27 / 274
第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第二十四話 AAA
しおりを挟む
「ジンいい加減起きろ!」
「もう少しだけ寝かせてくれ」
白く輝く日差しが窓から寝室を照らす。
だが睡眠を堪能している俺にとっては耳元で飛び回る鬱陶し虫とさほど変わりはない。
ましてや虫以上に煩い奴が俺の至福の一時を邪魔しようとしているのだから気分は最悪だ。
「休みだからといってこんな堕落した生活は私が許さん!」
「やめてぇ!」
「気持ち悪い声を出すな!」
掛け布団を奪われてしまった俺は仕方なく起きることにした。ふぅあ~ネム。寮を抜け出して久々に夜の街でハッスルしたせいで寝るのが遅かったからな。仕方が無いか。
「まったくどうして寮生活を送っているのにこうも堕落した生活が出来るんだ」
「それが俺だからだ」
「胸を張って言うことじゃないだろ。ほら、いい加減顔を洗ってシャキッとしろ」
「へいへい。ったくお前は俺の嫁かよ」
まだはっきりとしない視界のままベットから立ち上がりながら、冗談交じりに愚痴る。
「なっ!何を馬鹿な事を言ってるんだ!」
「なに赤くなってるんだよ。ただの冗談だろうが」
「変な冗談を言うな馬鹿者!」
「グヘッ!」
思いっきり後頭部を殴られた俺はその勢いで玄関まで吹き飛ばされた。ったくこんなことで肉体強化の魔法を使うなよな。てか暴力は駄目だろ。暴力は。
顔に青痣を作ってしまった俺はそのままジュリアスと適当に一日を過ごした。
で、その次の日からは憂鬱にして億劫な一週間の始まりだ。ああ、どうして休日と平日が逆じゃないんだ!どうして五日も勉強や仕事をしないといけないんだ!どうして休日は二日しかないんだ!これを考えた奴は鬼だ!悪魔だ!このままだと憎しみで頭がおかしくなりそうだ。
前世では社畜の如く生活していた俺。働きたくない好きな事だけして悠々自適な生活を送りたいとどれだけ臨んだ事か。
きっとそんな願望やあの島での培った価値観などが混じって今の人格になったんだろうな。
で、時は経ち金曜日。
ああ、なんて素晴らしい日なんだ!今日はいよいよ武闘大会参加受付日。
説明などもあってか午前中で授業は終わり午後からは面倒だが爺婆共の話を聞くだけ、そして明日から待ちに待った休日。ああ、なんて素晴らしい日なんだ!
「ジンが今なにを思っているのか見ただけで分かるな」
俺の目の前でご飯を食べるジュリアスの一言にレオリオたちは苦笑いを浮かべていた。
午前中の授業は終わり、昼休みになった俺たちはいつものメンバーでご飯を食べていた。因みにイザベラたちはアンドレアたちとバルコニーでご飯を食べていた。
「ほんとだぜ。月曜日なんて死んだ魚の目してたくせに」
「今は元気いっぱいだもんね」
「これほど己の感情が表情に出る人を初めて見ました」
ジュリアスたちが色んな事を言っているがどうでもいい。俺にとって今日は天国へのカウントダウンが始まろうとしているんだからな。
「ジン忘れるなよ。武闘大会の説明が終わったらみんなで受付に行くんだからな」
これで、俺は自由になれる!
「聞いちゃいないな」
「まったく……」
ジュリアスは呆れ額に手を当て、レオリオたちは苦笑いを浮かべていた。
「どうしたんだ午前中の授業で疲れたのか?」
「なぁ、私はコイツを殴っても良いだろうか?」
食事も終わっていないのに何故か席から立ち上がったジュリアスはドス黒いオーラを漂わせながら握りこぶしを振り上げていた。
「ジュリアス君落ち着いて!」
「そうです。喧嘩は駄目です!」
そんなジュリアスをエミリアとフェリシティーが慌てて止めていた。まったく明日が休みだからって元気いっぱいだな。そんなに楽しみなのか。
そんで時間は流れて昼休みが終わり全校生徒は超デカイ多目的ホールに集められた。正直内装は国会議事堂かと最初は思ったけどな。
んで、俺は一番最後列の席で学園長たちの話を聞かずにお昼寝を堪能する。爺婆の話を聞いても口煩いだけだからな。
話が終わったのか生徒たちが次々と外に出て行く足音で目を覚ました俺は合流したジュリアスたちと一緒に受付に向かう。
「あの感じだと今年は出場者が多そうだな」
「そうね。なんたって代表選手には豪華商品が贈られるんだから」
「それに有名デザイナーによる戦闘服を無料で製作してくれますしね」
「軍務科も冒険科も闘争心を燃やしまくりだ」
なんだか色んな話をしているが正直俺にはどうでもいい話だ。豪華商品がなんだか知らないがどうせ武器だろうし、服もそこまで興味ないからな。
受付に行くと既に沢山の生徒によって行列が出来ていた。
「これは……凄いな」
「これ、冒険科の生徒だけよね?」
「そうです」
説明会を終えて受付に向かうとそこには大蛇の如き、長蛇の列が出来ていた。
団体戦は最初科ごとにするため受付が別になっている。それでも並ぶ生徒の数は尋常ではなかった。流石はマンモス学園生徒数が半端ない。
「これなら先に個人戦に参加登録してきたほうが良さそうだな」
俺がそう呟くとレオリオたちが返答してきた。
「個人戦かぁ~……私はパスかな」
「私も遠慮させてもらいます」
「俺も団体戦だけで十分だ」
「なら、個人戦は私とジンだけだな」
「おい、なんで俺まで出ないといけないんだ」
「出ないのか?」
「出てなんかメリットあるのか?」
「メリットって優勝し代表になるだけでも就職に優位だし、名誉な事だぞ」
「名誉で腹は膨れねぇよ」
「まったく……」
俺の言葉に嘆息するジュリアス。なんで嘆息するんだ?あたりまえだろ。
「でも優勝して代表選手に選ばれたら学園側が一つだけなんでも願いを叶えてくれるらしいよ」
「本当か!」
「もちろん、叶えられる範囲だけど」
「よし、出よう!」
「なんて愚かな」
「凄い。目がころころ変わってますね。お金、お肉、卑猥な顔。欲望を曝け出してますね」
ジュリアスの言葉にやる気が出た俺は即座に参加する事を決意したが、何故かジュリアスは呆れて額に手を当て、エミリアは驚きつつも興味津々に俺の顔を見ていた。
俺の顔に何か付いているのか?いや、今はそんな事どうでも良い。いったいなにを叶えて貰おうか!大金でも良いか。そうすれば働かなくてすむし、いや最高級のお肉一年分も捨てがたい。それよりも女か。最高の美女でも良いな!ああ、駄目だ。妄想が膨らんで止まらないぜ。
「ほら行くぞジン。先に個人戦の参加登録をすませるぞ」
「おう!」
「すまないが私たちの変わりに並んでおいてくれ」
「分かった」
「任せて」
俺とジュリアスは個人戦に登録すべく列に並ぶ。団体戦より遥かに人数が少ない個人戦受付は比較的短い時間で受付まで辿り着けた。
先にジュリアスが受付の女性の前に立つ。あ、あの受付少し頬を赤らめた。ま、ジュリアスは美少年だからな。仕方が無い。胸糞悪いが。
「お名前をどうぞ」
「冒険科四年一組出席番号三番、ジュリアス・L・シュカルプです」
「はい。それでは使用する武器と得意な属性を教えてください」
「武器は魔導武器の刀。得意な属性は氷です」
「解りました。それでは以上になります」
思った以上に楽な参加手続きなんだな。
そう思いながらある疑問が浮かんだ。
「自分の名前と所属場所を言うのは分かるんだが、武器や魔法も言わないと駄目なのか?」
「パンフレットを作るのに必要なんだ」
「なるほどな」
パンフレットか。と言うよりもどんな選手が出ているのかを明確にするためだろう。
勿論それだけじゃない筈だ。簡単に思いつく事で言えば、事前に相手の情報を手に入れられるため戦い方が練られる事だろう。きっと先生たちはそう言った事前の行動も見たいんだろう。
「では、次の方どうぞ」
俺はジュリアスと場所を入れ替わる。今度は頬を赤らめないか。ケッ!
「お名前をお願いします」
「冒険科四年十一組出席番号は………何番だ?」
「生徒手帳に書いてあるだろ!」
ポケットから取り出した生徒手帳を開く。
「えっと……出席番号は42番、オニガワラ・ジンだ」
「では武器と得意属性を教えてください」
「そうだな……武器はパチンコ玉」
「パ、パチンコ玉ですか?」
意外な武器に聞き返して来る受付嬢。それだけありえないのだろう。ま、剣や銃といった武器を使用する中1人だけパチンコ玉だもんな。仕方がない。
「そうだ」
「では得意な属性は?」
「無い」
「えっとそれはつまり無属性だけと言う事ですか?」
「違う俺は魔力が無いんだ」
「え?」
俺の言葉に受付嬢と俺の後ろに並ぶ生徒たちからざわめきが起こり騒々しくなる。ま、当然の反応だな。
「え~とそれで参加するのですか?」
「駄目なのか?」
「い、いえ!そんな事はありません!」
ま、どうみても魔力無しが出場なんて馬鹿げてるって思ってるんだろうな。それもこの国は魔法主義なところがあるからな。当然の反応だな。
「登録完了しました」
「了解。ジュリアス行こうぜ」
「あ、ああ」
なんだか不機嫌だがどうしたんだ?ま、良いか。
俺とジュリアスはその後レオリオたちと合流した。
「あれ?ジュリアス君不機嫌そうだけどどうしたの?」
「あ、いや大したことじゃないんだ」
「なら教えてよ」
「………ただ、ジンが魔力無しと知ったからなのか蔑んだ目で見てくるから腹が立つだけだ」
「なるほどね」
ジュリアスの言葉を理解したのかエミリアたちは微笑を浮かべていた。
「別に俺のことなんだから気にすること無いだろ」
「そ、それはそうなんだが……」
そんな俺の言葉に更に落ち込むジュリアス。
「ジン……」
「ん?どうしたんだお前ら疲れきったような表情をして」
レオリオが俺の名前を呼んだので視線を向けるとレオリオたち3人から酷いと言わんばかりの疲れ切った顔をしていた。
「酷いよ~」
「え?」
「はい、まったく酷いです」
「おいおいどうしたんだよ急に!」
まったく意味が解らない。誰か説明してくれ。
「それよりも正直に答えて良かったのか?」
レオリオがそんな事を言ってるくるが意味が分からん。
首を傾げる俺を見たレオリオは嘆息して言い直す。
「だから素直に自分の弱点を教えて良かったのか言ってるんだ」
「そういうことか。別に構わねぇよ。戦い方は色々だからな」
「だけどよ。弱点が知れたらそれだけ不利になるんだぞ。そうなれば団体戦だって不利だぜ」
「確かにそうかもな。だけどお前らは俺と戦った事があるから分かるだろ。本当に不利だと思うか?」
俺の言葉に目を見開けたかと思えば、すぐに笑みを浮かべた。
「確かにそうだな」
「ええ、そうですね」
「思えないよねぇ~」
「だろ。だったら問題ない」
俺たちの顔に不安は微塵もない。あるのは笑顔と早く闘ってみたいという思いのみ!
「それでは次のチームお願いします」
ようやく俺たちの番が回ってきた。
「それでは学年、クラス、名前とチーム名とリーダーが誰なのかこれに記入してください」
個人戦の時とは違い自分たちで記入するんだな。
「誰が最初に書く?」
「なら、私から書こう」
ジュリアスが記入していく。
その次にエミリア、フェリシティー、レオリオの順番に記入していき、最後に俺だ。
ええっと、なになに。まずは学年、クラス、名前を書いて。で、得意な魔法と武器を記入するのか。個人戦と一緒だな。少し違うとすれば使役している魔物がいるなら記入するぐらいか。
同じ事を二度書くほど面倒なことはないが個人戦では受付嬢が参加登録の内容を書いてくれたから問題ない。
で、最後にチーム名とリーダーか。
「なら、リーダーはジュリアスだな」
「待て!」
「ん?どうした?」
慌てて止めに入る。
「どうして私なんだ!」
「だって一組だし」
「それは関係ないだろ!」
「いや、だって実力的に考えたら」
「それを言うならジンでも良いじゃないか!」
「えー嫌だ。メンドクサイ」
「なっ!なんだその理由は!」
だってリーダーになったら色々と雑務がありそうだし。
「ま、普通に考えたらここは言いだしっぺがやるのが筋だよな」
「おい、レオリオお前は俺の味方じゃないのか!」
「いや、味方とか関係なく常識的にそうだろ」
「ふっ、俺に常識が通用すると思うなよ」
「格好つけても駄目だからな」
「チッ」
「でも普通に考えてそうだよね」
「はい。作戦やフォーメーションも全てジンさんが考えているわけですし」
「うっ」
まずい。非常にこの流れは拙い。リーダーなんかに選ばれればそれだけで目立つし、雑務や会議やら絶対面倒のオンパレードだ。ここはなんとしても回避しなければ!
「なら、リーダーはジンでけ――」
「待て」
レオリオが決め手となるセリフを言い終わる前に割り込む。危なかった!
「なんだ、まだ文句でもあるのか?」
「確かに作戦立案や指示を出すのは俺だ。だが、リーダーの欄に俺の名前を書く必要がどこにある?」
「ジン、なに変なこと言ってるんだ?」
「だから、すでに闘いは始まっているということだ」
その言葉に全員の表情が変わる。よし、良い流れだ。
「それは……どういうことだ?」
「この紙に書かれた事は後日スマホやモニターで閲覧可能になるんだよな?」
「その通りだ。一部のデータは非表示にされるが、チームメンバーや戦闘スタイル、属性なのが見ることができる」
「それを見て作戦立案を行うわけだよな?」
「なにを当たり前のことを」
「つまり、誰もがスマホやモニターに表示された内容を疑わないわけだよな?」
「「「っ!」」」
その言葉に全員が虚を衝かれた表示になる。よし、予想通りだ。
「ジン、先に言っておくが偽の情報を記入することは規則で禁止されいる」
「それは、使えない属性を記入して使える属性を記入しないことととかだろ?」
「そ、そうだ……」
「だいたいリーダー、イコール作戦を考えたり指示を出したりする人じゃないんだからな。大きな組織なら作戦本部や参謀が居るんだからな」
「まあそれは、そうだが……」
「だから、相手にはリーダーはジュリアスと思わせ本当は俺ということにするのさ」
「つまり表向きはジュリアスだけど、本当はジンってことか?」
「そうだ」
「影から操る首謀者ってことだね」
「闇の支配者ですね」
「た、確かに間違っちゃいないが二人の言い方だと俺が悪人に聞こえるんだが?」
「「気にしないで」」
それで誤魔化したつもりか。ま、これ以上なにか言ったところで時間の無駄だから何もいわないが。
「みんな分かって貰えたようだしジュリアスで良いな?」
「「「賛成!」」」
「納得はいかないが、レオリオたちも賛成していることだしな」
よし!どうにか面倒事は回避できた。後はジュリアスの名前を記入するだけだ。ふふ、自分の話術の凄さに笑いが出そうだ。
「それで、チーム名はどうするんだ?」
「さっきまでとモチベーションの差が凄いな」
「そうだな」
「えっと『さっきまでとはモチベーションの差が凄いな』っともうこれで良いや」
「良いわけないだろ!」
「ぐへっ!」
頭部に突如強烈な鈍痛が襲ってくる。ああ、超痛てぇ!
「まったくそんなチーム名で出されたら一生の恥だ!」
「面白いとは思うけど、嫌だな」
「そうだね」
「もう少し真面目に考えてください」
「なら、素晴らしい名前を思いついてるんだよな?」
スッ
「おい」
俺の問いに一瞬にして目を逸らすジュリアスたち。
「なら、もうこれでいいや」
「「「「待って!」」」」
提出しようとしたらジュリアス達全員に腕や肩を鷲掴みにされて止められてしまった。まったく文句だけ言いやがって。否定するだけなら楽で良いよな。
「ならどうするんだよ」
「そ、それは……」
「チームメイトなんだし皆で考えようよ」
「そうだな」
「はい。それが良いと思います」
結局スタンダードな提案で俺たちは案を出し合うが。
「『赤薔薇の隼団』ってのはどうだ?」
「「「「却下」」」」
ジュリアスの提案に俺たちの声が重なる。そんな背中がむず痒くなるような名前なんて絶対に嫌だ!
「お、これはどうだ!『ロングロングロングロングロングソード』ってのは」
「「「「却下」」」」
そんなに長い剣を持って何がしたいんだ?てか、まずまともに振れるのか?
「ならこう言うのはどうかな。『丸ごとリブロース』」
「「「却下」」」
「賛成!」
ジュリアスたちは反対だったみたいだ。
「ジン、どうして賛成なんだ?」
「え、だって美味しそうだったから」
「そんな理由で賛成するな!」
ったく美味しい、可愛いは正義だろうに。なにが駄目なんだ。
「では、次は私ですね。『ああっ、なんて愚かなの!けして叶う事の無いと分かっているのに、どうして私は貴方に恋をしてしまったの!』ではどうでしょうか」
「「「「却下」」」」
「ですよね」
「クソッ!俺のロングロングロングロングロングソードより長いだと!」
レオリオは悔しそうに握り拳を震わせる。別に悔しがるところでも競うような事でもないだろ。
「フェリーの場合はチーム名と言うより、台詞みたいな感じだったけどね」
結局その後も色々な名前が提案されたが全て却下された。ま、当たり前だよな。
ロイヤルハイパースペシャルロングロングロングロングロングソードとか、超肉厚スペアリブとか、紅の薔薇の団とかどう考えても賛成しないよな。だってこの世は十人十色。人それぞれで好みも感性も違うんだからよ。いや、提案する俺たちに問題があるのか?
「あの……そろそろ決めて貰えないでしょうか?」
受付の人が申し訳なさそうに聞いてくる。どうやら俺たちのせいで進まないらしい。
「流石に決めないと駄目だな」
「そうだな」
「そうだね」
「悪ふざけが過ぎました」
「だから最初に言った俺のにしておけばよかったのに」
「お前のが一番駄目だ」
ジュリアスよ、そこまでド直球に言わなくても良いだろ。俺悲しくて泣いちゃうぞ。
でもこのままなのは駄目だしな。仕方が無い。
俺は話し合うジュリアスたちを放置して用紙に記入する。
「これで頼む」
「しまっ――!」
慌てて止めに入ろうとするジュリアスたちだったが既に遅し!
「分かりました。これで登録しておきます」
受付係によって登録されてしまった。
「ジン!私たちの大切なチーム名をなんだと思ってるんだ!」
「や、やめろ!し、死ぬ!」
「窒息死しろ!」
胸倉を思いっきりつかまれた俺。やばい、本当に息が出来ない!
「すいません!」
「はい。なんでしょうか?」
「なんて名前で登録されたんですか?」
エミリアは慌てて受付係に確認した。俺ってそんなに信用ないんだな。
「えっと貴方たちのチーム名は――」
「「「「チーム名は?」」」」
ジュリアスまで俺を放置して聞きに行ってしまった。
「『AAA』ですね」
「「「「AAA」」」」
その名前を聞いて固まる。あ、これってもしかして激怒して俺が殺されるパターンなんじゃ。
「良いんじゃないか?」
「うん、私は賛成!」
「何色にも染まらない。そんな響きですね」
「ま、悪くはないな」
あれ?意外と高評価。俺の予想とは違ったけど気にって貰えたおかげで死なずにすんだし。結果オーライだな。
「で、ジン」
「なんだ?」
「どう言う意味でこの名前にしたんだ?」
「適当に。名前が決まらないなら名無しでも良いかなって」
「ま、そんな事だろうと思ったよ」
そんな俺の答えにジュリアスは呆れる。分かっていたんなら聞くな。
「でも、格好良いし良いんじゃないか?」
「そうだね」
「私も反対する理由はありません」
「ま、私も反対する理由は見当たらないな」
こうして俺たちのチーム『AAA』が誕生した。
「もう少しだけ寝かせてくれ」
白く輝く日差しが窓から寝室を照らす。
だが睡眠を堪能している俺にとっては耳元で飛び回る鬱陶し虫とさほど変わりはない。
ましてや虫以上に煩い奴が俺の至福の一時を邪魔しようとしているのだから気分は最悪だ。
「休みだからといってこんな堕落した生活は私が許さん!」
「やめてぇ!」
「気持ち悪い声を出すな!」
掛け布団を奪われてしまった俺は仕方なく起きることにした。ふぅあ~ネム。寮を抜け出して久々に夜の街でハッスルしたせいで寝るのが遅かったからな。仕方が無いか。
「まったくどうして寮生活を送っているのにこうも堕落した生活が出来るんだ」
「それが俺だからだ」
「胸を張って言うことじゃないだろ。ほら、いい加減顔を洗ってシャキッとしろ」
「へいへい。ったくお前は俺の嫁かよ」
まだはっきりとしない視界のままベットから立ち上がりながら、冗談交じりに愚痴る。
「なっ!何を馬鹿な事を言ってるんだ!」
「なに赤くなってるんだよ。ただの冗談だろうが」
「変な冗談を言うな馬鹿者!」
「グヘッ!」
思いっきり後頭部を殴られた俺はその勢いで玄関まで吹き飛ばされた。ったくこんなことで肉体強化の魔法を使うなよな。てか暴力は駄目だろ。暴力は。
顔に青痣を作ってしまった俺はそのままジュリアスと適当に一日を過ごした。
で、その次の日からは憂鬱にして億劫な一週間の始まりだ。ああ、どうして休日と平日が逆じゃないんだ!どうして五日も勉強や仕事をしないといけないんだ!どうして休日は二日しかないんだ!これを考えた奴は鬼だ!悪魔だ!このままだと憎しみで頭がおかしくなりそうだ。
前世では社畜の如く生活していた俺。働きたくない好きな事だけして悠々自適な生活を送りたいとどれだけ臨んだ事か。
きっとそんな願望やあの島での培った価値観などが混じって今の人格になったんだろうな。
で、時は経ち金曜日。
ああ、なんて素晴らしい日なんだ!今日はいよいよ武闘大会参加受付日。
説明などもあってか午前中で授業は終わり午後からは面倒だが爺婆共の話を聞くだけ、そして明日から待ちに待った休日。ああ、なんて素晴らしい日なんだ!
「ジンが今なにを思っているのか見ただけで分かるな」
俺の目の前でご飯を食べるジュリアスの一言にレオリオたちは苦笑いを浮かべていた。
午前中の授業は終わり、昼休みになった俺たちはいつものメンバーでご飯を食べていた。因みにイザベラたちはアンドレアたちとバルコニーでご飯を食べていた。
「ほんとだぜ。月曜日なんて死んだ魚の目してたくせに」
「今は元気いっぱいだもんね」
「これほど己の感情が表情に出る人を初めて見ました」
ジュリアスたちが色んな事を言っているがどうでもいい。俺にとって今日は天国へのカウントダウンが始まろうとしているんだからな。
「ジン忘れるなよ。武闘大会の説明が終わったらみんなで受付に行くんだからな」
これで、俺は自由になれる!
「聞いちゃいないな」
「まったく……」
ジュリアスは呆れ額に手を当て、レオリオたちは苦笑いを浮かべていた。
「どうしたんだ午前中の授業で疲れたのか?」
「なぁ、私はコイツを殴っても良いだろうか?」
食事も終わっていないのに何故か席から立ち上がったジュリアスはドス黒いオーラを漂わせながら握りこぶしを振り上げていた。
「ジュリアス君落ち着いて!」
「そうです。喧嘩は駄目です!」
そんなジュリアスをエミリアとフェリシティーが慌てて止めていた。まったく明日が休みだからって元気いっぱいだな。そんなに楽しみなのか。
そんで時間は流れて昼休みが終わり全校生徒は超デカイ多目的ホールに集められた。正直内装は国会議事堂かと最初は思ったけどな。
んで、俺は一番最後列の席で学園長たちの話を聞かずにお昼寝を堪能する。爺婆の話を聞いても口煩いだけだからな。
話が終わったのか生徒たちが次々と外に出て行く足音で目を覚ました俺は合流したジュリアスたちと一緒に受付に向かう。
「あの感じだと今年は出場者が多そうだな」
「そうね。なんたって代表選手には豪華商品が贈られるんだから」
「それに有名デザイナーによる戦闘服を無料で製作してくれますしね」
「軍務科も冒険科も闘争心を燃やしまくりだ」
なんだか色んな話をしているが正直俺にはどうでもいい話だ。豪華商品がなんだか知らないがどうせ武器だろうし、服もそこまで興味ないからな。
受付に行くと既に沢山の生徒によって行列が出来ていた。
「これは……凄いな」
「これ、冒険科の生徒だけよね?」
「そうです」
説明会を終えて受付に向かうとそこには大蛇の如き、長蛇の列が出来ていた。
団体戦は最初科ごとにするため受付が別になっている。それでも並ぶ生徒の数は尋常ではなかった。流石はマンモス学園生徒数が半端ない。
「これなら先に個人戦に参加登録してきたほうが良さそうだな」
俺がそう呟くとレオリオたちが返答してきた。
「個人戦かぁ~……私はパスかな」
「私も遠慮させてもらいます」
「俺も団体戦だけで十分だ」
「なら、個人戦は私とジンだけだな」
「おい、なんで俺まで出ないといけないんだ」
「出ないのか?」
「出てなんかメリットあるのか?」
「メリットって優勝し代表になるだけでも就職に優位だし、名誉な事だぞ」
「名誉で腹は膨れねぇよ」
「まったく……」
俺の言葉に嘆息するジュリアス。なんで嘆息するんだ?あたりまえだろ。
「でも優勝して代表選手に選ばれたら学園側が一つだけなんでも願いを叶えてくれるらしいよ」
「本当か!」
「もちろん、叶えられる範囲だけど」
「よし、出よう!」
「なんて愚かな」
「凄い。目がころころ変わってますね。お金、お肉、卑猥な顔。欲望を曝け出してますね」
ジュリアスの言葉にやる気が出た俺は即座に参加する事を決意したが、何故かジュリアスは呆れて額に手を当て、エミリアは驚きつつも興味津々に俺の顔を見ていた。
俺の顔に何か付いているのか?いや、今はそんな事どうでも良い。いったいなにを叶えて貰おうか!大金でも良いか。そうすれば働かなくてすむし、いや最高級のお肉一年分も捨てがたい。それよりも女か。最高の美女でも良いな!ああ、駄目だ。妄想が膨らんで止まらないぜ。
「ほら行くぞジン。先に個人戦の参加登録をすませるぞ」
「おう!」
「すまないが私たちの変わりに並んでおいてくれ」
「分かった」
「任せて」
俺とジュリアスは個人戦に登録すべく列に並ぶ。団体戦より遥かに人数が少ない個人戦受付は比較的短い時間で受付まで辿り着けた。
先にジュリアスが受付の女性の前に立つ。あ、あの受付少し頬を赤らめた。ま、ジュリアスは美少年だからな。仕方が無い。胸糞悪いが。
「お名前をどうぞ」
「冒険科四年一組出席番号三番、ジュリアス・L・シュカルプです」
「はい。それでは使用する武器と得意な属性を教えてください」
「武器は魔導武器の刀。得意な属性は氷です」
「解りました。それでは以上になります」
思った以上に楽な参加手続きなんだな。
そう思いながらある疑問が浮かんだ。
「自分の名前と所属場所を言うのは分かるんだが、武器や魔法も言わないと駄目なのか?」
「パンフレットを作るのに必要なんだ」
「なるほどな」
パンフレットか。と言うよりもどんな選手が出ているのかを明確にするためだろう。
勿論それだけじゃない筈だ。簡単に思いつく事で言えば、事前に相手の情報を手に入れられるため戦い方が練られる事だろう。きっと先生たちはそう言った事前の行動も見たいんだろう。
「では、次の方どうぞ」
俺はジュリアスと場所を入れ替わる。今度は頬を赤らめないか。ケッ!
「お名前をお願いします」
「冒険科四年十一組出席番号は………何番だ?」
「生徒手帳に書いてあるだろ!」
ポケットから取り出した生徒手帳を開く。
「えっと……出席番号は42番、オニガワラ・ジンだ」
「では武器と得意属性を教えてください」
「そうだな……武器はパチンコ玉」
「パ、パチンコ玉ですか?」
意外な武器に聞き返して来る受付嬢。それだけありえないのだろう。ま、剣や銃といった武器を使用する中1人だけパチンコ玉だもんな。仕方がない。
「そうだ」
「では得意な属性は?」
「無い」
「えっとそれはつまり無属性だけと言う事ですか?」
「違う俺は魔力が無いんだ」
「え?」
俺の言葉に受付嬢と俺の後ろに並ぶ生徒たちからざわめきが起こり騒々しくなる。ま、当然の反応だな。
「え~とそれで参加するのですか?」
「駄目なのか?」
「い、いえ!そんな事はありません!」
ま、どうみても魔力無しが出場なんて馬鹿げてるって思ってるんだろうな。それもこの国は魔法主義なところがあるからな。当然の反応だな。
「登録完了しました」
「了解。ジュリアス行こうぜ」
「あ、ああ」
なんだか不機嫌だがどうしたんだ?ま、良いか。
俺とジュリアスはその後レオリオたちと合流した。
「あれ?ジュリアス君不機嫌そうだけどどうしたの?」
「あ、いや大したことじゃないんだ」
「なら教えてよ」
「………ただ、ジンが魔力無しと知ったからなのか蔑んだ目で見てくるから腹が立つだけだ」
「なるほどね」
ジュリアスの言葉を理解したのかエミリアたちは微笑を浮かべていた。
「別に俺のことなんだから気にすること無いだろ」
「そ、それはそうなんだが……」
そんな俺の言葉に更に落ち込むジュリアス。
「ジン……」
「ん?どうしたんだお前ら疲れきったような表情をして」
レオリオが俺の名前を呼んだので視線を向けるとレオリオたち3人から酷いと言わんばかりの疲れ切った顔をしていた。
「酷いよ~」
「え?」
「はい、まったく酷いです」
「おいおいどうしたんだよ急に!」
まったく意味が解らない。誰か説明してくれ。
「それよりも正直に答えて良かったのか?」
レオリオがそんな事を言ってるくるが意味が分からん。
首を傾げる俺を見たレオリオは嘆息して言い直す。
「だから素直に自分の弱点を教えて良かったのか言ってるんだ」
「そういうことか。別に構わねぇよ。戦い方は色々だからな」
「だけどよ。弱点が知れたらそれだけ不利になるんだぞ。そうなれば団体戦だって不利だぜ」
「確かにそうかもな。だけどお前らは俺と戦った事があるから分かるだろ。本当に不利だと思うか?」
俺の言葉に目を見開けたかと思えば、すぐに笑みを浮かべた。
「確かにそうだな」
「ええ、そうですね」
「思えないよねぇ~」
「だろ。だったら問題ない」
俺たちの顔に不安は微塵もない。あるのは笑顔と早く闘ってみたいという思いのみ!
「それでは次のチームお願いします」
ようやく俺たちの番が回ってきた。
「それでは学年、クラス、名前とチーム名とリーダーが誰なのかこれに記入してください」
個人戦の時とは違い自分たちで記入するんだな。
「誰が最初に書く?」
「なら、私から書こう」
ジュリアスが記入していく。
その次にエミリア、フェリシティー、レオリオの順番に記入していき、最後に俺だ。
ええっと、なになに。まずは学年、クラス、名前を書いて。で、得意な魔法と武器を記入するのか。個人戦と一緒だな。少し違うとすれば使役している魔物がいるなら記入するぐらいか。
同じ事を二度書くほど面倒なことはないが個人戦では受付嬢が参加登録の内容を書いてくれたから問題ない。
で、最後にチーム名とリーダーか。
「なら、リーダーはジュリアスだな」
「待て!」
「ん?どうした?」
慌てて止めに入る。
「どうして私なんだ!」
「だって一組だし」
「それは関係ないだろ!」
「いや、だって実力的に考えたら」
「それを言うならジンでも良いじゃないか!」
「えー嫌だ。メンドクサイ」
「なっ!なんだその理由は!」
だってリーダーになったら色々と雑務がありそうだし。
「ま、普通に考えたらここは言いだしっぺがやるのが筋だよな」
「おい、レオリオお前は俺の味方じゃないのか!」
「いや、味方とか関係なく常識的にそうだろ」
「ふっ、俺に常識が通用すると思うなよ」
「格好つけても駄目だからな」
「チッ」
「でも普通に考えてそうだよね」
「はい。作戦やフォーメーションも全てジンさんが考えているわけですし」
「うっ」
まずい。非常にこの流れは拙い。リーダーなんかに選ばれればそれだけで目立つし、雑務や会議やら絶対面倒のオンパレードだ。ここはなんとしても回避しなければ!
「なら、リーダーはジンでけ――」
「待て」
レオリオが決め手となるセリフを言い終わる前に割り込む。危なかった!
「なんだ、まだ文句でもあるのか?」
「確かに作戦立案や指示を出すのは俺だ。だが、リーダーの欄に俺の名前を書く必要がどこにある?」
「ジン、なに変なこと言ってるんだ?」
「だから、すでに闘いは始まっているということだ」
その言葉に全員の表情が変わる。よし、良い流れだ。
「それは……どういうことだ?」
「この紙に書かれた事は後日スマホやモニターで閲覧可能になるんだよな?」
「その通りだ。一部のデータは非表示にされるが、チームメンバーや戦闘スタイル、属性なのが見ることができる」
「それを見て作戦立案を行うわけだよな?」
「なにを当たり前のことを」
「つまり、誰もがスマホやモニターに表示された内容を疑わないわけだよな?」
「「「っ!」」」
その言葉に全員が虚を衝かれた表示になる。よし、予想通りだ。
「ジン、先に言っておくが偽の情報を記入することは規則で禁止されいる」
「それは、使えない属性を記入して使える属性を記入しないことととかだろ?」
「そ、そうだ……」
「だいたいリーダー、イコール作戦を考えたり指示を出したりする人じゃないんだからな。大きな組織なら作戦本部や参謀が居るんだからな」
「まあそれは、そうだが……」
「だから、相手にはリーダーはジュリアスと思わせ本当は俺ということにするのさ」
「つまり表向きはジュリアスだけど、本当はジンってことか?」
「そうだ」
「影から操る首謀者ってことだね」
「闇の支配者ですね」
「た、確かに間違っちゃいないが二人の言い方だと俺が悪人に聞こえるんだが?」
「「気にしないで」」
それで誤魔化したつもりか。ま、これ以上なにか言ったところで時間の無駄だから何もいわないが。
「みんな分かって貰えたようだしジュリアスで良いな?」
「「「賛成!」」」
「納得はいかないが、レオリオたちも賛成していることだしな」
よし!どうにか面倒事は回避できた。後はジュリアスの名前を記入するだけだ。ふふ、自分の話術の凄さに笑いが出そうだ。
「それで、チーム名はどうするんだ?」
「さっきまでとモチベーションの差が凄いな」
「そうだな」
「えっと『さっきまでとはモチベーションの差が凄いな』っともうこれで良いや」
「良いわけないだろ!」
「ぐへっ!」
頭部に突如強烈な鈍痛が襲ってくる。ああ、超痛てぇ!
「まったくそんなチーム名で出されたら一生の恥だ!」
「面白いとは思うけど、嫌だな」
「そうだね」
「もう少し真面目に考えてください」
「なら、素晴らしい名前を思いついてるんだよな?」
スッ
「おい」
俺の問いに一瞬にして目を逸らすジュリアスたち。
「なら、もうこれでいいや」
「「「「待って!」」」」
提出しようとしたらジュリアス達全員に腕や肩を鷲掴みにされて止められてしまった。まったく文句だけ言いやがって。否定するだけなら楽で良いよな。
「ならどうするんだよ」
「そ、それは……」
「チームメイトなんだし皆で考えようよ」
「そうだな」
「はい。それが良いと思います」
結局スタンダードな提案で俺たちは案を出し合うが。
「『赤薔薇の隼団』ってのはどうだ?」
「「「「却下」」」」
ジュリアスの提案に俺たちの声が重なる。そんな背中がむず痒くなるような名前なんて絶対に嫌だ!
「お、これはどうだ!『ロングロングロングロングロングソード』ってのは」
「「「「却下」」」」
そんなに長い剣を持って何がしたいんだ?てか、まずまともに振れるのか?
「ならこう言うのはどうかな。『丸ごとリブロース』」
「「「却下」」」
「賛成!」
ジュリアスたちは反対だったみたいだ。
「ジン、どうして賛成なんだ?」
「え、だって美味しそうだったから」
「そんな理由で賛成するな!」
ったく美味しい、可愛いは正義だろうに。なにが駄目なんだ。
「では、次は私ですね。『ああっ、なんて愚かなの!けして叶う事の無いと分かっているのに、どうして私は貴方に恋をしてしまったの!』ではどうでしょうか」
「「「「却下」」」」
「ですよね」
「クソッ!俺のロングロングロングロングロングソードより長いだと!」
レオリオは悔しそうに握り拳を震わせる。別に悔しがるところでも競うような事でもないだろ。
「フェリーの場合はチーム名と言うより、台詞みたいな感じだったけどね」
結局その後も色々な名前が提案されたが全て却下された。ま、当たり前だよな。
ロイヤルハイパースペシャルロングロングロングロングロングソードとか、超肉厚スペアリブとか、紅の薔薇の団とかどう考えても賛成しないよな。だってこの世は十人十色。人それぞれで好みも感性も違うんだからよ。いや、提案する俺たちに問題があるのか?
「あの……そろそろ決めて貰えないでしょうか?」
受付の人が申し訳なさそうに聞いてくる。どうやら俺たちのせいで進まないらしい。
「流石に決めないと駄目だな」
「そうだな」
「そうだね」
「悪ふざけが過ぎました」
「だから最初に言った俺のにしておけばよかったのに」
「お前のが一番駄目だ」
ジュリアスよ、そこまでド直球に言わなくても良いだろ。俺悲しくて泣いちゃうぞ。
でもこのままなのは駄目だしな。仕方が無い。
俺は話し合うジュリアスたちを放置して用紙に記入する。
「これで頼む」
「しまっ――!」
慌てて止めに入ろうとするジュリアスたちだったが既に遅し!
「分かりました。これで登録しておきます」
受付係によって登録されてしまった。
「ジン!私たちの大切なチーム名をなんだと思ってるんだ!」
「や、やめろ!し、死ぬ!」
「窒息死しろ!」
胸倉を思いっきりつかまれた俺。やばい、本当に息が出来ない!
「すいません!」
「はい。なんでしょうか?」
「なんて名前で登録されたんですか?」
エミリアは慌てて受付係に確認した。俺ってそんなに信用ないんだな。
「えっと貴方たちのチーム名は――」
「「「「チーム名は?」」」」
ジュリアスまで俺を放置して聞きに行ってしまった。
「『AAA』ですね」
「「「「AAA」」」」
その名前を聞いて固まる。あ、これってもしかして激怒して俺が殺されるパターンなんじゃ。
「良いんじゃないか?」
「うん、私は賛成!」
「何色にも染まらない。そんな響きですね」
「ま、悪くはないな」
あれ?意外と高評価。俺の予想とは違ったけど気にって貰えたおかげで死なずにすんだし。結果オーライだな。
「で、ジン」
「なんだ?」
「どう言う意味でこの名前にしたんだ?」
「適当に。名前が決まらないなら名無しでも良いかなって」
「ま、そんな事だろうと思ったよ」
そんな俺の答えにジュリアスは呆れる。分かっていたんなら聞くな。
「でも、格好良いし良いんじゃないか?」
「そうだね」
「私も反対する理由はありません」
「ま、私も反対する理由は見当たらないな」
こうして俺たちのチーム『AAA』が誕生した。
0
お気に入りに追加
3,121
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
元公務員が異世界転生して辺境の勇者になったけど魔獣が13倍出現するブラック地区だから共生を目指すことにした
まどぎわ
ファンタジー
激務で倒れ、そのまま死んだ役所職員。
生まれ変わった世界は、魔獣に怯える国民を守るために勇者が活躍するファンタジーの世界だった。
前世の記憶を有したままチート状態で勇者になったが、担当する街は魔獣の出現が他よりも遥かに多いブラック地区。これは出現する魔獣が悪いのか、通報してくる街の住人が悪いのか……穏やかに寿命を真っ当するため、仕事はそんなに頑張らない。勇者は今日も、魔獣と、市民と、共生を目指す。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
騙されて異世界へ
だんご
ファンタジー
日帰りツアーに参加したのだが、気付けばツアー客がいない。
焦りながら、来た道を戻り始めるが、どんどん森が深くなり……
出会った蛾?に騙されて、いつの間にか異世界まで連れられ、放り出され……
またしても、どこかの森に迷い込んでしまった。
どうすれば帰れるのか試行錯誤をするが、どんどん深みにハマり……生きて帰れるのだろうか?
虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜
サメ狐
ファンタジー
———力を手にした少年は女性達を救い、最強の組織を作ります!
魔力———それは全ての種族に宿り、魔法という最強の力を手に出来る力
魔力が高ければ高い程、魔法の威力も上がる
そして、この世界には強さを示すSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fの9つのランクが存在する
全世界総人口1000万人の中でSSSランクはたったの5人
そんな彼らを世界は”選ばれし者”と名付けた
何故、SSSランクの5人は頂きに上り詰めることが出来たのか?
それは、魔力の最高峰クラス
———可視化できる魔力———を唯一持つ者だからである
最強無敗の力を秘め、各国の最終戦力とまで称されている5人の魔法、魔力
SSランクやSランクが束になろうとたった一人のSSSランクに敵わない
絶対的な力と象徴こそがSSSランクの所以。故に選ばれし者と何千年も呼ばれ、代変わりをしてきた
———そんな魔法が存在する世界に生まれた少年———レオン
彼はどこにでもいる普通の少年だった‥‥
しかし、レオンの両親が目の前で亡き者にされ、彼の人生が大きく変わり‥‥
憎悪と憎しみで彼の中に眠っていた”ある魔力”が現れる
復讐に明け暮れる日々を過ごし、数年経った頃
レオンは再び宿敵と遭遇し、レオンの”最強の魔法”で両親の敵を討つ
そこで囚われていた”ある少女”と出会い、レオンは決心する事になる
『もう誰も悲しまない世界を‥‥俺のような者を創らない世界を‥‥』
そしてレオンは少女を最初の仲間に加え、ある組織と対立する為に自らの組織を結成する
その組織とは、数年後に世界の大罪人と呼ばれ、世界から軍から追われる最悪の組織へと名を轟かせる
大切な人を守ろうとすればする程に、人々から恨まれ憎まれる負の連鎖
最強の力を手に入れたレオンは正体を隠し、最強の配下達を連れて世界の裏で暗躍する
誰も悲しまない世界を夢見て‥‥‥レオンは世界を相手にその力を奮うのだった。
恐縮ながら少しでも観てもらえると嬉しいです
なろう様カクヨム様にも投稿していますのでよろしくお願いします
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる