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104・片付けと捨てる術
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104・片付けと捨てる術
クリスマスが終わったらその瞬間にお正月って表現が背後にのしかかる。
「密、ちょっといい?」
わたしは部屋の掃除がふつうレベルであることをちょっと恥ずかしいと思っていて、その事を伝えてみた。
「女子力が低いのかなぁとか思っちゃって」
こんな言い方をして、あぁ、わたしは光に少し甘えたがっていると自覚したりする。最近こんな感じがちょっと増えてきた。
「それはあれだよ、部屋の片付けにもコツがあるんだよ」
「コツ?」
「まず要らないってモノは思いっきって捨てちゃう、これ鉄則。ついつい、これは……と思ったとき、その意識を日本刀でズバ! っとぶった斬ると後で幸せになれるんだ」
「まぁ、ね……よく聞く話だよね」
「で、もうひとつ、部屋全体を見たらダメなんだ」
「どういうこと?」
「たとえばさ、探しものをするときと同じ、全体を見るから足元が見えなくなっちゃうわけで、たとえば机の上と決めたらその範囲しか見ない。その範囲を舐めるように見渡してから、じゃぁ、今度は本棚のこの段というふうに一箇所ずつ見る。これを掃除に置き換えるとピンポイント爆撃ってやつだね。全体を見て掃除するとか一番非効率」
「おぉ、光が言うと妙な説得力に満ちるね」
「ま、後は数日かけてちょっとずつやるといいかもね。まとめて1日で片付けるとか自殺みたいなもんだから」
「そうだね、わたしもそろそろ取り掛かるとするよ」
彼氏の話を聞くとキモチが高ぶった。単純かもしれないけれど、いまのわたしはこの単純さを幸せの証とか思うようにしている。だから帰宅すると光のアドバイスに従ってちょっとずつの掃除をやることにする。
「えっと……ピンポイント爆撃か……あっとその前に、要らないモノをズバ! っとぶった斬った方がいいんだった」
わたしはゴミ袋を持ってくると、さぁ捨ててやる! と意気込んでチョイス作業に入ってみた。でもそうすると、これ捨てがたい、それ捨てがたい、これも捨てがたいってメロディーが続く。
「うわ、やばいよこれ……絶望にハマりかけている」
気がついたらいろんなものを引っ張り出し散らかし、それでいてほとんどのモノを捨てられずにいる。こうなるとただ部屋を汚しただけみたいであり、相当に女子力の低いダメな女になってしまう。
「光ぅ……」
「あ、マリーどうした?」
「いらないモノを捨てようと思ったけど捨てられないよぉ、こういう時どうしたらいいの?」
「じゃぁ、いくつか話してみる」
「お願いします……」
「まずさ、これけっこう高かったんだとか言ってもさ、どうせ溶かしたお金は復活しないじゃん! と考えてみたらどうかと」
「あぁ、なるほど」
「で、次に「これいつか使うかも……」とか思わない?」
「思う、思う、それが背中に抱きついてくるんだ」
「でも冷静に考えたら……いつっていつ? って話。」
「つまり?」
「来年のXデーに使うことが決まっているだったらいいけど、そうでなかったら多分ほぼ永遠に使うことってないと思うんだ。だったら潔く葬って、必要なときに新しい子と出逢えばいいじゃん」
「おぉ、さすが光、Xデーなんて言い方は思い付かなかったよ」
「で、ないと寂しいっていうのはさ、特別なぬいぐるみとかならまだしも、そうでないならさっさと捨てればいいじゃん。さみしいとか思っている人ほどゴミに愛される」
「あぁ、そうだね」
「で、最後にいうと、心の準備ができていないけれど、今までずっとできていなかったし、これからもできない! だから捨てる! でいいんじゃないかなぁと」
「わかった、聞けば聞くほど光の言う通りだと思うよ」
「まぁ、偉そうなこと言ったけれど、実はこっちも大したことってできていなかったりするんだけさ」
「いやいや、話をしてくれただけでも感謝……さすがマイダーリンって思った」
「そ、そう……そ、それはよかった」
こうして電話を切ったとき、わたしの胸の内には捨てる気マンマン! という火の玉みたいな勢いがあった。
「よし、捨てよう、今なら何でも捨てられる。わたしを甘く見るなよ、要らないモノは情け容赦なく捨ててやるんだから」
後でどう思うかはわからないけれど、このときのわたしは血も涙もない正義の冷徹感という感じでどんどんいらないモノをゴミ袋に入れていくことができたんだ。
クリスマスが終わったらその瞬間にお正月って表現が背後にのしかかる。
「密、ちょっといい?」
わたしは部屋の掃除がふつうレベルであることをちょっと恥ずかしいと思っていて、その事を伝えてみた。
「女子力が低いのかなぁとか思っちゃって」
こんな言い方をして、あぁ、わたしは光に少し甘えたがっていると自覚したりする。最近こんな感じがちょっと増えてきた。
「それはあれだよ、部屋の片付けにもコツがあるんだよ」
「コツ?」
「まず要らないってモノは思いっきって捨てちゃう、これ鉄則。ついつい、これは……と思ったとき、その意識を日本刀でズバ! っとぶった斬ると後で幸せになれるんだ」
「まぁ、ね……よく聞く話だよね」
「で、もうひとつ、部屋全体を見たらダメなんだ」
「どういうこと?」
「たとえばさ、探しものをするときと同じ、全体を見るから足元が見えなくなっちゃうわけで、たとえば机の上と決めたらその範囲しか見ない。その範囲を舐めるように見渡してから、じゃぁ、今度は本棚のこの段というふうに一箇所ずつ見る。これを掃除に置き換えるとピンポイント爆撃ってやつだね。全体を見て掃除するとか一番非効率」
「おぉ、光が言うと妙な説得力に満ちるね」
「ま、後は数日かけてちょっとずつやるといいかもね。まとめて1日で片付けるとか自殺みたいなもんだから」
「そうだね、わたしもそろそろ取り掛かるとするよ」
彼氏の話を聞くとキモチが高ぶった。単純かもしれないけれど、いまのわたしはこの単純さを幸せの証とか思うようにしている。だから帰宅すると光のアドバイスに従ってちょっとずつの掃除をやることにする。
「えっと……ピンポイント爆撃か……あっとその前に、要らないモノをズバ! っとぶった斬った方がいいんだった」
わたしはゴミ袋を持ってくると、さぁ捨ててやる! と意気込んでチョイス作業に入ってみた。でもそうすると、これ捨てがたい、それ捨てがたい、これも捨てがたいってメロディーが続く。
「うわ、やばいよこれ……絶望にハマりかけている」
気がついたらいろんなものを引っ張り出し散らかし、それでいてほとんどのモノを捨てられずにいる。こうなるとただ部屋を汚しただけみたいであり、相当に女子力の低いダメな女になってしまう。
「光ぅ……」
「あ、マリーどうした?」
「いらないモノを捨てようと思ったけど捨てられないよぉ、こういう時どうしたらいいの?」
「じゃぁ、いくつか話してみる」
「お願いします……」
「まずさ、これけっこう高かったんだとか言ってもさ、どうせ溶かしたお金は復活しないじゃん! と考えてみたらどうかと」
「あぁ、なるほど」
「で、次に「これいつか使うかも……」とか思わない?」
「思う、思う、それが背中に抱きついてくるんだ」
「でも冷静に考えたら……いつっていつ? って話。」
「つまり?」
「来年のXデーに使うことが決まっているだったらいいけど、そうでなかったら多分ほぼ永遠に使うことってないと思うんだ。だったら潔く葬って、必要なときに新しい子と出逢えばいいじゃん」
「おぉ、さすが光、Xデーなんて言い方は思い付かなかったよ」
「で、ないと寂しいっていうのはさ、特別なぬいぐるみとかならまだしも、そうでないならさっさと捨てればいいじゃん。さみしいとか思っている人ほどゴミに愛される」
「あぁ、そうだね」
「で、最後にいうと、心の準備ができていないけれど、今までずっとできていなかったし、これからもできない! だから捨てる! でいいんじゃないかなぁと」
「わかった、聞けば聞くほど光の言う通りだと思うよ」
「まぁ、偉そうなこと言ったけれど、実はこっちも大したことってできていなかったりするんだけさ」
「いやいや、話をしてくれただけでも感謝……さすがマイダーリンって思った」
「そ、そう……そ、それはよかった」
こうして電話を切ったとき、わたしの胸の内には捨てる気マンマン! という火の玉みたいな勢いがあった。
「よし、捨てよう、今なら何でも捨てられる。わたしを甘く見るなよ、要らないモノは情け容赦なく捨ててやるんだから」
後でどう思うかはわからないけれど、このときのわたしは血も涙もない正義の冷徹感という感じでどんどんいらないモノをゴミ袋に入れていくことができたんだ。
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