上 下
82 / 127

82・そういうのもいいんじゃない? かと思う

しおりを挟む
 82・そういうのもいいんじゃない? かと思う


「えぇ!」

 いま、わたしがちょいと驚いたのは光の読み切り新作小説が激に恐ろしかったから。

「やだ……光……どうしちゃったの?」

 R15指定だけれど、彼氏の書いた小説を彼女が読まないなんて事はありえない。だからいつものように読んだら、これがもうすごいバイオレンスと人殺し満載。ものすごい勢いと同時に変なところでうまい! という感じがあるから怖くて夜が寝られなくなりそうって気がした。

「電話、電話」

 わたしは午後の8時20分過ぎに光へ電話した。

「もしもし、マリー?」

 おそろしい小説を書いた本人はとってものんびりとかおだやかな声。わたしは別に光を怒りたいと思って電話したわけじゃない。怖いんだよ! って事くらいは伝えたかったから。

「光……新作の読み切り怖いよ……」

「あぁ、あれ……勢いで書いちゃって」

「なんかあったの?」

「いや、その……」

「いいから、彼女のわたしには正直に言いなさい!」

「ネットにさぁ、恋愛とかSF的なモノとか巨乳女子が出てくるちょいエロとか書いているんだけど、一回として思い描くような大当たりっていうのができないんだよね」

「でも光はがんばっているから、いつか成功すると思う」

「いや、それでさ……ほんとうはやりたくないと思っていたんだけれど、異世界がどうとか追放がどうとかってマンネリなのを、結局そういうのしか受けないなら自分もやってみようかなと思ったんだ」

「え、それってどこにある?」

「あ、いや、いまのペンネームとは無関係でありたいから別名で別場所。作品が受けなかったらそのまま捨てるつもり」

「それってどうだったの?」

「なんでだろうって……って思っちゃいけないんだろうけど、やっぱり思っちゃうんだ。他の人だったら異世界でも追放でもみんな一定の読者数とかお気に入りがつくのに、自分だけほぼゼロ。だからものすごく腹が立って、思った」

「何を思った?」

「異世界とか追放とかそういうのしか支持しないやつらを殺しちゃおうって。バラバラのぐちゃぐちゃって斬殺して液体にしてやろうって」

「ああ、そういうことか!」

「ほんとうは書き終えてから出すかどうか悩んだんだ。他の人がどう思うかは全然どうでもいいのだけれど……出したらマリーも見る可能性があって、見たらショックを受けるかもしれないって」

「受けた、めっちゃびっくりした。光に何があったの? ってドキドキしたし、今夜は怖くて眠れないかもしれない」

 光はあんなすさまじい小説を書いた人間とは思えないほど、今はちょっとオドオドしている。そこには……もしかすると、わたしに嫌われたらどうしようみたいな、そんな不安があるのかな? と伝わる。

「光」

「な、なに?」

「全然いいじゃん! そんなのたかが小説だし、わたしはまちがっても光が悪いことしたなんて思っていない。いいじゃん、これからも気に入らないのはどんどん消しちゃったらいいじゃん。それにあれ、怖いっていうのをかけるのも強みになるじゃん」

「あ、ありがとう……」

「しかしよく思いつくね、地面に埋められ出ている顔をトラックで踏みつぶすとか、巨大なミキサーにさかさまにした憎いやつを突っ込んで脳みそが飛び出すように潰してジュースを作るとか芸術だよ」

「あ、いや……もう終わったことだから、あんまり言わないで……後から色々言われると恥ずかしいっていうか」

「そうか。でも光は相変わらずがんばっているんだって知れてよかった。あ、そして覚えておいて」

「な、なに?」

「マリーはいつだって光を応援しているから!」

「あ、ありがとう……」

「じゃぁね!」

「うん、じゃぁ」

 わたしは光と話をして気が楽になった。まぁ……わたしを怖がらせたのは光なんだけれどね。

「んっと……」

 わたしはベッドに寝転んで思う。創作というカタチで怒りの発散ができるなら全然いい。そういうのができなくて実際の他人を攻撃するようなのがクズ。だから光は問題なし。そしてちょっぴりうらやましいなとも思った。創作でウサ晴らしができるなんて、いかにも素質とか才能ある人って感じでかっこういいなとあこがれちゃうよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...