4 / 4
開戦
しおりを挟む
橙の光を放ち、陽は西の地平線にいる。
矢のような風が、木々の間を疾走する。
温もりを失った天界は、虚無と化した。
川の音、鳥の声は奪われ、荒れ狂う風が聴覚を支配した。
森は何かに憑かれ、魂の抜かれた木の下に、枯葉が乱れ散る。
耐えかねた大木が横倒しになると、大地が大きく揺れた。
墨を落としたかの如く、辺りを暗闇が包み、上も下も無へと還った。
山高帽子が宙を舞う。男の髪がなびき、乱れた。
「茶会は終わりだ」
轟音がその言葉をかき消した。マネキンは椅子を動かない。
「君も帰るんだ」
風にあおられ、草に転げた。
「獣は放たれた」
小声で言うと、声を張り上げて叫んだ。
「嵐がやってくるぞ」
東国の女王が、父に言われるがまま、挙兵した。
西国の王が、母の教えに背き、采配を振った。
鋼をかぶった幾千の軍が、西を、東を、目指す。
絶好の戦地へ、出陣だ。開戦は、間もなく告げられる。
戦雲が押し寄せ、虚空を、虚しく、空しく満たす。
なんと、空虚な暗雲だろう。
獣は、放たれた。
矢のような風が、木々の間を疾走する。
温もりを失った天界は、虚無と化した。
川の音、鳥の声は奪われ、荒れ狂う風が聴覚を支配した。
森は何かに憑かれ、魂の抜かれた木の下に、枯葉が乱れ散る。
耐えかねた大木が横倒しになると、大地が大きく揺れた。
墨を落としたかの如く、辺りを暗闇が包み、上も下も無へと還った。
山高帽子が宙を舞う。男の髪がなびき、乱れた。
「茶会は終わりだ」
轟音がその言葉をかき消した。マネキンは椅子を動かない。
「君も帰るんだ」
風にあおられ、草に転げた。
「獣は放たれた」
小声で言うと、声を張り上げて叫んだ。
「嵐がやってくるぞ」
東国の女王が、父に言われるがまま、挙兵した。
西国の王が、母の教えに背き、采配を振った。
鋼をかぶった幾千の軍が、西を、東を、目指す。
絶好の戦地へ、出陣だ。開戦は、間もなく告げられる。
戦雲が押し寄せ、虚空を、虚しく、空しく満たす。
なんと、空虚な暗雲だろう。
獣は、放たれた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
伯爵様の子供を身篭ったの…子供を生むから奥様には消えてほしいと言う若い浮気相手の女には…消えてほしい
白崎アイド
ファンタジー
若い女は私の前にツカツカと歩いてくると、「わたくし、伯爵様の子供を身篭りましたの。だから、奥様には消えてほしいんです」
伯爵様の浮気相手の女は、迷いもなく私の前にくると、キッと私を睨みつけながらそう言った。
嘘はあなたから教わりました
菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。
【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる