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野犬狩り
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23・野犬狩り
「野犬狩りですか?」
夕飯時にエリーがポニーを見てつぶやき返す。
「そうなんだよ、あっちこっちの山で大量に出現するらしくてさ、保健所もケーサツも大変とか報告された。そこでわたしは考えたわけよ。親衛隊の特訓にちょうどいいじゃん! と。そう、野犬狩りに出動させなさいって事よ」
グイグイっと分厚いステーキを切るポニー、我ながらいいアイデアを言った! と自画自賛っぽい表情を浮かべる。
「まぁ、そうかもしれませんね」
あの3人を野犬狩りに出動させても大丈夫かな? と一瞬思ったエリーだが、なにかしら試練めいた事をさせないと成長しないのも事実としてポニーの提案を受け入れた。
「それでエリー、妹のホリーに伝えなさいな」
「ホリーに? 何をですか?」
「多貴に特訓として野犬狩りをさせればいいよと」
「ふむ……ポニーは多貴を応援しているのですか?」
「バカね、そうじゃないわよ。弱っちいまま戦いを挑まれても張り合いがないから、少しは強くなれってこと。もし野犬狩りで大怪我をしてそのまま死ぬような事になったら、それはそれでラッキー♪ って事だしね」
「わかりました」
「ホリーには感謝しているわってわたしの声も伝えておいてよ」
「はい」
こうしてエリーは親衛隊の面々に野犬狩りを命じ、多貴にもそれをさせれば特訓になるというメールを妹に送った。
「野犬狩りかぁ……」
夜にメールを受け取ったホリー、ホテルのベッドに寝転びながら考える。多貴の成長ぶりっていうのは確かに目を見張る。何か思い切った事をさせたら一気にグーンと伸びる可能性大。その代わりしくじったらケガをする可能性も高い。野犬相手に深い傷を負うのはかなり危険なこと。
「とりあえず多貴を見に行きますか」
部屋から出たホリー、野犬狩りの事はエリスに言わず多貴がいる場所へと向かう。今や自堕落ではなくストイックに励む男となった多貴は夜も訓練を怠らない。ホテルから出て少し離れた場所にある大きな公園の中で、暗い中ひとり黙々と剣の素振りを続けているのだった。
「多貴、調子はどう?」
「あ、ホリー。調子はまぁまぁかな」
「スプリントスイングは?」
「ちょっとは出来るようになったけど……連発とかいうのはきついね。体力の消耗が大きい」
軽くテレ笑いした多貴のいうスプリントスイングというのは、剣に自分の精神を注入して放つモノ。いわゆる遠距離戦に使える便利ワザ。しかし威力上げには消費する体力が増えるという問題も抱えている。
「多貴、一発やってみ」
けっこう離れたところで剣を持って構えるホリー。
「じゃぁ一発!」
多貴が言うと剣が蒼白くなった。息を止めググっと自身の内宇宙を剣に注ぐ多貴。そうして口を固く結びグワっと全力で剣を水平に振る。さすれば蒼白い火の玉みたいなモノがそこそこのスピードを持ってホリーへ向かっていく。
「せい!」
ホリーが剣を水平に思いっきり触れば、飛んできた球体が上下に割れてフッと姿を消した。ただホリーの剣にはジリジリっと少しばかりの熱が残っていたりする。
「多貴、今の何発くらい撃てる?」
聞かれて多貴は正直に返答した。今のでならおよそ3発くらい。もっともっと重いモノにしたら一発が限度。逆に今のより軽いとするなら6発くらいであると。
「もうちょい撃ちたいね。今ので10発撃っても体力にあまり影響なしって感じにはなりたいねぇ」
「そうは言うけどきつくて……」
「でもまぁ、大丈夫かな」
「大丈夫って何が?」
「2,3日したら野犬狩りに行こう」
「はぁ? 野犬狩り?」
「そ、悪いワンちゃんの群れを退治しに行くの」
「そ、そんなムリだよ」
「大丈夫、わたしも一緒だし。それに特訓しないと強くならない」
「で、でも……噛まれたらヤバいんじゃ……」
「そのときは運がなかったということで」
「えぇ……」
「多貴、男らしくないぞ!」
「そういう問題じゃないような気が……」
行きたくないなぁと思う多貴だったが、ホリーのニコニコ顔を見せられては行くとしか言えなくなるのだった。
***
同じ頃こちら親衛隊の面々がエリーに呼ばれ会議室に集っていた。3人はエリーから野犬狩りなんてミッションを言い渡される。暴れたい願望のつよいエンミは即座に早くやりたいと疼き、わたしも行くんですか? とイロミは怯え、退屈していた所だなんて言ったりするイタミがいる。
「わたしは3人を後ろから見守る。崩れそうになったら助ける。だから3人のリーダーはエンミがやりなさい。年齢的にはイタミと言いたいんだけど、リーダーに向いてなさそうだからダメよ。その代わりイロミの事はイタミとエンミの2人でカバーするように。こいつが足を引っ張るっていうのではなく、自分たちが面倒見て引き上げてやらなきゃって意識でやってちょうだい」
そんなエリーの声を聴き終えたあと、ガクガクブルブルのイロミが質問する。もし野犬に噛まれたらどうなるんですか? と。
「まぁ……痛いでしょうね。運が悪かったら肉がちぎられるかも。その上さらに感染病とかになるかも。そうなったら死ぬわよね」
エリーがあんまりにもあっさり言うものだからガクブルのイロミはサーッと顔を青くし気絶しかける。
「大丈夫! やられる前に倒せばいいだけのこと」
エンミはイロミとは対象的にがっちり燃えていた。早く暴れたいぜ! と若い炎が温度を上げている。
「そうだ。それにずっと城の中で特訓ばかりしているのも退屈だからな」
イタミも感じこそ違うがエンミと同じく暴れたいと思っているらしい。だからイロミは一人取り残されたよう気になる。
「まぁ、安心しろ、おまえの事はわたしが出来るだけ守ってやるから」
イタミが時々フッと見せるやさしさを出す。それによりイロミはちょっと安心し肩の力が抜ける。
「イロミ、大丈夫。死んだらちゃんと墓参りしてあげるから!」
エンミが余計なセリフを発したので、落ち着きかけたイロミがまた青ざめクラクラっとぶっ倒れそうになってしまうのだった。
「野犬狩りですか?」
夕飯時にエリーがポニーを見てつぶやき返す。
「そうなんだよ、あっちこっちの山で大量に出現するらしくてさ、保健所もケーサツも大変とか報告された。そこでわたしは考えたわけよ。親衛隊の特訓にちょうどいいじゃん! と。そう、野犬狩りに出動させなさいって事よ」
グイグイっと分厚いステーキを切るポニー、我ながらいいアイデアを言った! と自画自賛っぽい表情を浮かべる。
「まぁ、そうかもしれませんね」
あの3人を野犬狩りに出動させても大丈夫かな? と一瞬思ったエリーだが、なにかしら試練めいた事をさせないと成長しないのも事実としてポニーの提案を受け入れた。
「それでエリー、妹のホリーに伝えなさいな」
「ホリーに? 何をですか?」
「多貴に特訓として野犬狩りをさせればいいよと」
「ふむ……ポニーは多貴を応援しているのですか?」
「バカね、そうじゃないわよ。弱っちいまま戦いを挑まれても張り合いがないから、少しは強くなれってこと。もし野犬狩りで大怪我をしてそのまま死ぬような事になったら、それはそれでラッキー♪ って事だしね」
「わかりました」
「ホリーには感謝しているわってわたしの声も伝えておいてよ」
「はい」
こうしてエリーは親衛隊の面々に野犬狩りを命じ、多貴にもそれをさせれば特訓になるというメールを妹に送った。
「野犬狩りかぁ……」
夜にメールを受け取ったホリー、ホテルのベッドに寝転びながら考える。多貴の成長ぶりっていうのは確かに目を見張る。何か思い切った事をさせたら一気にグーンと伸びる可能性大。その代わりしくじったらケガをする可能性も高い。野犬相手に深い傷を負うのはかなり危険なこと。
「とりあえず多貴を見に行きますか」
部屋から出たホリー、野犬狩りの事はエリスに言わず多貴がいる場所へと向かう。今や自堕落ではなくストイックに励む男となった多貴は夜も訓練を怠らない。ホテルから出て少し離れた場所にある大きな公園の中で、暗い中ひとり黙々と剣の素振りを続けているのだった。
「多貴、調子はどう?」
「あ、ホリー。調子はまぁまぁかな」
「スプリントスイングは?」
「ちょっとは出来るようになったけど……連発とかいうのはきついね。体力の消耗が大きい」
軽くテレ笑いした多貴のいうスプリントスイングというのは、剣に自分の精神を注入して放つモノ。いわゆる遠距離戦に使える便利ワザ。しかし威力上げには消費する体力が増えるという問題も抱えている。
「多貴、一発やってみ」
けっこう離れたところで剣を持って構えるホリー。
「じゃぁ一発!」
多貴が言うと剣が蒼白くなった。息を止めググっと自身の内宇宙を剣に注ぐ多貴。そうして口を固く結びグワっと全力で剣を水平に振る。さすれば蒼白い火の玉みたいなモノがそこそこのスピードを持ってホリーへ向かっていく。
「せい!」
ホリーが剣を水平に思いっきり触れば、飛んできた球体が上下に割れてフッと姿を消した。ただホリーの剣にはジリジリっと少しばかりの熱が残っていたりする。
「多貴、今の何発くらい撃てる?」
聞かれて多貴は正直に返答した。今のでならおよそ3発くらい。もっともっと重いモノにしたら一発が限度。逆に今のより軽いとするなら6発くらいであると。
「もうちょい撃ちたいね。今ので10発撃っても体力にあまり影響なしって感じにはなりたいねぇ」
「そうは言うけどきつくて……」
「でもまぁ、大丈夫かな」
「大丈夫って何が?」
「2,3日したら野犬狩りに行こう」
「はぁ? 野犬狩り?」
「そ、悪いワンちゃんの群れを退治しに行くの」
「そ、そんなムリだよ」
「大丈夫、わたしも一緒だし。それに特訓しないと強くならない」
「で、でも……噛まれたらヤバいんじゃ……」
「そのときは運がなかったということで」
「えぇ……」
「多貴、男らしくないぞ!」
「そういう問題じゃないような気が……」
行きたくないなぁと思う多貴だったが、ホリーのニコニコ顔を見せられては行くとしか言えなくなるのだった。
***
同じ頃こちら親衛隊の面々がエリーに呼ばれ会議室に集っていた。3人はエリーから野犬狩りなんてミッションを言い渡される。暴れたい願望のつよいエンミは即座に早くやりたいと疼き、わたしも行くんですか? とイロミは怯え、退屈していた所だなんて言ったりするイタミがいる。
「わたしは3人を後ろから見守る。崩れそうになったら助ける。だから3人のリーダーはエンミがやりなさい。年齢的にはイタミと言いたいんだけど、リーダーに向いてなさそうだからダメよ。その代わりイロミの事はイタミとエンミの2人でカバーするように。こいつが足を引っ張るっていうのではなく、自分たちが面倒見て引き上げてやらなきゃって意識でやってちょうだい」
そんなエリーの声を聴き終えたあと、ガクガクブルブルのイロミが質問する。もし野犬に噛まれたらどうなるんですか? と。
「まぁ……痛いでしょうね。運が悪かったら肉がちぎられるかも。その上さらに感染病とかになるかも。そうなったら死ぬわよね」
エリーがあんまりにもあっさり言うものだからガクブルのイロミはサーッと顔を青くし気絶しかける。
「大丈夫! やられる前に倒せばいいだけのこと」
エンミはイロミとは対象的にがっちり燃えていた。早く暴れたいぜ! と若い炎が温度を上げている。
「そうだ。それにずっと城の中で特訓ばかりしているのも退屈だからな」
イタミも感じこそ違うがエンミと同じく暴れたいと思っているらしい。だからイロミは一人取り残されたよう気になる。
「まぁ、安心しろ、おまえの事はわたしが出来るだけ守ってやるから」
イタミが時々フッと見せるやさしさを出す。それによりイロミはちょっと安心し肩の力が抜ける。
「イロミ、大丈夫。死んだらちゃんと墓参りしてあげるから!」
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