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100・がんばれ!

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 100・がんばれ!


「あぁ、昼間はまだ少し暑いとか言っても夕方くらいから一気に冷える。まぁ冬だから……当たり前っていえば当たり前なんだけれど」

 友だちの家へ遊びに行っていたわたしは、帰り道にて通り過ぎようとした〇〇公園に目をやった。

「あれ?」

 そうなのだ、わたしの両目がとらえたのは他でもないマイダーリンだ。薄暮って表現が似合う公園のブランコに乗っている。物悲しいフンイキが一杯でさ、それを目にした彼女が素通りなんかできるわけがない。

「光」

「うわ、びっくりした……マリーか」

「なに、どうしたの?」

 わたしはとなりの空きブランコに座ってユラユラっとやりながら、悲壮感を漂わせている理由はなんですか? と聞く。

「ん……落選しちゃって……」

「あぁ……小説……」

「うん、8月が締め切りのやつに対する結果が来てやっぱり落選。一次審査も通らなかった」

 わたしは何かを言おうとして何も言えずタイミングを外してしまった。だからちょっと気まずいフンイキが漂ってしまう。

「でもさぁ、マリー」

「う、うん? どうした?」

「落選してめっちゃ傷つくんだけれど……でも……」

「でも?」

「なんか……慣れてきたような気がしたんだ。何回も落選していると、だんだん痛みに慣れてくるっていうか、ぶっちゃけSMみたいな感じ。だからなのかな、今回は初めてなんだ」

「なにが?」

「悲しいのに、悔しいのに、腹が立つのに、涙は出ない。いやまぁ、泣きそうなんだけれどなんか涙を出さずにいる」

「それは……あれだよ、光がたくましくなってきたって、そういうことじゃない?」

「そうかな、なんか自分でもそんな気がしているけれど」

「それでいいんだよ、それこそがんばっている人間のあるべき流れとか姿だと思う」

「マリー……言ってもいい?」

「いいよぉ、言っちゃいな!」

「これはその……甘えているつもりはないって前置きしてから言うんだけれど、こうやって落ち込んだりしているとき、自分のキモチを聞いてくれる女の子がいると……すっごい幸せって思っちゃうんだ。だからその、うん、やっぱり言わなきゃ……マリーにありがとうって」

 言った光はスタっと華麗にブランコから飛び降りた。そしてとりあえずはだいじょうぶ! というような顔をわたしに向けて、何回でもがんばるから心配しないでいいよ! と言って軽く微笑んだ。

「よし、じゃぁ帰ろうか」
 わたしは淡々とした感じでいるけれど、胸の内ではけっこうカンゲキしていたんだ。 光はさっき自分のキモチを聞いてくれる女の子がいるとすっごい幸せに思うとか言った。わたしにとってみればそれは、自分の彼氏は夢を追いかけがんばる姿を見せてくれるだから、わたしも幸せだ。

 あぁ、いつの日か光の夢が叶ってわたしと愛し合って深く結ばれすべてがオールハッピーみたいな物語が始まればいいのになぁ……なんて思いながら2人で帰り道を歩いた。
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