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大人の日本昔ばなし・「御札さんたすけて!」

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 むかーし、あるお寺にはなよという小娘がおった。はなよはこの寺の前に捨てられていた子で、寺が娘みたいに面倒を見ておった。そんなはなよはショートレイヤーって髪型がよく似合10歳で、しかもふっくらボインのかわいい子であったが、とにかく元気いっぱいでイタズラばかりしておった。

「これ、はなよ」

「なんだね庵主さん」

「どうしておまえはそんなに騒がしいんじゃ? おまえが男の子なら仕方ないとして、おまえは女の子じゃ。そんなだと、お嫁にもらってもらえんぞ?」

「オラ、お嫁になんか行く気ねぇだよ。お嫁になるために生まれてきたわけじゃねぇだよ」

 とまぁ、こんな感じで庵主さんもほとほと手を焼いておった。そんなある日のこと、はなよが山に行きたいと言い出した。

「山に行ってなにするだ?」

「オラ、山に行ってヤマボウシを拾うんじゃ」

「ならん! 行ってはならん、山には山爺(やまんじ)が住んどるんじゃ。おまえみたいなボインっ子は食われてしまうだぞ!」

「山爺なんかいるわけねぇだ! オラ、絶対山に行くだよ!」


 はなよは見た目のかわいさに反して押しがつよい女子じゃったから、結局は庵主さんの方が折れるしかなかった。

「仕方ないのぉ、はなよ、これを持っていくがええよ」

「なんだね? これは」

「なんかあったら使うとええ、きっとおまえを助けてくれるじゃろう」

 はなよは庵主さんから立派な感じがするお札を3枚渡された。それを持ってはなよは意気揚々と山へ入っていった。

「やまぼうしじゃ、こんなにいっぱい」

 はなよは無我夢中になってやまぼうしを取り集めました。しかしあんまり夢中になっていたので、 気が付いたら真っ暗になっておった。

「ん……」

 さすがのはなよもこうなると心細い。どうしたらええんじゃ……と思っていたとき、突然後ろに見知らぬ爺様が立っていることに気づいてびっくりした。

「おぉ、驚かしてすまんかったのぉ。寺から来ただか?」

「おら、山にやまぼうしを取りに来ただよ」

「そうか、めんこいボインっ子じゃな。もう日も暮れて暗いけ、家に来い。朝が来てから帰ったらええだよ」

 こうしてはなよはお爺さんの家に泊めてもらうことにした。家ではおいしい夕飯とやまぼうしを使ったデザートをごちそうになった。こうなるとはなよはすっきりキモチが緩んで、囲炉裏の前で幸せそうな顔で寝込んでしまう。

 それからしばらくしてはなよは、何かの音で目を覚ました。何かシャカシャカっと研いでいるような感じの音がして、それがとても気になってしまう。

「お爺さん、こんな真夜中に何しとるんじゃ?」

 はなよはそっと障子の隙間からとなり部屋を覗いてみた。するとどうじゃ、お爺さんがふんどし姿になって包丁を研いでおる。そして鬼のような顔で言うのじゃった。

「ふふふ、あんな若いボイン娘なんていうのは初めてじゃ。まずは生の中出しで10発くらい楽しんで、それから上質の肉を……ミソ鍋なんかで食うのも悪くないじゃろうなぁ。あの娘ならいい肉が取れるじゃろうて」

 はなよはガクガクして我を忘れてしまいそうになった。じゃがここで取り乱しても助からんと思い直し、いま目が覚めたという振りをして少し甘えたな声で訴えた。

「お爺さん、オラ便所に行きてぇだ」

「ダメじゃ、おまえをここから出すわけにはいかんでな」

「オラ、便所に行きてぇと言うてるだ。もし便所に行かせてくれねぇんだったら、この辺り一面にクソをたっぷりブリブリするだぞ!」

 はなよの元気いっぱいな大声にさすがの山爺もあきれてしもうた。それで仕方ないとして、はなよを縄でしばってからトイレに行くことを許可した。

「ボイン! クソは練り出せただか?」

「そんなに早く出せるわけねぇだよ、お爺さんのバカ!」

 そんな風に言いながらはなよは縄をほどき、代わりにお札の一枚を柱に括り付けたのじゃった。

「お札さん、オラの身代わりになってくんろ」

 はなよはそうお願いしたら、すたこらさっさと逃げ出した! そうとは知らない山爺はいつまでも同じ事をくり返す。

「ボイン! クソは練り出せただか?」

「そんなに早く出せるわけねぇだよ、お爺さんのバカ!」

 そうしてついに山爺は堪忍袋の緒が切れてしまう。ええかげんにせんか! と怒鳴って縄を強く引っ張る。するとどうじゃ……ガラガラと音を立て便所が丸ごと崩壊してしもうた。
そしてようやく騙されたと気づいた。

「おのれボインっ子、騙しおったな!」

 怒り狂った山爺が走り出すと、それはもう風の速い。はなよはハァハァ息を切らしながら懸命に走るが、あっという間に山爺の射程距離に入ってしもうた。

「お札さん、オラを助けてくんろ!」

 叫んだはなよが札を投げると不思議な事が起こった。はなよの前はダウンヒルとなり、山爺の前はヒルクライムとなり、地面がビキビキっと凍り付いたのじゃった。

「なんじゃこれは……」

 さすがの山爺もツルツルの氷を上がっていく事ができん。

「やーい、やーい、ここまでおいでーだ!」

 はなよ、体を横向きにすると軽快なにスワーっと氷を滑り降りていく。これでもう安心じゃ! とか思ったら、山爺は自分のペニスを取り出すと放尿し始めた。

「ボインっ子、ワシを甘く見るなよ」

 山爺の小便はとっても熱く、おそろしいことに氷を勢いよく溶かし始めた。そうして山爺ははなよと同じで氷のダウンヒルを滑り始める。

「ハァハァ……お札さん、お願いじゃ、オラを助けてくんろ!」

 はなよは最後のお札を投げた。するとどうじゃ、月まで届くみたいな巨大な火柱が立ち上がって山爺のゆく手を阻んだ。さすがにこれは山爺の小便では消すことができぬ。

「ハァハァ……もうすぐ寺じゃ、もうすぐ寺じゃ」

 はなよは一生懸命走った。寺にたどり着いて逃げさえすれば助かると思って必死に走り続けた。

「ボイン子、絶対に逃がさんぞぉ」

 山爺はずいぶんと長いふんどしを外した。そしてそれを頭上でグルグル回し始めた。するとどうじゃ、山爺の体が宙に浮き始めたではないか。

「わーははは、逃がさんぞぉ、絶対に逃がさんぞぉ」

 こうして山爺は空を飛びながらはなよと同じく寺を目指す。しかし一足先についたのはなよの方じゃった。

「庵主さん、庵主さん、お願いじゃ、開けてくんろ!」

 はなよが門をたたくと庵主さんが言い返しました。

「あんなイタズラばっかりなボインっ子はいらん。山爺に食われたらええだべ!」

 するとはなよは泣き出してしもうた。これからはいい子になるとか、女の子らしくするとか、色々と言い並べてしまう。

「ほんとうじゃな? これからはちゃんと女の子らしくなると約束するんじゃな?」

「約束するけ、早く開けてくんろ……」

 こうしてはなよは寺の中に入れてもらった。それから少しして山爺も寺に到着したのじゃった。

「おのれ、ボインっ子、どこへ行きよった」

 山爺が怒りながらはなよを探していると、餅を焼いている庵主さんを発見する。もうちょいしたらいい具合に焼けそうな餅が火に当たっておる。

「山爺か?」

「こら、ババア、あのボインっ子をどこに隠した」

「のう山爺、年寄りは年寄り同士で仲良うできんかの、ましてや男と女じゃ」

 庵主さんはそう言ってから、あともう少しじゃなと餅をつついて確認。それから少し相手の興味をそそるよう口調で提案した。

「どうじゃ山爺、暇つぶしに化け比べでもせんか?」

「化け比べじゃと?」

「聞けば山爺、お主は天井に頭が届くほど巨大化できるとか?」

「がーははは、そのくらい朝飯前じゃ」

 言うが早いか山爺は一気に巨大化。

「おぉ、なんともおそろしや。じゃが山爺、豆粒みたいな大きさはなれんじゃろ?」

 すると山爺、そんなの造作もないわ! と言って一瞬で豆粒ほどに小さくなった。それを見た庵主さん、今じゃ! とばかり餅の山爺を挟んで食べてしまおうとした。じゃがここで庵主さんは下手を打った。

「あっつ!」
 
 餅があまりに熱かったのじゃ、じゃから庵主さんは勢いよく餅をかみ砕く事が出来んかったのじゃ。

「おのれババア、よくも騙しおったな!」

 怒り狂った山爺がここで一気に巨大化。するとどうじゃ……ボン! っと庵主さんの顔面を砕け吹き飛んだ。すごい量の血が砕けたかぼちゃの破片みたいなモノをいっしょにあっちこっちに散らばる。ヌルっとしたのは脳みそなのかもしれぬ。

 ドサ! っと庵主さんの体が床に倒れた。それを見た山爺、ざまーみろ! と言ってからはなよを探し始めるのじゃった。そして……この寺は誰も済まない場所になってしまった。庵主さんもはなよももう二度と誰も見ることがなかった。
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