異世界でドラゴン女子たちと仲良くしてみます

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第十四・ジョーカーとクラフティとカッサータ

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第十四・ジョーカーとクラフティとカッサータ


「まったく……嘆かわしい」

 昨日の今日、そんな表現にジョーカーがため息を落とす。両腕を組んで宙に浮かぶジョーカーは、前日においてパネトーネに女の腑抜けと説教したはずだった。それがどうだろう、今日になればまったく同じ質問をクラフティが持ち込んできたではないか。

「そ、そんなにいけない事ですか?」

 クラフティがジョーカーに対して放ったつぶやきの音色は、普段しっかりしている女子の芯から何かが少し抜けたっぽい感じ。

「クラフティ、自分が腑抜けているとは思わないか?」

「腑抜けている?」

「自分らしくないとかそういう風に思わないか?」

「あぁ……まぁ、なんか奇妙だという気はします。ちょっと恥ずかしい言い方をするなら、自分がちょっと溶けているような感じがするというか」

「そう、それそれ、その溶けるというのが腑抜けなのだ」

「いけない事ですか?」

「大いにいけない。おまえみたいに本来しっかりしている女子が狂ってしまうのはガマンし難い」

「で、でも……」

「でもなんだ?」

「そんなに悪いことではないような気もするんです」

「そう、そうやって女は男にだまされる。セックスなんぞした日には女がかしこさを失う。パネトーネならまだしもクラフティがそうなるのはだまっていられない。クラフティ、せっかくいい女なのだ、それを捨ててはいかん!」

 空中から見下げるジョーカーを地上から見上げるクラフティ、セックスに興味があると言いたい気がした。だが今それを声にするとジョーカーが激怒するような予感がしたのでガマン。それは豊かな胸の中に一時沈めておくとした。

「と、とりあえず今日はこれで帰ります」

 顔を水平に戻したクラフティ、眼前にある湖にクルっと回って背を向ける。そして胸の内で悠とセックスしてみたいなどと思いながら森の出入り口に向かって歩き出す。するとジョーカーの声が後ろ上から飛んでくる。

「クラフティ」

「は、はい」

「まさか悠と体を重ねてみたいなどと考えてはいないな?」

「い、いえ、そんな」

「そうか、それならいい」

 内側を見透かされドキッしたクラフティだったが、ジョーカーに背を向けている事で助かった。もし正面に向かっている中、動揺した自分を見られたらかなり恥ずかしかっただろうとしか思えなかったから。

「腑抜け……そんな言い方をされなきゃいけないのか」

 ブツブツやっていたら森の出入り口が見えてきた。そこにたどり着くと森の薄暗さがはじけ飛びパーっと明るさが無限大みたいに広がる。

「う……」

 思わず両目を細めるクラフティ。だがその瞬間、上空から名前を呼ばれる。

「クラフティ!」

 その叫び主はカッサータであり、上空より鮮やかな速度で舞い降りてくる。両手で剣を持ち、それをクラフティめがけて振り下ろさんとしている。

「な……」

 突然の事におどろきつつ俊敏な動きで回避するクラフティだった。そして何をする! と怒ってみると、カッサータは悪びれるどころか静かな怒りを主張するような目で言い返すのだった。

「クラフティ、なんてザマだ」

「なに?」

「わたしが尊敬するジョーカーになんて質問をしているのだ」

「盗み聞きしたのか」

「ちがう、放っておけないから聞いてやっただけだ」

「同じだろう! ったく……」

「ったく……というのはわたしのセリフだ。悠の子どもを産みたいだの妊娠できないだの、あげくセックスとか聞かされたら顔を赤くするだのブザマにもほどがある。ハッキリ言って腹立たしいぞ」

「う、うるさい、おまえには関係ない」

「だったら剣を抜け。いまのお前がいかに情けないか思い知らせてやる」

 カッサータに言われて腹が立てるクラフティではあったが、いまは戦う気が起こらないとし剣を抜こうとはしない。

「放っておいて欲しいな」

 そう言いながら首を振り、ほんの一瞬目を横に向けるクラフティだったが、正面に顔を戻したらおどろいた。いきなり真正面のド接近にカッサータがいて、剣を下から上に振り上げようとしている。

「う……」

 シュパ! っとするどい音がしたものの、華麗なるバックステップで交わした。だが肩の一部が切られたことでベージュ色ブラのストラップが浮かぶ。それを気にして顔を赤くしたクラフティ、左手で抑えるに辺り両目も右肩に向けてしまう。すると今度は正面にカッサータの姿がない! となって焦る。

「戦っている最中にブラなんか気にしている場合か!」

 後ろからカッサータの回し蹴りが来たが、これはさすがに避けられなかった。背中という面積でまともに食らったあげく、あぅ! と声を出し地面にうつ伏せ倒れとなってしまう。

「ふん!」

 息まくカッサータはクラフティの背中を力いっぱいに踏みつける。そして腑抜け! と吐き捨てるように言い、グリグリと踏みつけ足を動かすのだった。

「ダサい、ダサいぞクラフティ、悠とか男の事を考えるからこんな風になるんじゃないのか? いいのか、こんなにダサくて女として恥ずかしくないのか?」

 煽りながらもカッサータは警戒する。踏まれているクラフティがいつ反撃に出ようとしてだいじょうぶなように心を備える。だが踏まれているクラフティからは戦闘する気の発生が伝わってこない。

「む……こんな風に踏まれても戦おうとしないとは……」

 スーッと足を背中から離したカッサータ、戦闘意識なしで立ち上がるクラフティを嘆かわしいとジョーカーの物まねみたいな声で罵る。

「今はちょっと考え事をしたいんだ、戦いたいと思わない」

 クラフティが服の汚れをパンパンと払い落とす姿は、固い熱さを失ったふにゃふにゃ女子みたいに見えてしまうとカッサータは嘆く。そしてそんな軟体動物みたいなクラフティは見たくないという事でひとつ提案をした。

「クラフティ、悠はパネトーネにくれてやればいい」

「は? なんで、どうして」

「パネトーネはバカだから腑抜けるとかいう表現が必要ない。悠と結ばれるだのセックスするだの身ごもるだの、そんなのはパネトーネに任せればいいだろう。そうすればクラフティは高い意識の女を失わずに済む」

「ぱ、パネトーネに悠をくれてやる?」

 クラフティはまず悠を思い浮かべ、その横にパネトーネがいるし、その2人がイチャイチャラブラブするような絵を思い浮かべてみた。するとなぜか無性に腹が立つ。だから顔を赤くして頭を振りながら、それはイヤだ! と声を大きくする。

「クラフティも子どもか……」

「子どもだろうが何だろうが、パネトーネが悠と結ばれるなんて考えるだけで腹が立つ。女として全力で阻止したいと思ってしまう」

 ここでドラゴン姿になったクラフティ、とにかくカッサータの相手をするのはイヤだ、お願いだから一人にさせてくれと翼を動かし宙に舞う。カッサータに言わせるとそのサマはとっても子どもっぽい。

「まったくなんて事だ……あんなクラフティは今まで見た事がない。そう、あれこそジョーカーが言う腑抜け。まさにジョーカーの言う通り」

 前髪を風に揺らされながらカッサータは考えずにいられない。どうしたものか? これなら悠を殺すしかないか? いや、悠はけっこう強いから殺すのは苦労する、だったらどうする? どうしたらいい? などと考え……ここでひとつひらめいた!

「そうだ、忘れていた。あの人間女、スフレとかいうチンチクリン、あれが悠と結ばれセックスし身ごもればいい。スフレが悠と結ばれてしまえば、クラフティもパネトーネもあきらめるはず。そうなればドラゴン女子のプライドや品位が落ちなくて済む」

 クッと腕組みをするカッサータはあれこれ考えながらひとりウンウンとうなずきをくり返すのだった。
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