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軽快な剣士を目指すべし
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14・軽快な剣士を目指すべし
本日の多貴は朝から子どもっぽいソワソワドキドキをさせられていた。早朝の走りや筋トレなどでどっぷり汗を流してから朝食を済ませると、3人でとある店に出向いたのだ。それは武装商店というモノ。エリスがお金を出し、ホリーが品定めをし、多貴が剣を受け取るという話であった。
「ホリー、ぼくの剣なんだからぼくに持たせてよ」
店から山へ向かっていくに辺り、多貴は年下みたいにぼやいた。見た目通りの15歳って感じで不満を声にする。
「まぁまぁ、お楽しみは後の方がいいでしょう」
ニマっと笑うホリーに言わせると、実際の剣がどんなモノか知らない多貴だからこそ、いざ特訓を始めるまで剣に触れさせない方が驚きが大きくなる。それはやる気に新たな興奮をもたらすであろうとの事。
「それって高いモノだったの?」
店の中でもそっちのけにされていたゆえ、多貴は暇つぶし的に聞いてみたりした。するとホリーは背中に5本の剣を持って歩きながら、信じられないほどの値段だよと真顔で言ってのけた。
「どのくらい?」
「一本で安い家が一軒建つくらい」
「うそ……」
「ま、おどろくほど高いことは事実だよ。だからさ、モノにできないとか諦めるって話になると格好悪いよ多貴くん。そんな事になったらエリスががっかりして泣いちゃうかもしれないよぉ」
こんな会話をしながら2人は山の中に入って、そこそこ広いって場所にたどり着いたところで足を止めた。
「じゃぁ、説明しよう」
ホリーは剣を地面に置くと、自分用に新たな2本を買ってもらったのだといい、それ以外の3本が多貴のモノだと述べる。
「でね、銀が2本、金が1本にした。でもさ多貴、金は腕が上がってからにして。練習には銀で行こう。で、2本あるとは言っても大事に使うように。当然手入れは自分の責任。つまり剣は多貴の一部でなければならないってことだね」
ホリーはそう言うと多貴用である銀の剣を一本鞘から抜き出した。するとどうだろう、本物だからこその風格と輝きが見る多貴の心を刺激する。格好良さと危険にあこがれてしまう少年の心にとってはドストライクみたいなモノ。
「多貴」
「うん?」
「ほれ!」
「え、ちょっと」
ホリーがホイッと剣を投げ渡したので、驚いた多貴が手を伸ばす。そして慌ててグリップを掴んだら、思いもしなかった事に驚く。
「ぅぉ……」
手にした剣は予想しているより重たかったのだ。店にいる間ホリーは剣を多貴に触らせなかったが、今にしておどろく相手の顔を見てにんまり笑う。
「そこそこ重いでしょう」
「これで戦わなきゃいけないの?」
「練習用の軽いやつなんてやるだけムダ。そんな悠長にやっているヒマなんかない。それにあれだよ、その重さを軽快に扱えないとポニーにもお姉ちゃんにも勝てないよ?」
ホリーは言うとTシャツの肩を軽く捲くる。教えるばかりだとなまるから、いっしょにやるなどとつぶやき自分のシルバーソードを手にする。
「多貴」
「なに?」
「多貴は運動神経に反射神経に良さそうだし、覚えれば華麗な動きもきっとできるんだろうね。でも基本っていうのがあるわけで、まずはその動きから体に叩き込もう。自由にやっちゃえ! っていうのはその後」
「わかった」
「じゃぁわたしと同じように構えて」
「こう?」
「そしてわたしと同じように同じスピードで剣を振ろう」
ホリーはそう言ったのだが、見ていた多貴がだまっていられないくらいスローに動く。剣の重たさを味わい噛み締めているようなスローモーション。
「多貴、まずは剣の重さを自分の体に覚えさせないとね。筋肉を鍛えるって意味もある。だからさ、剣にたましいを注ぎ込むような感じでグゥっと重たくゆっくり続ける。だいたい1時間くらい」
「わかった」
とりあえず了解! と返事をしたものの、やってみるとおそろしく体にきつさがかかる。剣におのれを注ぎ込むようなイメージの中、力の入れた体と小さく整え続ける呼吸が意外にも苦しかったりする。
(こ、これで1時間……)
「多貴、これやるとじれったいよねぇ。思いっきり剣を降って暴れたいよねぇ。そういうのはまだガマン。後でイヤほどさせてあげる。もう剣なんか見るのもイヤだって泣き出すくらいにね。だから今は靜かに1時間がんばろう」
ホリーに言われ多貴は口を結んでやり続けることにした。時計がない、時間を教えてもらえない、そこでひたすら剣との一体化を思いながら重いスローモーションで振りを続けると10分が30分くらいになる。元より時間を長く感じる多貴にしてみれば、15分は1時間くらいに感じてならない。
(ぅ……)
15分が経過すると汗がドロドロに流れてきた。呼吸が穏やかさを忘れ始める。だから多貴とホリーでは見た目のうつくしさが変わってくる。安定したつよさが継続できるというのは優雅に見えるものだと多貴は知った。
そしていま、黙々とやっていると2人を影からこっそり見つめるのがエリスだった。剣を購入するのに必要なすさまじいお金もエリスにとっては微々たる数字以下。まさに地上最強の財務省ってレベル。
しかし……2人を見つめるエリスの胸の内は物悲しい。こんな事でいいのだろうかって思いが湧き上がってくる。自分も多貴と同じように努力するべきでは? せっかくホリーがいるのだから自分も鍛えてもらったら? などなど思ったりもする。するとノドから声が出そうになったり、数歩前進して2人の間に割って入りたいなどと思い描く。もうちょっとで行動に出そうって感じまでいく。
でもエリスは結局のところ勇気ある感じの動きは取れない。それをくやしいと思うから使い古した言い訳を利用する。
「明日……明日になったらわたしもホリーに鍛えて欲しいと伝えよう」
そうつぶやき一人ホテルに向かっていく。莫大も莫大なお金があると同時に、何かあればポニーから救援が差し向けられるようにもできている。つまりエリスは究極的な安全を手にしている。だけどもその心は潤わない。自分はダメ人間という意識と格闘して、今日という日を過ごすだけ。
本日の多貴は朝から子どもっぽいソワソワドキドキをさせられていた。早朝の走りや筋トレなどでどっぷり汗を流してから朝食を済ませると、3人でとある店に出向いたのだ。それは武装商店というモノ。エリスがお金を出し、ホリーが品定めをし、多貴が剣を受け取るという話であった。
「ホリー、ぼくの剣なんだからぼくに持たせてよ」
店から山へ向かっていくに辺り、多貴は年下みたいにぼやいた。見た目通りの15歳って感じで不満を声にする。
「まぁまぁ、お楽しみは後の方がいいでしょう」
ニマっと笑うホリーに言わせると、実際の剣がどんなモノか知らない多貴だからこそ、いざ特訓を始めるまで剣に触れさせない方が驚きが大きくなる。それはやる気に新たな興奮をもたらすであろうとの事。
「それって高いモノだったの?」
店の中でもそっちのけにされていたゆえ、多貴は暇つぶし的に聞いてみたりした。するとホリーは背中に5本の剣を持って歩きながら、信じられないほどの値段だよと真顔で言ってのけた。
「どのくらい?」
「一本で安い家が一軒建つくらい」
「うそ……」
「ま、おどろくほど高いことは事実だよ。だからさ、モノにできないとか諦めるって話になると格好悪いよ多貴くん。そんな事になったらエリスががっかりして泣いちゃうかもしれないよぉ」
こんな会話をしながら2人は山の中に入って、そこそこ広いって場所にたどり着いたところで足を止めた。
「じゃぁ、説明しよう」
ホリーは剣を地面に置くと、自分用に新たな2本を買ってもらったのだといい、それ以外の3本が多貴のモノだと述べる。
「でね、銀が2本、金が1本にした。でもさ多貴、金は腕が上がってからにして。練習には銀で行こう。で、2本あるとは言っても大事に使うように。当然手入れは自分の責任。つまり剣は多貴の一部でなければならないってことだね」
ホリーはそう言うと多貴用である銀の剣を一本鞘から抜き出した。するとどうだろう、本物だからこその風格と輝きが見る多貴の心を刺激する。格好良さと危険にあこがれてしまう少年の心にとってはドストライクみたいなモノ。
「多貴」
「うん?」
「ほれ!」
「え、ちょっと」
ホリーがホイッと剣を投げ渡したので、驚いた多貴が手を伸ばす。そして慌ててグリップを掴んだら、思いもしなかった事に驚く。
「ぅぉ……」
手にした剣は予想しているより重たかったのだ。店にいる間ホリーは剣を多貴に触らせなかったが、今にしておどろく相手の顔を見てにんまり笑う。
「そこそこ重いでしょう」
「これで戦わなきゃいけないの?」
「練習用の軽いやつなんてやるだけムダ。そんな悠長にやっているヒマなんかない。それにあれだよ、その重さを軽快に扱えないとポニーにもお姉ちゃんにも勝てないよ?」
ホリーは言うとTシャツの肩を軽く捲くる。教えるばかりだとなまるから、いっしょにやるなどとつぶやき自分のシルバーソードを手にする。
「多貴」
「なに?」
「多貴は運動神経に反射神経に良さそうだし、覚えれば華麗な動きもきっとできるんだろうね。でも基本っていうのがあるわけで、まずはその動きから体に叩き込もう。自由にやっちゃえ! っていうのはその後」
「わかった」
「じゃぁわたしと同じように構えて」
「こう?」
「そしてわたしと同じように同じスピードで剣を振ろう」
ホリーはそう言ったのだが、見ていた多貴がだまっていられないくらいスローに動く。剣の重たさを味わい噛み締めているようなスローモーション。
「多貴、まずは剣の重さを自分の体に覚えさせないとね。筋肉を鍛えるって意味もある。だからさ、剣にたましいを注ぎ込むような感じでグゥっと重たくゆっくり続ける。だいたい1時間くらい」
「わかった」
とりあえず了解! と返事をしたものの、やってみるとおそろしく体にきつさがかかる。剣におのれを注ぎ込むようなイメージの中、力の入れた体と小さく整え続ける呼吸が意外にも苦しかったりする。
(こ、これで1時間……)
「多貴、これやるとじれったいよねぇ。思いっきり剣を降って暴れたいよねぇ。そういうのはまだガマン。後でイヤほどさせてあげる。もう剣なんか見るのもイヤだって泣き出すくらいにね。だから今は靜かに1時間がんばろう」
ホリーに言われ多貴は口を結んでやり続けることにした。時計がない、時間を教えてもらえない、そこでひたすら剣との一体化を思いながら重いスローモーションで振りを続けると10分が30分くらいになる。元より時間を長く感じる多貴にしてみれば、15分は1時間くらいに感じてならない。
(ぅ……)
15分が経過すると汗がドロドロに流れてきた。呼吸が穏やかさを忘れ始める。だから多貴とホリーでは見た目のうつくしさが変わってくる。安定したつよさが継続できるというのは優雅に見えるものだと多貴は知った。
そしていま、黙々とやっていると2人を影からこっそり見つめるのがエリスだった。剣を購入するのに必要なすさまじいお金もエリスにとっては微々たる数字以下。まさに地上最強の財務省ってレベル。
しかし……2人を見つめるエリスの胸の内は物悲しい。こんな事でいいのだろうかって思いが湧き上がってくる。自分も多貴と同じように努力するべきでは? せっかくホリーがいるのだから自分も鍛えてもらったら? などなど思ったりもする。するとノドから声が出そうになったり、数歩前進して2人の間に割って入りたいなどと思い描く。もうちょっとで行動に出そうって感じまでいく。
でもエリスは結局のところ勇気ある感じの動きは取れない。それをくやしいと思うから使い古した言い訳を利用する。
「明日……明日になったらわたしもホリーに鍛えて欲しいと伝えよう」
そうつぶやき一人ホテルに向かっていく。莫大も莫大なお金があると同時に、何かあればポニーから救援が差し向けられるようにもできている。つまりエリスは究極的な安全を手にしている。だけどもその心は潤わない。自分はダメ人間という意識と格闘して、今日という日を過ごすだけ。
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