異世界✕兄妹✕姉妹

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多貴と詩貴

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45・多貴と詩貴


 グレーのドレスを着た妹が階段を下り切った。そして久方ぶりに多貴と詩貴って兄妹が向かい合う。

「詩貴……やっとここまで来たよ」

 なんて言えばいいんだろうと思っていたら勝手に声が出てしまう多貴だった。

「お兄ちゃん……」

 一時停止していた詩貴はゆっくり歩きだしもう少し兄に近寄った。グレーのドレスなんて格好は異質だとしても、顔やフンイキに疲れは感じられない。ポニーにつかまっている間、これといってひどい事をされたわけではないと思える多貴だった。

「お兄ちゃん……2つ言いたいことがあるよ」

「な、なに?」

「お兄ちゃんっていうのは年上なのに……目の前にいるのは昔の姿。それもわたしがかっこういいって熱っぽく思っていた頃の姿。 妹の自分が年上みたいだから変な感じがするよ。だけどお兄ちゃんのその姿をもう一度見たのはとっても感動した」

「そ、そう。じゃぁもう一つは?」

「もうひとつは……今改めて素直に思えるよ。お兄ちゃんの妹でよかったなぁって。わたしのためにがんばって戦って勝ったりする。そんな劇的なドラマを見たら、なんていうか史上最大のお得感ってところかな」

「今までかっこう悪い兄だったけど……これでちょっとは汚名返上できたかな」

 左手を頭の後ろにあてアハアハっとテレ笑いする多貴。対する冷静な感じを崩さないが、少しだけ見える喜びみたいなモノがさりげなく印象的。

 ここでグレードレスに身を包んだ詩貴が体の向きを変える。白いドレスのままダウンして立ち上がれないポニーに向かっていく。それを見て何か言おうとした多貴だが声がでなかったので、成り行きを見守ることにした。

「ポニー」

 ゆっくりと倒れている者の横にかがみ込む。

「な、なによ……見つめないで欲しいわ。すごくみじめなキモチになるから」

 けっこうな出血に泥だらけってポニーの顔は幼い女子みたいに拗ねまくっていた。みんなの前で無様を晒したあげく、手に入れた詩貴もこれで消えていくと思えば、敗者の哀しさが巨大な錘として胸にのしかかる。

「ポニー」

 もうかまわないで欲しいと表情を震わせるポニーだったが、そっとやさしく片手を詩貴に掴まれドキッとする。

「わたしはポニーと結婚とかいうのはできないし、彼女になるっていうのも……う~ん、どうなんだろうって思う。けどポニーと親しくなることはできる。ふつうに友だちとして親しい者になるくらいならできるよ」

「は、はぁ? 詩貴、あんた頭おかしくなった? わたしはあんたを監禁したんだよ?」

「でもまぁ……ひどい事はしなかった。だから……」

「だから何だっていうの?」

「せっかく出会ったんだもん。その出会いを大切にしようかって思える。ポニーが悪い女とも思わないしね。わたしとお兄ちゃんを元の世界に戻してくれるなら、それならポニーのした事は忘れてあげられる。その後でキモチリセットの付き合いを始めれば、いい感じになれるかもしれないとわたしは思う」

「ぅ……だ、だけど……」

 ポニーはクッと唇をかみしめる。詩貴の手が温かいとか、詩貴の声が胸に染み渡るとか、そういう喜びを感じると同時に切なさに感情を突かれる。

 この世界と異世界を時空トンネルでつないだとき、それをキープする事がまだできなかった。さらに言うと多貴たちの世界を再び探し当ててトンネルでつなぐというのもムリな話。それつまり多貴と詩貴は元の世界に戻れない。だとすればせっかく詩貴にやさしくしてもらっても、ポニーはド腐れで罪深い女というオチを免れない。

「ポニー、だいじょうぶです」

 ホリーが詩貴の反対側にかがみこんでポニーの手を取る。

「だいじょうぶってなに?」

「実は今朝ポニー技術団から連絡があったんです。戦いの前に連絡するっていうのができなかったんですよ」

「連絡ってなによ……」

「過去の特定時間に起こったとか起こしたって地点と探し当てることも、そこと現在を頑強なトンネルで結びつけることもできるようになった。つまり多貴たちを元の世界に戻し、そことここの行き来も好きなようにできるってことです」

「なにそれ……都合のいい展開……」

「でも……これでみんなハッピーでしょう?」

 ホリーが小型太陽みたいにまぶしい笑顔を浮かべると、ポニーは立ち上がれなくてもいいと思ったのか体の力を全部抜く。そして天の広がりを見上げながら小さくつぶやくのだった。

「あぁ、みじめかと思っていたけど……久しぶりにいい気分。なんか……自由になったような感じさえするよ」
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