異世界でドラゴン女子たちと仲良くしてみます

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第十六・カッサータ、悠を抹殺せよ1

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第十六・カッサータ、悠を抹殺せよ1


「悠を倒して欲しい」

 本日、大事な話があるという事で呼ばれたカッサータがジョーカーより受け取ったのは、要するに悠と戦い倒せという内容。ただいま人型になっているジョーカーは腕組みをして宙に浮かびながら、パネトーネとクラフティから伝わる体たらく感は耐え難いとぼやく。そしてそれを聞くカッサータもまったく同じだと胸の内でつぶやく。

「カッサータからは悠に現を抜かす愚かさが感じられない。つまりおまえは気高い女子でいる。だから悠を倒すのはおまえしかいない、いやほんとうにおまえだけなのだ」

 午前10時のうす暗い森の中で湖の上に浮かび立つジョーカー、明るい太陽がある空を見上げ腹立たしげにここ最近の出来事を語って聞かせた。それによるとここ数日の間に軟体かのドラゴン女子に一人でいるときの悠を襲わせたらしい。だがどうしてパネトーネやクラフティほどではないとしても、戦いに負けて戻ってきた時の顔は腑抜けている。そして悠と戦うなんて事はしたくないですなどと言ったりもした。

「わたしが恐れていたとおりだ。女は男に心を撫でられるとすぐ弱くなる。そして大切なプライドもあっさりこぼし落としてしまう。嘆かわしい、とてつもなく嘆かわしい。このわたし自ら出向いて悠を殺してもいいのだが、悠の悪い魔法って影響を受けていないであろうカッサータに頼んでみる事にした。おまえはつよい、だから悠とはいい勝負をやって最後は勝つはず」

 地上に立っているカッサータを見下ろしたジョーカーの声はというのは、カッサータはだいじょぶだという信頼に染まっている。それは名誉とよろこびたくなるものの、カッサータは以前に悠と一戦交えて押しのけられている。

(悠はつよい……)

 ジョーカーの前であからさまな不安を見せたりしたくないカッサータ、任せてくださいと冷静かつ自信ある声で返事をする。しかし森から出てまぶしい世界に包まれると、いったいどうしたものかと腕組みして立ち止まる。

「ジョーカーに期待されたのだから裏切りたくない。わたしひとりで悠と戦い勝利せねばならない。しかし……悠はつよい。ドラゴンの姿で戦っても人型で戦っても変わらないように思う。でもそれだからこそ以前の雪辱を果たすという点でも、この姿で剣を持って勝利したい」

 どうするか……ただの気合だけでは都合よく力の差が埋まったりはしないだろう。かといって何日程度修行みたいな事をしてもダメだろう。さて、そうなるといったいどうしたモノかとカッサータは考え……突然アタマにピーン! と来た。

「そうだ……すっかり忘れていた」

 ここでカッサータが思い出したのは「なんでもあって困っちゃう屋」という店。リヴァイアサンの素なんて性質の悪い商品を買ったあの店なら、もしかすると一時的でもいいからパワーアップができるようなドーピングアイテムがあるかもしれないと考える。

「本来であれば気は進まない。しかし悠に雪辱を果たし、ジョーカーの期待に応え、自分の女としてのプライドを磨くためにはやむなし」

 そこでカッサータ、善は急げとお目当ての店にすぐさま出かける。なんとなく良心が痛むように感じる自分に対し、勝てば官軍! と何度も言い聞かせ、あれよあれよという間に町へ到着、そしてたどり着いた店の中に入る。

「ひとつ聞きたい」

 面倒くさい事は省く主義! とばかり、入店してすぐレジ前に立って女店員へ声をかける。

「なんでしょうか?」

「つよくなるというか、パワーアップというか、そういう薬は?」

「あ、あります。女子力プディングという薬です。ではこちらに」

「ふむ……」

 カッサータは店員の後について行き、あるコーナーの一角で足を止めた。つよくなりたいあなたの味方とか壁紙に書かれており、棚の上にある容器がおすすめの品と矢印がとても目立つように描かれている。

「これってプリンなんじゃ……」

「プリンに近いドーピングフードです」

「なぜプリン?」

「女子力に気力と体力をまぜて固めようというメッセージらしいです」

「これを食べるとどうなる?」

「一定時間、パワーアップします」

「一定時間というあいまいさでは困る。大体どのくらいの時間か知りたい」

「説明によれば食べてから30分くらい」

「たった30分か……」

「しかし逆に言えば効率がいいのです」

「効率?」

「パワーアップが長々ダラダラ続いてはアタマが壊れてしまいます。効く時は効く、そして終わればすっぱり消える。これこそ理想だと思いませんか?」

 店員の語りはカッサータの中で揺らめく買ってみたい意識をうまく突いてくる。さすが商売人という感じであり、値段の高さを忘れて買いたくなる。

「絶対ぼったくりだとは思うが……買うしかない」

 ただのスィーツプリンにしか見えない容器と中身であるが、値段はそれの20倍もする。結果が悪ければすべてバカというヤバそうな代物。だが背に腹は代えられないということで、気合を入れて戦いに臨むということで、一つだけ購入することに踏み切る。

「あ、お客様、購入にあたっては注意していただきたい事がございます」

「注意? なに?」

「自身の女子力や信念などによって薬の効き目が増幅することはありえます。思ったよりすばらしい! という展開になることも十分ありえますが……否定の感情、すなわちネガティブな色合いで戦ったりすると危険。体力や気力をいきなりごっそり失う可能性があります。ネガティブパワーは思いのほかいいじゃないか! と思った使用者が、突然のガス欠で墓穴を掘って敗北したという話は多いと聞きますので」

「わかった、心しておく」

 こうしてカッサータは女子力プディングという商品を購入した。そして今すぐにでも戦いたいというキモチを行動に移すかどうか考えた。湧き上がるような興奮や闘志などかすると、いますぐ悠に戦いを挑みたい。そこでドーピングアイテムを使えば行けるかも? とワクワクしそうになる。

「いや、待てよ……戦いとは少しでも敵を不利な状態にして進めねばならないモノ。そういう点で行くと、夕方……空腹な食事前、もしくは食った直後でクソブタみたいに動きが鈍い状態、そういうところを襲う方がいいかも」

 そこでカッサータ、逸るキモチを抑え夕方まで待つ事にした。自分は今のうちにと街の喫茶店に行き金が許す限りたっぷり腹に詰め込んでおく。そして夕方になったら食事前で飢えている悠を戦いに引っ張り出そうと計画しておく。

―そして夕方―

 シッポ収集の仕事にトレーニングにと一通りやり終えた悠が帰宅。なぜか今日はめちゃくちゃお腹が空くなぁと思いながらドアを開ける。

「お帰り、もうすぐごはんできるよ」

 台所から流れてくるいいニオイとスフレの声。それはまるで自分が新婚ホヤホヤの片割れになったようなキブンにさせてくれる。

「シアワセだなぁ、かわいい女の子に晩ごはんを作ってもらえるというのは」

 エヘッとやって洗面所で手洗いとうがい。すると突然台所の方から何かが取り乱したゆえに落下したとい音が発生。急になに! というスフレの声もしたので、悠は慌てて台所に駆け寄る。するとどうだろう、エプロン姿のスフレが面識ある女子に羽交い絞めにされている。

「え、カッサータ?」

 いったい何事? と悠がキョトンとしたら、カッサータはスフレを羽交い絞めしたまま言った。

「悠、いますぐわたしと戦え」

「え、急になに……」

「言葉の通り。わたしは悠にリベンジせねばならない。どっちかが死ぬような真剣な戦いだ。もし死なずともわたしが勝利という事なら、悠は別の世界に行ってもらう。丸太にくくりつけ海のど真ん中辺りに捨てる海流しの計に処す」

「えぇ、なにそれ……」

 突然シリアスな事を言われても頭がついていかない悠だった。それゆえグーっと空腹の音色が生じると両手をお腹に当て、とりあえずみんな食事して落ち着こうよとのんきな事を言う。

「ジョーカーの言うとおり、男は女とちがって呑気でどこかマヌケっぽいか。でも悠、いますぐわたしと戦わないとスフレを恥ずかしい目に遭わせるぞ」

 カッサータ、真っ赤な顔でジタバタするスフレのFカップってふくらみを後ろからギュッとわしづかみにしたりする。

「こ、こら、バカ……なにを……」

 スフレは振りほどこうとしたがなぜか力が入らない。それはカッサータの羽交い絞めがかなり見事にややエロくばっちり決まっているせいだ。

「ん……」

 なんだ、なんだこの展開は……と思う悠だった。すごい空腹で戦いなんぞやっている場合ではないと言いたくなるが、スフレの気の毒なサマを見て無視はむずかしい。そしてカッサータから伝わる本気というのも早く相手しなきゃいけないのだろうと思うから、仕方なく外に出ようとカッサータに言う。

「悠、この戦いはどっちかが死ぬか、死なずとも悠が負けた場合はこの世界から出て行くとか賭けるんだぞ?」

「ぼくが勝ったら?」

「う……そ、そのときは……好きにしろ」

「わかった。じゃぁ行こう」

 たとえ呑気でも空腹でも戦うと決まればそれなりに表情が引き締まる。一方羽交い絞めから解放されたスフレ、なぜそんな戦いをするのかとカッサータに問う。するとカッサータは大マジメな顔と真剣な声色で返した。

「これは女が女のプライドを守るための戦い。スフレ……」

「なに?」

「おまえも女なら女であるわたしの味方をするべきだ。ちがうか?」

「いや、そんなこと急に言われても……」

「まぁいい。わたしの戦いを見れば絶対わたしの応援をするはずだからな」

 こうして悠とカッサータは家の外に出た。すると夕暮れという色合いはほとんど終わっており、夜の暗さが世界の支配者になりつつある。

「ここは狭い。もっと広い場所で思いっきり戦おう」

 言ったカッサータはドラゴンの姿になった。そして上空へと舞い上がりながら、ここから20分くらい歩いたところにある緑地公園で待っていると悠に伝え、一足先にそこへ空を飛んで向かっていった。 

「悠」

 ライトをつけて歩きだそうとした悠にスフレが声をかける。とても心配している表情が印象的だ。

「だいじょうぶだよ、ぼくは負けないし相手を死なすような事だってしない」

「だったらいいけど、でも……」

「でも?」

「死なないとしても、負けてここからいなくなるってオチはないよね?」

 スフレが言ったとき、女子に心配されるとうれしくなるという男ならではのハートスイッチが入りかけた。心配してくれているの? と茶化してみたくなったりする。でもそれはやらない方がいいと思ったから、悠はおほんと咳払いしてからにっこり微笑む。

「とりあえず行ってくるよ」

 そう言って悠はカッサータが待っている場所へ向かって歩き出す。海流しされるなどとんでもない! はもちろん、2回も不本意に死んでたまるか! などと思いながら歩く。
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