異世界✕兄妹✕姉妹

jun( ̄▽ ̄)ノ

文字の大きさ
上 下
19 / 46

多貴は絶好調! エリスがジッとしていられなくなった

しおりを挟む
19・多貴は絶好調! エリスがジッとしていられなくなった


「ふん!」

 多貴が踊るように重たい剣を振る。たくましくて太い音が途切れることなく、そして華麗という表現に近づいてきた動きが鈍ることなく、およそ3分間の素振りをやりきる。そして背中の鞘に剣を戻すと、両腕を広げ大きく深呼吸。さほど息を乱すことなく無事に終了とする。

「多貴、マジ最高」

 素振りを見守っていたホリーがうれしそうな笑顔で拍手。

「いやぁ、ホリーの指導がいいんだよ」

 テレ笑いした多貴は近くに置いていたペットボトルの水をグイっと飲む。その姿はこの世界にやってきた時とはもう別人。それまさに多元宇宙からやってきた多貴そのものであった。

「オーケー、じゃぁ3分振って1分休んでを10セットやってて。わたしはエリスから電話が来たので、ちょっと話を聞いてくる」

 ホリーはそう言うとここ山中公園から目と鼻の先にあるホテルに向かって歩き出した。ついさっき多貴の面倒を見ている最中にて、エリスからメールで話があると伝えられた。気になるゆえ急ぎ足でホテルにたどり着くと、入り口前にエリスが立っていた。その姿はホリーが来るのをジッと待っていられないって感じに見えた。

「エリス、どうしたんですか? なんかあったんですか?」

 心配するホリーが早速質問すると、エリスは軽く首を横に振る。そしてすぐさま予想外の事を口にする。

「ホリー、お願いがあるんだけど」

「はいはい、エリスのためなら聞ける事はなんでも聞きますよ」

「わたしにも剣術を教えてくれないかしら」

「はい?」

「多貴を見ていて思った……わたしもあんな風になりたいって」

 座って会話するキブンじゃないって事なのだろう、エリスはなんとなくその辺りを歩き出し、隣のホリーにここ最近のキモチというのをさらした。

 最近の多貴は見ていてとても清々しい。ものすごいスピードで成長する格好さに加え、充実少年みたいな勢いが艷やかに輝いている。そういうまぶしさは満たされない心の持ち主にはうらやましく見えてたまらないのだとエリスが語る。

「そりゃぁ、エリスが指導して欲しいっていうなら喜んでやりますけど」

「ほんとう? だったら今日からでも早速!」

「で、でもエリス……多貴と同じくらいのスピードで成長して、しかもポニーと戦うんだって考えたりしていません?」

「その通りなんだけど」

「あ……」

 ホリーは申し訳なさそうに顔を赤らめ左手で頭をかく。いくらなんでもそれはムリというモノだったからだ。エリスの妹ことポニーはつよくなる事に一生懸命だった。女だってつよくあってしかるべきという信念があったゆえ、きつい訓練も喜んでやった。そして何度となく、姉が20歳になるまではいっしょに自分を鍛えようと誘った。必要とあらば自分が姉を指導してもいいと何度も言った。なのに過去のエリスは動かなかった。エレガントって言葉にすべてを傾けた結果、つよいという話にはまったく無縁の人。

「エリス、これ持ってみてどう思います?」

 ホリーは白いパーカーの背中からスーッと剣を取り出しエリスに渡した。それを持った瞬間にエリスに生じる表情っていうのは、運動だの体力だの基本からがっちりやらねばならないって話の色合い。

「つまりその……」

「いいわ、言ってみて」

「エリスがいま考えている物語をやるにはカンペキ力量不足っていうか」

「そうよね、だからわたしも若返ろうと思う」

「ちょ、待って、待ってくださいエリス」

 ホリーは慌てて広げた両手を小さく振った。そして多貴とエリスでは事情がちがいますと説明した。多貴には15歳の始め頃まではいい感じだったという過去形の事実があった。それがゆえ堕落してしまった22歳から15歳に若返ったら話がうまく進む。少しばっかり苦労しつつスピーディーな成長をするというのは、そういう背景があってこそ。

「で、でも……エリス……エリスには多貴のような過去がないじゃないですか。だから若返っても多貴みたいな事をやってのけるのは……ふつうに考える分にはムリだろうと思うのですが」

 ホリーはここでエリスをなだめようとした。もしどうしても自分に負い目を感じるというのなら、過去の自分を反省するように努力を始めればいい。短期間でつよくなるだのポニーと戦うだの、そういう事ではなくあたらしい自分をやり始めるという取り組みにすればいいのだと伝えようとした。

 ところがエリスはホリーより先に口を開き、とっても真剣な表情で熱い意識というのをぶちまける。

「わたしには多貴みたいな過去はないけど……でも若返れば時間の経ち方が遅くなるという、それは生じるはず。とはいえ……」

「とはいえ?」

「あんまり子どもになるのもちょっと……今のエレガントさや美しさ、もうちょっと言えばバストの豊かさとか、そこらが消えるのはイヤだから、若返りは1年くらい。それでも必死にがんばればわたしだって何とかなるはず」

「エリス……そんな中途半端な考えでつよくなりたいなんて……」

「そうね、でも物事はやってみないとわからない。いまの多貴を見ているとジッとしていられないの。わたしやるわ、ホリーが指導してくれないなら独学で24時間努力してみせるわ。結果よければすべてが正義になるんだもの」

 話を聞いていて一体どうしたモノかとホリーは思った。エリスから伝わるのは本気の手前って甘さを本気で考えている熱意。

「じゃぁ……今夜にでもポニー技術団へ行きますか?」

「今すぐにでも行きたいキブンよ。あ、この事はあなたの姉ことエリスに報告しておいて。そうすればポニーに伝わる」

「伝えてもいいんですか?」

「もちろんよ。伝えたら泣き言は言えなくなるでしょう?」

「わ、わかりました……」

 こうしてエリスは22歳にしてつよい女になりたいと動き出した。その心意気は生煮えみたいなモノではあったが、これまでのほほんと生きてきた事を思えば、それなりの前進と言える事でもある。

「でもエリス……」

「なに?」

「多貴とエリスが同じメニューっていうのはできないですよ? どうしたってエリスは体力づくりって初歩も初歩から始める事になるんですよ?」

「わかっているわ。死にものぐるいでやって、一日でも早く多貴と同じような事が出来るようになってみせる」

 がっちりとした面持ちで言い切るエリスはかっこうよかった。生半可なキモチとしか思えない発想でも本気で言い切ればサマは良くなる。それを見たホリー、とりあえずエリスの思うようにやらせてみようと思う事にした。

 ただ姉のエリスへ送る報告メールの内容は考えざるを得なかった。エレガントを失いたくないから1年だけ若返ったとか伝えたら、これだから情けない姉は……とポニーが怒る事は目に見えているからだ。そこでメールにはエリスもキモチ入れ替えてつよくなろうと思っているみたいと書くにとどめておく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...