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44・好きだって真心で言われるだけでいいんだ

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 44・好きだって真心で言われるだけでいいんだ


「マリーは光から愛している! とか言われた事ある?」

「は? ないよ、言われたらビックリするんだけれど……」

「え、そうなの? わたしは自分の彼氏から愛しているって言われたいんだけれどなぁ」

 夏休みもそろそろ終わりだって頃、ある友達とこんなやりとりをした。わたしはそれをマジですか? とおどろきを持ってこなした。

 その友だちにも彼氏というのがいて、まぁ、一応は順調らしいのだけれど友だちは彼氏が愛しているって言ってくれないからどうのと最近思うらしい。

「光はマリーになんていうの?」

「好きって言ってくれるよ。一生懸命とか不器用だなこいつ……みたいな顔で好きだ! って言ってくれるから、それで十分。むしろ愛しているって言われるよりずっといいかなって思う」

「え、なんで?」

「なんでって……飾りがなくて素直だと思うから」

「マリーって巨乳のくせに質素な恋愛体質なんだね」

「巨乳は関係ないでしょう……」

 わたしはこのやり取りを終えて友人とバイバイした後、家についたら少し考えた。愛している……だって、中学生でそれを言われたいと思うのか? と最初考えたけれど、いや待てよ……これはわたしの方が遅れていて友だちの方が正しいって話なのか? などなど考えるほどクモの糸に絡められていく感じになった。

「愛しているってかぁ、光がわたしに愛しているとか言ったらどんな感じなんだろう」

 ちょっと興味が沸いた。言われてみたい、どう感じるのか知りたいと、わたしの中のちょっと悪い感じがウズウズしたから、では! とばかり光に電話をする。

「はい、もしもし」

「あ、光、やっぱり小説をがんばってるところ?」

「そうだけれど……」

「うん、いいね、がんばる光がわたしは大好きだよ」

「なんだよ急に……」

「いや、それでさぁ、ちょっとお願いがあって」

「お、お願い?」

「わたしに一度言ってみて欲しい」

「なんて?」

「マリー……愛しているよ! って」

「ブッ! ゴホゴホ……」

「あ、もしかして何か飲んだりしていた」

「急になに!?」

「なにって、光から愛しているよって言われてみたいと思ったんだ。言われたらどんなキモチになるのかなぁ……と興味が沸いて」

「愛してるよ!」

「うわ、全然キモチがこもっていない。言われた方が逆に傷つくみたいな感じだ」

「愛しているよなんて、急に言わせるマリーが悪い」

「ん……光……」

「な、なんだよもう……」

「わたしのこと……好き?」

「す、す、好きに決まっているだろう」

「どのくらい?」

「太陽と同じくらい重要」

「あ、ダメ! ここではそんな風に飾らないで、もっとドストレートに言って欲しい」

「ど、ドストレートとか言われても……」

 光はここで少し間を置いた。だけど不思議なモノで間を置いているときの光からキモチというか感情は伝わる。まるで見えるように伝わったから、早く言えよ! みたいな焦りは湧かない。

「お、おれさぁ……」

「ん?」

「お、おれにとってマリーはものすごい理想そのものって女の子だから、マリーにフラれたら生きていけない。だからその……どのくらい好き? なんて言ったら……そ、その……」

「がんばれ……がんばって言い切って!」

「マリーが好きだって思うだけで心臓が外にこぼれそうになる。好きなんだ、ほんとう……大好き! なんだ。マリーが好きだ!」

 おぉ……いま……わたしの胸に弾丸が来た。ほんとうにズキューン! って左胸を撃ち抜かれた。なんてうれしい響きだろう、胸の内にジワ―っと広がっていくこの感じ……愛しているよなんて言われなくても全然問題なしって、ただの幸せでしかないって感じだ。

「光……」

「な、なに?」

「わたしも……わたしも光が大好きだよ、大好き!」

「ん……あ、ありがとう」

「小説のジャマしてごめんね……もう切るよ」

「う、うん……わかった」

「じゃぁ」

 わたしは電話を切ってスマホを机の上に置くと、たまらないキモチでベッドの上に座り胸にギュウっと枕を抱きしめながら、まだ胸の内に湧いてくるという感覚を噛みしめた。

「好き……好き、大好き……」

 うわぁ、何これ、心地よく胸が痛いんですけれど……という状態で、わたしはしばらく何にもできなかった。
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