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102・クリスマスイブの日に読んで愛し合う1

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 102・クリスマスイブの日に読んで愛し合う1


「じゃぁ……これ……」

 12月24日の午前、ウォーキングデートのために落ち合ったら、光がA4サイズの大きい封筒を手渡してきた。それはわたしがクリスマスプレゼントに欲しいとかお願いしたモノであり、中にはA4紙がいっぱい入っていてクリップ止めされている。

「え、こんなにいっぱい……こんなに早くできたんだ?」

「一応、三人称と彼氏声の一人称の2バージョンで書いた」

「うわぁ、すごい、やっぱり光って才能あるんだよ、これはもう将来作家になるしかないって事だよ」

「い、いやぁ……」

 光はとってもテレくさそうにアタマをかいた次、一瞬でマジメな顔になって言ってきた。

「それ、他人には見せないで……それ、マリーに見てもらうという、ただそれだけのキモチで書いたから」

「もちろんだよ、光が他人に見せろとか言っても見せないから」

 さすが作家の卵と思いながら、わたしはとってもドキドキしながら原稿をあらかじめ持ってきていたバッグの中にしっかりと入れた。

 光によるとこれといったストーリーがないに加え、物語で一番おいしい山場だけ切り取ったようなモノだから、予想以上にうまく行ったとのこと。あんまりにもうまく行くから、ハッと気がついたら4時間くらいぶっ通しで書き続けてしまったとか。

「で、光……今日はクリスマスイブ」

「う、うん」

「わたしは光からお願いした小説を受け取った。それへの感謝も込めて、これクリスマスプレゼント」

「いいよそんな、だって前にも言ったけれど、このマフラーと手袋はマリーの手作りで、それをちょっと早いけれどクリスマスプレゼントを兼ねるとしてもらったんだよ? その上また別の何かをもらったらさ、正直申し訳ないって罪悪感が沸いちゃうんだけれど」

「これはあれなんだ、お祖母ちゃんがさ、わたしと光のためにって両方に同じモノをくれたんだよ。光にプレゼントしてあげたらいいって」

「お祖母ちゃんいわく、光は将来マリーの夫になる男子だからやさしくしてやりたいだって。それは逆に言うと、裏切ったらめっちゃ怖いって事でもあるんだけどね」

「んぐ……」

「商品券なんだ、おたがい3000円ずつ」

「だったら、マリーが両方もらって6000円にしたらいいよ。おれはこれもらうのは気が引ける」

「ん……よし、じゃぁこうしよう!」

「どうすると?」

「とりあえず受け取って、でも開封はしないで。わたしが光の書いてくれた小説を読んで、それで気に入ったら商品券は光のもの。だけど気に入らなかったら、そのときは商品券を返してもらう! でどう?」

「あぁ、わかった、それなら罪悪感もうすまる」

「よし! 今日は家に帰ったら光の書いてくれた小説を読むから、読むなって言っても気合を入れて読むからね」

「ちょっとエロいけれど……読んでくれるの?」

「全然オーケーだよ。わたしとしては自分と光の恋愛って感情移入が出来たらそれでよしゆえ、ちょっとエロいくらいで怒ったりなんかしない。そうでなきゃ作家の妻なんて務まらないし」

 こうしてわたしはウォーキングデートをしてから、三ツ井家と橘家の合同でクリスマスパーティーが出来たら最高なんだけどなぁとか思いながら自宅に舞い戻る。

「さて……と、光がわたしのリクエストに答えて書いてくれた短編小説
というもの、っていうか短編にしてはかなりのボリュームがあるけれど、それをありがたく読ませてもらいます!」

 夜になってから読むとかそんな事はできなかったので、わたしは机の上をきれいにし、まちがっても印刷されたきれいな紙をぬらしたりしないよう細心の注意を払って彼氏声って一人称の方から読む。

「すご……文章全体が整っているってオーラを浮かべている。こうなると思っちゃうなぁ、世間様……どうか我が彼氏に注目してやってください。どうか三ツ井光に作家って称号と栄誉を与えてください。そしたらこのマリーもいっしょに幸せになれるのですから」

 まずはじっくりと文字を見守るような感じで読み始める。正直に言うと、気楽に読んで甘くたのしもうって、ちょっと油断していたんだ。わたしが思うより濃厚な感情移入が押し寄せてくるなんて思わなかったとか、わたしはいとしい彼氏の能力を見くびっていた。

「ぅ……いやだなにこれ……」
 読み初めてすぐ胸の内側がギュウッと逆回転するみたいに締め付けられてきた。この短編に登場するわたしみたいな巨乳女子の名前は陽菜とか言って、彼氏の名前は隼立(しゅんた)とか言って、光とはちょっと感じがちがう男子だ。

 だけど……読んでいると……なんかこう、胸の内側に光のさみしいとか言っているような手が入り込んでくるみたいになる。

「ん……」

 こんな感じなのかぁ、光がわたしに対してせつない感情を抱くってほんとうにこんな感じなのかぁ。そうだとしたらわたし特別の感情移入って池に沈められそうになってしまう。

「うわ……」

 机上のA4用紙を見つめながらクッと体を引いたわたしは、たまらずセーターの上から自分の巨乳左側を左で揉んだりしていた。これは冷静に読み切ることができない予感! と本気で思った。

「なに……光っていったい何を見ながら小説を書いたりしているの?」

 わたしは自分の乳をまさぐりながら、小説を読んでいると当たり前のように登場人物が浮かんできそうな感じに囚われていく。小説は何か具体的なモノを見ながら絵にしたという感じにあふれていて、何にも見ないで描いた作品とか言ったら仰天するってレベル。

「これって……告白して終わり……じゃないよね? きっと愛し合うところまで書いてあるよね?」

 重なっている紙の厚さと読み進めている分量からして、この小説は告白した次の瞬間まで書かれているのだと察しておく。

「来た……来たよこれ……」

 小説の中において陽菜が隼立に迫られるシーンが出てきた。わたしには不思議なくらいその場面が浮かんで見えてしまう。

 背中をカベに預けている陽菜が赤い顔をして……こらえきれなくなったところで唇を重ねられてしまう。そしてキスをしてブルブル震えだしたところで、服の上から左側の乳をギュウっと掴まれ足がガクッとなりかける。

「う、うわ……」

 わたしは思わず立ち上がってしまう。

「み、光……」

 焦りながら両腕をクロスさせたのは上をブラ姿にしたいと思ったから。なぜなら小説を読んでいたら、隼立とは光のことであり、求められる陽菜はわたしとしか思えなくなってしまったから。
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