣に気を取られて忘れたのか。俺には闇の扉があることを!」
そうだった。それにしても闇の扉で猛獣どもを俺の真上から出現させやがって。これじゃ360度どころの話じゃないぞ。まったく。だが面白い!あの島でも多対一は何度もやったがこれだけの種類と一度に闘った事は無いからな。それに空からの攻撃はあの島では日常茶飯事だ。全部消してやるよ!
俺は目に付く場所から猛獣たちを消して行く。噛み付かれたって関係ない。その後掴んで消せば良いだけの話だ。逆に向こうから近づいてきてくれて助かる。
あと残り数は20……10……5……3、2、1、0。
「ば、馬鹿な……」
「よう、全部消してやったぞ」
ああ、流石にヤバイ。外傷はしないとはいえ、呪いの使いすぎで両手の感覚がまったくない。服も燃えてボロボロだ。まったく無駄な出費させやがって。それともこれって学園側が負担してくれるのか?そうだと良いな。
ふと、視界に入ったタイマーを確認する。
「残り時間一分弱か。覚悟しろ後輩。本当の弱肉強食がどれほどのものか刻み込んでやるからよ」
「魔力も持たない弱者の貴様を俺は先輩と認めるわけがないだろ!」
良いぞ。素晴らしい闘志だ。どんな想いでこの試合に臨んでるかしらないがそれでこそ刻み込み甲斐があるってものだ。
残り一分。お前の意思を示して見せろ!
ったくどこまで王様気取りなんだ。こいつは。だが一つだけハッキリしていることがある。それは仲間が倒された事への怒りだ。これまで誰一人としてリタイアすることなくここまで来た。だからこそ冷静でいられたが、まさか死ぬわけでもないのにこれほどまでに怒りが沸き立つなんてな。あの気まぐれ島では味わえなかったことだ。
「生憎両方ともお断りだ」
「ほう……ではどうするつもりだ?」
「決まってるだろ。お前はぶん殴るのさ」
「俺をぶん殴るだと……ふ、ふはははっ!愚かで虫けらの中でもお前はそれ以上だな。魔力も持たないお前に何が出来ると言うのだ。この学園は誰もが知る実力主義だ。だがそれは魔力量と魔力属性の多さが優劣を決めると言っても過言ではない。つまり魔法こそが弱肉強食を決める全てなのさ!」
魔法こそが全て。そう言う考えも確かに出来る。だが弱肉強食ってのは魔法だけじゃないんだよ。俺はそれをあの島で身を持って知っている。
「だからこそ俺が教えてやるよ。本当の弱肉強食がどんなものなのかをな!」
「ふふ、良かろう。だがそれは不可能だ。お前一人では俺たち三人には勝てない」
「なに?」
俺は一瞬その意味を理解出来なかった。だが視界の端に入り込んだ倒れるジュリアスの姿を見て理解した。
「ジュリアス!」
敵を前にして愚かな行為だと分かっていも俺はジュリアスに駆け寄っていた。
「ジュリアス!しっかりしろ!」
「……ジン、すまない……どうやら私はここまでのようだ……リーダーであり……一組で……ありながら……まったく情けない……ものだな……相手の魔力を……削ることしか……出来なかった……すまないが……後は……頼んだ……」
「………」
なんで笑ってるんだよ!お前は負けたんだぞ!なのに笑って気を失うなよ馬鹿野郎が!
『な、なんと悲しい光景なのおおおおぉぉ!最愛のジュリアス選手を失ってしまったジン選手!二人の恋はまだ始まったばかりだというのに、これほどの悲劇があって良いの!』
『ミューラまだ試合中なのよ!なに自分の趣味を全開に実況してるのよ!』
『うおおおおおおぉぉぉ!!』
『って、なに号泣してるのよ!ちゃんと実況しなさいよ!ああ、もう!申し訳ありませんがここからは私が実況を行います!ほら、これで涙を拭いてって鼻水を拭かないでよ汚いな!』
『だっでがなぢぐでなみだがとまりまないんです!』
ああ、任せろ。後は俺があいつらをぶっ飛ばすからな。それにしても仲間が倒れるのがこれほど辛く腹立たしいなんて初めてだ。アイツを亡くした時と似て非なるものだが、この気持ちは味わいたくないな。だからこそ俺はあの島で身をもって知った事を奴に教えないといけない。
「これでもまだ、貴様は俺に馬鹿げたことを教えるというのか?」
「いや、教えるのは止めだ」
「ほう、どうやら物事を理解する脳みそは持っていたようだな」
「その代わりお前の体に刻み込んでやるよ。真の弱肉強食が如何に恐ろしいものかをな」
「………もうよい。弱者の貴様が如何に戯言を口にしようが関係ない。不愉快なだけだ」
『たった一人となってしまったジン選手。それに対して失われた大冠にはレイラ選手、ジュリアス選手を倒したオリヴィア選手、そしてフェリシティー選手、レオリオ選手、エミリア選手を瞬殺したサイモン選手が残っています。絶体絶命のこの状況でジン選手はどう闘うのでしょうか!観客席からはジン選手を応援する女子生徒と同じ十一組の生徒の声が響き渡っています』
「レイラ、オリヴィア。あの虫けら以下の存在を今すぐ倒して来い」
「畏まりましたサイモン様」
「分かったよ。サイモンを馬鹿にした奴は私が全員撃ち殺してあげる」
「先に行動を開始したのは失われた大冠のレイラ選手とオリヴィア選手!レイラ選手は側面に周り込み魔導拳銃を向け、オリヴィア選手はその場から魔法剣銃を構えた」
「「死ね」」
『大量の魔導弾と火弾がジン選手を襲う!』
遅いな。
『しかしその全てを躱しています!これは凄い!』
(本当に凄い。貫通力も速度も桁違いの魔導弾丸と威力が高い魔法弾丸の雨を綺麗に躱している。やっぱり彼の実力は十一組の実力じゃない。いえ、遥かに学生の領域を超えている)
「もう、なんで当たらないのよ!」
「ウェルドの攻撃を全て躱していただけの事はありますね。だけどこれならどうですか!」
『オリヴィア選手二丁目の魔法剣銃を取り出した!これではさすがのジン選手も躱すのは厳しいか!』
(いえ、彼なら全て躱す。私との模擬戦でも本気を出さなかった彼なら……)
「レイラ、貴方も少しは本気を出しなさい」
「うるさいな。私に指図して良いのはサイモンだけなんだからね!」
二人とも魔法剣銃、魔導拳銃の二丁剣銃か。だけどレイラの方はマガジンを変えているな。何か仕掛けてくる気だな。
「火弾!雷弾!」
「弾丸水纏!」
違う属性を同時に発動できるのか。イザベラからは高等技術だと教わっていたけど出来る奴が居たとはな。いや流石は魔族と言うべきか。それとやはり仕掛けがあったな。水を纏った弾丸か。貫通強化、速度強化はそのままで属性付与の術式まで組み込んでいるのか。よくもまあ、そんな発想が思いつくよな。
『こ、これは!火、水、雷の弾丸の雨がジン選手を襲う!』
だけど数が増えたところで意味はないな
『しかしこれもジン選手は全て躱しています!いったいどんな方法で高速の弾丸の雨を躱しているのでしょうか!』
「もう、これでも駄目なの!」
「レイラ慌てては駄目ですよ。ウェルドもあの男の挑発に乗ってやられたのですから」
「分かってるよ!それと指図していいのは――」
「サイモン様だけでしょ。分かってますよ」
「人の台詞を横から奪わないでよ!」
「我侭ですね……」
こいつらよく今まで上手いこと連携出来たよな。俺としてはとても不思議なんだが。
「それより早く終わらせましょう」
「指図されるのは気に食わないけど、それには同感」
二人が纏う空気が変わったな。少し本気を出すつもりか。
「では行きますよ!」
「レイラ選手とオリヴィア選手が同時にジン選手目掛けて走り出した!」
「今すぐ死になさい!」
「おっと」
「よそ見してると本当に死んじゃうよ!」
「危なっ!」
こいつら仲が悪いくせに連携が凄い。次にどう動くか即座に予測して攻撃してきやがる!それにあの魔法剣銃名前の通り剣にも銃にもなりやがる。状況を見て即座に切り替えてくるから厄介だ!
『レイラ選手とオリヴィア選手!中距離からの攻撃では倒せないと判断すると即座に近距離に切り替えジン選手を追い込む!ってミューラいい加減に立ち直りなさいよ!』
『じんぐんががわいぞう……じゅりあずぐんがじゅりあずぐんが』
『勝手にジュリアス選手を殺さないでよ!分かってるでしょこれは大会なの。本当に死ぬわけじゃないのよ』
『………そうでした』
『まったくもう……って大変御見苦しい姿をお見せしました!それよりもジン選手未だにレイラ選手とオリヴィア選手の猛攻を全て躱しています!いったい彼は何者なのでしょうか!十一組の担任としてとても気になります!』
最初は苦戦したが流石に目が慣れてきたな。
「もうなんなのコイツ!」
「攻撃を続けますよ!もう残り時間は5分弱です。このまま押し切れば私たちの勝ちです!」
なに!残り時間が5分だと。決勝戦は30分と長いなと思っていたがやはり闘っていると時間の流れは早いな。なら俺も少し本気を出すとするか。
「悪いがお遊びはここまでた!」
ドンッ!
「………」
「………」
『………っ!二人の猛攻の隙をついたジン選手の一撃でレイラ選手とオリヴィア選手が倒されてしまいました!その光景に生徒、そして我々教師人も一瞬なにが起きたのか分かりませんでした!ですがこれで残りは1対1決着がどうなるか分かりません!』
演習場内が静まり返る。俺ってそんなに弱いって思われてたの。ちょっと悲しい。
「貴様、よくも俺の仲間を……」
「お前にだけには言われたくないな」
「容赦無く女を倒しておいてよく言う」
「だからお前にだけには言われたくないって!」
「俺は女の顔を掴んで地面に叩き付けたりはしない」
「生憎と俺は敵に対しては平等主義なんだ」
「都合の良い言葉だな」
「悪いか?」
「いや、これで存分に貴様を叩き潰せる」
「そうだな。俺も存分に弱肉強食を刻み付けられる」
絶対にこいつには負けられない。こいつだけは絶対に許さない。どんな理由があれ俺の仲間を倒し奴は許さない!
俺はサイモン目掛けて走る。
「三種の獅子!」
短縮詠唱と同時に火、雷、闇の属性を持つ獅子が出現した。時間もないと言うのに面倒な!
「魔力を持たないお前にこいつらを倒す術はない。逆に触れようものなら身を焼かれるか、痺れるか、幻影に犯されるかだ」
あの真っ黒の獅子は幻を見せるのか。厄介極まりないな。
「だが、関係ねぇ!」
獅子共の攻撃を躱した俺は一直線にサイモンに近づく。
「フッ、やはり貴様は虫けら以下だな」
「なに――っ!」
ちっ!どうなってやがる!獅子どもの攻撃は全て躱し置き去りにしてきた筈!なのにどうして横から襲われる!ってこのままだと右腕が丸焦げになっちまう!
「闇の扉だ。俺が指定した場所同士を繋げる魔法だ」
「時空間魔法か!」
「ほう、魔力を持たぬ貴様にしては、よく知っていたな。だがもう終わりだ俺の獅子は一度噛み付けば離れる事はなっ!」
『これはどう言うことでしょうか!いきなりサイモン選手の炎の獅子が消滅してしまいました!』
「貴様何をした!」
「誰がそうそう教えるかよ」
痛い!超痛い!久々に使ったからこの感じすっかり忘れてた。魔力量が多ければ多いほど痛みが増すとはいえ、どれだけ魔力込めてんだよ!アホか!
「それにしても驚いたのはこっちだっつうの!別属性の魔法を同時に発動したかと思えば時空間魔法まで使えるなんてチートにもほどがあるだろ!」
「虫けらである貴様には一生手にすることの出来ぬ才能だ」
「うるせぇそんなこと分かってるよ。だけどお前に時空間魔法があることだけ分かっただけでも良好だ。残り時間三分カップ麺が出来る前にテメェを倒してやるよ」
「虫けらがほざくな。勝つのは俺だ!」
俺は再びサイモンの野郎に近づく。
「チッ!さっきより速いだと!ならこれならどうだ!」
お前ら二匹が邪魔したところで意味は無いんだよ!
「また消滅ただと!」
「これはフェリシティーの分だ!」
「ぐへっ!」
『入った!ジン選手の拳がサイモン選手の顔面に叩き込まれました!』
だけどやっぱり才能だけ野郎じゃないな。あの一撃を食らっても倒れないなんて、沢山鍛錬した証拠だ。ジュリアスたちの想いのついでに楽しませて貰うぜ。
「随分と男前になったなサイモン」
「貴様……よくも俺の顔を傷つけたな。許さん!貴様には絶望なんて生ぬるい!それ以上のモノを味合わせてやる!三種の猛獣!」
「やってみやがれ!」
今度こそてめぇを地面と対面させてやる!
火、雷、闇で具現化した大量の猛獣どもが俺に襲い掛かってくる。面倒な!今度は獅子だけじゃないのかよ!それにしてもどれだけだしてるんだよ!優に五十は超えてるぞ!
「貴様の切り札の原理は分からないが、これだけの数を一度に相手するのは至難の筈だ!さあ、倒して見せろ出来るものならな!」
誰がまともに相手するかよ。手駒が多かろうが関係ねぇ、てめぇさえぶっ飛ばせば勝ちなんだからよ!
「ぐあああああぁぁぁ!」
「三種の猛獣に気を取られて忘れたのか。俺には闇の扉があることを!」
そうだった。それにしても闇の扉で猛獣どもを俺の真上から出現させやがって。これじゃ360度どころの話じゃないぞ。まったく。だが面白い!あの島でも多対一は何度もやったがこれだけの種類と一度に闘った事は無いからな。それに空からの攻撃はあの島では日常茶飯事だ。全部消してやるよ!
俺は目に付く場所から猛獣たちを消して行く。噛み付かれたって関係ない。その後掴んで消せば良いだけの話だ。逆に向こうから近づいてきてくれて助かる。
あと残り数は20……10……5……3、2、1、0。
「ば、馬鹿な……」
「よう、全部消してやったぞ」
ああ、流石にヤバイ。外傷はしないとはいえ、呪いの使いすぎで両手の感覚がまったくない。服も燃えてボロボロだ。まったく無駄な出費させやがって。それともこれって学園側が負担してくれるのか?そうだと良いな。
ふと、視界に入ったタイマーを確認する。
「残り時間一分弱か。覚悟しろ後輩。本当の弱肉強食がどれほどのものか刻み込んでやるからよ」
「魔力も持たない弱者の貴様を俺は先輩と認めるわけがないだろ!」
良いぞ。素晴らしい闘志だ。どんな想いでこの試合に臨んでるかしらないがそれでこそ刻み込み甲斐があるってものだ。
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